八十八話 「え、ていうか、アグニーさん達が奉納の品持ってきてくれるのって、そろそろなんですか?」
集落の中央にある広場で、アグニー達は一心不乱にポンクテを頬張っていた。
塩で味付けをされたポンクテをおいしそうに食べているのは、赤鞘の所へ奉納をしにいくアグニー達だ。
出発前の、最後の腹ごしらえというわけである。
「お腹一杯食べて、力をつけてね!」
「若い子もおおいからねぇ、皆怪我しないか、おばちゃん心配だわぁ」
「おかわりもあるわよ!」
食事の準備をして、今も周りで世話をしているのは、ベテランの主婦を中心とした女性アグニー達だ。
手際よく料理を準備していくその姿は、まさに歴戦のおばちゃんの風格である。
とはいえ、彼女たちもやはりアグニーであり、その外見は可憐な美少女だ。
幼く、あどけなさすら残る少女が、同じく美しい少年達に対して、
「ほらっ! 若いんだからどんどん食べなさいっ! 元気つけなきゃいけないでしょ!」
などといっている姿は、アグニーという種族を知らない人にはさぞシュールに映る事だろう。
口いっぱいにポンクテを頬張っているアグニー達の前に、新しいお皿が置かれた。
こんがりキツネ色になったそれは、から揚げのようだ。
「さぁ、アグコッコのから揚げだよ! たっぷり食べな!」
「おー! アグコッコか!」
「うんまそぉーう!」
「カリカリなのが美味いんだよな!」
一斉にお皿に手を伸ばすアグニー達を、アグニーの女性陣は嬉しそうに眺めている。
おいしそうに沢山食べてもらえると、作る方も張り合いがあるのだ。
長老は蒸したポンクテをコブシ大に丸めたものを齧りながら、一人の主婦アグニーに近づいていった。
料理自慢のその女性アグニーは、なんとマークの母親であったりする。
「うむうむ、たくさんつくったのぉ、モニークさんや」
「あら、長老さん! そりゃそうよぉ! 赤鞘様の所に行くまでの間、まともなご飯も食べられないでしょうからねぇ!」
マークの母親、モニークはそういうと、大声で豪快に笑った。
言動や仕草は肝っ玉かぁちゃんそのもののモニークだが、その外見は典型的なアグニー族だ。
つまり、可憐で幼さが残り、とても可愛らしいのである。
特にモニークは、パッチリとした目と大きな瞳のおかげで、すこぶる愛らしい顔立ちになっていた。
女性アグニーの平均よりも僅かに低い身長も相まって、触れれば壊れてしまいそうな、儚げな印象を与える。
「私も付いていければご飯を用意したり、サボってるののケツ蹴り上げてやるんだけどねぇ!」
ビジュアルと言動が一致しない。
それもアグニーの特徴である。
モニークは、まさに典型的な肝っ玉かぁちゃんなのだ。
「集落を空にしていく訳にはいかんからのぉ。それにこういうのは、男の仕事じゃて」
アグニー達は、基本的に男女で体力の差は殆ど無い。
そもそも体格に差が無いので、ある種当たり前だろう。
だが、使用する強化魔法にちょっとだけ差があるのだ。
男性が使う強化魔法のほうが、ほんの少しだけ強力なのである。
本当に気持ち程度の差なのだが、それでも強い事には変わりない。
力仕事全般は、アグニー族でも男の仕事なのだ。
「赤鞘様にはお世話になってるんだ。しっかり持っていっておくれよ」
心配そうな顔をするモニーク。
それを見た長老は、にっこりと笑顔を作った。
「なぁに、大丈夫じゃよ。土彦様や、コウガク様。エンシェントドラゴン様もおるからのぉ。それに、いざとなったらマーク達若い者もおるとも」
長老の口から出た自分の息子の名前に、モニークは苦笑いを浮かべる。
そんな様子を見て、長老はしてやったりと言ったように笑った。
「そうさねぇ。あの子も長老みたいに、もう少しがっちりした体格になればねぇ」
「はっはっは! まあ、マークはまだまだ若いからのぉ! これから鍛えればよかろうて!」
そういうと、長老はむんっ! と、力コブを作って見せた。
とはいえ、典型的アグニー体型である長老の腕に、そんなものが浮かぶはずも無い。
せいぜいぷにぷにした腕がもにっとなる程度だ。
