OP後のリアル事情
【アルゼルト】
「皆のもの急げー! 時間は残り五分を切ったぞ!」
『おぉー!!』
魔王(社長)の声により、街中を掃除している住人は気合いを入れた。
現在、アルゼルトではオープニング後の大清掃をしていた。
オープニングで暴れた分、清掃に時間がかなり掛かってしまう。それもそのはず、盛大にペンキを使ってしまっているので、洗い流すのが大変だ。
大人から子小さい供まで、一心不乱にブラシで磨き、家に着いたペンキを洗い流し、綺麗にしていた。
そして残り時間一分を切った所で、街の大清掃は幕を閉じる。
「皆のもの、よく頑張った、例を言う! さぁ、疲れたと思うが急いで自分の配置についてくれ!」
魔王(社長)が大声で叫ぶと、街の住民は大きな歓声をあげて、魔王(社長)に拍手を送ったあと、我が先にと自宅に戻っていった。
その場に残っているのは魔王(社長)と、その秘書だけとなった。
「さて、社長。我々も城に戻りましょう」
イケメンに分類されるであろう秘書は、誰もが見惚れるような笑顔で魔王(社長)に言うが、魔王(社長)は特に頬を赤らめることなく、平然と会話した。
「あぁ、そうだな。さっさと城に戻り、早く勇者の活躍を拝見したい。ふふっ」
「…………なんでコッチを向いてくれないのだろうか……」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、大丈夫です」
「ふむ、ならいいのだが」
魔王(社長)は今にもスキップしそうな気分で微笑んでいる。魔王(社長)の周りには花でも咲いているかのようにキラキラと輝いており、一目見ても御機嫌だということがよく分かる。
「ほれ、ゆくぞ」
秘書に向けて笑顔で腕を差し出す魔王様。
魔法を使う時には、自分にしかかからない魔法と、相手にかけることが出来る魔法、そして、自分を含めた仲間達に使うことの出来る魔法に分類される。
その中でも、移動魔法は自分にしかかからない魔法であるため、魔法を唱える人のどこかを触らないと自分のにその魔法の効果は与えられないのである。
その移動魔法を使う瞬間が、秘書はたまらなく好きなのだ。理由は一つ、魔王様に触れられるからである。
「はい。社長、少しばかり拝借させていただきます」
そっと魔王(社長)の腕を触ると、秘書の心臓の鼓動が早くなるが、それに魔王(社長)は気づくハズもなく、綻んだ顔のまま自分の指をパチンと鳴らした。
刹那、魔王様と秘書の姿は跡形もなくアルゼルトから消えるのだった。
その頃、勇者ことノアは、待機場所で静かに自分の出番を待っていた。
「はぁ、ホントにアホだね『奴』は……」
深いため息をついて、勇者はただただ愚痴る。日頃の仕事でさえとてつもなく忙しいのに、また最初っからにしたせいで、いつも以上にイラついている。
『あー、長かった。んでも、オープニングはいつ見てもいい感じだな』
「だろ?」
声色に感心の感情が含んであった天の声に、何故か勇者は、ドヤ顔で返事をした。
やはり勇者もこの世界の一員であるため、この世界が褒められることはとても誇らしく思っているのである。
そして等々、待ちに待った勇者の出番がやって来た。
「よし、やるか」
勇者は椅子から立ち上がり、PC専用の家の、そしてPC専用の部屋のベッドに気合いを入れて横になった。
今回は、どんな名前にするのだろう。『オレ』とかだったら爆笑するかもな。
などと、自分に付けられる名前に淡い期待を寄せながら、静かに目を瞑ったのだった。