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第2話 「国勝将馬」

前話に比べてガラッと毛色が変わった話になりますが、投稿を間違えたとかではありません。

基本主人公の主観で話が進んでいきますので、前話の場合は主人公がいない状態で話を進めたため、ああいった書き方になりました。

                第2話 「国勝将馬」




 俺の名前は国勝将馬(くにかちしょうま)、高校3年の受験生。

 何の変哲もない、だからこそ俺みたいなパッと見ヤンキーは目立ってしょうがない、そんな普通科公立高校に通う男子高校生。

 所属部活無し、身長は少し高め、体重は少なくとも軽くはない。

 運動神経は結構良い、というか小さい頃から習っていた各種格闘技のおかげか、校内でも指折りの運動神経の良さだと自負している。

 そして俺を特徴付けているのは、生まれついての目付きの悪さと髪の色素の薄さ、嫌な話だがコレのせいで俺の高校生活は台無しになってしまった。


 偏差値的にも普通、と言って差し支えの無い普通科高校の登校初日、晴れて今日から高校生という入学式の日に、俺はいきなり同じ学校の生徒に絡まれた。

 絡んで来たのは2年生の先輩方。

 生まれつきの髪の色素の薄さで、染めてもいない天然の茶髪が生意気だと言いがかりを付けられた。

 いくら生まれつきだと主張しても、いわゆる高校デビューだと勘違いした先輩方は、入学式を行う体育館ではなく、校舎裏へと俺を案内、いやあれはもう連行だったな。

 なるべく穏便に済ませようとした俺が連れて来られたのは、明らかに一般生徒が近寄らない空気が充満した、薄暗い校内の一角。


 なんでこんな設計にした、と誰とも知れない学校の校舎を設計した人に心の中で文句を言いたくなるくらい、その場所は見事にほとんどの方向から死角となっていた。

 学校の横を走る歩道や、校舎の窓から見える部分など、ほぼ全ての場所から死角となる恐ろしい程の不良御用達ゾーン。

 こんな場所を作ったら、絶対不良の溜まり場になると誰かツッコまなかったのか、と今からでも教師陣に問い詰めたくなるような場所に俺は連れて行かれた。

 そこで生意気な新入生をシメる、という目的を『校内の上下関係を指導する』という名目で行おうとしている、3年生の先輩方とも対面した。

 正確に言えば、一番奥の真ん中でふんぞり返っている人だけ高校4年生らしいのだが。


 まあこれは後で知った話だし、この時には、ましてやこの状況には全く関係が無い。

 俺より先に新入生が2人ほど捕まっていたらしく、端っこの方で正座をさせられて、3人ほどの先輩方から囲まれ小突かれていた。

 右の奴は両耳に10を超えるピアスを付けている奴、左は前髪に金髪のメッシュを入れていた。

 なるほど、確かに見た目からしてそれっぽい格好だ。

 いやちょっと待て、俺コイツ等と同類に思われてたって事か。


 このままだと今のコイツ等の姿が俺の数分後の未来じゃないですか、やだー!

