表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

第7話 「拠点」

              第7話 「拠点」




 俺とアリサで砦を奪還してから10日が経った。

 この10日間で、俺はこの世界の様々な現実を知った。

 まず第一に、メシがどうしても不味い事。

 これは精神的なモノと実際の味の両方に問題があるのだろう。

 この世界に来て以来、これがまず何より第一に堪える事になった。


 現代日本の料理・味の豊富さの恩恵に、知らず知らずの内に当然の様にあやかっていた俺は、異世界の料理や味付けにどうしても馴染めなかった。

 いやホント、異世界モノのゲームや漫画やアニメってのは、上手く出来ているモンだよな。

 というか、ああいう作品とかだと普通に食えたり飲めたりしてるのに、俺がこの世界に来てから口にした物は、どれもこれも「美味い!」と思えるものは何一つ無かった。

 見た目が結構美味そうな肉料理、に見えて食ったら生臭さがハンパ無かったり、ちょっと見慣れない葉っぱとかで出来たサラダ、だと思ったらその葉っぱに付いた虫ごと食うという食文化の違いに、俺はとことんまでショックを受けた。

 アリサも「この虫と一緒に食べるのが美味いのですぞ?」とか、不思議そうに言いながらむしゃむしゃバリバリ食ってて、俺はこの世界に来て何度目かも分からない吐き気に襲われた。


 海外に行くと、ホームシックにかかってやたらと梅干しやら米やらが食いたくなるらしい。

 海外旅行とか行った事ねえけど、その気持ちがすごくよく分かった。

 今の俺はものすごく、多分これまでの人生の中で一番おにぎりが食いたい!

 シンプルに海苔を巻いただけでも良い、梅干しが中に入った奴とかすごく食いたい!

 今ここにコンビニがあるなら、俺のポケットに入ったままの財布の金を全部使ってでも、おにぎりを買い占めてしまいそうなくらいおにぎりが食いたくてしょうがない衝動に駆られた。


 普段はそんな事を一々考えたことも無かったが、やっぱり俺は純粋に日本人なんだなぁ。

 そもそも現代日本じゃあ、一部地域でしか虫とか食わねえよ。

 少なくとも俺が住んでいた所はその「一部地域」じゃなかった、イナゴとかざざ虫とか、名前は聞いた事あっても俺自身は食ったこと無かったし、進んで食いたいと思ったことも無い。

 それなのにこの世界に来て初めて見た名前も知らない、見た目毛虫っぽいのが付いた葉っぱを、その虫ごとムシャムシャ食べるとか、今時テレビの旅番組でもやらないんじゃないか?

 しかもそれ、めでたい席での祝いの料理の一つだったんだぜ。


 砦奪還直後、その砦の守将とやらを捕縛し、砦から一番近い村まで歩いた俺たちは、その村で盛大なもてなしを受けた。

 アリサは絶大な人気を誇り、村の村長以下全員が彼女の無事を喜び、涙を流して生還を祝った。

 その一方で砦を守っていたオッサンは、俺が止める間もなく村の男たちから速効袋叩きである。

 どうやら砦から一番近い村、という事で相当酷い扱いをしてきていたらしい。

 止める義理も義務も無い俺は、とりあえずそれ以上やったら死んでしまう一歩手前まで放置しておいた。


 そんな中、見慣れない服装の見慣れない男である俺に、何人かが訝しげな視線を向けてきた。

 そりゃ周りがみんな質素な服装ばかりな中、一人だけ真っ黒な学生服ってのは目立つよな。

 いきなり敵意を向けられたりしないのは、俺がアリサと一緒にこの村に来て、しかも例の守将のオッサンを縄で引き摺って来るという姿が、少なくとも帝国兵には見えなかったからなのだろう。

 一通りの歓待を受けた後でアリサも周りの奴らに無事を知らせ終わり、俺が向けられている視線に気付いたのか、アリサは自然に俺の横に並ぶ。

 そこまでは良い、ああ俺を周りの奴らに紹介してくれるんだな、と思ったから。


「この御方こそ、神が我らの王国に遣わして下さった神の御使い、その名もショウマ殿だ! この方はその御力で以て、捕らわれてしまった私を救い、さらにそのまま砦の奪還まで成し遂げられた! この方の助力があれば、王国の復興は約束されたも同然だ! 我ら王国の民は、今日この時より帝国への反撃に打って出る! 我らが祖国を踏みにじった鬼畜どもを、一人残らず追い払うぞッ!!」


