さあ、私と一緒に踊りましょう ②
レオンの母、名前はユリベルというらしい。
男爵家出身という話だがそれは多分嘘だ。嘘をつき続けてこの地位になっている彼女ならその嘘も簡単に付けるだろう。
ユリベルと、ビャクロは戦っていた。
悪魔の爪でビャクロをひっかこうとするが、それを躱し、ビャクロは足を払う。
あの戦闘マシーンであるビャクロはこういった肉弾戦は大の得意だ。
そこらの天才と訳が違う。ビャクロは才能に胡坐をかかない。普段から自分を高めているし、天才だからと言って自惚れるほどじゃない。
いや、昔はそうだったかもしれないが……今は違う。
「ぐっ……」
すると、自分が不利ということが分かったのか逃げ出そうと悪魔の翼を出していた。
瞬間、ビャクロはその翼を掴み、ぶんぶんと振り回す。振り回され、投げられた彼女は壁に当たって壁をぶち抜いていった。
あそこは誰かの部屋だろうか。こんな狭い空間で戦闘してるんだから物は壊れるだろうな。
「そうやすやすと逃がすものか」
「ひいいいい!?」
「お、ビャクロに恐怖を抱いてる」
恐怖というものは何よりも抱いてはいけない。
戦うときに恐怖を抱いてはいけない。自分では敵わないと思ってはいけない。そう思ってしまうと勝てる勝負も負けてしまうからな。
恐怖を抱いたっていうことは、もう負けるだろう。
「修繕費が……。部屋に人がいない分まだいいだろうが……」
「屋内じゃないと簡単に逃げられるから仕方ないよ。後宮のことは私たちよく知らないしアデュランがどうにかしてね」
「……仕方ないだろう。悪魔を排除するためだ」
アデュランも認めた。
だがしかし、この騒ぎに気付いたのか、たくさんの御令嬢がこちらを見ている。見物人がたくさんいるなぁ。
だがしかし、この状況、ちょっとやばい。野次馬が来たことが何よりやばい。
「しめた! 魅了!」
すると、野次馬の女性は魅了にかかる。
魅了されて、攻撃するよう指示された彼女らは私たちに向かって攻撃を仕掛けてきたのだった。あいにく聖水はもうない。
私たちは、必死に令嬢を食い止めていた。殺すわけにもいかないので、気絶させる程度に。
「アデュラン! 踏ん張れ!」
「わかってる!」
アデュランは木刀を手にし、令嬢たちを押さえつけていた。
「あっはっは! そのまま令嬢たちと踊っていなさい! ただ、令嬢たちは殺すわけにはいかないものねえ! だけど、二人で押さえつけられるっていうのは考えてなかったわ。私は相変わらずこっちをなんとかしないといけないのね」
「なんとかする? 私に敵うとでも思っているのか?」
「そういう甘い考えはないわよ! 計算通りに動かない奴らがいるせいでね!」
計算通りにいくっていうのがまず間違いなのだ。
すべて思い通りに行くっていう思い込みがまず間違いなのだ。様々なイレギュラーがあるからこそ、思い通りに行くわけがない。
あらゆる事態を想定しなければいけないのだ。
「そうか。ならばよかった。私はお前みたいな他者を利用して戦うやつは嫌いだからな。存分にやってやる」
「ひえっ」
「パンドラ! こいつは私が殺していいんだろう?!」
「もちのろんだよ!」
「オッケー。絶対に許さん」
ビャクロさん珍しくお怒りモードですね。