 出来れば俺は何事も無く過ごしたかったのに、そうはさせてくれないのが高校という場所らしい。

 そっと周りを確認すると、誰が2年で誰が3年かまでは分からないが、合わせて10人以上いる。

 パッと見金属バットとか持ってる様子はないが、ポケットの中にナイフでも入っていた日にはさすがにヤバい。

 とりあえず俺には逆らう気は無い、という事を分かってもらおう。


 そう考えていた時が、俺にもありました。

 なんだか奥の真ん中にいる男がボソボソ言ったかと思えば、俺のすぐ右にいた奴から急に拳が飛んでくるんだもの、そりゃあ避けるさ。

 でも避けたら避けたで、今度は「避けるな」だの「生意気だ」と言って来ていきなり3人がかり。

 さすがにこれは避け切れない、しかも人数的にも正当防衛は成り立つはず。

 とりあえず最初の一発を俺に避けられた奴と、反対側の奴からの拳は両腕でブロック。


 さらに正面から向かって来た奴には前蹴りでダメージを与えつつ距離を取る。

 こっちは少し下がって視界が広がった。

 と思ったら後ろには2人もいて、しかも拳を振り上げて向かってくる。

 こうなったらやるしかないか、と覚悟を決めた俺はそいつらの片方にカウンターを決め、さらにもう一人は裏拳で怯ませてから横蹴りで腹を打つ。

 これで退路は確保、あとはすんなり帰らせてくれれば。


 そう思ってふり返ってみると、ほとんどの奴が驚いてビビっている。

 ここは一つドスの利いた声で「入学式があるんで行かせて下さいよ」と言ってみよう。

 そして実際に言ってみた。

 すると奥にいたボソボソ声の先輩が、またなんかボソボソ言って、いきなり学ランを脱ぎ始めた。

 そう、俺が入った高校は由緒正しい、かどうかは知らないが昔ながらの学ランだ。


 まあさすがに学帽までは無いし、ましてや番長がちょっとボロボロになった学帽を少し斜に構えて被っている、という古式ゆかしいスタイルでもない。

 とにかく学ランを脱いだそのボソボソ先輩は、腹にサラシを巻いただけの上半身を晒し、それはもう見事な細マッチョだった。

 そんでそのボソボソ先輩の脇にいた別の先輩が「光栄に思えよ、細谷先輩直々のタイマンの御指名だ」とか、ニヤついた顔で言ってきた。

 へー、あの人細谷っていうのか、身体も細けりゃ名前も声も細いな。

 多分さっきのボソボソは「やるじゃねえか、俺とタイマンだ」くらいの事を言ったのだろう。


 やだなぁ、さっきから冗談めかしてはいたけど、この人多分ガチで強い。

 目付きや身体付きとかだけじゃない、漂わせている雰囲気や歩き方を見ても分かる。

 格闘技経験とかが皆無の、ただ拳を振り回せばいいとか思ってる奴らとは違う、何かしらの経験を積んだ人間独特の足運び。

 これが弱そうな奴なら「学ラン脱いでヤラないか、とかどこの……」とかツッコみたかったのに。

 一歩一歩、ボソボソ細谷先輩が近付いて来るにつれ、俺の周りにいた他の先輩が離れていく。


「一年にしちゃいい度胸と腕だ、お前に一年の仕切りを任せても良いぜ」


 あ、やっとこの人が何を言ってるのか聞き取れた。

 というか認められたっぽいが、そういうのイイから早く入学式行かせてほしい。

 とりあえず一歩後ろに下がる、出来れば逃げ出せるだけの距離を稼いでおきたい。

 すると細谷先輩はまたもボソボソ声で話しかけてきた。


「逃げンのは無しだ。 俺とのタイマンを済ませりゃ、負けてもテメェには手ェ出させねえよ」


 言うなり凄味のある笑顔を向けてきた。

 アンタ本当に高校生か、髪型も普通なのになんか下手なチンピラより怖いって。

 あー、もうこれは本当にやるしかなさそうだ。

 覚悟を決めて俺は両腕で構え、両足を肩幅に開いて腰を落とす。

 俺が初めて構えた事で、細谷先輩はまた笑い、他の先輩は一層目付きが険しくなる。


