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七十八話 「はい。赤鞘様の所です」

 浜と森の間に立ち、セルゲイは海の方を眺めていた。

 嵐はもう過ぎ去っていて、海は穏やかなものである。

 砂や瓦礫が流れているせいか多少水はにごっているようだが、それも浅瀬のあたりだけの話だ。

 ほかの場所は白波も立たず、凪いだように静かであった。

「んん?」

 ふと、セルゲイは不審げに眉をひそめた。

 体内に埋設してある索敵装置の一つが、一瞬だけ反応を示したのだ。

 すぐさまログを表示させてみると、反応が有ったのは海の中であった。

 海や湖といった水の中は、魔力が感知しにくい場所である。

 水自体が僅かに魔力を含む事から、生体が発する魔力を探りにくくなってしまうのだ。

 そのため、水の中に居る対象に対して役に立つ感知機能といえば、音や可視光線などが一般的である。

 にもかかわらず、装置が感知したのは、生体が発する魔力であった。

 この反応が示す可能性は、二つだ。

 機器の異常。

 もしくは、水の持つ魔力を凌駕する魔力保有体がいるか、である。

 反応が一瞬であったのは、隠していた魔力をその時だけ解き放ったからだろう。

 それはつまり、水の中に居る何かは大きな魔力を持ち、それを隠し切る事ができる技量を持ち合わせる、人間大の何かであるという事を意味している。

 控えめに言って、化け物であるだろう。

 魔獣なのか、はたまた人間なのか。

 警戒をしながら水面に視線を走らせていたセルゲイの目に、小さな犬の顔のようなものが映った。

 一瞬本物の犬かと思ったセルゲイだったが、すぐにそれがコボルトのものであることに気が付く。

 長くなった耳の毛と、その色艶を見るに、恐らくは老人であるだろう。

「おお」

 セルゲイは思わずといった様子で、感心したような声を上げた。

 コボルトというのは、あまり魔力保有量の大きな種族ではない。

 にもかかわらず巨大な魔力を持ち、それを制御しきる技量も持っている。

 さらに老人であり、あの毛の色とくれば、もはや個人を特定する情報としては十二分すぎるものであった。

 セルゲイはにやりと笑顔を作りながら、周りに落ちている枯れ枝や草を集めはじめた。

 これから浜に上がってくるだろうその人物のために、焚き火を用意しようというのである。




 目的地に着いたことを確認したコウガクは、全身にみなぎらせていた魔力を解いた。

 ゆっくりと水をかきながら、陸地のほうへと進んでいく。

 嵐が過ぎ去ってすぐに陸に上がってもよかったのだが、どうにも具合が良くない場所ばかりであり、上陸する機会を逸してしまっていたのである。

 なにせ、見直された土地の海岸線は、未だに植物も無ければ岩も無い丸裸の場所ばかりだ。

 あくまでお忍びで見直された土地に入りたいコウガクにとって、隠れる場所が無いというのは非常に都合が悪い事であった。

 嵐が収まり視界が開けるのを待ち、ようやく海からすぐに森に入れる場所を見つけたのが、今しがたなのである。

 ほっと安心し、海から上がろうとしたコウガクであったが、そこで思わぬものを見つけた。

 丘の上に立つ、セルゲイ・ガルティックの姿である。

 実はコウガクとセルゲイは因縁浅からぬ間柄で、顔を合わせれば酒を酌み交わす仲なのだ。

 海の中からセルゲイを見つけたコウガクは、大いに驚いていた。

 まさかこの場所で見かけることになるとは、夢にも思っていなかったからである。

 だが、見かけたからには無視をするわけにもいかないだろう。

 何より、目的を聞いておかなければならない。

 今この時期にこの場所に居るのだから、見直された土地に無関係という事はないだろう。

 場合によっては、協力し合えるかもしれない。

 さっそく陸に上がって声をかけようと思ったコウガクではあったが、ここでふとあることを思いついた。

 ずっと唱えていた呪文を止め、体に走らせてた術を解く。

 すると、コウガクの体は見る見るうちに小さくしぼんでいった。

 まるで空気を抜いた風船のようにしわくちゃになっていき、あっという間に元の小さな老人の体へと戻ってしまう。

 経典魔法の肉体強化は、解くと同時に体内に溜め込まれていた魔力が発散されてしまうものであった。

 大きく膨らんでいたところにあった余剰魔力が、居所を失って外へ逃げてしまうのである。

