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七十三話 「なぁに、簡単ですよ!」

 川というのは、日本では古来から信仰の対象であることが多かった。

 神が宿る、あるいはそれそのものが神であるなど、例を挙げればきりはない。

 それは赤鞘の出身地でも同じであり、川には神様がいるのだと教えられていた。

 日本の川は細く長いことから、その姿はよく龍に例えられる。

 川には竜神様が宿っていて、悪いことをしたら食べられてしまう。

 そんな話を聞き、幼心に震えあがっていたことを、赤鞘はよく覚えていた。

 何せ神になってから実物にあうことになったのだから。

 神無月に出雲で竜神様を見かけたときの衝撃は、赤鞘は今でも忘れられないでいた。

 それはともかく。

 赤鞘のイメージとして、龍というのは神であり、川を象徴するものであった。

 川が水の流れてあることから、竜神というのは水の象徴とされる事も多い。

 そのことから、水をたたえる湖に竜神が住むという伝説も多かった。

 このように、日本において水と龍とは、とかく切っても切れない関係なのである。

 まあ、八百万というように、途轍もない数の神々が日本には暮らしているわけで。

 「絶対にこう」と言い切る事が出来ないわけではあるのだが。


 とにかく、少なくとも赤鞘にとって水と龍というのは、もはやワンセットといっていいものであった。

 特にそれが神性を帯びているものであれば、なおさらである。

 神性を帯びるというとこは、それだけ信仰されている川であり、えらいということだ。

 水にからむ龍であるとなれば、それはもう赤鞘にとっては完全に雲の上の存在である。

 だから。

 龍の姿になった水の精霊の背中に乗った赤鞘は、恐ろしいほど緊張しまくっていた。

 そう。

 水の精霊は、赤鞘が背中に乗りやすいようにと、龍のような姿になっていたのだ。

 こともあろうに、水の塊である水の精霊が、龍の姿になっているだ。

 龍で水である。

 水で龍なのだ。

 背中に乗っているので水の精霊にはよくわからないだろうが、赤鞘の表情はとんでもないことになっていた。

 がっちがちである。

 タイトルをつけるなら「今にも泣きそうな人」だろうか。

 赤鞘は人間時代も、神になってからも生粋の下っ端であった。

 相手が目上だと判断した時には、既に身体が反応してしまっているのである。

 もはや脊髄反射といってもいいだろう。

 いったい何でこんなことに。

 赤鞘の頭の中には、そんな疑問が渦巻いていた。

 一度人間として生きていた赤鞘だったが、生きているうちにこんなストレスにさらされた経験は一切なかった。

 人間生きているうちが華だというが、まったくその通りである。

 死んで神になってからのほうが、はるかに重圧とかにさいなまれている気がする赤鞘であった。

 思えば生前は一部しか気にしなかった八百万の神々が突然上司になり。

 その彼らがやっている仕事のむずかしさに驚き、自分がやることになったことに気が付き唖然となり、百年がかりでそれを身に着けたのだ。

 文字通り寝ることも食べることもなく、延々と仕事をし続けて、ようやく覚えたものである。

 ようやくそれなりに仕事がこなせるようになってきたと思っても、すぐに台風だ鉄砲水だ外から来た妖怪だと、土地を乱す要素には事欠かなかった。

