傷心の少年
傷心の少年
少年がゆっくりとした足取りで『紅葉通り』を歩いていた。彼の名は本条護。彼はたった一つの事以外、何も考えることもできなかった。それは一月ほど前に亡くなった最愛の女性、桜木香のことである。彼は彼女の身に起こった不可思議な悲劇――謎の死――から立ち直れずにいた。彼は未来を失い、将来のことも考えられず、苦悩し続けていた。
「――何故――」
この問い掛けが彼の思考に壁を作り、その先に進めなくしていた。今、彼が歩いているこの公園の『紅葉通り』が公園を周回しているように、その問い掛けから始まる彼の思いが螺旋のように巡り続けている。
「何故、俺を残していなくなってしまったんだ? 俺もお前と一緒に逝きたかった」
護はその思いに囚われると、決まって心に浮かぶ彼女との楽しかった思い出が彼の心を占めていく。それが彼の頭の中で繰り返されていた。悦びに満ちた過去と哀しみ溢れる現在との格差が彼を居た堪れない気持ちに陥れていた。
一人で俯き歩き意気消沈した様子の護を『運命の丘』の上から哀しみに満ちた目で見つめている一人の女性がいることに、この時の彼は気づく筈もなかった。