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第6話 「初陣・砦奪還」

                  第6話 「初陣・砦奪還」




「さて、そんじゃあまずはここを出るか…」


 そう言いながら、俺はあえてある方向から目を逸らした。

 理由は簡単だ、その方向には頭部を失った敵兵の遺体と、その失われた頭部が床に転がっている。

 とりあえず吐き気は抑えた、といってもまだそれを直視出来るだけの整理はつかない。

 マンガじゃあ人が死んだりする話なんざ散々読んだってのに、現実はこんなに衝撃的だったんだな。

 ふとアリサを見ると、彼女は倒れている兵士の一人の手を握り、何かを呟いていた。


 よく見るとその兵士だけ着ている鎧が違っていた。

 しかもアリサの口からは「すまない、お前の名は忘れない」という言葉が聞こえてくる。

 そうか、恐らくこいつはこの部屋の中にいる奴らの中で、唯一の味方だったんだろう。

 胸に剣でも突き立てられていたのか、そこから血を流して既に絶命しているようだった。

 またも吐き気が上がって来るが、俺はそれをなんとか押さえ付けながら言葉をかける。


「弔いは後にしてやれ、今は一刻も早くココを出た方が良いぜ」


「………そうだな、貴殿の言う通りだ」


 自分でも辛辣な言葉だと思う、少なくとも仲間の死を悼む女にかける言葉じゃないだろう。

 だがグズグズしていては、先程吹っ飛ばした兵よりもさらに多くの兵に囲まれる事になるだろう。

 いや、もう既に手遅れか。

 さっきの一撃で扉付近は大きな風穴となり、さらに向こうの壁まで大穴があいて、非常に風通しが良くなってしまっている。

 その風に乗って外や部屋の向こうの廊下などから、大勢の男の声が聞こえてくる。


「癪な話だが、やっぱり『神の祝福』(コイツ)に頼らざるを得ないよなぁ…」


 そう呟いて、俺は自分の右手を握り締める。

 あの神様とやらが言うには、この力は俺のイメージに合わせて発現するという。

 風の力が出やすいのは、最初にあの神様を「吹っ飛ばす」というイメージが俺の中にあり、それが実際に出たことで俺が最もイメージしやすいものだったからだろう。

 なら燃え盛る炎でもイメージすれば、手から炎でも出せたりするんだろうか。

 それこそ本当にマンガやアニメの世界だが、出来るかどうかを実戦でいきなり試すのは怖すぎる。


「神の御使者殿、折り入ってお頼み申し上げたき事が」


「あ、いや……その『カミノゴシシャ』ってのをまず止めてくれ。 俺はそんな偉そうなモンでもないし、普通に名前で…将馬、でいいや。 そう呼んでくれ」


「心得ました、ではショウマ殿。 ここは我が王国の中でも南側に位置する砦であり、元々は王国の物であった建物、故に内部構造のおおよそは見当が付きます。 私も微力ながら御力になります故、どうかこの砦の奪還にその御力を御貸し願いたい!」


 は? 今この女なんて言った?

 俺の聞き間違いじゃなけりゃ砦の奪還、とか言わなかったか。

 この状況で、おそらく俺とこのアリサという女の二人でこの砦を奪還すると、そう言ったのか。

 いやいやいやいや、いくらなんでもそれは無理だろう。

 相手が何人いるのかも分からない上に、俺はこの世界に来てまだほんの数分だぞ。


「御心配なく、御身は不肖ながらこの私めが守り抜いて見せましょう。 将馬殿の先程見せた御力でもって、この砦の守将を討ち取って頂ければ、辺りの雑兵など勝手に逃散致します!」