「肚ァくくったな、行くぜ!」


 そう言って正面から突っ込んでくる。

 あー、この人怖いけどある意味で男らしいなぁ。

 とりあえず右の拳を握り締めて振りかぶって来るんで、こっちもそのカウンターを繰り出そうとすると、突然左の足が跳ね上がってきた。

 分かり易い右ストレートの大降りはフェイントか。

 でもさすがに分かり易すぎてこれは一歩下がって回避。


 フェイントを入れた蹴りを躱されて体勢が崩れるかと思えば、細谷先輩は右足で地を蹴って飛び後ろ回し蹴りを放ってくる。

 すげえバランス感覚、とか感心してる場合じゃない。

 完全に俺の側頭部を狙って放って来るから、こっちはしゃがみながら軸足になってる左足を払う。

 さすがに軸足を攻撃されて細谷先輩の身体がグラつく。

 そこへすかさず距離を詰めた俺は、両拳で連打を入れる。


 細谷先輩はしっかりガードして、大したダメージにならない。

 この人攻防共に隙が無いなぁ、さすがに番長って奴か。

 とか思ってたらフック気味に左拳が飛んで来るんで、また距離を取る。

 どうしよう、多分そろそろ入学式始まってるよな。

 そう思って俺が体育館の方をチラリと見ると、


「あんなモン退屈なだけだ、こっちに集中しな。 3年前の時なんざ、俺はずっと寝てたぜ」


「え、3年前? 3年生だったら2年前じゃ……もしかして先輩って…」


 不意打ちを仕掛けてくる訳でもない、男らしいタイマンを望んできた細谷先輩が、その時初めて怒りに顔を染めた。

 他の先輩は「あのバカ!」とか「殺されんぞ」とか騒ぎ始めた。

 あ、これはもしかして逆鱗、って奴か。

 うわしくじった、さっきまで怖いとはいえ笑顔すら浮かべてた細谷先輩が、完全にお怒りモードな顔してる。

 しかしそんな時に救いの神は現れた、と俺はその時思いました。


「お前らぁ! そこで何をしとる!?」


 ダミ声でそう言ってきたのは、片手に竹刀を持った中年太りの男性教師。

 入学式だからなのか、それとも普段からそうなのかは知らないが、スーツ姿の上下に竹刀って恐ろしく似合ってないな。

 いや、その前に今時竹刀持って校内歩き回る教師って本当に居るのか。

 そんな事を思っていると、細谷先輩以外の先輩方が途端に慌て始めた。

 やれ「やべえ指導の青木だ!」とか「逃げろ、早く行け!」とか言いながら、僅かな隙間から抜け道を通るように次々と逃げ出していく。


 すごいな、本当に不良御用達空間かよココ。

 結局その場に残されたのは俺と細谷先輩、そして正座させられていた俺と同学年っぽい2人。

 「指導の青木」と言われた竹刀の教師は、ズンズンと俺と細谷先輩の方に向かって歩いてくると、何も言わずにいきなり竹刀の先で俺・細谷先輩の順に腹を突いてきた。


「いって!」


 思わず声を上げた俺と、まるで慣れているかのように大した反応を見せない細谷先輩。

 そのまま何も言わずに、それこそ一瞥すらせずにそのまま「指導の青木」は正座させられていた2人の所へ行き、立たせてから何やら言っている。

 かすかに聞こえる言葉と、2人がしきりに頷いている所を見ると「目立つような格好をすると目を付けられるから、明日からは普通の格好で来い」とか言われてるっぽかった。

 俺は普通の格好をしてるんだが、目を付けられてここにいるんですけどね。

 しかも無言のままにいきなり竹刀で突きを食らい、さらに放置プレイとか、俺のこの人の第一印象はとにかく最悪だった。


 で、結局2人は解放されて遅れながらも入学式へ。

 俺とボソ谷、じゃなくて細谷先輩はそのまま生徒指導室へ連行という有様だった。

 どうやら細谷先輩の場合この部屋の常連らしくて堂々と入っていったが、俺にしてみれば高校入学初日で自分の教室よりも先に生徒指導室に入るという、黒歴史確定な現実が襲いかかって来た。

