七十六話 「え、これ定職って言うかバッテリー的な何かじゃないの?」
小さなギルド製のエンジンを積んだ漁船の舳先に座り、コウガクはジッと空を見ていた。
風の流れや空気の湿り気。
そして、世界に満ちる力の流れを感じ取る。
そうすることで、今後の天気を予測しようとしているのだ。
コウガクの予想が正しければ、後四日もすれば嵐になるはずである。
「これもシャルシェリス様のお導きかな」
おかしそうに笑うコウガクを見て、後ろで海を見ていた女の子が不思議そうに首をかしげた。
この船の持ち主の孫であるその少女の首には、ガラス細工のような物がついた首飾りが下げられている。
門土と別れ、ココ村を出たコウガクは、昔何度か訪れたことのある漁村へと足を向けた。
その漁村の面する海岸は、見放された土地とつながっているのだ。
そう。
コウガクは門土が言っていた方法を試してみるつもりなのである。
天候が荒れるのを待って、浅瀬を選び海の中から見放された土地に近づく。
かなり無茶苦茶で、相当な力業だ。
だが、そのぐらいしか方法が思いつかないのもたしかである。
ならば仕方ないと、コウガクは天候が荒れるのを、漁村で待つことにしたのだ。
天気の具合を見るために、時折漁船に乗せてもらいながら、村人達の傷や病を癒す。
そんなことを十日ばかり続けたその日、コウガクはついに嵐の予兆を感じ取ったのである。
「コウガク様、どうかなさったんですか?」
船の持ち主である老人に声をかけられ、コウガクは後ろを振り向いた。
釣りの名人であるというその老人は、既に四十cmはあろうかという大物を六匹も釣り上げている。
丸々と太り脂の乗ったその魚は、なべに入れても、刺身で食べてもうまい。
「おお。これは立派だね。実にうまそうだ」
思わず声を上げたコウガクに、老人は笑い声を上げる。
コウガクの後ろにいた女の子は、うれしそうな声を上げ魚へ駆け寄った。
魚の前にしゃがみこみ、ぺたぺたと叩いている。
そんな様子を見て、老人とコウガクは同じような様子で笑う。
「いやいや。天気を見ていたのだけれど、嵐が来るようでね」
コウガクの言葉に、老人は驚いたような表情を作る。
だが、すぐに納得したようにうなずいた。
「この時期は漁には良いのですが、時たま大きく荒れる事があるんですよ。おそらくそれでしょう。いつごろ来そうですか?」
「大体四日後ぐらいかな」
「なら、村の衆にも教えてやらないといけませんね」
シャルシェリス教の僧は、遠視や遠話など遠くを見る術をいくつも習得している。
地方に行ったときなどはそれらを使い、天気予測などをすることもあった。
それはかなり有名な話で、大きな町から離れた漁村や農村では、非常に重宝され、信頼されているのだ。
興味が魚から天気へと移ったのか、女の子は魚から離れ、再び船の縁へと移動した。
首飾りをはずすと、くくり付けられているガラス細工のようなものを指でつまむ。
一辺が二cm程度の小さな正方形をしたそれを、女の子は片目を瞑って覗き込んだ。
その様子を見たコウガクは、感心したようなため息をつく。
「きれいな首飾りだとは思っていたけれど、ギルドの遠視道具だったんだね」
コウガクの言葉通り、女の子が首から提げていたそれは、ギルド製の魔法道具だった。
結晶魔法と呼ばれる種類の魔法で、ギルドが組織として使用している魔法である。
使い勝手が大変よく、こつさえ掴めば誰にでも使えるように調整されているそれは、ギルドの財力と地位を下支えするものの一つであった。
ほかの国の魔法に比べれば安価で使いやすくはあるが、それでもこんなに小さな女の子が持つようなものでも、まして扱えるようなものでもないはずだ。
「そうだよ。ぼうけんしゃの、おにぃちゃんが、くれたの」
女の子はそういうと、うれしそうに笑ってみせる。
その笑顔につられるように、コウガクも楽しそうに笑った。
女の子の言葉に付け足すように、老人が声をかける。
「以前、このあたりで魔獣が出たときに冒険者さんを呼びましてな。その中の一人が、孫娘に下さったんですよ。なんでも、魔法の才能があるから、とかで」
「なるほどなるほど。奇特な冒険者もいるものですな」