 嫌がらせのように土地が引っ掻き回され、そのたびに調整しなおすのだ。

 たぶん人間のままであったら、一年ぐらいで過労死していただろう。

 そもそも寝る時間が一切ないので、多分一週間ぐらいで発狂しているはずである。

 神様ってすごい。

 そんなことを、神様になってから強烈に感じたものであった。

 何やら矛盾している気もしないでもないが、神になってからのほうが神様に対する信仰が厚くなった赤鞘である。

 そんなことを考えながら、赤鞘はじっと空を見つめていた。

 そう。

 現実逃避である。

 だいぶ弱ってきている赤鞘の精神に、今現在自身が水で出来た龍に乗っているという事実は、とても耐えられるものではなかったのだ。

「赤鞘様。そろそろ島に着きます」

「あ、はい、ごめんなさい」

 水の精霊に声をかけられ、反射的に謝ってしまう赤鞘。

 とりあえず謝ってしまうのは、日本神の特徴だろう。

 赤鞘は現実逃避で眺めていた空から、目線を少し下におろした。

 映ったのは、大分近づいてきている空中島である。

 表面に浮かび上がったきらきらと光る結晶は、すべて力の塊のようであった。

 なにあれ怖い。

 今更ながら、やっぱり来なきゃよかったんじゃないか、と、後悔し始める赤鞘であった。




 宙に浮かぶ島に降り立った赤鞘は、思わずため息を吐く。

 おおよそは岩と土で出来たその島であったが、ところどころきらきらと輝くものがあった。

 よく見なくても、赤鞘にはすぐにその正体がわかる。

 力の固まった、いわゆる魔石などと呼ばれるようなものだ。

 人間社会ではあまり出回らないのだが、これらさまざまな力の固まった石は日本神社会でも珍しいものではなかった。

 強い力の塊というのはいろいろと使い道が多く、赤鞘自身いくつか作っていたりもしたものである。

 とはいえ、影響を与えられる範囲が狭く、集められる力も小さかったため、出来上がる石も小さなものだったわけだが。

 ちなみに、赤鞘の周囲でそれらの石は、もっぱらギャンブルの掛け金として扱われていた。

 貴重で作るのが大変な割に、奪われても致命的ではないものだからである。

 赤鞘は神々の間でよく行われたギャンブルの中でも、「地図将棋」というのが得意で、よくほかの神々から石を巻き上げていたものであった。

 勝った時も負けた時も、「この石は小さすぎる」「いいや、適正だ」だなどとよく口げんかなどもしたものである。

 あのころは本当に、指先の先ほどの石を作るだけで大変だったものだと、赤鞘は日本にいたころを懐かしく思い出していた。

 土地に循環させる力だけでもカツカツなのに、固める力なんてそうそう稼ぎ出せるものではないのだ。

 あれこれ節約して、爪に火をともすような思いをして必死で作った石を賭け事で負けて巻き上げられるのである。

 時には殴り合いとかにも発展したものであった。

 そんなことを思い出しながら、赤鞘は島の表面に張り付いた石の一つにちらりと目を向けた。

 精霊が力を注いでいるそれは、いまだに成長中である。

 大きさとしては、だいたい大人がうずくまっているぐらいのサイズだろうか。

 でかい。

 一言でいうならそれだろう。

 ちなみに二言で言うなら「すごくでかい」である。

 それを見て引きそうになった赤鞘だったが、まてよ、と珍しく思い直した。

 心が折れる寸前で踏みとどまったのである。

 ここは日本ではなく、「海原と中原」だ。