 そのため、隠れているときは、肉体強化の解除はゆっくりと行うのが一般的であった。

 時間をかけて解いていけば、漏れる魔力も僅かずつで済むからだ。

 それをわざわざ一時に解いたのは、当然目的があってのことである。

 狙いたがわず、セルゲイはコウガクの魔力をすぐに感知した様子であった。

 そして、まきを拾い始めたのである。

 誰かが近づいてくるという事を知らせる程度のつもりだったコウガクだったが、この行動には大いに驚き、そして感心をしていた。

 セルゲイは海に居るのがコウガクであるという事に気が付いただけでなく、体を冷やしているだろうという事にまで気を回していたのだ。

 確かに毛の色や人種を判別する事はこの距離でも出来るだろうが、顔の判別は付かないはずである。

 どうやって判断したのか、聞いてみるのもいいかもしれない。

 そんな事を考えながら、コウガクは海の中を進んだ。

 そこで、ふとあるものを水中から発見した。

 砂浜の上を進む、コモットモである。

 甲殻類であるこれは、火で炙ってやると非常に美味いのだ。

 多少見た目が悪いところに目を瞑れば、その味は絶品であるといっていい。

 海の中を進みながら、これは是非にも捕って行こうと、コウガクは心に誓うのであった。




 浜を歩いてくるコウガクの姿を見て、セルゲイは面白そうに声を上げて笑った。

 両手にコモットモをぶら下げて満足そうにしている姿が、ツボに入ったようである。

「じぃさん、そんなに食うつもりかよ」

「お前さんも食べるだろう?」

 そういって、コウガクは手にしていたコモットモを持ち上げてみせる。

 それを見たセルゲイは、感心したような声を上げた。

 コウガクが捕ってきたコモットモは、捕まえるのに時間をかけただけあって、なかなかのサイズだったのだ。

 見た目はあまりよろしくないコモットモではあるが、味はなかなかのものなのである。

「惜しむらくは、酒がない事かな」

 コウガクの言葉に、セルゲイはにやりと笑顔を作った。

 ズボンのポケットの一つに手を入れると、長方形の瓶を一本取り出す。

 琥珀色の液体に満ちたガラス瓶に、今度はコウガクが感嘆の声を上げる。

「まあ、合うかどうかわからねぇけどな」

「いやいや、上等上等。泳いできたから、体が冷えてしまってね」

「だろうなぁ。まあ、あったまってくれ。そいつは俺がやっとくよ」

 セルゲイが指差したのは、コウガクが持っているコモットモである。

 既に絞めてあるのか動かないそれを、コウガクはうなずきながらセルゲイに手渡す。

「すまないね。そうさせてもらおう」

「任せなさいって。独り身のおっさんは料理も美味いもんなんだぜ?」

 セルゲイの物言いに、コウガクは思わずといったように笑い声を上げた。


 コモットモの体の何箇所かにナイフを入れた後、海水へいったんくぐらせる。

 後は長い足をツタで縛り、火の中に放り込む。

 全体が赤くなってきたら、食べごろだ。

 金網の上で焼けばもっと上品なのだろうが、この方法は漁師なども行うそれなりにポピュラーなものである。

 コモットモの殻はかなり厚いので、このぐらいのことをしても火が入りすぎる事はない。

 その身はたっぷりと汁気を含んでいながら、弾ける様な弾力がある。

 ただ、殻ごと焼くときはコツが必要で、汁気が殻の中にたまり弾けないようにしてやる必要があるのだ。

 そのために火に入れる前に何箇所か切れ込みを入れるのだが、これが多すぎると美味い肉汁が全部飛んでしまう。

 少なすぎれば、せっかくのコモットモが弾けて台無しになってしまうのである。

 この加減はなかなかに難しく、何度か失敗をして覚えるものであると言われていた。

 どうやらセルゲイはこの加減を体得していたらしく、見事にコモットモを焼き上げて見せたのだ。

 美味そうな焼き色の付いたコモットモを、セルゲイはナイフ一本で器用に解体していく。

 皿などと言う気の利いたものは無いので、剥かれた身が並べられるのはそこらに生えてきた木の葉の上だ。

 だが、それがまた一種の風情をかもし出している。

 そこで、セルゲイはズボンのポケットからあるものを取り出した。

 緑色の柑橘類で、スグリという植物の実である。

 どうやらこの罪人の森の中で見つけたものらしく、瑞々しい色合いをしていた。