 ナニこの人怖い。

 美人なんだけど、美人なんだけどそんな顔立ちしている人が、俺を間近で見上げて来てちょっとドキッとしたんだけど。

 その眼が「敵は殺す!」と全力で主張するかのようなギラギラと殺る気満々な眼だったりすると、ドキッとする以上にビクッとする。

 「将を射んとするならば、まず馬を射よ」とか言う格言を蹴り飛ばして、いきなりこの砦を守ってる奴を倒せば、それだけでオールオッケーみたいな事言い始めた。

 俺が思わず言葉に詰まっていると、アリサは意外そうな顔をして首を傾げた。


「もしかして、ショウマ殿はさらなる良案をお持ちでしたか? でしたら是非御考えをお聞かせ願いたいのですが」


「いやそうじゃなくて、一旦落ち着こうぜ。 俺はそもそもここに来たばっかで、右も左も分からないんだよ、それがいきなり砦奪還作戦なんて言われてもだな」


「そう、でしたね……配慮が足らずに申し訳ありません…でしたら砦の奪還はあくまで可能であれば。 不可能ならば撤退を第一に考える、という事でよろしいでしょうか?」


「ああ、うん……そうしてもらえると助かる。 それに砦の内側からだと、下手に火でも放とうものなら下手すりゃ自分も焼け死んじまうしな」


 俺がそんな事を口走ったら、アリサはなんだか眼をキラキラさせながら俺を見てきた。

 なんだろうなー、俺この人の眼がキラキラしたりギラギラしたりすると、不安になってくるんだが。

 案の定、アリサは「そのような力までお持ちとは…」とか呟いてる。

 そんなやり取りをしていると、風通しが良くなった廊下から聞き覚えの無い男のだみ声が響いてきた。


「往生際の悪い女だな、アリサ・フラングルよ! 魔術師を味方に付けていたようだが、小娘の剣士一人と魔術師一人で、この砦から逃げられるとでも思っておるのか!? 無駄な抵抗を止めるなら命だけは助けてやるぞ!」


 そんな言葉が聞こえてきた瞬間、俺は瞬時に「嘘だな」と呟いた。

 こういうセリフって、本当に言葉通りに実行された所見た事無いんだが。

 どうせ「命は助ける」とか言っても、最終的には殺そうとするんだろうし、むしろこういう言葉を言っている事自体「生かして返す気は無い」って言ってるも同然じゃねえか。

 そんで大抵こういうセリフを言うような奴はロクな結末を迎えない、少なくとも俺が読んだマンガや見たアニメではそうだった。


「ショウマ殿、あの声はおそらくこの砦の守将であるバジュニー・トロドのもの。 どうやら探す手間が省けたようですぞ!」


 そしてこの物騒なセリフと、眼をギラつかせながらの笑顔である。

 さっきまでの味方の死を悼んでいた悲愴な空気はどこへやら?

