表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術文明の秩序者  作者: はすうさぎ
2/3

オーディナーの力の根源、それはマナと呼ばれる物質だ。近年発見されたばかりで未知数な物質だが、これを活用することによってオーディナーは力を発現することが出来る。

そしてオーディナーの力はそれぞれ五大と言われるものに分類される。「地」「水」「火」「風」「空」の五つに分類される。自然界の力を利用しそれを力とする地。自らの肉体を変化させ戦う水。自らの意思を武器として発現させる火。魔術や呪術と言った類のものを力とする風。そして己が肉体を限界まで引き上げることにのみ特化した空。原則この五つに分類される。

オーディナーの力は魔法、というより意志の力と形容するのが正しいのだろう。その者が最も望むものにマナは反応する。当然意志が弱いものは戦う力を持たない。

科学が退廃し、文明が死にゆく中で地球が人間に残した最後の希望…マナ。マナによって世界は、文明は…逆行してゆく。



オーディナーには序列がある。ディスターのクラスのようにオーディナーにはそれぞれ強さや功績に応じて序列が与えられる。

俺の師匠は、そんなオーディナーの序列の中で第一位を得た伝説の人だった……。

あの人は俺の師匠であり、俺の親のような存在だった。当時、文明崩壊が既に進行していた中、世界に終わりを感じた親が俺を捨てたのだ。それを見つけて拾ってくれたのが俺の師匠、龍堂 花玲だった。序列第一位の実力者であり、時に父のように厳しく、時に母のように優しく……俺の事を育ててくれた。

今じゃあの人のお陰でオーディナーになれたし、一人で生きていけるだけの術は学んだ。だから俺はあの人に礼が言いたい。『ありがとう』と。

「今…なにやってんのかな」

車を飛ばし過ぎ行く景色を見つめながら、誰に問うわけでもなく一人呟いていた。

「…なんかいったかしら?」

鮮花が不思議そうな顔で俺の顔を見つめてくる。こんな物思いにふけるなんて俺らしくねぇな…。気を引き締めていかねぇとな。もうすぐ目的地だ、今回の相手は気を抜いたら恐らく死ぬ。それほどの脅威だ。

「いや、なんでもねぇよ、おら!飛ばしていくぞ!」

自分に喝を入れるように声を上げ、車のスピードを上げた。俺はあの人のようになれるのだろうか。いや、なってみせる。約束したんだ、俺はあの人を超えるってな。

空には既に夜のとばりが降り始めていた。



現場は緊張感に包まれていた。多くのパトカーが交通整理をしながら市民の避難を誘導していた。

「さて、現場到着っと…そこのお巡りさん、今どんな状況なんだ」

手頃なところにいた警察官を捕まえ、現状を報告してもらう。

「あ、はい!今現在、目標は現場を北上中、避難誘導は終了していますが現場にオーディナーの方々がまだ着いておらず手付かずであります!」

一番乗りってわけか。警察官にオーディナーのような力は無い。しかし、彼らは力を持たぬ代わりにこうして俺らが来る前に市民の避難誘導等の周囲の安全に徹してくれている。

そのお陰で俺たちは思う存分暴れ回れるってわけだ。

「なるほどな、今回は巨大な複合キメラか…あんなバケモンよく作ったな」

まさにゲームに出てくるような形状。獅子と狼の双頭を持ち鷲の羽に蛇の尾を持っている。体は半分腐り落ち、触れたものを腐敗させている。周囲のビル群もやつに触れて溶け始めている。全長はおよそ15m、といったところか。

「かなり大きいわね、今回の相手は」

流石の鮮花もあまりの巨大さに半歩後ずさる。俺ですら若干キモが冷えてる。通常キメラなら大きくても2mがいい所。そこら辺のライオンと変わらないサイズなのだ。だが今回は数倍でかいのだ。恐ろしいことに体中から毒素を振りまいている。放っておけば数日で辺りは更地になってしまうだろう。

「はっ……おもしれぇじゃねぇか。俺が一番乗りだ、俺が仕留めてやるよぉぉぉぉおお!」

そうだ、俺達が一番乗りなのだ。ここで倒してしまったって誰も文句など言えない!

「ちょっ!あんた!!待ちなさいってのぉ!…んもぉ!!」

後ろで鮮花が文句垂れているがあいつの事なら後方から支援してくれるだろう。俺はただ前の壁をぶち破るだけだ!!

「かかかっ!久しぶりに全力が出せそうなんだ…簡単にくたばるんじゃねぇぞぉ!!」

まるで獣の如く敏捷さでキメラ目掛けて猛突進する。俺の力は身体強化系の空、だが不完全だ。故に序列は152位、二つ名もまだ無い。身体強化といっても常人より早くて常人より力があって、常人より多少頑丈なだけだ。

「ちょっと恭司郎!あんた少しは大人しくしなさいってば!速すぎて援護がしにくい!!」

皇樹鮮花、序列第67位。二つ名は吸血の魔女。周囲のオーディナー、及びディスターなどから血を吸い上げ能力を向上させ自分や別のオーディナーに分け与える能力。自身の戦闘能力が低いため鮮花は援護役としてこの能力を行使している。

「オラオラ!このクソキメラがぁ!!」

俺はキメラの腐った毒の体を無作為に抉りとる。当然触れた俺の体にも毒が降りかかるがそんなのお構い無しだ。俺に特別な力はない。ならば常に全力あるのみ!力が無いなら技で勝負だ。

「ははは!!犬畜生が人間様に楯突くんじゃねぇよ!!」

再び渾身の一撃をお見舞する。が、しかし。手応えはそこには無かった。

「……あ?なんだっ!」

今までトロトロと動いていたキメラが突如として消えた。いや、消えたというより目にも留まらぬ速さで動いたのだ。しかも有り得ない速度で。明らかに先程までのキメラの動きとは違う。目で負えなかったレベルだぞ!!

