エルピス
パンドラが私とイルマの前に立つ。
「アデュランが吐いた。たしかに裏の組織があった」
「どういう組織?」
「具体的にはわからないが、名前は”エルピス”っていうらしい」
「エルピス……? 意味は?」
「ギリシャ語で希望ってこと」
つまり相手は希望だと信じて疑っていなさそうだ。
これが希望なんだということでニホンをけしかけた。希望信者ということだろうか。
「というかエルピスって個人名? それとも組織名?」
「組織名らしい。黒いローブに身をまとった男が急に入ってきてなにやら魔法をかけられたとか。魔法はマリアベルに解除してもらったよ。洗脳に近い魔法を受けていたね」
「なるほど……。その裏の組織、探ってもらってもいいかしら。そういうの得意でしょ?」
「任してよ。とはいっても、さすがに危険だけどね」
「……正体不明の敵だからよね。でも、こういうのパンドラ以外できないのよ」
「はいはい」
パンドラはそういって、魔王城を後にしたのだった。
多分調べにまずはニホンへと向かったんだと思う。ニホンの国王たちが住む王城に何かしらヒントがあると踏んだのだろう。
アデュランは王城でかかったと思われる。外にあまり出ないらしい。いつも執務室にこもってばかりであるがために外に出る機会がないとなると、かけられたのは王城内といってもおかしくはないから。
となると、ニホンの王城にはすでにその手の者がいる可能性がめっぽう高いのだ。
「なんでこのタイミングで新たな敵が登場するのよ……。正直キャパオーバーよ。両方相手どらないといけないとか……。困るわよ……」
「そう弱音を吐くな。これは私の勘なんだが、エルピス。どうも胡散臭いんだ」
「……どういうことよ」
「レブルが実験台にされたピンポイントで攻めてきたのが不思議だと思ってな。偶然っていう線も考えたんだがどうにも納得がいかない。それに、軽い兵士の話をしただろう?」
「ああ、あれね。あの正体はわかってないわよ」
「あの正体がわかった」
と、ビャクロがそういったのだった。
私でも分からないのになんでビャクロがわかるんだよと言いたいけれど、とりあえずその正体を聞くことにした。
「あれは多分アンデッドだ」
「アンデッド?」
「ゾンビだから軽かったんだ。関係があるかどうかは知らないがニホンは死霊術師でもいるのか?」
「……なによそれ」
アンデッド。確かに軽い理由も納得できる。
だけれどその事実だとしたら。それが本当のことだと仮定したならば。話は変わってくる。もしかしたら……エルピスの組織の者は……。
「うちにもいる……。うちにも裏切り者がいる……!」
「裏切り者?」
「多分、エディットよ。一番エディットが怪しいわ」
あのリッチーはアンデッドを召還できる。
となると、真っ先に疑ってしまう。でも、信じたくない。私たちの中に裏切り者がいたなんてことは信じることができなかった。
でも、話を聞いてみなければダメだ。怖くても、信じたくない事実を聞かされるのだとしても、この魔王軍に裏切り者がいるという事実がある以上、聞かなくてはならない。




