運命の遭遇
運命の遭遇
高校一年の一学期が終わりに近づいた頃、香は土曜日の午前中に町の公園を愛犬と散歩していた。梅雨の蒸し暑さに追い打ちを掛けるかのように、海から生暖かい風が吹き付けて来て公園を歩く人々の身体に纏わり付いて来た。
「こんなに暑いと犬は可哀想ね。毛に覆われた身体に地面の反射熱を直に浴びることになるんだもの」
香はそんなことを思った。その後、彼女の思いはどう夏休みを過ごすかに移っていった。
「叔父さんの別荘に行くのもいいわね。白馬岳の山麓の貸別荘、美味しい空気の中を山登りっていうのも悪くないわ。それとも友達と海にでも行ってみようかしら。でも地元の海じゃ味気ないわね。思い切って遠出してみようかしら…」
そんな計画を思い描いて楽しんでいると、道の反対側から見覚えのある男性が彼女の方に向かって歩いて来るのが見えた。
「本条君!」
護は彼女に近づくまで海の方を見ながら歩いていたため、彼女に気づかなかったらしく、名前を呼ばれると、とても驚いた表情をしていた。
香は歓喜のあまり両腕を挙げて飛び跳ねそうになるのを必死に堪えた。
「ここはクールに彼に接しよう。だって私は彼のことをまだ全然知らないんだもの。初恋だし、恋の駆け引きなんて知らない。ここは慎重にいかなければ。私の気持ちを気取られでもしたら、これまでの苦労が水の泡だわ。今まで態とブローチを落として彼の気を引いたりしたんだもの」
香はそう思い直して平静を装って彼の反応を待つことにした。