ほかのものよりも扱いやすいとはいえ、魔法である以上結晶魔法も習得するのにはそれなりに時間がかかる。
魔法に対する理解も必要なので、そういった意味からも、こんなに小さな女の子に扱えるようなものではないはずなのだ。
「確かに才能があるんだろうね。魔力の流し方も上手い」
「ぼうけんしゃの、おにぃちゃんは、もっとじょうずだった! おしえてくれたの!」
「なるほど。教え方も上手だったようだね」
コウガクがそう言うと、女の子はにんまりと笑い、再び魔法道具を覗き込む。
少女が持っているのは、いわゆる遠眼鏡のようなものであった。
見た目は小さいが、魔力を流すことでかなり遠くまで見渡すことが出来るものだ。
倍率なども調整でき、見ているものとの距離も、大まかにではあるが割り出せるという優れものである。
「高価なものだとは思うんですが、金具が外れたからと孫娘に下さりましてな」
「たしか、この船の動力もギルドのものだったね。お孫さんに手伝ってもらえるようになるのも、すぐかも知れないね」
「そうなってくれると、ずいぶん助かりますな!」
冗談めかして笑う老人だったが、まんざらでもなさそうな顔をしている。
やはり、孫を褒められると嬉しいらしい。
そんなことを言っている間にも、老人はまた一匹魚を釣り上げた。
「おお、大漁ですね」
「はっはっは! コウガク様が船に乗って下さっておるご利益かもしれませんな。今夜はこれを料理してお出ししましょう」
「それは! いや、楽しみだね。実は方々旅をして回っているのは、あちこちのうまい物が食べられるからなんだよ」
コウガクの言葉に、老人は思わずといった様子で笑い出した。
それを見たコウガクも、実に愉快そうに笑う。
二人に釣られたのか、一瞬不思議そうに首をかしげながらも、女の子も大きな声で笑い声を上げる。
小さな船の上で、三人はしばらくの間楽しそうに笑っていたのであった。
コウガクの予想通り、その日の天候は荒れていた。
大嵐、という程でもない、せいぜい小嵐というような荒れ具合だろうか。
海岸近くに船があれば危ないかもしれないが、漁師達は既にコウガクの声かけで陸に船を動かし終えている。
そのためか、波の打ちつける港には一隻の船も浮いていなかった。
空には厚い雲が垂れ込め、明りはほとんどない。
コウガクの目でも、光での視界は確保できないほどである。
明りがないだけでなく、風も強ければ雨脚も強いのだ。
コボルト、つまり犬の獣人であるコウガクでも、これでは耳も鼻も役には立たない。
今コウガクが使っている感覚は、いわゆる五感ではない、まったく別のものであった。
第六感。
魔法を使い、あたりの事象を把握する業を使っているのだ。
全身に刻んだ文字と、お経のような呪文を共鳴させて発動する魔法。
シャルシェリス教の僧侶が扱う経典魔法は、こと探索や探知に強い魔法なのである。
数百年かけてその業を磨いたコウガクにとっては、これしきの雨風は障害にならないのだ。
「やれやれ。老骨に鞭を打つかな」
そうつぶやくと、コウガクはぐるりと首をまわした。
それに呼応するように、コウガクの全身の皮膚に刻まれた文字列が輝く。
上から下へ、下から上へ、まるで読み上げている場所を示すように光は動き続けている。
その動きは、コウガクが囁くように読み上げる呪文と同調したものであった。
もし風と雨音に邪魔されなければ、低く落ち着いた、歌うような声を聞くことが出来ただろう。
普段は毛の下に隠れている文字列が輝くことにより、コウガクの体からはまるで光のオーラが立ち上るように見えた。
数秒間の呪文の詠唱の後、それは唐突に訪れた。
ドクン
まるで鼓動のように、コウガクの体が大きく脈打ったのだ。
そして、次の瞬間。
コウガクの体が、数倍にも膨れ上がったのである。
小さな老人のものであったその体は見る見る大きく膨らみ、身に着けていた法衣を引き裂いていく。
身の丈は一周りも二周りも大きくなり、太ももや二の腕は張り裂けんばかりの筋肉に包まれていった。
あっという間に変貌したコウガクの姿を一言で言うとするならば、仁王像といった所だろう。
あまり変化のない顔以外からは、ほとんどコウガクの面影は消え去っている。