 世界にあふれる力の量や質は、日本とは比べ物にならないほど多く良いのである。

 これは土地を管理し始めてからすぐに感じたことではあったが、特に気にすることはなかった。

 世界が違えばそういうものの質や量も違うだろうし、それならそれで平均がとても高いだけであり、仕事内容は変わらないだろうと思ったからだ。

 力の量も質もあるのであれば、石にしやすいのは当たり前ではないか。

 赤鞘は珍しく、すぐにそう思い至ったのである。

 赤鞘は少し目を凝らすと、精霊が操る力の流れを観察した。

 精霊たちは周りにふんだんにある力を、これでもかというほど石に注ぎ込んでいる。

 なるほど、これならばこんなサイズにもなるわけだと、赤鞘は大いに感心した。

「あれ? でも、なんでこんな石皆さんで作ってるんです?」

 赤鞘の疑問に、姿を老人に変じた水の精霊は、一つ頷いて答える。

「私ども精霊は、力の流れに常時干渉していることが出来ません。それほど力がありませんゆえ。ですので、こうして道筋を作るのです」

「あーあーあー。なるほどですねぇー」

 力というのは、ある程度同じ力に引き寄せられる癖の様なものがった。

 大きな力の塊があれば、周囲の力はそれに引き寄せられるのだ。

 力の塊である石を並べれば、自然と力はそれらに沿うように帯状に集まるのである。

 そこに流れがあれば、それは川のように流れ始めるわけだ。

 簡単な力の流れの道筋が出来るわけである。

 本来、力の流れを不眠不休で管理できる存在など、神ぐらいのものなのだ。

 それを精霊たちがやろうと思えば、何かしら特殊な手段を用いることになる。

 この力を固めた石こそが、精霊たちにとってのその「特殊な手段」だったのだ。

「これらを中間点として用いることで、私たちは流れを作り、そこに住みつくのでございます。この土地は力の流れが整っておりますので、とても作りやすくあります。さすが、赤鞘様です」

「いやいや。そんな大したものじゃないんですが」

「ご謙遜を。ほかのさまざまな土地に暮らした精霊もおりましたが、ここまでクリスタルの作りやすい土地は無かったと申しておりました」

「おお。クリスタル? ですか?」

「はい。赤鞘様の仰る石ですが、私ども精霊はその見た目が宝石などのようであることから、クリスタルと呼んでおります。属性のクリスタル、などですね」

「おおおー!」

 思わぬところで出てきたファンタジーっぽい単語に、赤鞘は思わず歓声を上げた。

 言われてみれば、確かに石、水の精霊の言うところのクリスタルには、それぞれ偏った力が込められていた。

 あるものは水などに相性のいいもの、あるものには火に近しいもの。

 それぞれが、それぞれに対応した精霊たちが作っていたのである。

「複数の属性の精霊がおりますので、力の流れを決めるのにもかなり難儀しました。何せ一カ所にこれだけの精霊が住むというのは、滅多にないことでございますから。あちらこちらに干渉して、なかなかうまくいかなかったのです。どうしたものかと皆で悩んでおりましたが、考えてみれば簡単なことでございました。赤鞘様の真似をすればよかったのです」

「むえ? 私の真似ですか?」

「その通りでございます。赤鞘様の管理のなされ方は、実に素晴らしく、バランスの良いものでございますから。それを真似れば、同じように整った場所が作れるだろう、と考えたのです。とはいえ、赤鞘様のように完璧なものからは、程遠くありますが」

