■第3話 傍にいたいのに
シオリを病院へ送り届けた後、ショウタは暫くその場から動けずに病院の
救急出入口の段差に腰掛けて呆然と佇んでいた。
ふと寂しげに見上げた冬の寒空は、上空の空気の流れの強さで星がキラキラと
瞬き明るい一等星が多くて星空の印象がより強い。
不安ばかりどんどん膨らんでゆくショウタには、ただただ哀しく映る満天の星。
自転車を猛烈に漕いだ足はいまだガクガクと震えている。 乱れた呼吸が
やっと鎮まるも、取り乱し泣きじゃくるシオリの小さな背中を思い出して
再び胸は痛みを甦らす。
勿論ユズルも心配だったがシオリのことがどうしてもどうしても頭を離れない。
(ダイジョウブなのかな・・・。)
頬に刺さるような冷たい夜風に、首元に巻かれたマフラーをそっと口許まで
引き上げる。
大きく息を吸うと、ほんのりシオリのやさしい香りがかすめた。
胸が締め付けられぎゅっと強く目をつぶり、更に更に大きく息を吸う。
シオリのことが、心配で心配で仕方がない。
傍にいたい。
許されるなら、求められるのならば、シオリの傍にいたいのに。
(俺に・・・ なんか出来ること、ないかな・・・。)
それから暫く、ショウタは自宅に帰らずに病院の前にいた。
もし万が一シオリからメールでも来たら、”まだ病院前にいるから ”と
すぐ飛んで行けるように。 シオリを励ませるように、抱き留められるように。
ただじっと救急出入口の段差に腰を下ろし、背中を丸めて首をもたげていた。
それはまるで途方に暮れる迷子のこどものように。
不安で、怖くて、寂しくて。
これからどうしていいのか分からなくて、その場から動けない。
しかし、時計の針が深夜12時を過ぎ、ショウタの体が芯から冷えて凍え
始めたとき諦めたように静かに立ちあがり自転車のサドルに跨った。
何度も何度も確認したケータイ。
母親から帰りが遅いことを心配する電話が1本入ったが、それ以外はショウタの
ケータイを震わせるものは無かった。
ゆっくりペダルを踏み込み、病院の敷地を出たあたりでもう一度止まり
振り返った。
暗い冬の夜空の下そびえ立つその巨大な建物が、シオリを飲み込んでしまい
そうで言葉に表せないモヤモヤしたものが胸に渦巻き不安で仕方がなかった。
自転車のハンドルをにぎる大きなはずの手が、まるでこどものそれのように
心細く震えた。