 セルゲイはこれを半分に切ると、コモットモの身の上で絞り、その汁を振りかけたのだ。

 もうそこで齧り付きたくなっていたコウガクではあったが、ぐっと我慢をする。

 まだ料理は終わっていない様子だったからだ。

 セルゲイが次に取り出したのは、白い塩の入った瓶であった。

 塩にも色々有るが、これは実にキメの細かい塩である。

「随分細かそうな塩だね」

「おお。仕上げ用にな。こいつを高い所からさらっとかけてやると、全体に塩っけがつくんだよ。塩分とりすぎねぇようにするための工夫だな」

 塩と言うのは舌に当ったときに強く感じるものなので、同じ量でも舌に当った場所に多いほうが強く感じるものなのだそうだ。

 塩を入れたお湯でゆでなくても、これならば塩気を感じる事ができる。

 何より塩分が気になる年頃である二人には、丁度良いだろう。

「よし、こんなもんか。出来たぞじぃさん」

 セルゲイのその言葉に、コウガクは待ってましたとばかりに手を伸ばした。

 足の身をつまみ上げ、口の中に入れる。

 ふわりと魚介特有の旨みの詰まった汁が、口いっぱいに広がった。

 身はぷりぷりとしていて、かみ締めればかみ締めるほどに味が溢れてくる。

 そこにあわせられたスグリの酸味と最後に振りかけられた塩加減が絶妙で、まったくコモットモの味を邪魔していない。

 むしろ、ぐっと大きく引き立てるように感じた。

 ごっくりと身を飲み下したら、今度は旨みが口から消えてしまう前に酒をあおる。

 セルゲイが持っていたものなのだが、これが度数が高い割りに煙で燻した様な味のする酒で、実にコモットモの身に合うのだ。

 香りが強いので味が勝ってしまいそうなものなのだが、これが不思議としっくりと馴染むのである。

 この組み合わせの妙に、コウガクの手は二度三度とコモットモの身に伸びた。

 そのたびに酒を煽り、同じ回数だけ唸り声を上げる。

 そうさせるだけの力が、このコモットモと酒の組み合わせにはあったのだ。

 何度かそれを楽しんだ後、コウガクは、はっ、と、肝心のことを思い出した。

 セルゲイに、何故この土地に着たのか聞かなければならなかったのだ。

 コウガクの目的は、勿論赤鞘に会う事である。

 この土地の結界が解かれた理由を聞く事や、アグニー達の様子を見る事などもあるが、まず第一の目的はそれだ。

 セルゲイ達の目的はわからないが、今この時期この場所に居ると言う事は、結界が解かれた事に関係が有るに違いないだろう。

 その理由を調べるためか、はたまた別の目的か。

 なんにしても、赤鞘に無関係とは思えない。

 協力するにしても、それを止めるにしても、話を聞かない事には始まらない。

「それで、お前さんはなにしにきたんだね?」

「ん?」

 酒をあおりながら、セルゲイはコウガクのほうへと顔を向けた。

 口元を手首でぬぐい、難しそうに唸り声を上げる。

「なんつーか、色々と仕組まれてたみてぇでなぁ」

 そういうと、セルゲイは順を追って説明を始めた。


 セルゲイの話は、このようなものであった。

 大仕事を一つ終え、行きつけの飲み屋に行くと、いつも情報のやり取りをしている女が現れた。

 その女の話で「見放された土地」に興味を持ち、とりあえず近くの港を目指し出港。

 航海の途中、船の中に仕掛けられていたらしいものが飛び出してきて、突然音声と映像を再生し始めた。

 それは件の女のものであり、仕事があるから「見放された土地」に来いと言うメッセージであった。

 その仕掛けは直ぐに自壊したのだが、後には大粒の宝石が残ったのだという。

「手付金、と言うやつかね?」

「ああ。それと、記録してた音声と映像を解析したら、なんかほかにもちらほら情報が入ってたみてぇでなぁ」

 船内で起こったことであったため、それらは一部始終全てを記録されていたのだ。

 映し出された女性の映像を細かく刻んでみると、ノイズのようにある映像が入っていたのだと言う。

「俺ぁ門外漢だから良くわかんねぇけど、それをなんやかんやしたらここの地図データになったんだとさ。それもかなり正確な」

「ふぅむ。この土地に縁が無ければ手に入らないような、ということかね?」

「ご名答。最初はステングレアを疑ったが、あの連中ならそもそもよそ者を近づけようとしねぇ。元の持ち主であるホウーリカでも無かった。となるとだれだっつー話になってな? 残った宝石ってのもなかなかでよぉ」