 赤鞘は改めて、湖の力の流れを観察した。

 言われてみれば、力の流れには確かに赤鞘のくせの様なものも見て取れた。

 なるほどお手本にしているというのは本当なのだろう。

 そう考えてみれば、この浮いている島についても納得できた。

 この島は無駄に浮いているわけではなく、力の流れを制御するために、この場所にある必要があるのだ。

 赤鞘の目から見ても、力の流れは良く整えられていた。

 ベストではないが、ベターといったところだろうか。

 それにしてもたった数日でここまで仕上げるのは、至難の技だろう。

 精霊たちが協力し合った、賜物といっていい。

 その団結はエルトヴァエルの拳のもとに成されたというのが、若干アレなのだが。

「はぁー……。いやいや、よく管理されてますよ。なるほど、それでこの、クリスタル? が必要なわけですねぇー」

「恐れ入ります。赤鞘様の御業には程遠い児戯でございます」

「いやいや、そんなことないですよ。しかしまあ、なるほどねぇー」

 遠目に見てビビっていた赤鞘だったが、今の精霊の話を聞いて妙に納得するものを感じていた。

 必要だから、この島は浮いていたのだと考えると、ビビる気持ちが薄らぎ、感心が大半を占め始めたのだ。

 それは、橋の全長だけを聞いて疑問に思っても、実物を見ると必要なんだと実感する日本人独特の感覚なのかもしれない。

 山があれば穴を掘り、川があれば橋を架けるのが日本人だと言っていたものがいたが、実際そうなのだろう。

 それが生活に必要なものなのだとわかると、たとえどんな巨大なものであっても生活必需品に見えてしまうのだ。

 ダムとか巨大電波塔とかが該当するだろうか。

 土地の管理や力の流れの制御にかけては、赤鞘は専門家である。

 そのための装置と考えてみれば、もう赤鞘にビビりはなかった。

 目の前にあるものは神話的なすごい何か、ではなく、同業他社の仕事道具でしかないのである。

 もっともこの場合、精霊たちは赤鞘の守護のもとにある、樹木の精霊たちの部下であるわけで。

 樹木の精霊たちの部下的な意味で、子会社の子会社、孫請け会社の仕事道具になるわけだが。

「でも、そうなるとあれですねぇ。まだ小さいですよね、クリスタル」

「はい。まったくその通りで」

 日本神的感覚で見れば、精霊たちが作っているクリスタルは、既に途轍もないサイズになっていた。

 だが、ここは「海原と中原」だ。

 力の質も量も違いすぎるので、まだまだ影響力が不足しているのである。

「きちんと管理しようとすると、えー、ざっとこの島を覆い尽くすぐらいの量が必要ですかね? 内部ももぐりこんで大きなものを作っていって」

「そのように予定しております」

「うーん……」

 赤鞘は島のほうに顔を向け、キッと目を凝らした。

 島の土や岩を透かし、内部を見ているのだ。

 目の映ったのは、属性の精霊たちがクリスタルを作る姿である。

 物質的な体のない精霊たちにとって、岩や土は障害物にならないのだ。

 赤鞘も人の形をとっている霊体部分は実態が伴わないので、同じように壁抜けなどが出来る。

 だが、本体である鞘が思いっきり物質的なものなので、完全に通り抜けることは出来なかった。

 微妙に不便な体である。

 さて。

 最初は精霊たちがクリスタルを作っているのを見ただけでビビっていた赤鞘だったが、自分の商売道具に近いものだと思った瞬間完全に見方が変わっていた。

 抱く感想も、別のモノになっていたのである。

「なんというか。こう、あまり効率がよろしくないですよねぇ」

「はい。やはり神である赤鞘様ほど、上手くはいきません」

 赤鞘の目から見て、精霊たちの作業はかなり効率が悪かったのである。

 クリスタルを作るには一か所に流し込む必要があるのだが、そのやり方がどうにもおおざっぱなのだ。

 例えるなら、素手で川からビール瓶に水を移し替えているような状態だろうか。

「んー。そうですねぇー。例えばですけど。水気の多い力って、この辺の力と反発しあうんですよ」

 赤鞘は突然地面にしゃがみ込むと、地面の土を掴み、団子状に丸め始めた。

 どうやらそれに力を込めて、実演してみせるつもりらしい。

 ちなみに、これは土彦を産み出した時と同じような手法ではあるが、土彦の場合はかなり特殊な手順を踏んでいるのでまったく別である。

 PCを作るのと電気コタツを作るのぐらい違うと言っていいだろう。

 赤鞘は、手近な力に手を伸ばすと、指先をくるくるとまわし始める。

 それに合わせるように、力の流れは小さな渦を描き始めた。

「それぞれの力の流れって、相性があるじゃないですか。これは近づけちゃいけないとか、これとこれは横並びにしたほうがいいとか。そういうのをうまく使うのがコツなんですけど、とりあえず水の場合はこれですね。これを回転させて、引っ張るとですね」

 言いながら、赤鞘は出来上がった渦を引っ張った。

 すると、まるでストローのような管状のものが出来上がる。

「これは水に近しい力の流れと混ざらないので、この先で対象を覆って、そこに力を流し込めばほとんどこぼさずに力をため込めるんですよ」

 ちなみに。

 赤鞘がやったことを人間の作業でたとえるならば、ロクロなどの道具を一切使わずに土できれいな円形の花瓶を作り上げたようなものである。

 土の塊に力で出来たストローを近づけると、赤鞘はゆっくりと水に近しい力をそれに流し始めた。

「お互い混ざり合わないんですが、影響はしあうんですよ、この力は。ですので、こっちの外側の力に回転をかけ続けてやれば、するするきれいに狙ったところに力が流れていくんですよね」

