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童にとっての野中の薔薇は

作者: ミスター

なんか思ってたのと全然違う作品ができたー!


まぁ、後書きでのんびりお話します。

「そんな…この世の終わりのような顔をするでない!ほら!顔を上げるのじゃ…」


「放っておいてよ!」


そう言って、差しのべられた手を弾く。


どうして…どうして…。


どうして?悲しくないの?


僕、遠くに引っ越すんだよ?


もう、会えないんだよ…?



お父さんから、引っ越しの話をされたのは、昨日のことだった。


病気で入院するお母さんのことを考えるとやむを得ないと、話をされた。


こんな田舎じゃ、満足な治療も受けられない上、移動にも負担がかかるから、というのが理由らしい。


理解もした。したつもりだった。


けど…。


「ひより!ひよりは…!?ひよりも、一緒だよね!?」


「…」


お父さんは口を閉じ、そのまま何も言わなくなった。


…それが答えだった。


ひより。


この古い家に住みついている、座敷童。


僕が生まれたころには既にいて、わいわい暮らしていた。


見た目は子供だけど、もう三桁年は生きている、とは本人談。


「わらわは、この家からは出れぬ。…もう、お別れじゃ」


そう言って、ひよりは笑って、僕の頭を軽く撫でる。


なんで…なんで笑えるの…?


「嫌だ!だったら、僕はここに残る!」


「バカなことを言うのはよしなさい!」


「―っ!」


どっちがバカか!と言い返してやりたい。


お父さんとは言え、そう、言ってやりたい…。


「部屋を整理しておくように!いいな」


それだけ言うと、お父さんはどこかへ出かけて言った。


車が遠ざかる音を確認すると、僕は床を思いきり殴った。



「昨日から、何も食べておらぬではないか」


ひよりから差し出された握り飯。


それすらも振り払う。


「ぁ…」


ひよりは小さく声を漏らす。


決して、ひよりの方は向かない。


どんな顔してるか、分からない。


「ほら!引っ越し先の座敷童の方が、わらわよりずっと優しいかも知れぬぞ!」


「…」


ひよりの呼びかけにも、答えない。


答えたくない。


「ひよりも…」


「ん?なんじゃ?」


「ひよりも来てよ!」


ここで、初めて振り向いた。


ひよりは、ただ悲しげに俯いていた。


「…わらわは座敷童。家を出れば、その家は不幸になってしまう…。幸と不幸は表裏一体なのじゃ…。故に、わらわはここからは出れぬ」


わかってる…。


分かってるよそんなこと…。


でもさ、でも…。


「好きな人が目の前からいなくなるのがこんなに辛いなら…誰も、好きにならなければ良かった…」


「何を言うか!」


「心なんて…持たなければ…誰にも、心を開かなければ…」


「もう、そのようなことを言うでない!」


「生まれてこなければ…こんなに辛いこと、経験しなくて良かったのかな…」


「-っ!」


その瞬間、パアンと大きな、乾いた音が響いた。


同時に、頬が熱い。痛みを感じる…。


…ひよりは、泣いていた。


「なんてこと言うのじゃ!この程度の辛さ!お主が生まれてきた喜びと比べれば、まこと小さきことと何故わからぬ!」


「…!」


「わらわは、お主が生まれた時…どれだけ嬉しかったことか!どれだけ!どれだけお主がいたことで、笑い、喜び、明るさを得たか!」


「…」


「それなのに、生まれてこない方がよかったと、なぜ言える!心を持たぬ方が良かったと、なぜそのようなことが言えるのじゃ!」


…言い返せない。


「わらわは…お主が生まれてきてくれて良かったと、本当に幸せだったと…そう思っている!お主は!わらわのこの気持ちすらも無い方が良かったと申すか!」


そのまま、ひよりは続ける。


「これまでの喜びと、此度の別れ。どちらが大きいかなど、比べるまでも無かろう!それに…」


すこしの沈黙…。


僕は暫く、あっけにとられていた。


「好きな人に『生まれてこなればよかった』などと言われるなど…!我慢できんのじゃ!」


はっとする。


見た目は僕と同じ、10歳に満たないくらいなのに…。


僕よりずっと、大人なんだな…ひよりは…。


「遠くの地にて、頭を冷やして参れ!わらわは…いつまででも、お主を見ておる…」


その言葉に、顔を上げる。


ひよりは…笑っていた。




それから、僕は引っ越した。


大きな病院のすぐ近くの家。


引っ越し先の座敷童も、ひよりの言うように優しかった。


けど、ひよりの温もりは、いつまでも消えることは無かった。



3年の闘病の末、お母さんは完治した。


それでも、弱った体には都会は不都合と言うことで、また引っ越しすることになった。


戻れる。元いた家に、僕の、故郷に。



「ただいまー!」


わざと、大声で玄関を開けた。


…彼女の声を聞けることを信じて。


埃一つ落ちていない、3年も人が住んでいなかったとは信じられない、この家。


直感する。


「…ひよりか」


それだけなのに、この安心感はなんだろう。


胸の鼓動が追い付き始めたその時、家の奥からダッシュで駆け寄ってくる足音が響いた。


再び鼓動が速くなる。


そして、待望のその時が来た!


「おかえり!」


「ただいま!ひより!」


僕はぴょんと抱き着いてきたひよりを、強く、強く抱きしめた。


今ではもう、僕の方が大きくなっていたけど、、ひよりはそのままの姿で、僕をぎゅっと抱きしめ返してくれるのだった。

書き上げてみれば、主人公の名前も出てこないし、見た目の描写も皆無という恐ろしい作品に。


「古い感じの日本語喋る少女可愛い」から書き始めた作品ですが、まさかこんなになろうとは…。


というか、もともとヒロインは座敷童ではなかったという衝撃の真実。


「ヘビだ!ヘビ!ヘビ擬人化して家に住まわせて感動系にしよう!」という無謀極まりない内容でした。


ヤマカガシにしてツンデレにするか、ジムグリにしておっとり系で行くか~…とか悩んだ末断念。


座敷童に変更してからも、「いっそ母親死なせちゃおうかなー」とか「座敷童は家の主がいなくなったら消滅する設定にしようか」とか『人が死ねば感動になる』と考えてる頭の悪い作品になりかけました。


しかしまぁ、友達から「お前結構人殺すよね」と言われたので変更。


めでたしめでたしな感じにしました。


是非ともヘビの擬人化やりたいなー…。


ギャグでやろうかな…。


そんなわけで、全然思ったのと違う作品になったわけでした!

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