死なないから仕方ない。
死にたい男の続きになります。
ではお楽しみくださいませ。
Brains。
ここは、どこなんだ?
死ねない俺はずっと彷徨い続けている。
何度も銃撃を受け、仕舞には爆弾まで投げつけられ残った一個の目も失い鼻も失い、耳も一つだけになってしまった。
でもそれのお陰で分かったことが一つある。
音の伝わり方がおかしいのだ。
なにやら近くから反射して聞こえてくるのだ。それも四角い大きめの部屋のように思えてならないのだ。
てことは、もしかすると案外俺の居る世界は狭いのかもしれない。
〖この世界は何かがおかしい〗
俺は、俺自身が死なないことなんて、もうどうでもよくなっていた。
というか、たぶん俺は何らかの理由で死ねないのだろうから、何しても大丈夫だろうと深く考えるのは止め、すっかり気持ちを切り替えたのだ。
そうなると、いろいろ探求心が出て来る。
もしかしたらこういうのも可能なんじゃないか、とか思い付いたので、今こうして喰い切れなかった女性の両目と耳と脳みそとか左手なんかを使い、とっくにふっとんで使えなくなった自分の体を修復してみようなんてことを思い立ち、彼女からこれらの部分を右手でちぎって適当にくっつけてみたら、案外すっきり治ってしまった。
もうね。なんてでたらめな世界なんだ。
こんなのは常識ではありえない。いやまあ、人間を簡単に罪悪感もなく殺して回り、その上、喰って回るなんてのもあり得ない話な訳だが、この世界では特に不思議に感じなくなってしまった自分がいるのも事実だ。
だってほら、俺を殺しに来る治安部隊などもあるにはあるが、どういう訳だか散発的に現れて攻撃してきたり、捕まえようとして来るくらいで、しかもなんとかかんとかすり抜けて仕舞えるくらいの実力しかないか、または蘇ったあと簡単に逃げ出せてしまうくらいの能力しか与えられていないらしいのだ。
現実だったらそんなことでは済まないし、幾ら何でも学習してより強力になるだろう。
例えば警察で対処不能だったら、自衛隊が出てくるだろうし、それに何と云ったって俺は死なないし、腐っていくにしても強靭な身体持ちだし、大量殺戮者の上に人間の捕食者でもあるのだから、研究材料に打って付けだろうし、こんな希少な素材をみすみす泳がせるなんてありえない。
なにより絶対に、俺が外に出る度に街中を普段通りに生活している人々で溢れているなんてのも、あり得る訳がない。
つまり普通は逃がさないどころかとっくに捕獲されるか、木っ端みじんに粉砕されてるかして回収された挙句、厳重にどこかの研究所あたりに管理されて、細胞の一片まであちこち調べられまくるのが本当の所じゃないだろうか。
そういう点を考慮しても、この世界はかなりでたらめに出来ていた。
さて、そろそろか。
微かに、恐らく人間どころか耳が良い部類とされている動物でも、なんとか聞き取れるくらいの分厚い二重ドアが開く音を捉えた俺は、一気に跳躍した。
『うようぇ@お!!ふbvあさ@d!!』
人間の声が未知の言語に聞こえてきた昨今だが、俺は気にならない。
全身、血みどろの臓物だらけになってしまったが、これも気にならない。
だってさ、ここ仮想世界か非現実空間っぽいからさ。なにしたってオールOKじゃね?
緑一面の吸音タイル張りの部屋から飛び出した俺は、群がる人間どもを蹴散らして引きちぎり裂き、イイ感じにミンチになった死体の肉の食物まで手にしつつ、異様に長い真っ白な廊下を猛スペードで駆け抜けていった。
いやぁ、自由って素晴らしいね♪
彼は〖人体実験O棟〗の【№.7743200】通称[腐死人]
実験棟を飛び出した彼は、周囲に災厄をもたらしつつ他の実験棟にまで飛び込み汚染をはじめ、今も仲間を求めて彷徨っている。
これに対して本部では、特に対策は練られてはいない。
Brains。 死なないなら好き放題。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。