 しかも細谷先輩へのお説教は「またお前か」という扱いですぐに終わり、代わりに俺はひたすらガミガミと散々絞られた。

 ご丁寧に弁解しようとするなり竹刀でぶっ叩かれるという、昭和の熱血教師真っ青な指導ぶりに、痛いとかムカつくよりも先に驚きが勝ってしまった。


「いいか、わしがいる限りこの高校に貴様らの様なクズをのさばらせてはおかん、覚悟しておけよ?」


 本人は凄んでいるつもりだろうが、背も俺より低いし下から睨み付けて来てもあんまり怖くない。

 正直迫力という点では先程の細谷先輩の方が上手だ。

 しかも入学初日からクズ扱いの上、このセリフも実は3度目だ。

 生徒指導室の壁にかかっている時計を見ると、恐らく入学式もそろそろ終わるだろう。

 俺は別にそういうつもりは無かったのに、これで完全に「入学式をボイコットして、不良の先輩と一戦やらかしたワル」の噂が立つだろうなぁ。


「いいか、退学になりたくなかったら精々大人しくしておくことだ。 高校くらいは出ておかんと、長い人生で苦労と後悔の連続だぞぉ」


 言っている事は多分本当なんだろうけど、なんだろうなぁこの感じ。

 この人絶対サドだ、間違いない、しかもドSと言っていいレベル。

 言い回しが人生の先達として言い聞かせるような物じゃなく、せせら笑って笑顔で脅すような感じ。

 うわー、腹立つわー、この人絶対嫁さん来ないわー。

 入学初日の新入生にここまでやるか、というか最初にガツンとやっておこう、なんだろうな。


 などとどこか他人事のように考えられたのはここまでだった。

 後で知った事だが、この青木という教師は一昨年までは違う学校におり、その学校で数多の不良生徒を相手に「指導」をしまくったらしい。

 結果として不良生徒の多くから恐れられ、校内の風紀は改善されたという功績を持つ人物だという事。

 そして去年、この学校に赴任してきてからも先程のボソ谷じゃなくて細谷先輩を始め、多くの不良生徒とやりあった結果、一定の成果を上げたらしい。

 つまりこういう風に竹刀で脅し、時には竹刀で一撃食らわして言う事を聞かせる、二十一世紀では絶滅危惧種に指定されるような指導方法が最も効果的、と考えるような人間だったようだ。


 まあヤンチャしがちな、本当の不良生徒相手ならそういうのも効果的なのかもしれないが。

 今回の場合俺は「冤罪」を主張したくてしょうがないんだが、この人物は全く聞く耳を持たない。

 むしろここぞとばかりに自分の怖さを教え込み、言い訳などさせないよう「指導」したいようだ。

 そしてこの後にこの青木という教師が言った言葉に、俺は我を忘れた行動を取ってしまった。


「まったく、貴様のような入学式よりも喧嘩を優先するようなクズを産んで、親はさぞかし泣いているだろうな……いや、もしかしてお前がクズなのは親もクズだからか、んん?」


 白状する、俺はこの時この教師に対して間違いなく殺意を抱きました、親は関係ねえだろ親は!

 ああ、今となっては2年前の話だ、いっそ笑い話にしてやるさ。

 我を忘れた俺の渾身の一撃は、生活指導主任・青木周五朗の顔面を見事に捉え、鼻の骨と歯を二本折った上にムチウチまで引き起こすという、立派に傷害事件クラスの威力を発揮してしまったのである。

