表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

7.勉強会

「で、どうなったの?」

 梨紗に聞かれ、勉強会の提案をして一応の許可をもらった顛末を話すが、一同の反応は芳しくない。

「南工業なら確かにできそうだし、見た感じはまじめそうな子だけど…。ほぼ初対面でしょ?いきなり勉強会とか無理くない?あんたの方は良くても、むこうは社交的な感じ全然しないし」

 梨紗が冷静に話す。

 ゆず子は、思ったより友人たちの受けが悪く、不安になってくる。

「私、まずいことしちゃった…?」

 そこへ祐樹が会話に加わってきた。

「だーから言ってんじゃん。あんまあーいう感じのやつにはあんま関わんない方がいいって。ストーカーとかになったらどうすんの」

「ええ〜?そんな風に思えないけど」

「あのさ、ゆずがお人好しだったり人懐っこいのはわかるけど、勘違いするからほどほどにしなよ。さっきのやつみたいに女慣れしてなさそうなのは特に!」

 祐樹は真剣にゆず子に訴えていて、心配してくれてることは伝わった。けれどやはり内容に関しては納得できなかった。

(翔君…もっと冷静だと思うけどなー。ちょっと話したぐらいでそんな風に考えないよ)

 翔とのやり取りを思い返すと、自分の考えはますます深まる。情に流されない整然とした態度は、同じ年にしては大人びていると思う。ただ、友人たちが気乗りしないというのなら、話を進めるのも気が引ける。そもそもメインは、一番危険な成績の慎なのだ。

 

 ゆず子は、先ほどから黙ってやり取りを見守っている、慎の方を向いた。

「慎君はどう?やってみない?」

 問われた慎は、何も考えていないような顔でしばらく上を見ると、顔をゆず子に戻して頷いた。

「おれ、やってみたい」

 言われたゆず子は意外な思いで慎を見つめた。自分で質問をしたが、いい答えが返ってくるとは思っていなかった。

 他の二人は、ゆず子以上に信じられないような顔をして慎を見た。

「マジ?あんたやる気あんの?」

 梨紗の問いかけに慎はヘラッと笑った。

「やーだって、補習したくないし、時間もないしさ。ゆずがせっかく追っかけて話つけてくれたんだし」

 最後のセリフにゆず子は少なからずジンときたが、あわてていい募る。

「私のことはいいんだよ!そんなん気にしなくて。でも、やってみる気あるなら話しとくよ?」

 慎はまたにぃっと笑って頷いた。


「あ!翔君こっち!ここだよー」

 マクドナルドの店内で、ゆず子は眼鏡の少年に手を振って合図した。

 ここは店の2階。学校帰りの学生などで込む時間帯だが、1階に比べここは比較的すいている。ゆず子たちのように、グループで勉強しているらしき学生もいた。

 その中で、派手な外見のゆず子たちは少々浮いていた。制服であることは変わらないが、気崩した感じや、明るい色の髪が目立つ。テーブルにはノートやテキストが並べてあることが、妙な違和感を醸し出していた。

(ほんとに勉強する気あるのかとか思ってそうかもね…)

 ゆず子は周りの反応を、そう解釈した。多分間違ってはいないと思う。だからといって気にもしないが。

 

 ゆず子に呼ばれた翔は、軽く会釈をするとゆっくりこちらへ向かってきた。周りのゆず子たちへの反応をわかっているのかどうなのか、窺うことができない。淡々としている。

「ほんとに来たよ…」

 翔がゆず子のもとへ来た時、祐樹がぽつりとこぼす。ゆず子はとがめた。

「頼んできてもらったのに、なんでそういうこと言うわけ!?なら帰んなよ」

「帰んないよ。悪かったよ」

 ふてくされたように祐樹が言った。翔は戸惑ったようにやり取りを見ていた。

「ごめんね翔君!誰にでもこんな感じだから気にしないで!」

 本当はもっと外面はいいのだが、そんなことは言えるはずもなく、そうゆず子がフォローすると、翔は曖昧に頷いた。

「はじめまして。相田翔です」

 慎と祐樹に向けてそう言った後、ぺこりと頭を下げた。

 元々目立つゆず子たちのグループにいて、翔のこの行動はさらに目立った。気配を察して、ゆず子はさっさと座るように翔に促す。

「いやっ、そんな丁寧にいいから…。とにかく座ろう。ねっ?」

 手振りでも表すと、翔は慎の左隣に座った。翔の前の席は祐樹で、その隣がゆず子という席順だ。

 真正面にいる祐樹と目が合い、翔は会釈するようにうつむいた。祐樹の強い視線に耐えられなかったようにも見える。

「田辺慎です!よろしく」

 横にいる慎は、祐樹とは打って変わってにこやかに翔に言った。翔はつられたのか、小さく笑って、よろしく、と返した。

「おれは野田祐樹です。さっきはごめん。嫌みで言ったんじゃないから」

 祐樹がさわやかとも思える笑みで言った。外から見ると感じの良い表情だが、これがくせ者であることを、親しいゆず子たちは知っていた。祐樹はなかなか本音を見せず、外面はいいのだ。中では何を考えているかわかりづらい。

(翔君に対して警戒してんのかな…)

 今回の勉強会は、当初ゆず子と慎だけで行く予定だった。

 慎以外はそれほど教えてもらう必要はなかったし、梨紗は「みんなで行くとむこうもやりづらいでしょ」ということで不参加だ。なので祐樹も行かないのかと思っていたら、「見張りだよ」と言ってついてきた。

 翔にこの3人で行くとメールしたら、あっさりした承諾メールが返ってきたため、今日に至る。

 

 早速、翔はリュックサックからノートや自分の教科書、A4サイズのコピーらしき物の束を取り出した。6・7枚ありそうだ。

 何か注文するかと尋ねたゆず子に、首を横に振ると、慎に言った。

「じゃあ時間もないのでやりましょうか」

「あーハイ。よろしくです…」

 妙に迫力のある言い方に、慎が笑みを消して答えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