 赤鞘の言うとおり、水に近しい力はほとんど漏れることもなく土の塊に流れ込み始めた。

 あっという間に、土の表面を青みがかった透明な結晶が覆い始める。

 見る見るうちに成長していくそれは、氷が解けていく映像を逆早回し再生したような様子であった。

「うわ。力が濃いから早く作れるかもと思ったんですけどこれ思ったより早いですねぇ」

 感心したように結晶化していくクリスタルを眺める赤鞘。

 水の精霊はそれを見て、目を見開いて絶句していた。

 赤鞘の力の制御の仕方は、この世界では完全に異質のものであるからだ。

「あ、もうちょっとこんな感じにしたほうがいいですかね?」

 そういうと赤鞘は、さらに繊細に力の流れを変化させていった。

 水の流れを糸のように細く引き伸ばし、力で作ったストロー状のものに引き入れていく。

 ちなみに、力の流れを糸のように引き延ばすこと自体、かなりの高難度を誇る作業である。

 例えるなら、素手で綿から一定以上の品質の糸を作り出し続けるレベルであろうか。

 無茶苦茶ではあるが、一部の達人の人なら出来るかもしれない。

 実はこれは、日本神の中では出来て当たり前とされる技術であった。 

 日本だと簡単に行われること、というわけではなく、単に日本神に、求められる技量が高いということであったりする。

 もはや職人技だ。

 地球でも日本神の土地の管理の仕方は変態的だとよく言われるのだが、その中で暮らしているとそれが当たり前になってしまう典型的な事例といえるだろう。

 目の前にそれをやって生活している神がいても変態といわれるのだから、文字通り異世界の精霊がそれを見ればどう思うだろう。

 それはもう変態的な技術というか、一種奇跡にも近いものである。

 あまりに自分の理解の範囲を逸脱すると、理解するとかしないとか以前の問題になってくるのだ。

「これなら、もっと早く仕事が進むと思うんですよ。ね、簡単でしょう?」

「いえ。それはかなり難しいことであるかと……」

 赤鞘に取ってれば、目の前にいる水の精霊は格上の存在だ。

 神になって500年かそこらの若輩者である。

 それに比べて、水の精霊は1000年以上存在を保っているのだ。

 そんなレベルの違う相手であるならば、このぐらいは出来て当然。

 出来なくとも、すぐに覚えられるだろう、というのが、赤鞘の考えだった。

 ちなみにこれの習得には、赤鞘も二年以上かかっている。

 不眠不休で練習し続けて、二年だ。

 それを長いか短いかは、個人の感覚いかんだろうか。

「いやいや、またご謙遜を。やってみればすぐにできると思いますよ? 見たところこういう感じの技術を使っている方もいないようですし。あ、そういえばアンバレンスさんが私みたいなやり方はこっちにはないって言ってましたね。じゃあ、丁度いいかもしれませんね!」

