表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

2.幼なじみ

 放課後。ホームルームが終わると、挨拶もそこそこに急ぎ足で教室を出た。

 アルバイトは5時から始まる。場所はゆず子の家から500mほどしか離れていない、本当に近所だ。

 時間的にそれほど間に合わない位置ではない。けれどゆず子はアルバイトに行く前に一仕事あるのだ。

 ゆず子は帰宅すると、今にいる母にだだいまと挨拶し、2階の自室に直行した。制服を脱ぎ、手早くハンガーにかけると、白いワイシャツと黒っぽいパンツを身につける。着替え終わると財布とポーチを別の小さなトートバッグに入れ、それを持って階段を駆け下りる。

 今度は洗面台の前に立った。つけまつげをはずすと、クレンジングで化粧を落とし、基礎化粧品をつけた。そして再びメイク。今度はつけまつげもアイシャドウもなく、うっすらとファンデーションと口紅をぬるだけだ。最後に髪を後ろでひとつに縛ると、完了だ。

 鏡に映ったゆず子は、学校にいるときよりもかなり地味な印象になり、いささか幼く見えた。よし、と心中で気合いを入れ、トートバッグを持って洗面台を出ると、居間の母に言った。

「お母さん、行ってくるね」

「いってらっしゃい…っていうか、ゆず子」

 挨拶で終わるかと思いきや続きがあり、ゆず子は玄関に行きかけた足を止める。

「何?」

「毎回そんな面倒なことするくらいなら、朝からギャルメイクしないで学校行けばいいじゃない」

「ムリ!!それはムリ!!」

 ゆず子は目を見開いて否定した。

 今更この顔を学校で見せるのは大変な抵抗がある。百歩譲って中学からの付き合いの梨紗たちならまだいいが、高校から親しくなった人にはこの落差を見られたくはない。

「別にメイクなしでも可愛いよ?」

「そう言う問題じゃない!っていうか親ばか!」

 ゆず子はそう言い放つと、逃げるように家を出た。顔が赤くなっているのを、見られていなければいいなと思っていた。


「おかえり、ゆずちゃん」

 アルバイト先につくと、隼人の母がにこやかに言った。ゆず子も笑顔を返すと、手早くエプロンをつける。

 奥の厨房では隼人とその父が料理を作っている。まだ夕飯には早い時間帯のため、席のうまり具合は4割ほどだ。

「お疲れさまです!」

 邪魔にならない程度に二人に挨拶すると、きりのついていた隼人はゆず子の方を向き、目で挨拶した。隣にいる隼人の父は、こちらに気付かぬ様子でフライパンをふるっている。ゆず子は二人の後ろにある流し台に立ち、たまった食器を洗い始めた。

 

 夜9時に閉店になると、その後の片付けをし、遅い夕食になる。隼人の作る賄いだ。隼人の父は明日の準備をしており、隼人、ゆず子、隼人の母の3人でテーブルを囲む。リゾットを食べながら、くだけた様子で会話する。

「ゆず子ちゃん、学校どう?」

「うん、なかなか楽しくやってるよ。夏休みももうすぐだし。その前にテストあるけど」

「もうすぐって、まだだいぶ日あるだろ」

 あきれたように言う隼人に、ゆず子は言い返す。

「いいの!もうすぐと思ってれば楽しいの!」

「ゆず子ちゃん、夏休みはどうするの?」

 探るように隼人の母に尋ねられ、ゆず子は(アルバイトのシフトのことかな?)と思い答えた。

「夏休みはそれほど予定ないから、アルバイト入れると思うんだけど」

「あっ、うん、それもあるけど、デートの約束とかあるのかな?って」

 ゆず子が一瞬答えに窮すと、隼人が言った。

「母さん…それ聞いてどうすんの。年頃の女の子にあんまりそういうこと聞かない方がいいんじゃない?」

 隼人のとがめに、隼人の母は不安げにゆず子を見た。ゆず子は笑って手と首を振る。

「別に気にしないで!ってゆーか、そんな予定ないから!」

「あら、そうなの?もったいない。ゆず子ちゃん可愛いし、誰かに誘われないの?」

 とたんに朗らかに表情を変え、隼人の母が言う。隼人は言っても無駄とばかりにリゾットをかけ込み始めた。

「友達とはどこか行く予定。中学からの仲いい皆で」

「そうなんだ。まあそれも青春よね」

 どこか夢見るようにつぶやいた隼人の母の発言に、ゆず子は小さく吹き出した。

 彼女は昔から、年の割にロマンチストなところがある。一時はゆず子と隼人に、『幼なじみが大きくなって再会し、ロマンスがはじまる』という風な展開を期待していたようだが、隼人があからさまにうっとうしがってその話題は立ち消えになった。ということを1年ほど前にゆず子は、自分の母親から聞いた。その話を聞いたときは、あまりに意外な考え方に驚いたのを覚えている。

 昔から良くしてもらっているし、一緒にいるのは楽しいが、そんな風に考えたことがなかった。隼人の方もそうだろう。昔のアルバムには、中学生くらいの隼人にだっこされた3歳くらいの自分が映っている。そんな昔を知る隼人と、今更色気のある話になる訳もない。昼間祐樹が言ったように、現実はさほどロマンチックではないのだ。

「ってかゆず、その前にテストとかあんだろ」

 冷静な声で隼人が言う。ゆず子は軽く隼人をにらんだ。

「なーんでそういうこというかなあ。せっかく夏休みのこと考えてたのにがっかりだよー」

「学生なら普通だろ…。むしろテスト良くなかったら、夏休み補習とかなんねーの?」

「リアルに嫌なこと言うね!私はそこまで成績悪くないし!」

 ふてくされたようにゆず子が言うと、隼人がにやにやと笑った。

「まあ頑張れ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