 眼を爛々に輝かせて剣を構え、元は扉があった場所にそっと近づいて外を窺うアリサ。

 現代日本に住んでいた一高校生には、冗談抜きに状況がヘビィ過ぎなんですけど。

 だがアリサは完全にヤる気だ、『ヤ』の字が『殺す』という意味のヤる気だ、もう頭の中は外にいるナントカって奴を殺して、砦を奪還する事しか頭に無さそう。


 うん、まあ俺も現代日本に生きていた一高校生ながら『テメエぶっ殺してやる!』みたいなこと言われた事あるけどね。

 本当の意味の『殺す』というのとは訳が違うと思う。

 周りの気配を探りながら、アリサは物音一つ立てずに扉のすぐ近くで片膝を付き、剣を構えて敵の動きに備えている。

 その様は殺し合いに関しては素人の俺でも、様になっていると分かるほど洗練された動きだ。

 俺と同じくらいの歳で、どんだけ鍛えてたんだコイツは。


 状況は完全に俺を、俺の意思を置き去りにしたまま進んでいく。

 おそらく数秒後かそこらで、この部屋近辺は一気に修羅場と化すだろう。

 外からの明かり取り兼空気の入れ替え用に開けられていた、と思われる穴から外を覗いて、ここからこっそり逃げられないものかと思ったら。

 外には既に十数人が弓を構えてこちらを狙っていた。

 俺は慌ててその場から離れてアリサの側へと近づく。


 外の光景を見た限り、どうやらここは建物の二階に相当する位置らしい。

 穴の大きさはあまり大きくは無いが、俺とアリサならなんとか抜けられそうな大きさだ。

 だが抜けた先には弓兵がズラリと並び、さっき俺が無造作に顔を出していたら一挙に矢が飛んできていただろう。

 こっそり覗くくらいだったため向こうも矢を射かけてくることはなかったが、これでココから逃げるという選択肢は無くなった。

 退路が無いとなれば、やっぱり廊下側から強行突破しか無い訳か。


「しゃーない、覚悟決めるか………アリサ、ちょっといいか?」


 口の中だけで呟いてから、アリサのすぐ近くで俺は頭に浮かんだ作戦を伝えた。

 アリサは一通り聞いてから軽く頷き、自分がいた場所を俺に譲った。

 先程は下手に火でも放ったら、とは思ったが。

 逆に言えば、上手く使えば効果的な攻撃方法なはずなんだよな。


「では、タイミングはお任せします。 いつでもどうぞ」


 そう言ってアリサは俺のすぐ後ろで剣を構える。

 これで万事上手くいけばこんな状況でも充分なんとかなるはず、だが下手を打てば一気にそこでバッドエンドだ。

 まあ、この場合何がグッドエンドとかトゥルーエンドとかに当たるのか分からないが、俺が天涯孤独の異世界で死ぬことは、俺の人生において間違いなくバッドエンドだろう。

 とにかくイメージだ、燃え盛る炎のイメージ……マンガやアニメ、ゲームで見た掌から炎が迸るあのイメージを再現する。

 頭の中で描いた想像を、俺の両手から放たれるイメージを固めて、俺は廊下へと飛び出しながら同時にその両手を廊下の左右に向かって伸ばした。


「ゲッマイレイッッ!!」


 某名作格闘ゲームシリーズの吸血鬼、そいつの必殺技を再現するのが一番イメージしやすかった。

 しかも必殺技ゲージを消費する、多段ヒットして炎も悪魔っぽい姿で飛んでいく奴だ。

 このシリーズ、三作目になったらこの技がコウモリ飛ばす奴になってて、仕様が変更されてたんだよな。

 個人的には今やったような、二作目までの演出の方が好きだったんだが。

 これで上手く炎が出なかったら俺は色々な意味で死ぬ、敵の反撃を一身に浴びるのと恥ずかしさで。


 だが俺の不安とは裏腹に、俺の両手からは本当にとんでもない勢いの炎が迸り、廊下の左右の壁も床も天井も、そして槍やら剣やらを構えた兵士たちも、全てまとめて呑み込んでいった。

 しかも廊下の両側ですごい勢いで炎が巻き起こっているというのに、俺の方には火の粉すら飛んでこない。

 やっぱりそうか、先程の風の時にも思ったが、俺が授けられた力というのは自滅防止のための安全装置らしきものが働いているらしい。

 おかげで今出した、まるで火炎放射のような勢いの炎でも、風の時と同じような風が僅かに、少し暖かめかと思うような風が感じられるくらいだ。

 火が収まるなり俺が素早く左右に視線を向けると、先程の火で身体中を火だるまにした兵士が、他の兵士に助けを求めてしがみ付き、まだ無事だった奴まで一緒に燃え始めるという二次被害まで起きていた。