何が起きたのか全くわからない。困惑している中鮮花が恭司郎へと叫ぶ。

「うしろぉーーー!!」

咄嗟の反射神経で瞬時に行動を予測し避ける。しかしあまりの速さに避けきれず吹き飛ばされる。この速さ……っ!さっきまでは無かったこの速さは一体なんなんだ!クソっ!タダでさえこっちはやつの吐き出す毒の霧で満身創痍。たしかにこりゃAランクだわ。俺らだけで勝てる相手じゃないってのはよくわかった。

「増援は!他のオーディナーはまだ来ねぇのか!!!」

鮮花の方を一瞥し叫ぶ。このままでは押し切られる。周辺一帯が毒沼になってしまう。そうなる前になんとしても食い止めなきゃならない。だがどうする。今までの攻撃じゃまるで歯が立たない。あまりに早すぎる。

「くそっ……なにか方法はねぇのかよ」

あの速さに対抗する術……。くそっ!考えても埒が明かねぇ。とにかく今はやれるだけアイツに打ち込む。数打ちゃヒントくらい出てくるだろう。

「ははっ…何が獣の如くだよ。よく言ったもんだ……。こんな獣野郎如きに遅れを取ってるんだからな」

集中するんだ。あいつの弱点を見極めるために。今までのようにデタラメなやり方じゃやつを倒すことは出来ねぇ。奴の一挙一動を見極めろ。必ずどこかに隙があるはずだ!

「ふぅぅ……ははっ、人が獣に負けるわけにゃいかねぇな」

自分の出せる最高速度で懐へと潜り込む。が、やはり消える。そして気付いたら背後へと回られ、巨大な腕に吹き飛ばされる廃ビルに叩きつけられる。あまりの威力に意識を失いかけた。

「まだだ…あと少しで見えそうなんだよ!!」

その後も何度も何度も攻撃を加えるがその度背後に回られ、強烈な一撃をお見舞される。

……待てよ。何でこいつは毎回確実に俺の背後を取れるんだ。毎度毎度正確なまでに俺の背後に奴はいる。ピッタリと。

その瞬間に閃いた。

「なるほどな……そういうことか」

これで納得だ。これは単なるトリックだったのか。早いのでは無い。元から居るのか!トリックさえ分かればこっちのもんだ。次で仕留めきれる!!攻撃に移る前に鮮花に援護要請をする。

「鮮花!ありったけの血を寄越せ!次で終わらせる!!」

鮮花は頭にハテナマークを浮かべながらもキッチリ援護体制に入ってくれる。仕事の時の俺らはやはり相性がいい。

「さぁキメラァ!次で終わらせるぜ!」

散々やってきた攻撃を繰り返す。懐に潜り込み、そして消える。ここだ!!

「オラァ!てめぇの本体はここだぁぁぁぁ!!」

突進して懐に潜り込むと見せかけ瞬時に攻撃の矛先を自らの背後へと変える。何故なら奴なら必ずそこにいると確信していたから。あのキメラならここに来るとわかっていたから。全身全霊の拳を叩き込む。師匠直伝の必殺技だ、全身粉々に砕け散りな!

「弐式!我龍転生(がりゅうてんせい)!!」

自分のマナを渦巻状にし相手の内蔵目掛けて打ち込む徒手空拳。その一撃は体を突き抜け、内蔵にまで直接ダメージを与える必殺拳。渦巻状のマナは相手の内蔵に向けて放出され、相手の中身をぐちゃぐちゃに引き回しながら貫いていく。

「がっ!?何故だぁぁ!!」

やつの本体が姿を現した。これで終わりだ。

「はっ、知るかよ。加減してやったんだから感謝しろよな」


「あんたどうやって正体に気付いたのよ、あたしなんて全然分からなかったわよ」

まぁそりゃ鮮花には分からねぇだろうな。俺だって半分勘だったのだし、実際奴と対峙してみなきゃわからないと思うし。何より鮮花は子供っぽいからな。実際見てもわからなかったと思うが。

「まぁ、最初におかしいと思ったのは何故毎回確実に俺の後ろなのかってところなんだ。俺が攻撃した瞬間消えて真後ろに現れる。しかもピッタリ真後ろ」

そもそもピッタリというのがおかしな話なのだ。寸分違わずいるなんて普通じゃ有り得ない。

「だから、一つの仮説を立てたんだ。元々本体は俺の後ろにいるんじゃないかってな。あんなでかいキメラは作れるわけがないんだ、そう考えたら話は簡単だ。あれは油断させるための虚像で本体は見えないだけで後ろにいるんだって」

どういう条件下で能力が発動するのかはわからない。恐らく油断した瞬間、攻撃した瞬間ここら辺がトリガーになっていたのだろう。そのトリガーを踏んだ瞬間後ろから攻撃できる。

「あれだな、影踏みってことだ。常に後ろにいるよってな」

だが今回は流石に被害がでかい。他のオーディナーも来る気配も無かったし。なんかおかしいな。これ程までの強敵なのだから本来数十人いてもおかしくないのだが、この現場にいるオーディナーは俺と鮮花の二人だけ。周りは警察官とパトカーしかない。

だがまぁ、無事目標を捕獲したし被害は思ってたより出なかったし。帰って報告するとしましょうかね。

空はほんのり明るくなり始めていた。時計を見ると既に4時。だいぶ長い間戦っていたみたいだ。流石に今回は疲れた。帰ってゆっくり休むとしよう。白い息を吐きつつ、俺たちは帰路へとついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