「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 え、オイちょっと待って。

 なんで紹介しながら演説ブチかましてんの、この人。

 俺への紹介最初だけじゃん、その後は完全に戦意高揚の演説じゃん、どこのアジデータ―だよ。

 しかもその演説聞いて、この場に居る100人くらいの村人ほぼ全員が拳振り上げて雄叫び上げちゃうし。

 そんな空気だから、逆に俺の方は冷めてきちゃうんだけどさ。


 この置いてきぼり感がハンパ無い空気の中、心の中だけで突っ込んでいた俺は茫然と立ち尽くしていた。

 すると俺が何かを言ったりする前に、村人たちは一斉に俺の方に向き直って跪いた。


「神の御使い様ー!」


「どうか、どうか我らを御救い下さいませー!」


「何卒帝国の奴らに神罰を!」


「私の娘はアイツらに攫われ、もう1ヶ月も帰ってこないのです! どうかその御力で娘をお助け下さいまし!」


 やめろぉぉぉぉぉッ! 重てえよ、期待が重たすぎるんだよ!

 そんなに祈られたり崇められたり、挙句涙ながらに訴えられても困るんだって。

 そんでアリサ、お前はお前でなんで俺の方を見ながら少し誇らしげにしてんの!?

 この現状造り出したのお前だろ、収拾付けろよ、俺の顔が完全に引きつってんの見えないの!?

 俺は高校3年の17歳だからな、中二病とか卒業してっから、ここで神様気取る様な真似をする精神年齢じゃないからな!


「皆の者、気持ちは分かる……だがショウマ殿とてまだこの世界に来たばかりなのだ、あまり困らせるものではない」


 俺を困らせてる原因作ったのお前だからな、言っとくけど。

 だがアリサの言葉に、村人は自らの行いを恥じ入るように、跪いたまま黙りこくる。

 お前らアリサの言葉効きすぎだろ、何なのコイツ、お前らにとっての教祖か何かか?


「ショウマ殿と私は、これより帝国への反撃に備え、奪還した砦を拠点として活動を始める。 諸君らは近隣の村や町へこれを伝えに行ってほしい。 新たに義勇兵を募り、帝国に『未だ王国は死せず』を知らしめるのだ! 無論その過程で帝国にも情報は漏れるだろうが、ショウマ殿と私ならば帝国の木っ端兵など恐れるに足らぬ! むしろ各個撃破して帝国の力を削ぎ落してくれよう!」


「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」


 え、ちょっと待て、今お前なんて言った? このツッコミも何度目だオイ。

 聞き間違えだと信じたいが、俺とアリサとで帝国倒すぞ、って言ったよな。

 帝国ってのがどれだけの規模かは分からんが、少なくとも一つの国を滅ぼせるだけの軍事力持った相手に、たった二人でケンカ売ろうっての?

 どこの無双ゲー、いやむしろ無理ゲーだ、三国志の呂布だって出来ねーよ、そんな真似!

 違う世界だから知らねーだろうけど新撰組だってなぁ、一人の相手に三人で掛かれば腕前で劣っていても確実に殺せる、みたいな事言ってたんだぞ!


 この計算だと俺とお前殺すのに6人いりゃ終わりだぞ、各個撃破されるのはこっちだろ!

 そんな俺の一人ツッコミはガン無視され、あれよあれよという間に祝いの宴が用意された。

 そこで俺はこの世界のメシ事情、いやもしかしたらこの村の食糧事情が悪いだけかもしれないが、とにかくその事情を思い知ったのだ。

 生臭く、噛み切れず、やたら固い肉をメインに、野菜っぽいのは虫付きサラダ、後は味も無くただ腹を膨らませる事だけを考えたパンや、白湯一歩手前の薄味スープに酸味が強すぎるワイン。

 そもそも俺は未成年だし、酒とか飲んだ経験が全くないからワインの良し悪しなんて分からない。


 好奇心に突き動かされて飲んではみたが、とても続けて飲む気になれなかったのにアリサを含め、どいつもこいつも「もっと飲んでくれ」と勧めまくってくる。

 酒は苦手だと断りまくって、とにかく空腹を誤魔化す為だけ食ったら、後はとっとと寝ようとか思ったのだが、アリサは俺が主賓だからもっとゆっくりしていって欲しいと引き留めてきた。