 自分でやった事なんだけど、正直スイマセンでした。

 もうさ、地獄絵図という言葉しか浮かばない。

 先頭にいた奴なんか完全に死んだと思わせるレベルで黒焦げ、後ろの方にいる奴らも大部分が何らかの被害を受けたらしく、ほとんど恐慌状態に陥っている。

 わずかに残った無傷の奴も、他の兵士の救護に当たったり、悲鳴をあげて逃げ出すなどこちらに戦意を向けられる奴はいそうにない。

 風通しがよくなってて本当に良かった、外から絶え間なく吹き込んでくる風のおかげで、人が焦げる臭いとかを直で嗅ぐ事にならなくて本当に良かった。


 いや、焼き肉とかは普通に好きなんだが、人が焼ける臭いって少し漂ってくるだけでも精神的にかなりキツイ。

 必死に自分自身を奮い立たせて、奥歯を噛み締めてないとまたも吐いてしまいそうだ。

 先程既に胃の中を空っぽにしたってのに、変わらず吐き気は込み上げてくる。

 この世界は現在戦争中ってことは、こういうのも嫌でも慣れる必要が出て来るんだろうな。

 つくづく俺は平和な国の平和な時代に生まれ育ったのだと、苦しいくらいに実感させられる。


「お見事です、後はお任せを!」


 俺が思わず顔を引きつらせていると、その脇をすり抜ける様にしてアリサが飛び出した。

 足音一つ聞こえたと思ったら、もう右側の敵の真っ只中へと突っ込んでいる。

 そして次々に剣を閃かせ、その度に敵兵を一人、また一人と屠っている。

 凄惨な光景だ、敵とはいえアリサは一切の容赦なく敵を殺していく。

 だがそんな動きも、無駄の無い流麗な動きで行われていると、どこか見惚れてしまう美しさもあった。


 炎をまともに浴びてロクに抵抗も出来ない者、他の兵士たちに気を取られ、アリサの接近に気付かなかった者、アリサに気付いたものの、ロクに抵抗も出来ずに斬り捨てられる者。

 右側はアリサ一人いれば片が付くだろう、さて反対側は。

 左側に視線を向けると、こちらも右側と同じような状況だったが、一つ違うのはこっちにこの砦の守将とやらがいたらしく、その守将らしきオッサンを周りの人間が必死に抱え上げていた。

 着ている鎧が明らかに他の兵士たちより豪勢で、身体を覆っている面積が多かったためか、先程の炎でも致命的なダメージまでは負っていないようだ。


「なぁ、そこのオッサン?」


「ひぃッ!?」


 俺が声をかけると、そのオッサンはだみ声で悲鳴を上げた。

 分かり易いくらいに中年太りをしたオッサンが、恐怖に顔を引きつらせながら俺を見ている。

 髪も髭も一部焦げてチリチリになってるし、鎧で覆われていない部分は少し火が燻っている。

 それだけの炎を放った俺が声をかけたら、そのビビり様も理解出来るか。


「俺は好きで戦ってる訳じゃねえんだ、この砦明け渡して降参してくれないか?」


「へ? な……何を言うかと思えば、そのような戯言! 受け入れられるものか、貴様ら行けぃッ!」


 俺が言った言葉に、オッサンは最初こそ戸惑ったような表情を浮かべたが、すぐに俺を睨み付けて配下に命令を下した。

 だが先程の炎の衝撃がまだ残っていたのか、無事だった兵士たちが剣や盾を構えるも、俺との距離を詰めて来ようとはしない。

 明らかに逃げ腰のままで、命令で渋々従っているのが丸わかりだ。

 傍から見ている俺でさえそうなのだから、その指揮官のオッサンには余計に筒抜けだろう。


「何をしておるッ!? 行け、行けぃッ! 奴を討ち取りアリサ・フラングルを捕らえよッ!」


 オッサンが怒鳴り散らしてはいるものの、やはり兵士たちはおっかなびっくりでジリジリとしか近付いてこない。

 オッサンはオッサンで身体をなんとか起こしつつ、後方へ下がろうとしている。


「…もう一発、今度はこっちに集中してぶっ放すぜ? 死にたくなきゃ今すぐ逃げな」


 そう言って俺は両手の掌を前に向け、横に向かって腕を伸ばす。

 さらに胸を張って相対的に腕が後ろに下がり、前方に向かって何かをする前の予備動作のように見せた。

 完全にハッタリなんだが、なんというか……効果テキメンだった。

 まさに「脱兎のごとく」という言葉が似合うレベルで兵士たちは一斉に逃げ出した。

 指揮官であるはずのオッサンすら見捨てて、剣や盾すら放り捨てて逃げる者もいた。


「お、おい! 待て、待てえッ! 戦え、戦わんかぁッ! それでも貴様ら帝国の兵士かぁッ! 死を恐れずに戦わん者は死刑じゃぁぁッ!!」


 オッサンが必死に呼び止めるが、誰一人として後ろを振り返ったり、オッサンを担いで逃げようとする者すらいない、というかオッサン、それだとどう転んでも死んじゃうじゃん。

