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5.再会とテスト対策

 彼と再会したのは、テスト一週間前のことだった。

 テスト勉強は、たいした打開策も助っ人も得られず、とにかく丸暗記で詰め込んでいる日々の中、ある帰り道だった。

 その日はいつもの4人で歩いていた。普段はそれぞれに用事があり、4人がそろうことは意外に少ない。けれどテスト期間である今は、連日勉強会(?)を行っているため、自然と一緒に帰ることになる。といっても降りる駅はバラバラなのだが。

 

 駅前の広場にさしかかった所で、小さな声がした。

「あの…」

 男性にしては少々高めの声に振り向くと、眼鏡にリュックサックの、以前会った少年が立っていた。今日は自転車に乗っていない。 

「あっ、れー?あの時の!?」

 今ここで会うまでその存在を忘れていたゆず子の脳裏に、一気に記憶がよみがえった。黒い携帯、生真面目な口調、少しだけ笑った顔。ゆず子は他の3人から離れ、少年に駆け寄った。

「すっごーい偶然!どしたの?また何か落とした?」

 ゆず子の勢いに面食らったように、少年は一歩後ずさりした。以前会ったときと似たような反応である。その様子に気付き、ゆず子は少年から距離を取った。


「あの…先日はありがとうございました」

 少年はいいながらおじぎをした。そしてリュックを背中からおろすと、表側のポケットから、小さく細長い紙袋を取り出した。ゆず子の前に差し出す。

「あのこれ、お礼というか…。もしまた会うときがあったら渡そうと思ってたんですけど…」

 ゆず子は意外な思いでその紙袋を見つめる。形状からすると、中身はペンのようだ。けれど、ゆず子が考えていたのは別のことだった。

(また会えるかもわからないのに、用意してたってこと?)

 自分は再会するまですっかり忘れていたのに、むこうは覚えていたのだ。しかもお礼の品を渡そうと、いつもリュックに入れておいたのではないだろうか。嬉しいというより、ずいぶん気を使わせてしまったのではと、申し訳ない気分の方が大きかった。けれどそれをできるだけ表情に出さないように、ゆず子は笑った。

「そんな気にしなくてもいいよ〜。でもありがとうね!これ何?ペン?」

「ペンではないんですけど…あ、よければ開けてください」

 ふいに声と目に活力が見えて、ゆず子は心中で首を傾げた。言われた通り、封を開けてみる。

「わ、かわいい〜」

 見た目はキャップのついたペンのようで、花柄の模様が描かれている。甘過ぎないデザインは、大人でも使えそうな雰囲気だ。

「あ!開けるときは気をつけて…」

 少年が言い終わる前に、ゆず子はキャップを取った。

「何これ…はさみ?」

 キャップの下は、細い刃物が2枚十字に重なっていて、ペンの柄にあたる部分で動かせるようになっていた。

「はい。携帯用のはさみなんです。今の文房具けっこうすごくて、これなんかは筆箱に入れといても便利だし。チャチな感じだけど意外とよく切れるんですよ!」

 少年は目を生き生きとさせて話す。かすかだが笑みを浮かべていて、先ほどまでの戸惑った表情とは違っていた。

 ゆず子は少年の変化を眺めていた。

「こういうの、好きなの?」

「えっ、は、まあなんか、日本の科学力というか技術力がわかるようなものっていいなーと思って。文房具なんてホント身近だし、値段もそんな高くないしで見過ごしちゃうんですけど、色々研究して工夫されている物も多いから」

 ゆず子はもらったはさみをじっと見る。確かに普通のはさみとはだいぶ違う。思い出してみると、ゆず子の鞄の中にも色々なペンが入っていた。

「そういえば、消えるペンとかすごいよね」

「そうっ!そうなんですよ!あれ最近の文具の中でも画期的ですよね!」

 さらに声と表情を弾ませて少年が言う。あのインクは温度がどうのこうのと説明がはじまり、ゆず子は笑ってしまった


(やっぱり理数系じゃん)

 初対面のときから、落ち着いていてあまり表情が変わらない人だと思ったが、こういう話題のときは違うらしい。ゆず子が少年の話を聞いていると、途中で声が途切れ、視線がゆず子の後ろに向かう気配がした。

 後ろを振り返ると、少し離れて所から梨紗たち3人が見ていた。怒ってはいないが、探るような目線だ。

「あっごめん、ちょっと待ってて!」

 3人に向け大きめの声で言うと、ゆず子は少年に向き直った。すると相手はその間に、肩に引っ掛けていたリュックを背負い終わっていた。

「すみません、もう帰るんですよね。呼び止めてしまってすみません。あの…じゃあ僕も電車の時間なので。ありがとうございました」

 そう言うと、ゆず子の返事を待たずに駅の方へと歩いて行った。ゆず子はあっけにとられて見送る。

(なんかあきらかに話の途中だったけど…)

 話といっても雑談なので、用件自体は済んでいる。なのでいつ切り上げてもおかしくはないが、それにしても唐突な気がした。

(急に時間を思い出したのかな)

 ゆず子が考えていると、3人が歩み寄ってきた。


「誰?あの子」

 梨紗が口火を切ると後の2人も続いた。

「眼鏡にリュックって、なんかオタクっぽくない?」

「何もらったの〜。ペン?」

 ゆず子は慎に、もらったはさみを渡してみせながら答えた。

「前に携帯落としたの拾って届けたんだ」

「どこに?交番とか?」

「いやいや。じゃなくて本人に。目の前で落としたから、追っかけて渡した」

「で、お礼にってこれ渡されたんだ」

 慎から渡されたはさみを動かしながら梨紗がいう。

「お礼に刃物って、ヤバくないか?」

 祐樹が渋い表情でいうのに、ゆず子は反論する。

「これは文房具だよ!刃物って…。むこうはたぶんまじめに色々考えてくれたんだろうし、そんな言い方…」

 祐樹は横目でゆず子を見た。思ったより冷たい目線に一瞬びくりとする。

「こいつと連絡先とか交換したの?」

「え…してないけど」

「じゃ、なんでゆずがここにいるってわかったの?」

「それは偶然だよ。もしあったら渡すつもりで鞄に入れてたって」

 祐樹はゆず子の返答を聞くとしばらく黙り、目線をそらして言った。

「…ま、いいけど。でもゆず、ゆずがなつっこいのは元々だけど、よく知らんやつに連絡先教えたりとか、やめた方がいいんじゃない?」

「だからしてないってば。名前も知らないし」

 言いながら、そうか、と気付く。

(本当に何も聞かないまま別れちゃったな)

 ゆず子は少し残念に思う。先ほどの文房具の話は、新鮮でなかなか面白そうだった。科学的な話も、こんな風に解説してくれれば少しは———

「あっ!」

 ゆず子は思いついて声を上げた。

「あの子に勉強教われば良くない!?」

「はあっ!?」

 祐樹が眉をひそめて声を上げたが、自分の考えに夢中のゆず子は気にせず続ける。

「だって南工業だよ!?理数系強そうじゃん。まじめで頭良さそうだし!」

「って、さっきおれの言ったこと聞いてなかったの!?知らんやつにあんま関わるなって話じゃん」

「そんなこと言ってたら新しい輪は広がらないよー。あの人まだいるかな!?」

 ゆず子は言い放つと、少年を追って駅の方へと駆け出した。

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