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晴れない霧の世界。

今回もSAN値チェックを行ったうえでお読みください。


では、どうぞ。


  Brains。




 秋、放課後。 夕暮れの坂の帰り道。


 放課後は、ひと月くらい前から付き合い始めたあたしたちが、恋人らしく振る舞える時間だった。


 微かに暖かく弱い陽射しが、あたしたちを照らしてくれるこの瞬間が、退屈だった一日の中で一番の楽しい時間。


 そして、二人で手をつないで歩くのが、とっても楽しかった時間。


「今日はどこに行こうか」

「あたしね、のど乾いた」

「自販機?」

「エーッ!」


 あたしたちは手を繋いだまま近くの近くのコンビニに行く。


 そこに行くのは、ただの高校一年生のあたしたちには、お金がそんなにないからもあるけど、学校からちょっと離れただけで、飲み物が気軽に買えて座って話し込める場所は、ココ位しかないからなのもあったから。


 路地に入ってしばらく歩き、ちょっと広い通りに出たところで、彼が不意にあたしの手を離した。


「誰かいた?」

「あっ…うん。ごめん」

「いいよ♪」


 恥ずかしがりな彼はあたしと一緒に居る時は戸惑いながらでも、ギュってずっと手を握ってくれるけど、だれか知ってる人かそれらしい人を発見したりすると、反射的に手を放してしまうのだ。


 可愛い。


 あたしはこんな彼をいつも、こんなふうに思っていた。


「…ごめん…大丈夫、違ったみたいだったよ」


 あたしたちの高校は進学率が高い私立だけに男女交際に厳しく、チクリ屋にばれたら一巻の終わり、授業中でもおかまいなしに校内放送が鳴り響いて、学年とクラスと氏名がハッキリした口調で二回繰り返されたあと、生活指導室に別々で呼ばれて言質をとられて、一カ月居残り反省文とか、校長先生宛のもう二人では会わないとかいう意味不明な誓約書とか書かされるのだ


 そして何よりも一番いやなのが、両親に電話をかけて事情を報告されて三者面談まで何度もされて、最後には書かされた反省文と誓約書が郵送で実家に届いてしまうのだ。


 もう、ほんとやってらんない。


 こう言ったのは、去年たまたま行った隣の市の映画館で、たまたま家族で映画を見に来ていた学年主任の先生に見つかって、さっきの罰則をさせられてしまった一個上の先輩の弁だ。


 彼女は今では吹っ切れた様にサバサバした態度で話してくれるけれど、それでも、たぶん、本当は吹っ切れてはいないんだろうなって思う。


 あたしはそんな辛い目には遭いたくは無いし、何よりも先輩みたいに恋人だったお互いを反射的に避けなくてはいけないような生活を、送りたいなんてこれっぽっちも想像したくないからだ。


 だからあたしは、彼が実は小心者で、甘えたがりで、そんな自分の性格を隠す為なのか、何事も用心深い性格がたまらなく好きで、なによりもそれを先ず私のためにと思ってしてくれているのが大好きだった。




 そんな大好き同士のあたしたちは、一年生を無事に乗り越え、二年生も隠れる様にやり過ごして、無事に三年生も残りわずかまでになっていた。


「あと三日もすれば卒業式かぁ~。そうしたらやっと生き苦しかった学校生活ともサヨナラできるね」

「同じ大学にも受かったしね♪ あとは向こうに行ってから一緒に住む場所も決めないとね」


 なんて、あたしたちはまだ現実身もなっていなかった将来の夢について、ここ一カ月くらい話し合い、そして夜遅くまで留守になっている彼の家のベットの中で抱き合いながら話していたのも懐かしい。




 でも、そんなあたしたちにも遂にやって来てしまった。


 こんな期の緩んだ生活を送っているうちに、彼が学校に忘れていたプリントをクラスメイトの一人が届けに来たのが発端だった。


 たまたま開いていた彼の家の玄関を開けて中を伺ったそのクラスメイトと、たまたまトイレから出てきたあたしがバッタリ出くわしてしまったのだ。


 彼はなんとか誤魔化そうとそのクラスメイトに口止めをしたのだけれど、無駄だった。


 そのクラスメイトは男女の交際にめったやたらに厳しい学校の仕来りなんて、これぽっちも理解していなかったし、女子の友達もいない。なによりおしゃべりだった。


 翌日には、彼とあたしのは噂はデッカイ尾ひれまで付いてクラス中に広がり、卒業式の前日には学年の話題をさらっていた。


 あたしたちはその日に呼び出された。


 もちろん両方の親も呼ばれた。あたしたちの卒業式も延期された。そしてあたしは通う大学も遠いところに変更させられた。散々だった。


 この日以来、あたしたちは顔を合わさなくなった。卒業証書が手渡された日も別々だった。


 やがて、あたしたちは別の土地に引っ越しをしてそれぞれの生活を始めた。


 彼は何度か休みになると共通の友達を頼りにあたしと繋がろうとしていたけれど、あたしは怖くて、好きだけど怖くて繋がれなかった。


 どうしても、どうしても。


 それから一年が過ぎ、二年が過ぎ去ろうとする頃には彼からの繋がろうとする決意は徐々に薄れ、消えた。




 あたしたちは社会人になった。


 社会人になって二年目に彼の訃報を聞いた。


 聞いたのは、半年も経ってから。


 友達たちがあたしが深く悲しんではいけないと、気を配ってくれたから。


 自殺だった。


 泣いた。とめどもなく泣いた。


 もう、どうしようもないのに気持ちの整理がつかない。




 あれから十年。あたしはまだ彼の姿を追って一人で生きている。





 彼女は実験棟〖D76〗の【№.638524】通称[悲恋の彷徨い人]


 

 彼女は過去の恋に心も身体も焦がれ、人生を違えてしまった架空世界の実験体だ。


 この脳髄だけの仮想実験施設には彼女と同じように、本部の指示によって作為的に引き起こされた悲恋によって今も彷徨わされデータを撮り続けられる実験体が、数百万以上いる。



 中には耐え切れず亡くなってしまう者も……。





  Brains。  (まと)いつく霧の世界。


どうでしたでしょうか。


こんな世界は私は耐えられないかもです。


では、今回もお読みいただきありがとうございました。


では、またー。


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