嘘と誠の世界。
SAN値チェックはお済でしょうか?
今回もそんな御話になります。
では、後ろを振り返らずにお進みくださいませ。
Brains。
「ここ良い景色でしょう?」
「うん、来てよかった!」
そう言って僕たち二人は胸一杯に新緑の清浄な空気を吸い込む。
「でもいい場所に展望台があったね」
「でしょ?ここ穴場らしいんだ」
結婚して二年と一カ月。まだ子供はいないけど僕たちは周りから見ても仲睦まじい夫婦だった。
「ねえ、あの展望台の天辺でお弁当食べましょうよ」
「ああ、いいね!」
彼女の提案に僕が即座に賛成したのには理由がある。だって僕は彼女を事故に見せて殺害しようと画策していたからだ。
何故そんなことを企んでいるかだって? 理由はいくつかあるんだけれど、結局は飽きたからだ。
詰まらないんだ。彼女と一緒に居ても。
もちろん、付き合い出したころや結婚したての頃は、お互いの存在やひとつひとつの仕草が新鮮で初々しく楽しくもあったが、これが付き合い始めてから三年余りも過ぎるとどうだろう。初々しさなんかとっくに消し飛び、彼女の嫌な部分にも気付かされる毎日だ。
簡単に云えば、僕は彼女にすっかり飽きてしまった。
でも、だからと云って、彼女を手放すつもりは僕には全くない。
これまで大切にしてきた両親や親友、そして幾人かいた恋人たちと同じように僕の中の大切な宝物として生きててもらう事にしたのだ。
そう、僕の大切なコレクションだね。
僕がそう考えても誰が僕を責められると云うのだろう。
僕は只、彼女を自分に取り込み他の人々と混ぜ合って一緒に永遠の海で生きていきたい。それだけなのだから。
でも慎重に、自然に見える様に死なせないと。
そう、僕はこれまでも誰からも、疑われたことは無いのだから。
「どうしたの? おにぎり食べないの?」
「ああ、ゴメンネ。ちょっと紅葉を眺めてて」
ふーん。と、彼女は僕が眺めていたと思われる方向に眼を向ける。
「本当だね! とってもきれいな景色!」
こう言って彼女は眩しいくらいの笑顔で立ち上がると、ジュースの一杯入った紙コップを持って手すりの方に歩いていく。
「ちょっとちょっと、こぼれるよ?」
「平気、平気♪ それより物凄くきれいな景色よ♪」
彼女は腰くらいの高さの古い手すりに辿り着く前に案の定、彼女は「やばつ!」と、小さく云い、手元がジュースで濡れていた。
彼女はいつもこうだった。
何がしたいのか、コップに牛乳でもジュースでもお茶でも、彼女はこぼれる程一杯に満たす癖があるから困りものだ、何度も僕が注意しても直らないのもどうかしている。
勿論これも、僕が彼女に愛想が尽きた理由の一つになっているのも気付かないのだから、能天気なものだ。なんとも頭を疑ってしまう。
「ほらほら、云わない事じゃない」
僕はそう言いつつポケットテッシュをリュックから取り出して、彼女の濡れた手や衣服を拭いてあげる。
「甘い香りがする」
「いいよ、それより大丈夫?」
「うん、おいしそう」
トン。
僕の天地がひっくり返った。
手に持っていたテッシュが、丸めた状態のまま足元に舞う。
僕の身体は遥か下の登山道わきの岩にぶつかって、ミキサーにかけられたみたいに砕けて流れた。
彼女は落ちていたテッシュを拾い、自分で衣服を拭きながら呟いた。
「ずっと思ってたんだけど、あなたジュースより甘そうだったんだの。あとからいっぱいコップに注いで、たくさん飲んであげるね♪」と。
彼は実験棟〖E16〗の【ブロックH № 001899】通称[サイコキラー113号]
彼女は実験棟〖Y33〗の【ブロックU №. 790842】通称[サイコパス999号]
今回の比較実験で勝ち残った[サイコパス999号]は、[サイコキラー999号]に名称が変更されることが本部に於いて決定され、これまで[サイコキラー113号]は[疑似サイコキラー113号]に格下げされた。
次回の実験は、使用された非社会性パーソナリティ障害を抱えた二個の試験体脳髄を洗浄後、近似値の別の試験体を用いて、三日後に開始される予定である。
これは現在から将来に於いて、所謂サイコパスがに起こしえる個人的理由の大量殺人、または殺人を早期に発見、あるいは早期に予防するためのデータを収集を行う実験だ。
既に各実験棟では、あらゆる可能性を想定した同種の実験が進行中であった。
Brains。 嘘が誠の世界。
この話を書くために、実際に居たサイコキラーの事件を読みましたが、ヤバい。
私のSAN値は急速に無くなることになってしまいました。
うえ、彼ら彼女らが私やあなたの近くに居ないことを切に祈ります。
それでは。