残っているとすれば、せいぜいその毛並みの色程度だろう。
この変貌の正体は、経典魔法のもう一つの得手、肉体強化によるものであった。
体に刻んだ文字と、口から発する呪文の二つを使い発動させる経典魔法は、自身の肉体に影響を与える術にも調和性が高いのだ。
刻み付けた文字列と言葉によって、自分の体を強固な筋肉の壁とし、槌とする。
コウガクが今使っている魔法は、有事があれば己の身を盾に民を守る、シャルシェリス教の教えを体現した魔法といえるだろう。
そして、コウガクが最も得意とする魔法であった。
「しかし、ココから泳ぐとなるとどのぐらいかかるのかな。息継ぎもしないようにしたほうがいいのかもしれないね」
確認するようにそうつぶやくと、コウガクはぐるりと腕を回す。
立ち上るオーラのような光をまとう腕が、唸る様に弧を描く。
まるで丸太のような腕が、風雨を吹き飛ばすような勢いで回された。
コウガクは僅かに身をかがめると、全身のばねを使い、思い切り跳躍する。
放物線を描いて海へと向かうその体は、優に二十mは垂直方向に跳んでいるだろう。
頭上でそろえた両手からきれいに着水すると、そのままするすると水の中へと沈んでいく。
風などでの海の荒れというのは、あくまでその表面のみでの出来事である。
深く潜れば潜るほど、その影響から逃れることが出来るのだ。
勿論それでも多少流れは普段よりきつくなってはいるが、風雨と波に揉みくちゃにされる海面近くよりはずいぶんましだ。
一気に海底までたどり着くと、コウガクはそのまま地面に沿うように泳ぎ始めた。
視界は一切なく、耳に届くのは嵐の風雨と波の砕ける轟音のみ。
だが、魔法による探知は問題なく機能していた。
今のコウガクにはよく晴れた日の視界よりも、ずっと広い範囲が知覚出来ている。
僅かに気にかかることといえば、持って行くわけに行かなくなってしまった荷物のことだろうか。
大荒れの海の中を進むのに、背負子の薬箱は邪魔だったのである。
強い薬は悪用される恐れがあるので、書や背負子と一緒に燃やしてしまってあった。
常用できるような弱い薬は、漁村の村長に村人のために使ってくれとあげてしまってある。
僅かばかり持っていたギルドの魔法道具は、船に乗せてくれた老人の孫娘にあげてしまった。
あの歳で遠視道具を使うことが出来る女の子だから、きっと有益に使ってくれることだろう。
多少護身用の危険な道具もあるにはあるが、まあきっと使いこなすはずである。
海底をすべるように進みながら、コウガクは一人納得するようにうなずいた。
この調子で進めば、おそらく明け方には見放された土地に到着できるだろう。
土地神であると言っていた赤鞘との対面を楽しみにしながら、コウガクは力強く海中を泳ぐのであった。
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ガルティック傭兵団の潜水艦。
その操舵室の中心に、女性が浮いていた。
黒髪に、黒目。
やや浅黒い肌をした、どこか理知的な印象を受ける顔立ちである。
そんな女性の体は、まるで実態が伴っていない存在であるかのように半透明であった。
実際、人工精霊と呼ばれる物である彼女の本体は、コブシ大の魔石である。
宙に浮いている半透明なその体は、空間に投影された半実体の映像なのだ。
「海底面が近づいてきました。斥力波航行に異常をきたす恐れがあります。タービン航行への移行を提案します」
歌うように滑らかに、まるで鈴を鳴らしたような美しい声が響く。
一瞬聞きほれていたらしいクルーの一人が、はっとした表情でモニタに目を走らせた。
「どんぴしゃです。ぼちぼち斥力波が海底に影響するんで、タービンのほうに移る準備してください」
「おいおい。人工精霊のお嬢さんに仕事取られてんじゃねぇか」
おどける様にそういったのは、船長席に座るいかつい顔立ちの男であった。
セルゲイ・ガルティック。
ガルティック傭兵団の団長にして、この船の船長でもある男だ。
「いや、そうは言いますけど団長、モニタとかにその予兆出たの、お嬢さんが言った後ですぜ?」
「ああん?」
いぶかしげに眉をしかめるセルゲイに、人工精霊はこくりとうなずいて見せる。