 不味い飯と酸っぱいワイン、そしてプレッシャーがハンパ無い空気で引き留めるなよ頼むから。

 色々あって肉体以上に精神的に疲れ果てていた俺は、出来れば早目に休みたいと懇願してようやく解放された。

 村長の使うベッドを使って良いと言われ、その言葉に甘えた俺は、案内された村長の家の寝室のベッドに倒れ込んだ。


 疲れ果てていた俺は、人生初の飲酒の効果も手伝ってか、ぐっすりと熟睡した。

 この日の俺はぐっすりと眠れたが、次の日の夜に寝た時は、夜中に悪夢にうなされる羽目になった。 

 理由はまあ、二つほど思い付いた。

 一つはこの世界の寝具事情、この点についてはメシ事情に続いて、俺は現代日本の素晴らしさを再認識するに至った。

 とにかくこの世界のベッドって、固いものが多いんだよ。


 別に俺だってそこまで柔らかいベッドに寝ていた訳ではないと思うが、こっちの世界のベッドは石の上に寝っ転がっているかのような硬さで、寝心地が全く良くなかった。

 もう一つは多分、というか絶対一昨日奪還した砦で寝たからだな。

 この世界に来て二日目の朝、目覚めた俺は村の男たち数名を連れたアリサと共に、砦へと戻った。

 帝国側は昨日の内に完全に撤退していたようで、俺とアリサが守将のオッサンを捕縛して、この砦を出た後でこっそり取り返した、とかもしていない様だった。

 アリサにそういうものなのか、と尋ねてみるとどうやら帝国側にとっても、この砦はそこまで戦略的に重要な物ではないとのことで、守将のオッサンがやられた時点で、サッサと見限ったのだろうという。


 さり気にあのオッサン哀れだなー、さして重要でもない砦の守将をやっていたかと思えば、そこに俺が来てアリサとたった二人で砦を奪い返されるとか、もうこれ帝国側に戻れても打ち首モンじゃね?

 その打ち首モンの失態をさせたのは当の俺とアリサなんだから、今更同情もへったくれも無い訳だが。

 なんにせよ、敵はおそらくこの砦から徒歩で三日ほどはかかる別の砦へと逃れたのだろう、というのがアリサの見解だ。

 で、結局守る奴も奪った奴もいなくなった砦に、俺たちは舞い戻って来たという訳だ。

 名も知らぬ砦よ、俺は帰ってきたぁ!


 やめておこう、ここでの思い入れってロクなもんが無かった。

 飛ばされて来た直後に人死にを見て、思いっきり吐いちまった事とかまで思い出してしまった。

 そんな事を思い浮かべている間に、アリサが連れてきた数人の村人たちと、砦の接収作業が始まった。

 まずは武器庫や食料庫、さらには指揮官の執務室などにある書類などなど。

 もうあるわあるわ、完全に置き去りにされたまま全部残ってるでやんの。


 昨日の今日とはいえ、こっちは人数も俺とアリサだけ、さらには守将のオッサンを連行しながらだったから、ほとんど手ぶらで村まで行ってしまったんだが。

 あの後帝国兵が撤収する際に、色々持ち出して逃げたのかと思えばほとんど手つかずだった。

 イイのかコレ、物資ってのは戦争では重要になるんじゃないのか?

 気になったんでアリサに聞いてみると、どうやら帝国兵たちは余程慌てていたので、とにかく逃げるので精一杯だったのだろう、とのこと。

 そんなもんかと思っていると「ショウマ殿に恐れをなしたのですよ、風属性の中級魔術クラスの力を見せたかと思えば、火属性の上級魔術クラスの技までお持ちだったのです、敵もさぞかし慌てたのでしょうな」と、少し誇らしげに笑っていた。


