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RPGのリアル事情  作者: カリウム
ゲームの世界のリアル事情
4/9

遅刻したリアル事情

分けました

 


【ナンゲル】


「遅刻したァーー!!!」


 勇者は大声で会議室のドアを開け、高速で頭を下げたのだった。




 朝7時32分


 勇者は目を開き、頭を抑えた。昨日飲み過ぎたせいか、二日酔いで頭が猛烈に痛い。

 ムクっと起き上がり、頭痛で顔を歪ませながら、家の洗面所に足を運ばせた。

 時計をチラッと見て、水道を捻り、冷たく気持ちのいい水に手を触れてみた。両手に救い、自分の顔をピチャリとつける。

 前髪が少し濡れてしまうが、気持ちのいい余韻に浸った。が、一瞬にして閉じていた瞼を見開いた。


「いま何時!?」


 首をグルッと動かし時計を見た瞬間、勇者の体が凍りついた。

 その時間はとても短いが、勇者には永遠に感じるような感覚だった。そして、水道から一滴、洗面台の水面にピチャリと落ちた時、勇者の時間は動き出した。









「昨日、飲んでそのまま寝てしまっていたので……はい」


 だんだんと声が細く弱くなっていく勇者。魔王様に申し訳なくて顔すら直視できない。

 自分より大変な立場にいる事をよーくご存知なので、心が罪悪感で一杯になった。


 その言葉を聞いて魔王は溜め息をついた後、目つきを鋭くさせ勇者に更に追い打ちをかけた。


「おいこら勇者、お前のような奴がいるからダメなんだ、分かるか?」

「はい。すみません……以後気をつけます」


 さらに指をくい込ませていく魔王は、とてもイライラしているのがよく分かる。

 仕事の疲れがそうとう来ているのだろう。目が赤くなっていることから、睡眠不足なのが伝わってくる。


 勇者は自分の席に急いでついて、鞄から今日の資料を取り出した。

 今勇者が取り出した資料は、今日の予測が書かれた大事な資料である。

 これも全て魔王が作成し、コピーしたものだ。なので、全ての会議の提案は魔王様が発表する。


 魔王はホワイトボードとスクリーンの目の前に戻ると、赤色の眼鏡をクイッと持ち上げて、資料を片手に話し始めた。



「私の予測では、ログインした後に宿に行くと思われる。昨日の行動で、宿で回復すること無く教会に向かってセーブしたことから、HPとMPはまだ回復していないのだろう。なので【アルゼルト】のPC専用宿は準備をするように……」


 適格な判断と推測は、さすが魔王と言えるだろう。

 昨日の行動から今後についての準備をわかりやすく説明する当たりは、とても真面目と言える。


 その後の展開も発表し終えた魔王は、自分の席に戻った。




 この世界では、全ての指揮を魔王がとっている。

 魔王は魔王の城で休憩を挟みながら、モニター越しから勇者の行動をみる。

 魔王のいる部屋には、たくさんのボタンが設置されており、そのボタン一つでいろんな事をする。

 例えば、BGM。アレは魔王の部屋にいる係員が押して調整しているのだ。


 その他にも街の外にいるモンスターは、モンスター係と言うものがあり、ボタンを押せばモンスターが現れる仕組みになっている。

 モンスターには決められた経験値があるのは知っていると思うが、ソレを決めるのも魔王の役目である。


 レア度が高く、なかなか倒せないモンスターの経験値などは、魔王が決めており、そういったモンスターは魔王本人が直々操作する。

 なので、すぐ逃げたり、逃げなかったりするのは、全て魔王の気分によるのだ。


 


 RPGとは大きな会社だ。

 画面の向こうの人たちにはタダのゲームにしか思っていないようだか、その人たちが楽しめるように、裏ではゲームの中に存在しているキャラクターたちが物語を創っているのだ。

 その中で一番偉いのは、もちろん社長の魔王である。


 全ての決定権は魔王(社長)にあり、運営していく事で職業(役職)が決まっていく。

 会社に新入社員として働きたいのならば、それなりの根性と夢がないとやっていけない。その例として勇者を上げてみるとしよう。



 実に勇者は、筆記試験を突破し、面接を受け、演技力を確かめられ、そして最後に魔王(社長)に認められて、やっと入社できる上に、職業に就くことができるのだ。

 もちろん、給料も貰っている。だって、働いているんですもん。


 そんな陽気な事を考えながら、勇者は書類に目を一通り通す。

 するとある部分に目が釘付けになった。


「はい。質問いいですか?」

「なんだ?」


 腕を組み鋭い視線を勇者に向けるのは、全てを設定し考えた張本人、魔王だ。

 腕の上には誰もが見ても大きいと思ってしまうほど、柔らかそうで大きすぎない巨大な胸が、魔王の白く細い腕に形を変えて乗っかっている。スーツを着ているので更に体のラインまで分かってしまうのにも関わらず、ボッキュッボンな体型で、女性の憧れの的になってるい魔王。

 社長だけではなくアイドルまでやっているのだ。勇者は唾を飲みこみ、尊敬の目で魔王をみつめると共に、緊張気味に立ち上がった。


 そんな人気者の人に質問をするのは、勇者からしたらタダの公開処刑である。

 しかしそれでも、譲れないものがあるのだ。それは……


「ここに、《今後勇者とその仲間達は、エンディングを迎えるまで家に帰さない》と、書いてあるのですが?」


 恐る恐るそう言うが、魔王は首を傾げるだけだった。


「なにも問題はないだろ?」

「いやっ! 問題大アリですよ!?」


 それはつまり、魔王様(社長)を倒すまでは、自分の家に帰らずに、その街の宿、もしくは野宿する事になると言うことである。

 もう一度言う、野宿である。風呂にも入れないし、料理も作れない、ましてやベッドではなく寝袋。下手すれば寝袋なしで、寒さに凍えながら眠ることになる。

 そんなのに勇者は耐えられそうになかった。


 ソレを察したのか、魔王は方眉を上にあげて、ニヤリと笑みを浮かべる。

 その笑みをみて、一部の魔王ファンは鼻血を噴水のごとくふき出すが、今の勇者には気にならなかった。


「宿に泊まればいいだろう?」

「お、お金が……」


 とことん社長はドSだ。

 昨日モニターで、勇者が涙を堪えながら装備品を買っていく光景を見ていたのにも関わらず、そんなことを言い出し始めた。……それもどこか楽しそうに。


「まあ、細かいことは気にするな。オマエの仲間にも一応聞いておいたんだ、そしたらみんな嬉しそうに承知してくれたからな。最終的にはどう足掻いてもやるハメになる。」

「ふぇ?」



 勇者は思った。



 えっ? 今なんつった?


 社長は今、仲間が承知したといったのか?


  と、現実を受け入れないでいた。

 勇者は頭が混乱し、頭の上にたくさんの疑問符が浮かばせる。

 脳みそが現実を受けえれようとしないらしい。


 絶望的すぎて、口をパクパク開けたり閉じたりしながら勇者は心の中で一心不乱に叫んだ。



「イヤだぁあーーー!!!!!」


 そんな勇者の心の声は、誰にも届くことは無かったのだった。












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