公爵家令嬢がやってきた
目の前には、泣きじゃくる公爵家令嬢……エレメル・アルシュターナという女性がいる。
私は、対応に困っていた。可哀想だとかは思わないけど、可愛い子の涙って結構くるよね。
「私はッ……! 私は王妃になるための教育も今日まで頑張ってきたんですっ……! それなのにっ! あの……あの王子様はっ……婚約破棄をするって……」
王子。伝えてないのか。
王子はエレメルの味方だって言ってやればいいのに。好きな子の為に悪役になるとは……。悪役にならなきゃいけない理由があったのかな……。
「えっと、お茶飲む?」
「のびばず」
「ねえ、エリザベス。淹れてくれる?」
「しょうがないわねぇ」
エリザベスが紅茶を淹れてくれた。
流石は元令嬢。紅茶の淹れ方わかってるな。
「それで? 魔王様どうするの? 処刑?」
「しないわよ。多分」
「つまんないわねえ」
「ニホンへの取引材料にするわ。もっとも、価値があるかどうかわからないけど」
私以外あの王子の真意を知らないのか。
王子は話していいとは言ってたけど……。でも、面白そうだから言わないでおこうかな。いや、まあ、どっちでもいいか。
聞かれたら答えるし。
「あのバカ王子にも困ったものよね。こんな可愛い子を棄てるんだから」
「いや、あいつは結構賢明な王子だがな」
「なんで?」
「あいつ、自ら愚者を演じてただけだぞ。目は賢かった」
ビャクロがそう読み解いていた。
すごいな。よくわかったな。ビャクロはさすがだと思う。よく相手を観察している。私以上に審美眼はあると思う。
ビャクロの読み通り。あいつは賢明だ。賢い。バカ王子でも演じておけば自らの国の使いを騙せると思ったんだろうなぁ。
「さすがビャクロ」
「……それに、パンドラは一対一で話してたろ。なんか言われたなかったか?」
「んー、特に? 頼まれごとをしただけだよ」
「頼まれごと?」
「近々失意のうちに公爵家令嬢がくるから世話よろしく、だって」
しょうがないから言ってしまおう。
「どういうこと?」
「……えっ」
「あの王子。国を変えるつもりなんだよ。エレメルが婚約破棄されたのは余計な傷を負わせないためじゃない? 知らんけど」
でも、婚約破棄でももっと別の方法があったんじゃないかとは思うけど。
そもそも、国を変えるにあたって婚約破棄をする意味が……。いや、エレメルを隔離しておきたかっただけか。エレメルはこうでもしないと自分の元を離れないと思ったんだろうな。
見せたくないものを見せないために。好きな子のために。
「あの王子はエレメルのことちゃんと好きだよ。見せたくないことを今からするから見せないために婚約破棄した。人間にしてはけっこうやるよね」
ああいう好きな子の為に努力するのは嫌いじゃない。
ここまでしたんだから国を変えてくれよ王子様。