可愛らしいお子様アームにしか見えないのだが、アグニー基準ではムキムキなたくましい腕なのである。
「頼りにしてるよ! さぁさぁ、まだまだ用意したんだから、たっぷり食べておくれ! みんなもねぇ!」
「おー!」
「食べるぞー!」
「コッチおかわり!」
モニークの声に応える様に、あちこちで声が上がる。
それを見て、長老とモニークはとても楽しそうに笑った。
アグニー達が食事を摂っているところから程近い木の上で、カラス達は真剣な様子で話し合いをしていた。
赤鞘の所へ向かうアグニー達に付き添うカラス達が、最後の打ち合わせをしているのだ。
集落に残る事になっているカラス達は、既にあちこちで忙しく働いている。
ただでさえ少ない数を分散させるのは、苦渋の選択だ。
だが、アグニー達をほうっておくわけにもいかない。
結局、付いていくのはカーイチなど、能力が高いカラス数羽という事になっていた。
少数精鋭というわけである。
今はそのカーイチを中心としたメンバーが、どうやってアグニーを見守るか相談しているのだ。
「そらの上から見るのと、アグニー達についてるのにわかれる。私は、アグニー達のうえをとぶ。みんなは、とおくをみにいって」
カーイチの言葉に、カラス達はくちばしを上げ下げして応える。
了承の合図だ。
カーイチは大きく頷くと、身振り手振りを加えて、説明を続ける。
「アグニー達のすすむほうに、さきにいく。なにかあったら、鳴き声でおしえて」
カラスの鳴き声は、とても遠くまで届いた。
合図などを決めている仲間同士であれば、かなり遠くまで意思疎通が出来るのだ。
今回カラス達が取ろうとしている方法は、実にシンプルなものだった。
何羽かがアグニー達の行き先を先行して調べ、得た情報をカーイチに報せるのである。
カーイチはカラス達の中で一番頭もよく、判断力も高い。
情報をカーイチに集める事で、どんな事態にも対応できるようにしようというのだ。
ちなみに、カラス達が集める情報とは、主に進んでいる道が正しいか、この先に何があるのか、などである。
危険が無いか、などの調査は、話題にすら上がっていなかった。
なにせアグニー族の危機回避能力は、野生動物もびっくりなレベルなのだ。
おおよその方針を決定すると、カーイチはきゅっと真剣な表情を作った。
今回の赤鞘への奉納は、アグニーがこの土地に来て初めてする、神様へのお礼だ。
神様の管理する土地に住まわせてもらっている以上、一番大切な仕事といっていいだろう。
日本の土地神を長くやってきた赤鞘にとっては当たり前のことでも、「海原と中原」に生きるアグニーとカラス達にとって見れば、やはり神様の土地に住むというのは特別だ。
住まわせてもらっているお礼は、きちんとしなければならないのである。
「アグニー達といっしょに、きちんとおれい、しにいこう」
カーイチがそういうと、カラス達は一斉に鳴き声を上げる。
カラス達も皆、今回の事の大切さを重々承知しているのだ。
部分的な意味でなら、カラス達はアグニー達よりもしっかりしているのである。
「かー!」
カーイチも拳を振り上げると、気合のこもった鳴き声を上げるのであった。
土彦の地下ドックの一角で、土彦とエンシェントドラゴンは悩ましげな様子で顔を突き合わせていた。
周囲には沢山試作型マッドトロルや魔法機器が置かれており、その周囲をガルティック傭兵団の団員達が物珍しそうにうろついている。
だが、土彦にもエンシェントドラゴンにも、それに構っている余裕は無かったのだ。
「では、土彦殿。私は上空から見守るという事で」
「お願いします。地上の細かいところはマッドアイネットワークを使って見守る事にしましょう」
「何しろアグニー達が初めて直接赤鞘様に会いに行くわけですからな。万が一のことがあってはなりますまい」
土彦とエンシェントドラゴンの二人は、アグニー達を見守るための相談をしていたのだ。
森には危険な獣が居るわけでもないし、外からの危険もマッドアイネットワークがあれば早期発見できる。
そもそもアグニー族の危機回避能力は尋常ならざるものがあるので、そういった心配はしなくてもいいだろう。