 つまり俺のチート扱いされるような風やら火やらが、よほど恐ろしかったから物資も何もかも捨てて逃げた、という事か。

 なるほど、そう言われるとこの力も結構役に立つもんだな。

 そうして砦の中を物色していき、武器や食料を含めて、使える者は使えるものとして分類していき、敵兵の死体などは鎧を引っぺがしてからまとめて埋めた。

 というか、鎧引っぺがすってその鎧再利用するのか。

 王国軍の残存戦力は武器や防具にも事欠く有様らしく、使える物はとにかく使うらしい。


 ちなみに昨日俺がこの世界に来たばかりの時に、まとめて一発KOした数人の帝国兵たちは、俺の見ていない所でアリサがキッチリ止めを刺しておいたらしい、容赦ねえな。

 そうして砦を新たな拠点とするため、今ある物はそのまま使い、足りない物を運び込んだり、俺が開けてしまった大穴の修繕作業の計画を立てるなど、いきなり忙しい事になった。

 で、本格的な作業は明日からという事になり、このメンツはそのまま砦の中の寝室を使って就寝。

 そこで俺は人が死ぬ様をくり返し見せられる悪夢を見て、夜中に何度も目を覚ます羽目になった。

 最後には「アレはゾンビ、ゲームのゾンビ、倒さないと進めない敵キャラ、敵キャラだから」と、自分に言い聞かせて無理やり寝た。


 おかげで次の日は寝不足だった、だがこの日は作業に追われて身体を動かしまくったせいで、体力的な限界が来ていたせいか、悪夢も見ずにグッスリ爆睡した。

 その次の日もやっぱり肉体労働に従事したせいか、夢すら見ずに爆睡、おかげで変に吹っ切れたせいか、その後で悪夢は見なくなった。

 だが俺とアリサを含めても10人にもならない人手で、砦を奪還しても一体この後どうする気なのかと思っていたら、その3日後には援軍がやって来た。

 どうやらアリサが指揮していた王国軍の残党勢力という奴らしく、帝国軍との戦いで散り散りになり、アリサも捕まったと聞いて悲嘆に暮れていたらしい。

 だが俺とアリサが昨日世話になった村から使いが出され、この砦に合流する運びになったとの事だ。


 何気にスゴイなアリサの奴、俺と一緒に砦の改修作業をしながら、そんな指示まで出していたのか。

 俺が内心で感心していると、その合流した仲間からまたも訝しげな眼で見られた。

 で、アリサが俺の素性を話すと、それまでの態度から一変していきなり崇められた。

 またこのパターンかよ、人が増える度にこういう事になるんじゃねえだろうな?

 で、結局その後も続々とこの砦に人がやって来ては、段々と大所帯になっていった。


 気が付けば、近隣の村からの義勇兵も含め、50人を超える小部隊が出来上がっていた。

 弓を使える者は弓手に、それ以外の者は槍や剣を手にして、アリサが戦えるように指導をしていく。

 そういえばと思ってアリサにこの中に魔術師とかは居ないのか、と聞いてみると。


「魔術師、というのは極めて稀有な魔術の才能の持ち主でないとなることは出来ません。 実践で使えるレベルの者となると……そうですね、大体5000人に1人くらいでしょうか。 しかも幼い頃から研鑽を重ねて、早くて私たちと同年代でようやく使い物になる、くらいのものでしょう。 私たちの部隊にも、かつては2人ほどいたのですが既に敵の手にかかり…」


 「剣と魔法のファンタジー」な世界かと思ったのに、実はスーパーレアかよ魔術師。

 この規模の100倍の人数の部隊でやっと1人とか、超エリートじゃねえか!

 さらに聞くと実践レベルの魔術の使い手になると、まず確実に国がお抱えにするという話になるとか。

 王国では「騎士」の地位は努力すれば誰でも得られる可能性はあるものらしいが、「魔術師」は先天的に魔術の才能が必要らしく、その数はもちろん「騎士」に比べて少ない。

 もちろん才能だけではない日々の研鑽も必要だが、希少価値も手伝ってか、一般的にその地位は「騎士」よりも上の扱いらしい。


 さらに「魔術師」の上に「魔導師」の位があるらしく、ここまで行くと貴族に列せられるらしい。

 まあ、貴族と言っても一代限りの貴族で、爵位も低めな名誉貴族的なモノらしいが。

 それでもやはり「魔導師」になれる実力と、希少さに見合う価値があるため、たとえ名誉貴族と言えど侮られるような事にはまずならないという話まで聞かされた。

 王国もかつては100を超える魔術師と、10人ほどの魔導師を抱えていたらしいが、今回の戦争でまずそのほとんどが戦死しただろうとのこと。

 で、そこまで聞いて俺は素朴な疑問が浮かんだ。


「魔術師と魔導師って、具体的にはどう違うんだ?」


「魔術師は初級魔術を使いこなせれば、魔術師として認められます。 対して魔導師になりますと、その上の中級魔術まで使いこなせるレベルでないと、魔導師とは認められません。 ごく稀に、上級魔術と呼ばれる高みに手が届く者もおりますが、ここまで行くと『大魔導師』とまで呼ばれる存在となり、歴史に名を遺す偉人として後世まで讃えられます」


