伊東の父親
母親が怖くて逆らうことができなかった点も含めれば伊東は被害者と言えるのだろう。
「ってことで伊東のお父様。遊びに来ちゃいました」
「甲斐! どうしてここに!」
伊東の父は作業服を着てヘルメットをかぶり、木材を運んでいた。
「父さんもなぜここに…?」
「父さんな、体動かしてないと落ち着かないんだ。だから暇さえあればうちの社員の手伝いをしてるんだ」
「…あの母親を見ると聖人に見えるわね」
それはわかる。
「それにどうなさったんですか? ご学友の人たちか? とりあえずここから離れなさい。危ないよ」
「そうね。ヘルメットとかも無しに来たのは危ないわ」
というので私たちは工事現場の外に出た。
社長も木材を置き、ヘルメットを外す。こういう男性って結構いいよなぁ。なんていうか、今を生きてるって感じがする人。
「…その、なんだ。母親に離婚されるだろうということを言ってきた」
「…甲斐。お前…」
「勝手に言ってごめん」
「いい。お前、よく耐えたな…。あとは大人に任せておけよ」
「そうね。あとお父様。一つよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。ご学友の…」
「阿久津と夢野ですわ」
というと、目を丸くしていた。
「ここらへんで阿久津っていうと…あの阿久津かい?」
「ええ。あなたのお母さまには貧乏人呼ばわりされましたけど」
「ははっ。あいつは自分の事しか見てないから世の中のことはさっぱりなんだ。息子がどうもお世話になってます。あと、会社の方も」
「いえ。こちらもあなたがたのような高品質に仕上げてくれる会社があって助かっておりますわ」
どうやら月乃の会社の下請けらしい。
「とりあえずお茶でもどうでしょうか」
「いいですわね。そうさせていただきましょうか」
社長室に移動し、女性社員が緊張したようにお茶を出す。
「あら、そんなに緊張しなくても…」
「そうそう、こいつ案外フランクに接しても怒らないから」
「…あんたが言うことじゃないっての」
と小突かれた。
「今日は仕事の話しに来たわけじゃないし丁重なもてなしはいりませんよ」
「いえ、息子の友人ですから…。で、どっちが彼女なんだ」
と、その質問に私と月乃と伊東はお茶を噴き出した。
「だ、誰も彼女じゃねえ! 友達だ!」
「び、びっくりしたわ…」
「いきなりその話題ぶち込んでくるかふつー…」
まあ、友達いなかった息子がいきなり女性二人を連れてきたらそれはそれで気になるかもしれないが…。
男女間で友情はないという人もいるが私は友情しか基本持たない。意識することはほとんどねえからな…。
「はは、冗談だよ。でも、友達ができてよかった。うちの母さんがあれだったからお前には苦労を掛けた。でも、もう我慢しないで友達になりたいと思ったならなりなさい。もちろん、多少は選んでもらうかもしれないが…。とりあえず好きなようにしなさい」
「悪い奴と付き合うなよ?」
「…一応言っておくけどあんたが一番うちの学校の悪人だからね」
「なんで!?」
それは初耳なんだけど!?
「先輩も後輩もあなたの悪名は知ってるわ」
「私なんもしてないんだけど…」
誠に遺憾です。




