監視する者達。
此度はこんな話です。
取りあえず、お楽しみくださいませ♪
Brains。
「なあ、この仕事面白いか?」
「いきなりなんだよ」
「いやな、毎日毎日こんなことばっかりしてさ。いい加減飽きるだろ」
「それはそうだけどさ」
そう言いながら奴は腐臭漂う透明な容器の中身を、産廃処理車に繋がるデカいホースに落とし込んでいく。
「くっそ、衛生服着てても臭いな」
キューンと、吸引音を発してピンクやら白やらグレーやらの色が付いた、白子みたいな物体が勢いよくスポスポ吸い込まれていく様を眺めながら俺は、やってられない感が心に満載になる。
「そう云うなって、給料は滅茶苦茶いいんだから」
「そりゃ、そうだけどさ」
地元の工業高校の、それも底辺学科を卒業したのはいいものの、成績が悪かった俺とコイツはろくな就職先がある訳もなく、いっそのこと専門学校にでも通って現実から逃避しつつ、良さげな就職先でも見つけようかと思っていた矢先、担任から呼び出された俺たちは、この今の勤務先を受けてみないかと誘われたのだ。
「給料がよかったんだよな。学歴も不要だったし」
「だろ?オレたちみたいなのがよその会社に行ったって、こんな給料はくれねーよ」
今更うだうだ言うなよとい云った体で、コイツは黙々と容器の蓋を外し中身をホースに流し込み続けている。
俺も仕方なくコンベヤーで流されてくる容器を並べては、ひとつひとつの蓋の留め金を外す作業を繰り返す。
「あ~あ。やめてーな…」
「うるせーな。働けよ! あとお前、彼女孕ませたんだろうが!だったらしっかり働きやがれ!」
「だから、やめてーんだよ」
「バカ言ってねェ~で、働けよ!」
「あ~あ。人生やり直してェ~」
「お前みたいなのはやり直しても一緒だよ」
こうして毎日を過ごしつつ、俺たちの臭すぎる日々は過ぎ去って行くのだ。
「あいつらじゃないが、こっちもつまらない毎日だな」
館内共用部や搬出口、従業員出入り口などを見張っている防犯カメラのモニターに映し出された映像を見ながら、わたしは背伸びしながら欠伸をする。
「確かにそうかもしれませんね。隊長」
待機時間中の部下がカップラーメンを啜りながらにやける。
「こっちも毎日毎日飽きもせず、館内外の巡回に正門と裏門の立哨くらいしかすることがありませんからね。愚痴る気持ちもわかります」
「泥棒とかやってくるとか思ってたのか?」
「不審者くらいは来るかもとかは考えていましたけどね」
「なかなかある訳ないだろうそんなこと」
こう云いつつ、廃棄物搬出口でブツクサ言いながら作業している二人組を、わたしはのんびり眺める。
「しかしコイツらもアホですね。集音機で音声は丸聴こえ、それに全部録画に録音されてるっていうのもしらずに、今年のボーナス査定は厳しくなりそう」
「だろうな」
そう応じたが、わたしたちだって行動や発言が監視されているのは変わらない。
「こっちも気を付けないとな」
ハイハイと応じるまだ結婚もしていない三十路の頼りない部下を横目に、わたしも窮鼠期の時間に入る。
買い置きの味噌ラーメンまだあったかな?
わたしはいそいそと、食器棚の中に入れてある会社から差し入れの味噌ラーメンの箱に手を伸ばして確認する。
「無いんだが」
彼ら四人の抜けたやり取りは勿論、実験施設の隅々は本部によって監視態勢が敷かれている。
そしてそれすらも全て記録され、貴重な〖データ〗として生かされているとも知らずにである。
Brains。 監視される者達。
お読みいただきまして誠にありがとうございました♪
では、またー♪