 スーパーレアからウルトラレア、さらには歴史上の偉人、つまりレジェンドクラスかよ。

 この世界って、実は「魔術師」が相当もてはやされてんのな。

 ん、そういえば俺が出した技って確か。


「なあ、俺がこの砦で出した火とかって、上級魔術クラスとか言ってなかったか?」


「ええ、言いました。 壁を貫通したのは中級魔術クラスですが、その壁の穴から練兵場に向かって放たれたのは、まぎれも無く火属性の上級魔術クラスです。 敵もさぞかし驚いたでしょうね、何の前触れも無く上級魔術に匹敵する力を目の当たりにしたのですから」


 俺の質問に笑顔で答えるアリサ。

 その笑顔は文句無しに可愛いんだけどさ、その発言と籠もっている感情に軽く引くんだわ。

 いや、部外者である俺がどうこう言うのは間違っているのは分かるんだが、アリサの奴帝国相手だと本気で容赦無さ過ぎだろ、そこまでの感情を持つまでに、何があったのかを怖くて未だに聞き出せないし。

 にしても俺がイメージして出した格闘ゲームの技は、この世界じゃ偉人級のスゴ技だったらしい。

 それならアレを連発してやれば、もうそれだけで勝てたりしないかな?


「た、大変ですフラングル様! て、帝国の軍勢が、この砦に向かってきているとの報告が!」


「なんだと!?」


 俺がちょっとだけ甘い事を考えた次の瞬間、軽装な鎧に身を包んだ若い男がアリサに報告に来た。

 詳しく聞くと、どうやらこの砦にアリサがいて新たな拠点として戦力を集めようとしているので、脅威が大きくなる前に叩こうという腹らしい。

 うわー本当に来たよ、アリサに言わせれば各個撃破する帝国の木っ端兵、ってのが。

 しかも敵の数はおよそ2千とか聞こえたんだが…ん? ちょっと待てよ2千人!?

 こっちの40倍近い敵が、今この瞬間も迫ってきていると、そう言ったのか?


 思わず言葉を失って顔を引きつらせた俺の目の前で、アリサは「ふむ」と一つ頷いた。

 なんでお前そんなに落ち着いていられんの、こっちは未だに戦闘訓練も終わってない奴が大半だぞ。

 砦こそパッと見防衛戦が出来そうな感じではあるが、40倍は無理だろいくらなんでも。

 報告に来た男も「どどどど、どう、どうしましょう、フラングル様ぁ…」と、身体を震わせている。

 落ち着いているアリサも不気味だが、お前はお前で俺より年上っぽいんだから落ち着いてくれよ頼むから、こっちまで焦って来るだろうが。


「2千か……思ったよりも集めたものだな。 まあ良い、こちらには私とショウマ殿がいる! そこまでの数の差があれば、敵も油断して却ってやり易くなると言うものだ! 全員に防衛戦の準備に入らせろ! それと四方に斥候を放って、敵に新たな動きが無いかを逐一調べさせておけ、その斥候は近隣の村から志願した者たちにやらせよ、その方がこの辺りの地形に明るいからな!」


「は、はい!」


 全く言い淀んだりせずにテキパキとまぁ…すげえなつくづく。

 俺が感心してボーっと突っ立っていると、アリサは俺の方に身体ごと振りむいて、正面から俺の顔をまじまじと見てきた。

 辺りには誰もいない、二人だけの空間。

 女の方が男の顔をじっと見上げ、思い詰めた様な表情を浮かべている。

 少しだけドキドキしながら、俺はあえて見当外れな事を口走ってみる。


「な、なんだ? 俺の顔に何か?」


「………すまない、先程の言葉は強がりだ…」


「は?」


 俺の言葉に、アリサは目を伏せて拳を握り締めた。

 悔しそうに眉根を寄せて、奥歯を噛み締めている。


「あの様に言ってはみたものの、結局の所ショウマ殿が頼みだ。 いくら砦に籠って戦うとは言っても、40倍の敵では勝ち目など無い。 勝算があるとすればただ一つ、ショウマ殿の御力にすがるより他に手が無いのだ。 魔術も使えず、敗北を重ねて生き恥を晒すばかりの私では、王国の復興など成し遂げられはしないのだ……私に出来る事なら何でもしよう…ショウマ殿、どうか御力を御貸し――」


