story5《窮地》
■ シャドラは屋敷に入ると、眩しいばかりの照明と、貴族の屋敷のような豪華な装飾に迎え入れられた。正面には大きな階段があり、壁に当たると左右にまた階段が続いていた。
一階には客室とおぼしきドアは無く、フロントとお手洗いそしてロビーがあるのみだった。天井は二階まで吹き抜けていて、二階もある程度見渡せたが、食堂らしきスペースは無かった。恐らく食事は配給又は注文制なのだろう。
シャドラがそんなことを考えていると、
「この宿屋は完全予約制になっておりまして、本日から三日間はホーミネス騎士団が貸しきっているので、他の宿泊客はおりません。団長は二階の部屋で待っています。私の案内についてきてください。」
シャドラはシュラアの言われるがままに後をついていき、B-2と書かれた部屋に案内された。到着するとシュラアは横にはけてドアを開きながら、
「こちらになります。どうぞお入りください。」
と言った。その部屋に入るとそこは意外にも実務的な部屋であまり飾り付けはしていなかった。本棚とクローゼットそれから四脚テーブルと椅子、奥には寝室に続くドアらしきものがあった。そして部屋の入り口と対面する位置に座る小太りな男-インペロが、期待に満ちた表情で待っていた。
「この度は騎士団長様のお目にかかることができて大変光栄と存じます。観光客ゆえに失礼があるかも知れませんが、何卒ご容赦くださいませ。」
そうシャドラが挨拶すると、インペロは
「そう固くなるでない。我は数多にある騎士団の中でも屈指の寛大さを持つ男だ。恐れることはない。さあ、腰を掛けよ。」
そう言って、シャドラを自分の隣に座るように促す。シャドラはそれに応じてインペロの隣に座った。シャドラは嫌悪感で表情を崩さないように必死になりながら、話題を切り出した。
「インペロ様は、バストュムトゥベーアで機械獣を討伐されたのですよね?よければお話を聞かせてもらってもよろしいですか?」
シャドラにそう言われて自慢気に話そうとしたところに、ティーセットを持ったシュラアが入ってきた。そのまま無言で紅茶を仕立てると、静かに部屋をでて行った。シャドラがその紅茶を飲みながらインペロの自慢話を聞いていると、急に眠気が襲ってきた。
(あれ....なんでだろう...すっごく...ねむ..く...)
そして数秒後にシャドラは寝入ってしまった。
「おい。目覚める前に地下へ運べ。デフフフフ」
「仰せのままに。」
シャドラはシュラアに抱えられて、不気味に笑う男とともに地下へ向かった。
■ -街中にて-
「シャドラの気配が消えた?何か不祥事が起こったのか?」
ガンマはそれまで捉えていたシャドラの気配が消えたので、周りに群がっていた女性達も気づかない速度で包囲網から抜け出した。そして、街の住民に聞き込みながら探索をし、シャドラが入っていった屋敷に辿り着いた。そして近くの建物の屋上から宿屋を観察しながら侵入経路を模索していた。
「ここが最後にシャドラが確認されたところか、見たところ正面と屋上以外は窓を割らなければ入れなさそうだな、警備は屋上に1,地上に6か。ならば屋上からの進入がベストのようだな。」
ガンマは考え終わると、腰に付けていたサプレッサー付きのピストルを構えると、
「イーグルアイ展開。距離52,風無し,目標静止....」
といって狙いを定めて頭を一発で撃ち抜いた。そして屋上から屋上へ素早く飛び移ると、下階への階段を見つけ、建物内に入った。そして、しゃがんで「建物内のマッピング開始」と言うと、しばらく静止して、
「地下か。それまでに接触する敵は3。支障はないな。」
といって地下へと向かった。
━地下室━
シャドラが目を開けるとそこは暗い石で囲まれた部屋だった。灯りは松明の火のみで全体的に薄暗くて見えにくかった。両手両足は鎖で壁に繋がれていて、動けなかった。少しずつ暗さに目が馴れてくると、正面にインペロが立っているのが分かった。
「ここは何処なの?私をどうするつもり?」
そのシャドラの質問にインペロは愉快そうに笑いながら答えた。
「デフフフフフフフフ。そんなこと決まっているではないか。お前を壊して我のオモチャにして、我がコレクションに加えるのだ。お前はどんな声で哭いてくれるのだ?デフフフフフフ」
「ここまでクズだとは思わなかったわ。」
シャドラが睨みながら、吐き捨てるように言うと、
「その威勢はいつまでもつのだろうな?
ああ、そうだ廃人になる前に良いことを教えてやろう。私が倒した機械獣のことだがな。あれはあそこのスラム街の汚ならしい小僧が、大切そうに守っていた子犬の対人用自律機械を修復不可になるまで破壊してやったのだ。あの小僧の顔と悲鳴は今でも忘れられないぞ?デフフフフ」
シャドラはそれを聞くと、唇を噛み締めてインペロをより鋭く睨み付けながら、
「あなたみたいな人の風上にもおけないような人がいるから国が腐ってくのよ。地面に頭めり込むくらいまで押し付けながら、今まで生きてきた人類に心から謝ってから出直しなさい。」
インペロはシャドラの言葉に耳を傾ける素振りもなく、視界から消えていった。そして、シャドラは目を瞑って一心にガンマの救出を待ち望んだ。
どうも、また更新できました。
今回は少し解説をしたいと思います。
ガンマはなぜシャドラの気配が分かっていたかと言うと、生体認証システムのような機能にシャドラの情報をインプットしていたからなのです。気配が消えたのは地下に入っていったので電波が途切れたのが原因です。
あと、マッピング機能についてですが、あれはガンマが特殊な超音波を発してその超音波が帰って来たときの波形で周囲の構造を知ることができます。コウモリや魚群探知機などと同じ反響定位を利用したものです。
今回も楽しんでいただけたら幸いです。