 自分でやっておいてなんだが、つくづくスゴイ事やらかしちまったな、俺は。

 そうしてオッサンの声に応える者がいなくなった廊下で、俺とオッサンは二人だけになった。

 いや、正確に言えばもう一人いた。

 俺の後ろから足音を響かせ、アリサが近付いてくる。


「あちらは終わりました。 そしてさらにお見事! この砦の守将、バジュニー・トロドも生け捕りになさるとは感服の至り。 まさに神の御使いの名に恥じぬ御活躍に存じます」


 堅苦しい言葉の中にも、嬉しそうな声音が混じっている。

 だがその言葉を発したアリサの姿を見て、俺は実際に一歩後ろに下がるほどドン引きした。

 だってこの人全身血塗れだったんだよ。

 腕やら足やら腹やら、さらには顔にも少し血の痕があるんだが、もしかしてそれ全部返り血?

 でも歩いてくる姿は全く淀みないから、アリサ自身は多分無傷なんだろう。


 敵の返り血で全身を朱く染めて、敵将を生け捕りにした事に喜びながら歩いてくる金髪美人の女剣士。

 無いわー、少なくともここで萌える程、俺は特殊な趣味は持ってないわー。

 美人でスタイルの良い女剣士、ってだけなら良かったんだがなぁ。

 返り血を全く苦にせず、折れたか刃こぼれでもしたのか、先程とは違う剣を持ち、さらにその剣も敵兵の血で真っ赤になっている状態で、コツコツという音を立てて近付いて来る。

 萌えるとかの次元じゃねえ、これはもうホラーだ!


 ちなみにこの砦の守将とかいうオッサンも、近付いてくるアリサの姿に俺以上にビビったのか、震えながらアワアワ言ってるだけの状態になっている。

 気持ちは分かる、味方のはずの俺だって軽くチビリそうだった。

 それが敵意むき出し殺意満面の状態で来たのなら、そうなってもおかしくない。

 俺に向かって敬礼みたいな真似をした後、アリサはオッサンに剣を突き付けながら言い放つ。


「本来ならば今すぐ首を刎ねてやる所だが、貴様にはまだ使い道がある。 知っている事を洗いざらい吐き、こちらに協力的な態度を取るのなら、命ばかりは助けてやろう」


 この「命だけは助ける」ってのは、この世界では必ず言わなきゃいけないのか?

 剣先が喉に刺さりそうになってる状態で言われても、「命を助ける」部分にあんまり説得力無いように感じるのは俺だけか?


「……ふ……ふふふふはははははははははッ! わしを殺したところで貴様の命運は変わらぬぞ、アリサ・フラングルよ! 王国は滅びたのだ! 貴様の母国は既にこの世には無い! 王国の中枢にいた者達も、既に何名かは我が帝国の軍門に下っておる! 貴様こそ今すぐ帝国に忠誠を誓うというのなら、命だけは助かるように取り計らってやっても良いのだぞ!?」


 いや、だからなんでお前ら「命だけは助けてやる」って言葉を使うの?

 にしてもこのオッサン、怯えてたかと思ったら結構胆が据わってんな、強がりが大半とはいえ血塗れの剣を突き付けられながら、あそこまで吠えられるんだからすごい。

 まあ、軽くコゲ付いた顔を脂汗でびっしょりにしてる時点で、威厳とかは全く無いけどな。

 だがアリサはオッサンの言葉を聞いて、その眼を冷たくしながらさらに問いかけた。


「王国の者で、貴様ら帝国に寝返った者がいる、か……それは誰だ?」


「ふ、ふふふふ……知りたいか? 教えて欲しくば」


 オッサンがそこまで言った所で、アリサは剣を閃かせた。

 次の瞬間にはオッサンの右耳が切り飛ばされて、そこから一気に血が噴き出した。


「ぎゃあぁぁぁぁぁッ!!」


「敵兵を斬りすぎて疲れていてな、手が滑ってしまった。 あまり時間をかけたくないから早く喋って欲しいものだ。 でないと次はどこを切り裂いてしまうか…?」


「ひぃっ、ひぃっ……だ、大臣のゴート・デスモントだ! 奴は王都陥落前から既に我らと通じておったのだ! そ、それに貴族や騎士の何名かも王都陥落後には我らに降伏して、帝国に忠誠を誓った!」