唯一心配されるのは、赤鞘の居る場所が分からなくて迷子になることぐらいだろうか。
それも、カラス達が居るのでまず心配は無いだろう。
「カーイチさんにはしっかり、八本の樹木と浮遊島が目印だと伝えてありますからね」
色々と装備を施して遊んでいる関係上、土彦とカーイチは意外と仲がよかった。
アグニー達が奉納するための品々を用意し始めた頃、土彦はカーイチに見直された土地中央について詳しく説明していたのだ。
「しかし、タイミングがなんとも……本来ならガルティック傭兵団の方々にもお手伝いいただきたいところですが」
土彦は難しそうな表情で唸りながら、眉を大きくしかめる。
ガルティック傭兵団がこの土地にやってきてから、まだ数日しか経っていなかった。
彼らは今、マッドアイネットワークを使いこなすための訓練を受けている。
マッドアイネットワークは防衛能力にも優れているし、通信機器としても扱える優秀なものだ。
見放された土地の中で動くにしても、外で動くにしても、利用しない手は無い。
だが、如何せん土彦がオリジナルで作り出したものであるだけに、その扱いは既存のものとはかけ離れたものになっていた。
扱いを覚えるにしても、完全にはじめて触る技術を一から覚えなおさなくてはいけないのである。
いってみれば、宇宙人のコンピュータの使い方を習得しようとしているようなものだろう。
しかし、ガルティック傭兵団の面々は、土彦の予想を超えて優秀だった。
習得スピードも速く、あと十日もあれば実地訓練に移行できそうだったのだ。
だが、それでも十日先の話である。
今現在の状態では、とても役には立たないだろう。
「私と土彦殿がいれば万が一の事は無いと思いますが。まあ、ことがことだけになんとも。準備は出来るだけしておきたくは有りますな」
「湖の上位精霊方にも出張るようにお願いはしてありますので、心強くは有るのですが」
そんなことを話しながら、土彦とエンシェントドラゴンは同じようにため息を吐き出した。
アグニー達は、赤鞘が認めた見直された土地の住民だ。
ガーディアンである二人にとっては、なんとしても守らなければならない対象なのである。
今回は初めての大きな移動でもあるだけに、どちらも神経質になっているのだ。
そんな彼らを遠巻きに見ながら、ガルティック傭兵団の面々は表情を引きつらせていた。
「見てみろよ。土彦さんとエンシェントドラゴン様がうなっとるぞ」
「俺今チラッと思ったんだけどさ。仕事ミスってアグニー族に怪我させたら俺らどうなるのかな」
「考えるな。そんな恐ろしい事考えるなよ」
なんだか恐ろしい想像になったらしい。
数名の団員達が肩を抱いて震え上がる。
そんな彼らを横目に、白衣の青年、ドクターが土彦達の方へと近づいていく。
そして、土彦とエンシェントドラゴンに声をかけた。
「お二方。お願いがあるのですが」
かけられた声に驚いたのか、エンシェントドラゴンは顔を跳ね上げる。
土彦のほうは、ニコニコとしたいつもの表情で振り返った。
「はい。何かありましたか?」
「俺達の中でも、アグニー族を実際に見たことがあるものは少ないんです。よろしければ、アグニー達を護衛している間の映像を見せていただけませんか」
ドクターの言葉に、土彦は大きく目を見開いた。
そして、なるほどといった様子で手を打つ。
「なるほど。確かに皆さんにもアグニー族を見ていただかないといけないのでしたね。分かりました、早速準備しましょう」
そういって土彦は、掌を広げて体の前へ持ってくる。
すると、ちょこちょこと走っていたマッドアイが、そこへ飛び乗った。
マッドアイに、念話で指示を与えているのだ。
「ご存知とは思いますが、アグニー族はとても可愛らしい外見の種族です。まあ、なんというか、見ていて飽きない方々ですよ」
ニコニコしながらいう土彦に、ドクターは興味深げな様子で頷いた。
この仕事に乗り気ではなかったドクターだが、仕事としてやる事になったからには全力を尽くす。
そのための情報収集にも、決して手を抜かない。
ドクターはそういうタイプの男だったのだ。