 さらに壁に後頭部を打ちつけて、タンコブまで作るというオマケ付きだった。

 この瞬間から、俺の高校生活はワルな方面一直線となった。


 入学初日に校内暴力、教師に大怪我を負わせたとして停学2週間、当然親まで学校に呼び出されていきなり一躍時の人である。

 校長・教頭・学年主任・その他の先生方の前でひたすら頭を下げて、入学式とホームルームだけを終えて帰っていく他の生徒達よりも、ずっと長く学校に居続ける羽目になった。

 俺の高校生活・青春時代は、いきなりオワコン状態だ。

 そして2週間家で自宅学習、という名の軽い軟禁状態。

 今月の小遣いも抜きと言われ、まさに泣きっ面に蜂だった。


 おかげで毎週読んでいる週刊誌も買いに行けず、当然マンガの新刊も買いに行けない。

 この時ほど日本はどれだけ通販が発達しているか、を実感したことはない。

 送料無料で自宅配送してくれる通販会社には、心から感謝を捧げたほどだ。

 なにせ自宅学習と言っても、四六時中教科書を開いている訳でもないから、どうしても時間も余る。

 そうなるとやはり読み続けているマンガの続きとかも気になるし、後は部屋でできる筋トレぐらいしかやる事が無いのだ。


 そうした日々を過ごした後の停学明けの初日、世間はGWも近いという時期で、早くも仲良くなった奴らはどこかに遊びに行こうという予定を立て始めている。

 そんな中で俺は初めて自分のクラスの、1年2組の教室に入る。

 ハイ予想してました、見事に大正解、俺の姿を見るなり一気にシーン、ですよ。

 しかもそれまでの楽しそうな話し声から一転「アイツが…」、「怖ぇ、超怖ぇ」、「目に付いた奴片っ端から殴るって3組の後藤が…」とか言い始めている。

 とりあえず変な噂流したのは3組の後藤な、名前覚えたぞ。


 で、ホームルームの時間まで話しかけてくる奴は皆無、まあ当然か。

 しかも俺の隣の席の奴なんて、ビビッて自分の席に戻って来やしない。

 担任の教師が入ってきて、そこでようやく地雷原に踏み込むかのような顔をして、そっと自分の席に座るという行動に、自分がいかに腫れ物扱いかを思い知らされる。

 極力こちらに刺激を与えないように、細心の注意を払いながら机とイスを遠ざけ、俺と距離を取ろうとしているあたりが涙を誘う、主に俺の。

 そしてまた担任教師が、完全に俺にビビりながら話かけるもんだから、火に油を注ぐかのように恐怖が広がっていく。


「え、えぇと…国勝(クニカチ)君、だったね……そ、その…停学も明けたことだし、ね……これからは楽しく仲良く学校に来ようね…?」


 最初からそのつもりだったんだよ。

 言われなくても今頃は仲良くなった奴らと、どこかに遊びに行く話でもしたかったんだよ。

 そんな狂犬を見るような眼で俺を見ながら、おっかなびっくりで話しかけてくれるな頼むから。

 イカン、せめて自分のクラスの中だけでも誤解を解かねば、1年間もこんな空気の中で過ごすのは本気で勘弁だ。

 そう俺は心に決めて、周りを刺激しないようにゆっくりと立ち上がると、それでもクラス中の奴らがビクついて俺の周りの席の奴が、ガタガタガリガリと音を立てて机とイスごと距離を取る。


 泣くぞ、ホントに泣くぞ、そろそろさぁ。

 とりあえず入学式の時の一件は誤解だと、ここでしっかり明言しておこう。

 信じてくれるかどうかは分からないけど、言わなきゃ始まらないしな。

 意を決して俺は口を開いた。


「えーと皆、実は俺は」


「クニカチって奴ぁどいつだぁッ! 細谷さんが呼んでんだ、手ェ挙げろやぁ!」


 もうヤダこの学校の不良、本当にタイミングが悪すぎる。

 ホラ見ろ俺が言葉を繋げるタイミングが完全に奪われて、皆の眼が教室の入口に一旦向いた後、今度は一気に俺の方を見てくるじゃんか。

 俺は引きつった顔で担任教師の顔を見ると、事もあろうに担任教師は出席簿を顔の前に持ってきて、完全に黙秘権発動状態だ。

 1年のクラスのホームルームに、2年の不良が怒鳴り込んできてんだから止めろよぉ。

 しかも先輩方の視線は完全に俺にロックオン、ヤバい狙い撃たれる。


「国勝君なら帰りました」


「ウソこいてんじゃねえ! テメェだろうが、ちょっと面貸せやゴルァ!」


 ソッコーバレました、ならばここは三十六計逃げるにしかず!

 この教室の構造は、廊下側の前と後ろの両方に出入り口がある。

 そして不良の先輩方は後ろの出入り口から顔を出しているので、ここは見て見ぬ振りをしている教師の脇をすり抜けて、前の出入り口から逃げるべし。

 と思ったら俺が前の出入り口に辿り着いた時には、そちらにも別の先輩がおりましたとさ。

 逃げ出した、しかし回り込まれてしまった、ゲームだけでなく現実にも起こると結構マズいもんだな。


 で、結局周りを先輩方に囲まれたまま連行。

 そうして辿り着いた校舎裏、まるで2週間前の再現の様に集まってる先輩の方々。

 精々違うのはあの時に正座させられてた、同学年の2人がいない事くらいかな。

 そんで2週間ぶりのボソ谷、じゃなくて細谷先輩は相変わらず怖かった。

 しかしやむなく手合わせしたあの時よりかは、怖くない雰囲気のままで立っている。


「停学明け、まずはおめでとうと言ってやる。 本当にいい度胸してるな、お前は」


 どこのVシネマの方ですかアナタ。

 なんかもう下っ端から『アニキ!』と呼ばれる雰囲気プンプン過ぎるだろ。

 生活指導の青木教諭よりも凄味のある笑みを浮かべて、親しげに歩いてくる。


「あの青木を入学初日からシメるとは驚いたぜ。 俺の卒業後はお前にこの学校を任せたいと思うほどだ。 だがあの時は青木に邪魔されたからな、今日は思う存分やり合おうや」


