彼はそこで。
何も装飾がない、真っ白な病室。
そこにあるのは、名も分からない色々な花が刺さる花瓶、風に揺れる薄いカーテン、窓の外から見える透き通った青い空。
そして聞こえるのは、無機質な心拍数などを表す生体情報モニターの機械音。
「――――――――――――――――――――」
それと、その隣に横になった一人の男の呼吸音だった。
見舞いに人がこの部屋を訪れた形跡もなく、必要以上なく、最低限の使用感だけがここにはある。
男の顔はやせ細っていて、この分だと全身も同じように枯れ木の枝の様だろう。
しかし、老人並に肌が萎れている顔には、まだ若さがあった。
25歳のその男は、若くして肺癌を煩い、既に胃にまで転移しているらしい。
ステージ4。
末期癌だった。
両親も同じ癌で早死し、大した知り合いも居なかった彼は、今まさに孤独死を迎えようとしている。
無表情の医師や看護師が定期的に部屋を訪れ、モニターを見たり色々確認したりしては出て行く。
時間が経つにつれて、医師と看護師が部屋で彼の終わりを見届ける準備をしていた。
白い部屋に、白い服を着た人が2人、そして終わりを迎える白くなった男が一人。
青い空が赤く染まって藍色に変わった頃。
白くなった彼、中村 結司は、息を引き取った。