「可愛らしい外見ですか。護衛対象の見た目がいいというのは、モチベーションが上がりますね。まあ、俺の恋愛対象は成人の男だけなんですが」
全くの真顔で、ドクターはそういった。
たとえ相手がガーディアンでもブレない。
そんなドクターを見て、ある意味頼もしいのかもな、と思う、ガルティック傭兵団の面々であった。
精霊達の湖では、そこに住まう精霊達が忙しそうに動き回っていた。
現在彼らは、総がかりで湖に結界を張っているのだ。
設置されたのは、透明な不可視の結界であった。
外見から拒絶している感を、アグニー達に与えないようにという配慮のためである。
近づいたら危険だということは口頭でも報せる予定ではあったが、万が一という事が無いとも限らない。
アグニー達は土地に住まう住民であり、赤鞘が最初に受け入れた民だ。
それだけで、十二分に特別な種族なのだ。
万が一にも傷つけるような事があったとしたら。
そう考えるだけで、精霊達は震え上がった。
「急げ! 時間が無いぞ!」
「少しでも早く結界を作り上げろ! 下部は特に念入りに!」
「人手が足らん! 風の、土の! こちらも手伝ってくれ!」
上位精霊達が必死になって働いているその様は、ある種壮観である。
どの精霊も上位精霊と呼ばれる存在であり、地球で言えば神格化されるような大物ばかりだ。
それがまるで社会人一年生の肉体系労働者のように走り回り、必死になって結界を作っているのである。
荘厳なのかシュールなのか、いまいち判断に困る光景といえるだろう。
そんな湖に、近づいてくる人影があった。
最近湖の精霊達に力の流れの操り方を教えている、赤鞘である。
赤鞘は忙しそうな精霊達を見上げると、目を丸くした。
「あれ? 皆さん忙しそうにして、どうしたんですか? あ、作業は続けてくださいね!」
赤鞘が集まると一斉に目の前で跪こうとする精霊達への対応も馴れたのか、赤鞘はすぐにそういって釘をさした。
目の前で畏まられるのは苦手なのだが、仕事をしているところを邪魔するのはとてつもない罪悪感に襲われる。
そんな日本神体質な赤鞘であった。
数人の精霊達が顔を見合わせ、その中の一体が赤鞘の元へと降りてくる。
光の精霊なのだが、どうやらその精霊が赤鞘の対応をする事に決まったらしい。
「御見回り、お疲れ様で御座います」
「いえいえ! しかし、結界なんか張って。ほんとに、何かあるんですか?」
不思議そうに首を傾げる赤鞘に、光の精霊は頭を上げて応える。
「はい。赤鞘様の元へアグニー達が奉納の品を持ってくるという事で、湖に近づけないようにしておりました。ここは力が濃すぎるゆえに、彼らの体には悪影響を及ぼしますから」
「へー。そういうのもあるんですねー」
光の精霊の説明を聞いて、赤鞘は感心したように頷いた。
力の集中しているところに入ると体に悪影響がある、などといった話は、赤鞘もゲームなどで時折見かけている。
この世界でもそういうことがあるのか、と、妙に納得していたのである。
「え、ていうか、アグニーさん達が奉納の品持ってきてくれるのって、そろそろなんですか?」
「ええと、今日出発だと知らされておりますが」
「え!? そうなんですか!?」
途轍もない衝撃に襲われたような表情で、赤鞘は大きな声を上げた。
今まで、アグニー達が奉納の品の準備をしているという話は、赤鞘も何度も聞いている。
すごくありがたく、むずかゆい話だとは思っていた。
だが、具体的にいつ持ってくるかなどは、赤鞘の耳には一切届いていなかったのだ。
そもそも、アグニー達の出発は、かなり突発的に決まったものである。
準備を進めていて、すべてが整ったから出発、程度のものだったのだ。
丁度コウガクやガルティック傭兵団が土地に入った時期と重なった事もあり、土彦も精霊達も赤鞘に伝え忘れていたのである。
普段ならエルトヴァエルが完璧にフォローするところではあるが、生憎彼女は今出張中であった。
しっかりしている人が一人しかいないと、その人が居ない時にすごく困る、という状況の典型のような状況が、今ここに起こっていたのだ。
赤鞘のリアクションを見た光の精霊は、困惑したような表情を浮かべる。