 ボソボソ声でもしっかり聞こえる位置まで近寄ってくる。

 しかも言っている内容が完全に「ここで会ったが百年目!」みたいなやつ。

 マズイ、これは本当にマズイ。


「いや、あれは色々誤解っつーかちょっとムカついてこう、ガツンとやっちゃっただけで…」


「ムカついてガツン、であいつは全治1ヶ月だ。 まだ学校に復帰すら出来てねえ。 そういう訳で俺たちの邪魔をする奴はいねえよ。 お前等、邪魔が入らねえよう見張ってろ!」


 俺が愛想笑いを浮かべつつ言った言葉に、律義に返してくる細谷先輩。

 しかもあのムカついた生活指導の青木教諭は、職場復帰すらまだらしい。

 えーと、これって社会に出てやらかしてたら、その瞬間逮捕されてた?

 細谷先輩の放つ剣呑な気配と、嫌な想像の合わせ技で全身にドッと汗が噴き出した。

 しかも細谷先輩の号令一下、他の先輩方は「へい!」と言いながら散っていく。


 本当によく統制出来てるなぁ。

 というか、それだけの強さを持った人が俺とタイマンを望んでいる。

 しょうがない、ここは一つ。


「あの、俺は本当はこういうの嫌なんで。 出来ればここで1回戦ったら、2度と喧嘩吹っかけて来ないって約束してもらえません?」


「あん? 入学初日に生徒指導のセンコーぶん殴って停学食らった奴が、そんな事言うんじゃねえよ。 久々に骨のある奴だと見込んでんだから、楽しませろよぉッ!」


 やべえぇぇぇぇぇこの人アレだ、実は結構危ない人だった!

 俗にいう戦闘狂とか言われるタイプの、バトル漫画には一人はいそうなタイプのアレな人。

 そんで結局咬ませ犬で終わったり、自滅したりとかで結構悲惨なオチが付くタイプの奴。

 マンガとかで読む時には大抵オチが読めるんだが、実際に自分に向かって突っ込んでこられると、ぶっちゃけ超怖いです。

 なし崩し的にタイマン張る事になり、しかも逃げれないように退路には6人もの先輩方。


 それ以外の人はどうやら見張りでそこらに散らばったらしい。

 別に好きで人を殴りたい訳じゃないが、だからと言って防戦一方でいなすには相手が悪い。

 しょうがない、と覚悟を決めて俺も構えを取った。

 で、途中経過は割愛して結果だけ言うと。

 俺、激闘の末に勝利。


 いや結構簡単に言ったけど、顔にも腹にもいいの貰っちゃうわ、この人実はキックボクシングやってたって聞いて納得するわで、僅差の勝利でした。

 大の字になって地面に転がる細谷先輩が、荒い息を付きながら清々しい笑顔を浮かべている。


「やるな………まさか、1年坊に……こんな、奴がいる、とはな……ダブって、みるもんだぜ…」


 あ、やっぱ留年してたんだこの人。

 しかもその後勝手に自分語り始めて聞いた内容が、喧嘩のし過ぎで出席日数が足りなくなって、それで留年という分かり易すぎる人だった。

 っていうかやっぱり戦闘狂なんじゃないですか、やだー。

 でもこの人にタイマンで勝ったという「実績」が、俺の立場を確固たるものにしてしまった。

 以来この学校の生徒で、俺にケンカを売ってくる奴はいなくなった。


 でもそれと同時に友達になろうと言ってくれる人もいなくなった。

 なまじ不良同士で群がったりもしなかったもんだから、完全に「一匹狼」のイメージが定着して、クラスメートも教師も完全に腫れ物として扱ってくる。

 だが俺は授業にはしっかりと出続けた。

 別に俺は望んで喧嘩をしたわけでも、不良になりたかった訳でもない。

 ただ目を付けられるレベルの目付きの悪さと髪の色、降りかかる火の粉を払い除けられる強さを持っていただけなのだ。


 元々俺が習わされた格闘技で強くなったのは、去年事故で死んでしまった父親の「男は強くないと、いざという時に大事なものを護れない」という教えを、忠実に守り続けたからだ。