 そういうと、セルゲイはポケットから拳大はあろうかという宝石を取り出した。

 そして、それを無造作にコウガクへと放り投げる。

 反射的にそれを受け取り、コウガクはあきれたように顔をしかめた。

「お前さん、これはなかなか高価なものなのだろう? 投げたらいかんのではないかね?」

「まぁまぁ。とりあえず見てみてくれ」

「ふぅむ。ほぉ……」

 コウガクは宝石を覗き込み、驚いたように目を大きく開いた。

 中に込められた力の流れが、異様なほど整えられていたからだ。

 宝石の多くには、力の流れを内部に留めておく性質がある。

 そのため魔法の媒介などに使われる事もあるのだが、内部の流れ自体を整えると言うのは非常に難しいものであった。

 人工物と自然物の違いとでも言えばいいのだろうか。

 人間の手で整えたとしてもどうしても妙なパターンのようなものが残ってしまうのである。

 そういったものが一切無い、純粋に内部の力が整った宝石があるとすれば、その生まれは極限られたものであるだろう。

 たとえば、シャルシェリス教の「山」に百年単位で安置され、外部の影響を受けたか。

 あるいは、何らかの原因で上位精霊か神が整えたか、などである。

 なんにしても、尋常な理由で生まれるものではないのだ。

「これは……大国の宝物庫にあるような代物だね。山にならばいくつかあるが……」

「だろう? 売りゃぁ、うん十億って代物だろうけどなぁ。売れやしねぇだろそんなもんおっかなくて」

「まず買い手が付かないだろうね。なるほど、こんなものをぽんと渡してくる相手に目をつけられたと思えば、出張る気持ちもわかるね」

 虎の子である移動拠点の内部に侵入を許した挙句、こんなバカげた代物を置いていくような相手の言う事を聞かないと言うのは、いかにもまずいだろう。

 命がいくつあっても足りるものではない。

「しかし、そんな事情を私に話してよかったのかね?」

「ああ。それこそじぃさんがこんなところに居るんだ。並みの事情じゃねぇだろうよ。傭兵の守秘義務なんていってる場合じゃねぇ事だってあらぁな。それに、こんだけの事を仕掛けてくる奴だ。俺とじぃさんの仲も知ってるだろうよ」

「お前さん、ことによってはその依頼人、人間ではないとにらんでおるのではないかね?」

 コウガクの言葉に、セルゲイは肩をすくめる。

 唸るようにため息を付くと、酒瓶を大きくあおった。

「正直なところ、よくわからねぇなぁ。だが、人のいねぇところにシャルシェリス教の、それもじぃさんが居るんだからな。無関係なはずはねぇ。なんにしても、こういうのはじぃさんの専門だからな。俺には判断つかねぇさ」