 スイマセン、トイレどこでしょう、冗談抜きにチビリそうです。

 アリサの奴、本気で容赦が無い。

 先程と変わらず、アリサの持つ剣先がオッサンの喉元に突き付けられているんだが、先程までのオッサンの強がりが今では全く見る影もない。

 オッサンは右耳があった場所を両手で押さえ、奥歯を噛み締めて痛みを堪えている様だが、アリサは全く容赦なく次々と質問を重ねていく。

 俺はその光景を直視出来ずに、廊下の反対側を警戒する振りをして、視線を外した。


 後ろからはアリスの冷徹な声音の質問と、痛みと恐怖を堪えながら答えていくオッサンの声が聞こえてくる。

 現在進行形で、拷問一歩手前のリアル尋問中です、耳塞ぎてぇー。

 とりあえず気を紛らわすために、最初に俺が開けた大穴からそっと外を覗いてみると、そこは砦の内側の広場になっていた。

 多分練兵場とか言われる場所なんだろうが、周りを見回してみるとこの建物はどうやら『口』の字の建物のようだ。

 で、内側の空いた空間が広場のようだが、そこから兵士たちの様々な声が風に乗って聞こえてくるが、大半は混乱したままで撤収しようという意見が多そうだ。


 だが中には「たかだか二人だ、囲んでしまえば」とか聞こえてくる。

 うーん、このままじゃまずいな。

 出来りゃあ今すぐこの場で連戦とか避けたいんだが。

 正直これ以上人が死ぬ様を見たくない、ってのが本音だ、ホントもう精神的にキツイんだって。

 広場には慌てている兵士たちが何名か見える、そんならあえて人がいない場所を狙って。


「いっけぇッ!!」


 イメージは先程の某名作格闘ゲームシリーズの、狼男が出す必殺技だ。

 炎の竜2体が、絡まりながら一直線に飛んでいくという、ちょっとカッコ良く見える俺のお気に入りの技だ。

 見た目の割に威力が低めに感じるのが難点だが、なんとなくハッタリかますにはこれが一番な気がしたのでぶっ放してみた。

 2階の大穴部分から、突如として放たれた炎の竜は広場を突っ切って、反対側の建物一階部分付近の地面に着弾し、辺りに轟音と炎を撒き散らした。

 すると周りの兵士たちは一様に驚き、パニくって一目散に逃げようとする始末、やっぱりハッタリって重要だな。


 そして俺の突然の行動に、アリサもオッサンも俺を見て言葉を失っている。

 いや、確かに予告無しで派手な事して悪かった。


「混乱を立て直す隙すら与えずに追撃を行うとは、見事な戦術眼です。 これで分かったろう、バジュニー・トロドよ。 この方は神が王国のために遣わして下さった神の御使い様だ。 この方の助力を得て、私は王国を取り戻す。 命が惜しくば、無駄な抵抗は止めておけ」


 あ、そう取りますか。

 そしてすぐにオッサンに向き直ったアリサは、またも冷徹な声音でオッサンに脅しをかける。

 オッサンの方もチラリと俺を見て、アリサに目を向け直した後で、重々しく頷いた。

 これを境に、俺とアリサの王国奪還のための戦いは幕を開けた。

 出来るだけ早く、そして無事にこの戦いが終わる事を神に祈りかけて、そういえば神ってアレだったと思い直し、とりあえず他にそれらしい存在も思い付かなかったので死んだ親父に願う俺であったとさ。


 そして結局、耐え切れなくなった俺はもう一回人目が無い場所で、胃の中の物を吐き出す事になった。

 この砦奪還戦を初陣とした俺は、実際には3回力を振るい、2回ゲロ吐いただけなんだが、アリサは俺を『神の御使い』と称して旗頭とし、大規模な反攻作戦に打って出れると息巻いていた。

 俺がこの世界の凄惨な環境に慣れるのが先か、それとも精神的に限界が来るのが先か。

 俺のハッピーエンドとかグッドエンドって、どこにあるんだろうか。

 神の御使い(俺)という希望を見出して意気揚々とするアリサとは対照的に、陰鬱な気持ちが心に重く圧し掛かっていく俺であった。

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