 あの青木教諭は、俺の父が去年亡くなった事などは知らなかったのだろうが、それでも死んだ父親を「クズ」呼ばわりされた瞬間、俺は自分でも驚くほど拳に力が入ってしまった。

 ちなみにその青木教諭は、職場復帰するなり俺を呼び出した。

 こちらとしても経緯はどうあれ、一応謝っておくべきかと思って指導室に行ったら、いきなり竹刀の一撃を食らった。

 その上で嫌味と小言を交えたお説教タイムである。


 で、結局その場で堪え切れずに反論、またも竹刀を振りかざしてきたので竹刀を奪い取り、窓を開けて放り捨てた。

 その上で俺が怒った理由と別に暴れる気も無い事を一方的に言い放って、生徒指導室を後にした。

 その日はそれで済んだと思った。

 だが次の日、俺は校長室に呼び出された。

 何故か校長の頭には包帯が巻かれている。


 よりにもよって、俺が昨日生徒指導室の窓から放り捨てた竹刀が、その下を歩いていた校長の頭を直撃したらしい。

 で、校長室には教頭や学年主任、担任教師の他に生徒指導の青木。

 青木はここぞとばかりに、俺が校長を狙って自分の竹刀を奪い取って投げ付けた、と主張した。

 コイツ本当に教師かよ、と思いながらも俺は一生懸命弁解した。

 一応、偶然だったという俺の主張は通ったが、教師陣の俺へ向ける視線は絶対零度だ。


 中学までの経歴に問題は無し、授業態度も特に問題は無かったため、今回は大目に見る。

 だが次に同じ様な事があれば、その時は最悪退学すら覚悟しておくように、という厳重注意を受けた。

 ちなみに青木は最後まで俺を退学にするべきだ、という主張を曲げなかった。

 結局俺の高校生活は、最初の1ヶ月ほどでいきなり暗礁に乗り上げていた。

 しかしその後は俺自身必死に我慢した事と、校外で売られた喧嘩からも逃げたり躱したりをくり返して、ようやく「普通の生活」と言えるものを送ることが出来るようになった。

 

 そうして俺は2年生に上がり、例の細谷先輩は今年は無事に卒業できた。

 どうやら俺と戦って何かに満足したのか、以前ほど喧嘩をしなくなったとの事だった。

 ちなみにそんな細谷先輩でも、あの青木だけは思う所があったのか、いわゆる「御礼参り」という行動を取ったらしいが、俺には全く関係が無い。

 成績は学年でも中の上、テストもほとんどの教科で平均点以上をマーク、勉強に関しては特に問題も無かったせいか、教師陣の態度は入学当初に比べれば、段々柔らかくもなった。

 唯一の例外は青木だが、あの教師はほとんどの学生から嫌われているため、目の仇にされている俺に同情するような態度を取る人まで出てきた。


 そんなこんなで俺も3年生、いよいよ受験生という立場になった。

 前置きの話が長くなっちまったがここからが本題、桜の花びらが舞い散る春独特の光景。

 学校帰りについつい周囲の桜吹雪を眺めながら歩いていたら、車道に飛び出した子供を目にして、自然と身体が動いちまったんだ。

 伸ばした手が子供を歩道に向かって突き飛ばし、そんな無防備な体勢になった俺の身体を、横合いから間に合わないタイミングで急ブレーキをかけた車がはね飛ばしそうになったその瞬間。

 いつまで経っても来ない衝撃に、グッと閉じていた眼をそっと開いて見ると、辺りは平坦な草原になっていた。


「え、と……なんだこれ、天国?」


「うーん、近いけど惜しい! ここは天国一歩手前! 君は選ばれたのでーす!」


 俺の呟きに答えを返したのは、俺の後ろでニコニコ笑顔を浮かべた金髪の女性。

 その女性は頭と両腕を通す穴だけ開けた、膝下まで伸びる白い貫頭衣に身を包み、倒れたままのこちらを見下ろしていた。

第1話のラストに繋がるまで、もうしばらくお待ち下さい。

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