 その物言いに、今度はコウガクは唸り声をあげた。

 セルゲイがこの場所に呼ばれた事と土地の封印が解かれたことは、無関係にも見える。

 だが、そうだと断言してしまうのはいささか無理があるのではないだろうか。

 報酬だという宝石は精霊や神がかかわらなければ生まれない、神話などに登場する類の、それこそ国宝級のものである。

 そんなものを持った何者かが、彼らをこの場所に呼び寄せたと言うのだ。

 どこぞの酔狂な国が、そんな事をしなかったとは言い切れない。

 言い切れないが、あまりに妙な話だ。

 自分の国の手を汚さず見離された土地に接触したかったと考えても、ならば何故用も伝えずこの場所に直接来させたのか疑問が残る。

 もう一つ妙なのは、隠して伝えられたと言う地図情報だ。

 何故そんなものを持っていたのだろうか。

 上空から映像の一つも撮影すれば、地図を作る事自体は簡単だ。

 だが、ここは「見放された土地」である。

 近づこうとするものすら居ないのに、上空を飛ぶようなものは皆無といって良い。

 直接の接点こそ無いものの、コウガクの用事とセルゲイの依頼人は、何かしらのかかわりがあるように思われた。

「しかし、本当に結界消えたんだなぁ。まあ、あったっつう結界自体見たことねぇけど。ゴタゴタすんぜ、こりゃ」

 既に確認したのだろう。

 セルゲイは首を伸ばして、見放された土地に広がる荒地を見渡した。

 見渡す限り、土がむき出しになった更地だ。

 元々交通拠点として栄えていた面影は、残っている港跡だけだろう。

 立地条件が整っているだけに、もしこの土地が開放されたとなれば、欲しがる国は五万と居るだろう。

 元々はホウーリカ王国のものであっただけに、そこに収まるのが一番落ち着きはいいはずだ。

 だが、難癖をつけてくる国は必ず出てくる。

 まず間違いなく、武力衝突は起こるだろう。

「ん? なんだありゃ」

 あたりを見渡していたセルゲイの目に、妙なものが映りこんだ。

 見放された土地の上を、まっすぐにこちらに向かってくるものを見つけたのである。

 セルゲイの声に、コウガクもそちらのほうへと顔を向けた。

 そして、大仰に眉をひそめた。

 何かが土煙を上げて、こちらに向かってくるのだ。

「なにかね、あれは」

「さあ?」

 セルゲイとコウガクは、お互いに首を傾げあうのであった。


 二人の目の前には、首の無い巨大な亀のような物が立っていた。

 無機質な素材で出来ているらしいそれは、別の言い方をすれば四足の付いた荷台のような代物である。

 なんにしても、一目見て生き物ではないと思われた。

 その上には、妙な衣装を着込んだ少女が立っている。

 野真兎の民族衣装である「着物」に似たそれは、上から下まで真っ黒に染められていた。

 衣装と同じ黒髪の少女はにっこりと笑うと、5mはあろうかというその巨大な何かの上から飛び降りた。

「シャルシェリス教のコウガク殿、そして、セルゲイ・ガルティック殿とお見受けします。私はこの土地を守るガーディアンの一体、土彦。以後お見知りおきを」

 そういうと、少女、土彦はゆっくりと頭を下げた。

 その様子に、コウガクとセルゲイは思わず顔を見合わせる。

 二人とも、一目で土彦が尋常のものではないと見抜いていた。

 そのぐらいが出来ないようでは、二人ともとっくに天に召されているような修羅場をくぐってきているのだ。

 だが、まさか神に仕えるガーディアンが直接人間の前に現れて、まして頭を下げるとは思っていなかったのである。

「ご紹介、承りました。確かに私は、シャルシェリス様にお仕えしておりました僧、コウガクにございます。こちらのものも、確かにセルゲイ・ガルティックに間違いございません」

 それを聞いた土彦は、にっこりとした笑顔を作った。

 そして、ぱちりと両手を合わせる。

「ああ、人間違いでなくて良かった! お二方とも、お待ちしておりました! 道中大変だったでしょう!」

「お二方とも?」

 そんなセルゲイの言葉に、土彦は大きくうなずいた。

 そして、懐に手を伸ばすと、握り拳よりも少し大きなものを取り出す。

 それを見たセルゲイは、驚いたように目を開いた。

 土彦の取り出したもの。

 それは、マッドアイであった。

 セルゲイの船に仕掛けられていたものと、同じものである。

「そいつは……」

「これは、私が作ったものです。貴方の船に置いてあった物は、私がある方の依頼で作りました」

「参ったな」

 なんともいやそうな顔をするセルゲイを見て、土彦は実に面白そうに笑い声を上げた。

「そうそう、セルゲイ殿! これは先にお知らせしなければなりませんが、お察しの通り、コウガク殿がおたずねのお方とセルゲイ殿の依頼主は、同じお方ですよ」

「なんと?!」

 その言葉に飛び上がって驚いたのは、コウガクであった。

 コウガクがたずねるお方といえば、赤鞘のことである。

 ガーディアンであると言う土彦だから、恐らくその事は知っているだろう。

 その上で、セルゲイに依頼をしたいと言うお方は、コウガクのおたずねのお方と同じだと言うのだ。

 それは、セルゲイの依頼人が、赤鞘であるということに他ならない。

 神が傭兵を雇いたいと言うのだから、驚かずには居られないだろう。

 そんなコウガクの様子を見て、土彦はますます面白そうに笑った。

「あっはっはっは! いや、失礼! 驚かれるだろうとは思いましたが、まさかそこまでとは思わず! まあ、とにかく。よろしければ、まずはご案内しましょう。道々ある程度の説明もさせていただきます」

「ご案内といいますと。まさか……」

「はい。赤鞘様の所です」

 面食らうコウガクに、土彦はにっこりとした笑顔でそう告げた。

すげぇ長くなったような気がしてたけど、そんなことなかったぜ。

次回は潜水艦の人たちの様子と、土彦の見放された土地ツアー。

でもって、プライアンブルーさんたちがアインファーブルに着いたあたりを書ければいいなぁと思います。

年内更新できるかしら。

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