フィガル騎士団の崩壊 ②
狂乱化した騎士団長ロッソがなにをとち狂ったのか妻を殺害し、騎士たちも惨殺したという話が街のほうでも広がっていった。
その騎士団長が街に降りてきて、人々を殺害しているらしい。
「さてレブル。お前の出番だ」
「はい! 狂った騎士団長を倒せばいいのですね!」
「そう、強いからね。勇者であるレブルの出番だよ」
レブルははいと笑顔で受けた。
レブルとアンジュにはこのことを言っていない。反対されることは目に見えていたから。少なくとも私がしたのはいいことじゃないし、むしろ一つの集団を破壊した悪いことだ。
そんなのレブルは許さない。こんな師匠を軽蔑するだろう。
「それでどこにいるのですか?」
「えっと、冒険者ギルドのほうだったかな」
「わかりました」
レブルは聖剣を構え、宿から出ていった。
私たちもそれを追っていく。冒険者ギルドの前につくと、騎士団長が女性一人を切った後だった。女性は倒れ、今度は私たちを睨みつける。
狂ったな。
「お前らも俺を噂してんのかあ……! 死ねええええ!」
「何があったのかは知りませんが、もうあなたは騎士団長ではありませんね。ただの殺人鬼です」
「うるせえ! みんなみんな死んじまえばいいんだよ! 俺が妻を殺したっていうことを噂する奴は……!」
ロッソがレブルに切りかかる。
レブルはその剣を受けとめ、はじく。その隙に私は切られた女の人の回復をした。足を切られただけでよかったと思う。
足がなくなってしまってはいるが。
「どうやら、聞く耳は持たないようですね」
「死ね」
「はああああああ!」
レブルは聖剣を大きく薙ぐ。
騎士団長は吹き飛ばされ、家の壁に激突する。
「では、さようなら」
「死ねええええええ!」
レブルが、容赦なく聖剣を振り下ろした。
切られた騎士団長はピクリとも動かなくなる。死んだようだった。
「終わりました。でも、不思議です。なぜこうも狂ってしまったんでしょうか。なぜ自分の妻を殺してしまったんでしょうか」
「さあね」
「でも、狂った原因を作った人は私にはなんとなくわかります。師匠、あなたですよね」
「……どうして私を疑うの?」
「師匠はそういうことをするのに躊躇いがない人ですから」
よくわかっている。
「軽蔑した?」
「いえ。しません。師匠は師匠ですから。師匠のエゴに付き合うのも弟子の務めです」
「そう」
「勇者としては許してはいけないのかもしれません。けれど、今の私は勇者じゃありません。師匠の弟子ですから」
「そうかい」
「もちろん心の一部には許せていない私もいます……が、あの騎士団は善くない噂もありました。その騎士団が迎える末路としてはこれが正しいのかもしれませんね」
と、レブルが笑った。
「悪者の末路はろくでもない結末だからね。だから私もろくな死に方はしなさそうだな」
私だって悪人だからね。
「まあいいさ。だが、この件で私たちは少し株が上がるよ。狂乱化し人々を殺害していた騎士団長を食い止めたとしてね」
「……師匠、それを計算に入れて?」
「さあ、どうだろうね?」
嘘か本当か、わからぬ中では人々は考えるのを辞めるのだ。
パンドラの自己評価としては悪人より悪人だと思っています。こういうことをするのに戸惑いはありません。喜びもしません。ただただ何も思わずに執行します。