「はい。そろそろ出発の時間だと思いますが」
「ええええええ! ちょ、ちょっと待ってください!」
赤鞘は大慌てで懐に手を突っ込むと、黒い長方形の物体を取り出した。
太陽神印の、アンバフォンである。
画面をすばやく操作すると、赤鞘はすぐにそれを耳に当てた。
「あ、エルトヴァエルさんですか?!」
数コールで電話口に出たのは、見直された土地の唯一の良心、こと、エルトヴァエルのようだ。
「今コッチに向かってる最中ですよね?! よかった! ちょっと急いで帰ってきてもらえます!? 私じゃちょっと、対処しきれない事が起こっちゃったんですよぉ!」
そうとうテンパった様子の赤鞘に、光の精霊は引きつった表情を浮かべた。
土地に住むものが奉納の品を持ってくることが、神様に対処しきれない事態なのだろうか。
しかし、赤鞘様らしいといえば、赤鞘様らしい。
そんな風に、光の精霊は思った。
湖に住む精霊達も、段々と赤鞘の扱いに、慣れてきていたのである。
集落の中央には、赤鞘の所へ向かう予定のアグニー達が集まっていた。
三つの社に、食べ物とお酒、集落で作った焼き物。
それから、移動中のアグニー達の食料が準備されている。
これらを赤鞘に届けることに成っているアグニー達は、皆引き締まった表情をしていた。
それらを周りで見守る、集落に残るアグニー達は、皆心配そうな顔をしている。
アグニー達が見守る前にいるのは、いつにもまして真剣な表情をしている長老だ。
長老は咳払いをすると、みんなに聞こえるよう、大きな声を出した。
「いよいよ赤鞘様に奉納の品を届けるため、出発することになった! 皆今日まで、よく準備に励んでくれたのぉ!」
「おー!」
「けっかいー!」
「がんばったぞー!」
長老の声に、アグニー達は声援で応える。
「じゃが、本番はこれからじゃ! 無事に赤鞘様の所にお届けし終わり、村に戻ってくるまでが大切なんじゃ!」
「帰ってくるまでが奉納なんだな!」
「けがしないようにしよー!」
「けっかいー!」
気合を入れるためなのか、長老が声をかけるたびに声が上がる。
テンションを維持するためのこういった掛け声は、アグニー達特有の気合入れなのだ。
長老は全員が気合に満ちている事を確認すると、大きく頷いた。
「お社の準備はよいかっ!」
「いつでもはこべるぜ!」
「ちからがありあまってるぞー!」
「準備ばんたんだぁー!」
社の周りにいたアグニー達が、手を振り上げて声を出す。
「奉納する食べ物と酒、食器はどうじゃ!」
「こっちいけるぞー!」
「けっかいー!」
「どんどんはこんでやるぜー!」
それぞれの運搬係のアグニー達が、背負子を持ち上げて見せた。
「わしらが食べる食べ物はどうじゃ!」
「沢山用意したぜ!」
「たっぷりあるぞー!」
台車の周りのアグニー達が、張り切った様子で力コブを作ってみせる。
ちなみに、今回ハナコは集落に残る事になっていた。
どじっこなので、慣れない場所だとうっかり転んだりしそうだと思われたからだ。
残念がるハナコをなだめていたのは、同じアグニー達を見守る仲間であるカーイチだったりする。
長老は全体の準備がしっかりと終わっているのを確認すると、大きく頷いた。
そして、ぐっと表情を引き締めると、高々と拳を上に突き上げた。
「では、しゅっぱつじゃー!」
「「「おおーーー!!!」」」
「「けっかいー!!」」
長老の掛け声に、「おー」六割、「けっかい」四割ぐらいの掛け声が返って来た。
興奮すると「けっかい」って叫んじゃうのが、最近のアグニー達のトレンドとなりつつあるのだ。
こうしてアグニー達は、赤鞘の元へ向けて出発したのであった。
上空からはカラス達とエンシェントドラゴン。
地上からはマッドアイネットワークに見守られた、凄まじく過保護な旅立ちである。
真剣な面持ちのアグニー達。
それぞれの胸には、強い緊張が渦巻いていた。
しかし。
まさかこのとき当の赤鞘が、アグニー達を上回るちょっと気持ち悪くなっているぐらいの緊張と混乱と衝撃に見舞われているとは。
アグニー達は夢にも思っていなかったのであった。