破壊こそ至高、絶望こそ最高 ②
森の中にはいる。
すると、人影がすぐに見えた。私はウルフから降りて、背後に立つ。
「領主様がこんな危険なところで何やってるのだ?」
「背中に気をつけなよ。貴族を殺そうと企む悪い魔王軍がいるかもしれないからね」
私とウルフはナイフを突きつける。
ちなみにいうとこいつは領主ではない。領主の顔を知らないが領主ではないのは確かだ。だが、あの時であった顔ではある。
なぜ、同じ顔をしているのか。たぶんこれは幻術だ。
「領主の顔を幻術で見せて勘違いでもさせようとしているのかい?」
「……ばれていたのか」
「ばれるもなにも、最初から見せるつもりだったんでしょ? 領主のせいにするために」
男はマントをとり、幻術を解いた。
そこにいたのはあの公爵家にいた執事の一人の顔にそっくり。よく覚えてないけれどね。でも、こいつがクロだ。
「なぜ気づいた?」
「なに、簡単だよ。あの領主は頭が切れる。あと、地位を捨てることはない。こういうすぐにばれるように見せつけるようにはやらないさ」
「数年間一緒にいた私と同じくらいわかっているじゃないか」
男は剣を薙いだ。
私はそれを躱す。だが、男はこんど剣を刺すように突いてくる。私はナイフでそれをいなし、懐にもぐりこむ。
「ちなみに動機を聞いておこう」
「動機? そんなの……あの公爵を蹴落としたいからに決まっているだろう! あの公爵は俺の爺ちゃんを見殺しにしやがったからね。その報いだよ」
「その報いで多数の人に迷惑をかけてるけどね」
私はナイフを首につきつける。
だが男は抵抗を辞めなかった。ナイフを突きつけられて、そのまま私のナイフをはじいた。
「そんなの知らねえ! 俺はこの街を壊す! あの公爵が作った街なんざ消えてしまえばいいのさ!」
と、男は狂ったように笑っていた。
あの公爵に恨みがあり、人生を狂わされている。けれどもそれはとても醜いものだと感じた。運命に翻弄される姿はとても哀れでもあり、悲しかった。
男は最高なように笑う。
「あの街を破壊する……ね」
「住民も、建物も、街もすべてを壊す! それが俺の復讐だ! だから、お前も俺の復讐の為に死んでいけ!」
と、剣を振り下ろした。
私は、男に笑顔を向ける。男は一瞬たじろいだ。その瞬間、私は首にナイフを突き刺しだ。人間でいう頸動脈の位置に突き刺した。
「死ぬのはあんただよ。私はこんなところでは死なない」
「なっ……!」
「それに勘違いしているよ。こういう風なことをして壊すとかは笑っちゃうよね。壊すんならもっと徹底的に壊さないと。相手を自殺したいと言わせるまで追いつめないと。そうでもしないと復讐とは、破壊とは言えないよ?」
私は、倒れていく男に微笑んだ。
「人々の安寧を脅かせることによる恐怖……それは最高かもしれないね。破壊は至高なる行為であり、絶望は最高に面白い。でも、それは夢幻に終わるんだよ」
計画は、いつでもうまくいくとは限らない。
元凶はこれで倒した。あとは魔物の処理だけだ。元凶を倒してもスタンピードは終わらない。ただ、これで発生することはなくなった。
終わりができたのだ。
「ウルフ、戻って私たちも戦うよ」
私はウルフの背にまたがった。




