戦闘のリアル事情
[十字ボタンでスキルを選び、Aボタンを押すことでスキルを使えます]
『知ってるて、あーはいはい、知ってますっての──』
奴の気取るそうな声が世界中に響き渡り、勇者の耳にもよく届いた。
「まったく、誰のせいでこうなってると思ってんだよ……反省しやがれ……」
ブツブツと文句を言いながら、勇者は初期装備の剣を構えて、スキルの準備を始めた。
奴が選んだスキルは[ファイアーソード]。
名の通り、剣が炎に包み込まれた状態で攻撃できるスキルだ。
MP(魔力)の消費量はたったの3で、既に初期から覚えているスキルの上に、消費魔力も少なく、雑魚に対して使うとそれなりに高いダメージを与えることが出来ることから、奴は雑魚相手にほとんどこのスキルを使っている。
まあ、魔王が攻撃傾向を推測したから傾向が分かることなのだが……
「当たってくれますように……」
勇者は自信なさげにそう呟きながら、剣を振りかざして敵に向かって攻撃を繰り出した。
画面上では、勇者が見事、敵に剣を振りかざした光景が映し出されている。
攻撃を終えたので、画面の下側に枠が出てきて、文字が映し出された。
[キャーベッツへのダメージ6 キャーベッツは倒れた]
「あ、あたった……!」
勇者は嬉しさのあまり飛び跳ねそうになるが、必死に自分の脚を堪えて、耐える。
ここ、ゲームの世界では敵キャラはCGのため、勇者達からしたらなにも見えていない。そう、何も見えないのだ。
先ほどの敵キャラ[キャーベッツ]も、画面越しで見ている奴らには姿が映って入るが、勇者視点からしたら、何も無い空間に剣を振りまわたただけだ。
強いていえば、敵キャラがここに居マース。って言う意味の、矢印(↓)ぐらしいかない。
なのでよく
[敵が攻撃を躱した]
と、でるのだが、あれはただ単に勇者が違う位置に攻撃しただけである。実質、敵キャラはかわしてなどいないのだ。
躱しているようにみえるのも、魔王の城にいる係委員がそう見えるように仕向けているだけなのである。
「戦闘と移動ほど体力を消費する仕事はないな……」
ボソッと呟く勇者。苦虫を潰したような顔で、八の字になっている眉に皺が寄る。
集中力が切れると給料が大幅に減少してしまうので、絶対に切らしてはいけない。そんな仕事なのである。
[5エン 手にいれた]
「ぐぅ……」
勇者の顔は更に険しくなり、とても嫌そうな顔つきになる。それもそのはず、何にせ、魔物を倒した時に出るお金は全て、勇者の財布から出されるものだのだ。唯一会社から出されるお金はボスを倒した時に出るお金と、街に行ったとにきに、くじ引きや壺を割った時に出てくる金だけである。
それ以外は全部、勇者の財布から奪ったお金だ。
もちろん、それを知っていてなお、魔王(社長)はモンスターによるお金の値段を決めている。
覚えてるいると思うが、勇者の一日の給料は百万である。まあ、その約半分が仕事中に使われて無くなるのだが……
そんな残酷なシステムを作ったのも、もちろん魔王(社長)なのだが。
魔王(社長)曰く
「一日で百万稼いでいるんだ。何も文句はないよな?」
だそうだ。
そうこうしているうちに、本日五匹目の[キャーベッツ]を倒した。
それと同時に、勇者の財布から25エン 引かれてしまった。
「ホント最悪だよこのシステム……」
泣き言を漏らしながら、勇者は操られるままに移動する。そして、一つの大きい街についた。
そこは【マーカリン】と呼ばれる街で、この世界で二番目くらいに大きく広い街で、世界一金持ちの王様が存在している。そしてその王様の娘、つまり王女様は、凄く美人で可愛らしい性格と評判がいい。
『グヘヘ、やっとここまで来たぜ愛しのフィリアちゃーん。早く会いたいぜ……』
アッチの人間にも好かれる程に人気なのである。
まあ、勇者からしたら正直どうでもいい事なので、あまり気にしてはいないが、先ほどの天からの声には軽く引いた。
「相当女に飢えてるんだな……可哀想に」
勇者は軽く同情する始末だった。