「その方が言っていることは事実です。この船の探知設備は非常に優秀で、必要範囲外の情報も探ることが可能です。通常航行中そこまでの情報を表示すると却って危険に気がつきにくくなるため、画面上ではカットされています。勿論索敵時にはそれらの情報も表示されますが、今現在はその必要はありません。私が余計な気を回してしまいました。申し訳ありません」
「いやいや、そんなことないっすよ!」
「美人だから許す!」
頭を下げる人工精霊に、ほかのクルー達が口々にフォローを入れる。
荒くれである団員達が美人に弱いのは、いつものことだ。
「いや、ならいいんだが。なんでお嬢さんがそんなことわかるんだ?」
潜水艦の制御に携わる人工精霊であるならいざ知らず、その人工精霊は外部から入ってきたものであった。
艦とのつながりは一切無いはずであり、本来索敵範囲などと言う機密にも近いことを知るはずも無いのである。
「ああ、それなら、俺が船とマルチナの直通回線を繋げたからだよ。今は彼女はこの船の守護精霊さ」
事も無げにそう言ってのけたのは、セルゲイの後ろに立っているメガネのエルフ青年であった。
ドクターと言うあだ名だけで呼ばれている彼は、ガルティック傭兵団の専属魔法学者である。
その卓越した魔法兵器運用能力から、前線に出ることも珍しくない。
ドクターの言葉に、セルゲイは驚いたように眉を上げる。
「平気だからやったんだとは思うが、乗っ取られたりしないのか?」
「どうだろうね。やろうと思えば出来るんじゃない?」
肩をすくめてそういうドクターの言葉で、人工精霊、マルチナに視線が集まる。
だが、マルチナは首を左右に振って見せた。
「この船には、複数の魔法体系が使用されています。私は私を形作る体系の魔法に関する知識しか与えられていませんので、そこまでの事はできません。通常の出入力を行うことは出来ますが、ソースの解読や改変などは不可能です」
「つまり、どういうこと?」
「彼女一人でこの潜水艦が動かせるってことだね」
「十分とんでもねぇじゃねぇか」
口ではそういいながらも、セルゲイは面白そうに笑顔を作った。
どうやら口で言うほど、心配はしていない様だ。
「あの。僕の状態もなんか、すっごくとんでもないっぽいんですけど」
そんな声に、セルゲイは後ろを振り向いた。
そこにあるのは、大きな樽だ。
声の主は、その樽の中に入っていた。
まるで絹糸のような白い肌に、黒一色の眼球。
頭部にはねじくれた角が生え、背中には真っ黒な翼が生えている。
その容姿は異様なほど整っており、まるで伝説に語られる悪魔を思わせるようであった。
もっとも、その「鼓動を打つのもめんどくさい」と言わんばかりにやる気のなさそうな表情を除けば、ではあるのだが。
マルチナは、この樽に入っている男の持ち物であった。
この男の体内には、マルチナの本体である魔石が埋め込まれている。
男の体から供給される魔力によって、マルチナは稼動しているのだ。
その男の手足には、なにやら手錠と足枷のようなものがはめられていた。
分厚い金属製のそれには、鎖の代わりに図太いコードのようなものが取り付けられている。
「これってもしかして、僕の魔力吸ってません? 魔力吸ってませんこれ」
「もしかしなくても吸ってるよ。そりゃもうガンガン」
男の言葉に答えたのは、ドクターだった。
樽の後ろに回り、実にいい笑顔で男の肩を叩く。
「手の空いてるやつは親でも使えっていうからね。君が寝ている間に勝手に繋げさせてもらったよ」
「ていうかこれ、僕動けなくありません?」
「拘束具のついでだからね。彼女がきちんと捕まえておいてくれ、ってさ」
そういってドクターが指差した先にいたのは、マルチナであった。
向けられた男の視線に、マチルナはこくりと頷いてみせる。
「主はそろそろ定職に着くべきだと思います」
「定職って。え、これ定職って言うかバッテリー的な何かじゃないの? 僕思いっきり捕まってない?」
「いや、払うよ? 給料。燃料費浮くし」
こともなげにそういうのは、セルゲイだ。
その言葉に、クルー達が愉快そうに笑い声を上げる。
「確かにすげぇ魔力量だよなぁ。今そいつ一人でこの艦のエネルギーまかなってんだぜ?」
