月は沈み日は昇る
私は受付に行くと、サラリーマンの人が私の首根っこを掴む。
「入館証もないのになんで高校生が入っているんだ? 出ていきなさい」
「あ、あの時は緊急事態で……ちょ、なんでこんな時に月乃トイレに行ってるの! ほら、私を助けて!」
月乃はあいにくトイレに行っており、怖そうな人に見つかって締め出されそうになっていた。
私は抵抗はしてみるが、疲れ切っているかつ、大人の男性ということもあり力負けしている。くっ、私は一応月乃を助けたんだぞ!? なんだこの仕打ちは! あんまりじゃないか!
「あなた、そいつを離しなさい。私が許可したの」
「友達も入館証を…! こ、これは失礼しました月乃様!」
「そいつは私の友達よ。助けてもらったの」
「そうでございましたか! すいませんでした」
と、ペコペコ頭を下げる。
こういうやつに限って内心黒いことを思ってそうだが、まあいいでしょう。月乃はハンカチで手を拭き、私の手を握る。
そして、ありがとねと満面の笑みを見せてきた。
「……私は一緒に逃げてあげただけだよ」
「そうでもないわ。あなたがいたから私は助かったの。ほんと、頭が上がらないわね」
「お互い様。貸し借りはなしってことで」
「いや、私のほうが十分な貸しがあるわ。このお礼はする。本当、ありがとう」
私は何もしてない。
ただ告げ口しただけだ。チクっただけなのだ。先生にいってやろっていったような感じだ。あの祖父さんからはきっと私をすごく恨んでるだろうなー。
ま、恨まれるぐらいは別にいいし、きっと月乃の父さんのことだから絶縁するだろうから何の権限も後ろ盾もない。不安に感じることもない。
「ここにいたか」
「あ、父さん」
「しゃ、社長!」
「悪かったね急に出払って。月乃、もう大丈夫だぞ。絶縁した。金輪際関わるなと告げた。次に敷地内に無断で入ると通報するさ」
やっぱりか。
だがなぁ。恨みの矛先がどこに行くかも考えてはくれてないだろうな……。月乃の父さん頭はいいけど娘第一って感じだから娘のことで怒るとそれ以外見えなくなるんだよ。
「夢野ちゃんも悪かった。家の騒動に巻き込んで。お礼はする。娘を助けてくれてありがとう」
「友達ですから」
「助けを求められる友達って言うのはすごいと思う。私は君と白露ちゃんが親友でよかったと思ってるよ。白露ちゃんも心配で会社前に来ていたから連れてきたが」
「月乃!」
と、白露がかけよってくる。
「し、心配かけたわね」
「なんで私に言わなかったんだ! 私だって協力したぞ! はぶかれて悲しい気持ちわかったぞ!」
「ご、ごめんなさい。その、パン子なら何とかしてくれるって言う感じがあって。っていうか、追手よく止められたね?」
「家の力を使って検問を急いで敷いただけだ。それに、作業してる風に見せかけてコーンもおいたし立ち入り禁止のテープも張った。泥はぬってないぞ」
たしかに検問ならたまにするしそれで引きとめられても泥を塗った事にはならないな。
白露にしてはよく考えたと思うが……。本当に白露が考えたのか? 私はジトっと見てると、白露は正直に吐き出した。
「その、父さんが月乃が困ってると聞くとなんも事件がなくて暇だった奴らを集めて検問を急いで敷いたんだ。父さんもベテランだし月乃の事も知ってたからみんな協力的だったよ」
「やっぱりか」
「私見てただけでなにもしてない……」
「だよな」
「ううううう! 力になりたかったぞ! 今度は力になるからな! 私をいつでも呼べよ!」
「ご、ごめんなさい。本当に……。そして二人とも。その、ありがとね」
と、月乃は改めて笑顔を見せてきた。




