或る星の一生
澄んだ夜空に星が煌めく。冬至の風は素肌にムチを打たれるくらい冷たかった。女性のスカートの裾が長くなっていくのが、木々の変わり目よりも良く分かる。
仕事の帰り道、ほろ酔い気分で夜空を見ながらふと感慨にふける。公園のベンチは息を殺したかのように冷たく並んでいた。親子連れもカップルもいない簡素なベンチ……気品だった街灯がベンチを照らし、慰めているようにもふと見えた。
私はゆっくりとベンチに腰を下ろし、再度夜空を見た。夜空にはホクロの数ほどの小さな星がまばゆい光を放っている。星は決して生きる誇張を見せず、ただそこにひっそりと存在していた。
「あの星はどこと繋がっているのだろう?」
星の向こう側にもし新たな生命体がいたらと考えると、私たちが星を見ているというよりも、星が私たちを見ているのだと感じてしまう。我々が他の星から監視され、支配下にされている状態だと考えると、星がきれいだと戯言を言っている場合じゃないとみんなに言ってあげたい。目の前よりも星空(敵)を見ろってね。
星が一瞬強く光を放ったように見えた。私が感じた事を理解してくれたのだろうか。モーレツ信号のように一定のリズムで光の信号を送っている。
「……飛行機か」
赤い光が放った時、私は夢心地の気分から一気に目が覚め、また冷たい風が足元を寒くしている事に気がつく。夢と現実を行き来する人間の想像、思考こそが異世界からの侵略者ではないかと思う時がある。
徐々にお尻が温かくなり、半目の状態で横になった。ひんやりとしたベンチが温かい頬と触れ合い、気持ち良かった。私はそのまま流砂に呑まれるようにゆっくりと眠ってしまった。
眩い光が私の身体を包んだ。私の全身を覆い尽くすほどの光。正面から照らされたその光に私は身動きする事が出来なかった。先ほど強く光を放った星……その星こそが地球外生命体なのか。
目を開けると私は真っ裸だった。身ぐるみ剥がされ、手には何も持っていない。あるとすれば目の前に立っている警官の姿とその後ろから照らされているパトカーのヘッドライト。消えかけていく記憶の中、私はゆっくりと手錠をはめられた。
「同じ人間に捕まえられるくらいなら地球外生命体に連れて行かれたかった……」
冷たい風がより心身にうちつけ、心が折れる音がした。
もう二度と星を見ながら、寝る事はないだろう。
暗い公園の中、裸の私だけが一等星のように光っていた。