帰省したい男。
ギリギリのアップ!
やべ~。間に合ったか。
では、どうぞ。
Brains。
三月十日
「あら、ええっと、おかえりなさい」
「うん、ただいま」
オレは独り芝居をしつつ独り暮らしの寂しさを紛らわせながら、築35年のボロいアパートに帰って来た。
「久しぶりに帰省したいな。なら飯も風呂も用意されるのにな。あ~あ。しかし今日も疲れた、飯でも食うか」
近所の業務スーパーで箱買いした味噌ラーメンの袋を開け、片手鍋に移し替え水を注ぎコンロにかける。
「着替えるのめんどくせーな。風呂もめんどくせー」
脱ぎ散らかされた服や下着類を踏みしめながら、万年床と化したぺったんこの布団に座り込む。
「明日も仕事か、やってらんねーな。ああ早く結婚したい!」
なんてホザいてみても、彼女なんてここ二十年出来たことがない。
当年とって俺も四十歳、そんな当ても何もない。
ぶわっ
おっと、それどころじゃなかったな。ラーメンが鍋からこぼれちまう。
オレはせんべい布団から立ち上がり、洗い物で溢れたキッチンへ向かう。
あっち!
ドンブリにスープの素を入れて鍋を傾け注いでいると、跳ね飛んだ湯が左手にかかってしまった。
「なんだこれ、水膨れか?」
オレは蛇口をひねり水を勢いよく出すと、そこに左手をかざした。
「ああん♪きんもちいい!」
などと、アホな声を出していると、さっきの水膨れが解ける様に割けて白い糸みたいなのが流水と共に流れた。
「なんだ?」
まあいいや、つばでも付けてたら直るだろうと思い、傷口をひとなめしてラーメンを喰い。この日はそのまま寝た。
五月二十日
今日は朝から雨だった。雷なりまで鳴っている嫌な日だ。
幸いオレは今日は休みで特にすることも無い。頭がしきりに痒いが、たぶん三日くらい風呂に入っていないからだと思い布団に潜り込みながらテレビをつける。
「あん、お昼のニュースか。ふーん、全国快晴で行楽日和ね。オレにはかんけいないから寝よ」
この日は、ずっとねて過ごすことにした。それにしても体がかゆいな。
あ~あ。かえりたい。
なな月七か
なんか平じつのアサだってのに妙にあたりが暗い。くもりか台ふうでも来たのかってくらいにくらい。とか思っていたら、右目のナカに白くほそいゴミがみえる。
はらがたったので、とった。
8がつさんにか
「めし、たかないと」
ずっとちゃわんをさがすのみ、わからない。ごはんどこ?
て あし おなか、ぶつぶつあるよ。しろいのでる。
おなかすいかな。いっぱいた白いのたべた。じゅるあま。
八月十四日
「この部屋ですか大家さん?」
「は、はい。ここ一カ月この部屋から変なにおいがしてご近所さんから苦情が来てまして、でも呼び掛けても出てこないもんで」
ふーむ。と云い、二人のマスク姿の警官が部屋の前で何やら相談する。
「確かに臭いな」
「なんだこの臭い。腐臭か?」
「どうしましょう?」
「悪いんですが、大家さんの手でドア開けて頂けませんか」
「は、はい…」
大家がカギを差してドアを開ける。外の空気に押し出され腐臭が彼らを一気に包み込む。
「うげェ!」
「おわっ」
警官二人がドアから咄嗟に離れる。大家は臭い臭いと走って現場から離れた。
「だ、だれか!だれかいますか?」
警官の内、四十代の方が部屋の中に気合を入れて飛び込んだ。
「う!お、おい!救急車だ!」
「わかりました!」
中に入って何かを発見した警官が、外で未だゲホゲホやっている若い警官に怒鳴る。
彼が発見したのは無数の、白い糸の様な虫にたかられた黄ばんだ布団に寝転がり、緩い動作で体中を這いずる虫を口に運んでは「か…え…り…たひ」と云いつつ咀嚼する。眼のないドロドロの人間らしき姿であった。
彼は実験棟〖U.11〗の【№.563246】通称[寄生体777号]
彼は未だその正体が不明な寄生虫『進化型芽殖孤虫』の被検体であり、この施設では珍しく人体が付与された状態でコントロール下に置かれ、実際には何もない緑一色の個室に閉じ込められた状態で被験されられていたのだ。
なお、彼のもとへと訪れたのは皆、同じ状況下で次の実験のために用意された『被感染予定者』たちである。
Brains。 寄生された男。
からだ、かゆくなりますか?
かゆうま。
でわ、ここまでよんでいただきまして、ありがとうございます。