「魔力の高いエルフなら出来ないことじゃないって聞いたけど、こうして実際見てみるとドン引きするな」
「戦闘時の供給も全部って訳には流石に行かないみたいだが、通常航行のときに燃料代が浮くってのはでっけぇぞ」
口々にそう言うクルー達に、セルゲイは満足そうに頷く。
それを見て、男は顔を盛大に引きつらせた。
「いやいやいや。僕怪しいやつですよ。スパイとかかも知れませんよ」
「主のパーソナルデータ、およびココまでの行動記録は既にドクターに提出済みです」
「おおよその話は聞いたしね」
「僕が寝ている間になにがあったの?!」
ドクターの手にある携帯端末を見て、男は悲鳴にも似た声を上げた。
そこにあったのは、男の最近の行動や家族構成などの、完全な個人情報であったのだ。
「履歴書の代わりとして提出しました。傭兵組織に所属しようとした場合、素行調査までされるということでしたので手間を省くために提出されていただきました」
「まあ、命を預ける事になるからなぁ。ある程度は仲間になる前にやっとくが、もらったのぐらい詳しくはやらねぇよ?」
「好きなおかずから性癖まで書いてあるからね、これ」
「いやぁ! 戻ってきて僕のプライバシー! っていうか! これ裏切り行為だよね! 一応ご主人だよ僕!」
「私は主のご両親から、くれぐれも主を頼むと言われています。今までは事情が事情でしたが、今は絶好の就職のチャンスです」
「ぐふっ!」
マルチナの言葉に、何かしらのダメージを受ける男。
どうやら「就職」という単語に反応したようであった。
「僕樽の中に入って漂流してるほうが幸せだったんだけどなぁ……」
「欲の無いやつだな」
面白そうに言うセルゲイ。
その横に動いたドクターが、あきれたように肩をすくめる。
「今だって樽に入ってるよ」
「魔力って吸われると意外と疲れるんですけど。なんかこう、ずっと歩き続けてる感じで。すぐにぶっ倒れるわけじゃないけどだんだんしんどくなって行く的な」
「目標到達まで、三十分を切りました。予定では海底にアンカーを打ち込み、船底から斥力波を発生させ船を固定。その後、海が落着くのを待ち、依頼人が当船内に仕掛けていた小型魔法人形から提示された港跡地に進入予定です」
流暢に告げられたマルチナの言葉に、クルー達の表情が引き締まった。
セルゲイは手を叩いて注目を集めると、船長席から立ち上がる。
「お譲ちゃんが確認したとおりだ。海の中で荒れてはいるが、ステングレアの王立魔道院の連中の腕は中々のもんだ。隠密性を確保しつつ、上陸に備えて装備の確認。それから、万一に備えて戦闘機の準備もしとけよ」
「「「おう!」」」
力強い声で返事をすると、クルー達はあわただしく動き始めた。
それを満足げに眺めると、セルゲイは再び椅子へどっかりと腰を下ろした。
「え、なにこれ。うちの人工精霊が知らん間に潜水艦の中央人工知能みたいになってるんですけど」
「彼女は優秀だね」
おかしそうに笑いながら、ドクターは男の頭をぽんと叩く。
そして、ひらひらと手を振りながら出入り口へと向かう。
「技師として彼女を作った人物の腕に嫉妬するよ」
「あれ。アンタ、マルチナ解析でもしたの?」
「少しだけね。俺の知ってる魔法体系と違いすぎて、あまりうまく読めなかったけど」
ドクターはくるりと振り向くと、意味ありげに笑う。
「それに、女性にはあまり興味も無いからね」
「え、なにそれこわい。どういう意味それ」
表情を引きつらせる男を無視して、ドクターは操舵室を後にする。
固まっている男を見かねたのか、セルゲイが声をかけた。
「ごっついのよりもお前さんみたいなのがタイプらしいよ」
「あの、僕帰っていいですか?」
背中の羽をガクガクと震わせながらつぶやかれた男の言葉は、完全に無視されるのであった。
明日少し忙しくなりそうなんでがんばって仕上げてみました。
次回、両方とも土地に到着します。
なんかなろうコン改、じゃなかった、二回の枠が大幅に増えるらしいっすね。
すげぇ!
私も引っかかったりしないかなぁ・・・
出版されるとか夢ですよね・・・
一応応募はしてるんですが、一次選考に残るかどうかがまず不安です。