「丁度いい、ですか?」

 赤鞘がぱちりと手を叩いたのとほぼ同時に、上空からいくつかの精霊が舞い降りてきた。

 光、闇、火、風、土の、五体の精霊たちである。

 これは水の精霊と一緒にいた光の精霊が呼び集めた、それぞれの精霊の中でも特に強い力を持った者たちであった。

 すでに赤鞘が極端にかしこまった態度を嫌うことや、気楽に接してほしいと言っていたという情報は、彼らにも伝わっている。

 水の精霊が己の分体を飛ばし、彼らに伝えたのだ。

「この島でクリスタルを作る作業をしております、精霊たちの一部でございます」

 丁寧に頭を下げる彼らを見て、赤鞘はうれしそうに手を叩いた。

「ああ、ほんとに丁度いいですね! じゃあ、皆さんもちょっとやってみましょうか」

「やってみる? とは、何をでございますか?」

「力の流れの制御です。なぁに、簡単ですよ!」

 そういいながら、赤鞘は手元水のクリスタルをめきめき成長させ続けていた。

 赤鞘が今していることを例えるならば。

 片手で綿から糸を作り出しながら、片手でツボを作り続けつつそのツボに糸をきれいに糸巻状にして仕舞いながら出荷している。

 といったところだろうか。

 まあ、とにかく気がふれるのではないかというほどの精密作業を、にこやかに片手間でこなしているということである。

 絶句する5属性の精霊たちを見て、水の精霊はいたたまれない気持ちになっていた。

 それと同時に、やはり赤鞘の技術はだれの目から見ても異常なのだと確認し、ホッとしたりもしている。

「じゃあ、さっそくはじめましょう!」

 こうして、赤鞘による技術指導。

 通称「AKASAYAーズ・ブートキャンプ」は、しめやかに開催されたのであった。

 他のことであれば遠慮したりビビったりする赤鞘ではあるが、こと土地の管理が絡めば話は別だ。

 妥協や半端な仕上がりは、絶対に許せないのである。

 もはやそれは、職人の心情ともいえるものであるだろう。

 自分の土地の中にいる以上、精霊たちも赤鞘の庇護下にいる者たちだ。

 そんな彼らが半端な仕事をすることが、赤鞘にはたまらなかったのである。

 どうしてもできないことをやらせるつもりは一切ないのだが、これは赤鞘自身神になりたての時に通った道である。

 自分のことを超絶過小評価している赤鞘としては、目の前に並ぶ精霊たちなら、すぐにこなせると思ったのだ。

 ちなみにこれは刀職人が「お前らでもナイフぐらいなら作れるよねっ」とか。

 スタントマンが「防具付けてればお前らでも車にひかれるぐらいできるよねっ」とか。

 裏ダンジョンを攻略した勇者が「はがねのつるぎさえ持ってればお前らでも中ボスぐらい倒せるよねっ」とか。

 そんなことを言っているレベルの無茶ぶりである。

 結局このブートキャンプは一回では終わらず、数週間続くことになる。

 最初に一回目の時点で、にこやかに無茶苦茶な要求をして来る赤鞘に戦慄を覚えた精霊たちだったが、本当の恐ろしさを思い知ったのは翌日からだった。

 赤鞘は相手の力量を正確に見抜くと、必死に頑張ってできるかできないかギリギリのことをさせるようになったのだ。

 精霊たちにとっては神から直接技術を教えられる途轍もない僥倖であるから、手を抜くはずもない。

 必死に赤鞘の教えに食らい付き、赤鞘もまた調子に乗ってどんどん教えていくのだ。

 赤鞘が直接技術を教えた精霊たちは、数か月後とんでもない力とその制御力を得ることになる。

 そのせいで赤鞘はまた胃が痛くなる思いをすることになるのだが、これはもう自業自得というほかないだろう。

 結局初日のブートキャンプは日が暮れるまで行われた、

 ぐったりする精霊たちをよそに、赤鞘は楽しそうなスキップで、次の目的地であるエンシェントドラゴンの巣へと向かうのであった。

こんなに赤鞘が出ずっぱりなのって、連載当初以来じゃないでしょうか。

発作的にキャリンや、「木漏れ日亭」のアニスちゃんが書きたくなるという。

アニスかわいいよアニス(=ω=

誰だいま「アニスなんてマイナーキャラ覚えてないです (^p^ 」いったの。

ムキー!

赤鞘よりも作者内ランキングが高いのにっ!

ちなみに一位はシェルブレンです。


ぼちぼちWACのラストを書こうと思っていたのですが、メインPCが壊れて心が折れたので手が付けられません。

戻ってきたら書こうと思います。

早く治れPC……。

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