「ストップ、それ以上言わなくてもいい」


 アリサは眼に涙すら浮かべていた。

 そんなアリサに俺は片手を上げて言葉を遮った。

 アリサは多分、色々背負い過ぎてんだろうな。

 あくまで多分だが、コイツは根が真面目すぎて損をするタイプなんだと思う。

 で、そんなタイプが自分自身の力不足を痛感するような出来事があった後に、チート能力を持った奴が突然助けに現れたら、一体どう思うだろうか。


 『助かってラッキー』とか『有り難いねこの次もよろしく』とか、そういう軽めな感想を抱いたりせずに、自分自身の無力感ってのに苛まれていたんじゃないのか?

 だからみんなの前じゃ勇ましく堂々としているが、本当は相当無理していたんじゃないだろうか。

 じゃなかったら「私に出来る事なら」なんて、女がそう簡単に言うもんじゃねえ。

 俺がこの世界に飛ばされた時のあの状況、アリサは本当に間一髪だった。

 アリサの中では、恐らくあの一件が尾を引いてるんじゃないかと、俺は直感的にそう感じた。


 これが正解かは分からないが、とにかくアリサにこれ以上の負担をかけるのはまずい。

 他の奴らの様子を見ても、アリサはとにかくみんなから慕われている。

 いわば精神的支柱なのだ、コイツが折れる事は即敗北を意味するほど、皆にとっての拠り所になっているであろう事は、この数日間の内にイヤというほど実感した。

 こんな状況でも、恐らくみんなはアリサが強気な発言をする事で発奮して、たとえ数の差が圧倒的であろうとも、諦めずに戦う意思を持てるだろう。

 みんながアリサに寄りかかるのなら、アリサ自身にも寄りかかる相手が欲しいはずだ。


「俺は俺の目的のために帝国を倒す、お前が変に身体を張る必要はないんだぜ?」


「だが……私はせいぜい千にも満たない数で攻めて来ると思っていた…それが、まさか2千もの軍勢で押し寄せて来るとは思ってもみなかったのだ…戦力差は圧倒的、戦況は絶望的……本来であれば皆を逃がし、私が一人この砦に籠って時間稼ぎをするくらいしか…」


「やめろよそんな真似は。 ここ数日でお前がどれだけ皆から慕われてるか、それなりに見てきたつもりだ。 お前が残るっつったら他の奴らも残るに決まってるじゃねえか。 いいからお前は大将らしくドンと構えてろ、俺に良い案がある! 上手くいけば誰も死なずに済むかも知れねえ!」


 悔しそうに俯くアリサの両肩を掴んで、俺は必死に言い募った。

 自分でも後から考えて凄い大胆な真似をした物だと悶絶したが、この時の俺はそんな考えを持つ余裕は無かった。

 とにかく目の前で悔しそうにしている女に、これ以上悲壮な決意をさせたくなかった。

 出来る事が、力になれる事があるのに、見捨てるような真似をしたくなかった。

 だから俺は、勢いそのままにこんな事を言ってしまった。


「安心しろ、お前は俺が守ってやるさ!」


 ああそうだよ、言っちまったよ、こんな恥ずかしいセリフを!

 この世界に録音機能が付いた機械とかなくて良かったよ、動画撮影できる機械がなくて良かったよ、こんなもん録音や録画されていたら、即座に恥ずかしくて死にたくなるわ!

 俺が実は、空気や流れに乗せられ易い人間なんだって、この時心から思い知る羽目になったよ。

 だが男が一度口に出した以上、今更後には引けない、ましてやこれから戦争なのだ。

 やってやらぁ、こうなりゃ1対2000のリアル無双ゲーだ!

忙しくてなかなか更新出来ませんでしたがようやく更新出来ました。

お待たせしてしまい申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