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番外! 第一回 WAC 高飛び込み・ペア (中)

 ほんわかぱっぱー ほんわかぱっぱぱー


 何処かお好み焼きとか通天閣を思い起こさせる音楽が、天使楽団によって奏でられる。

 無駄に荘厳なフルオーケストラで彩られようと、やはりあのテーマはあのテーマなのでそれだけでほのかな笑いを誘う。

 目の前にセットされているマイクを引っつかみ、アンバレンスはにこやかな笑顔をカメラに向けた。

 この様子は、「海原と中原」の天使達に無料配信されているのだ。

「さあ、ついに競技開始のファンファーレが鳴り響きました!」

「あれファンファーレだったんですか?」

 隣に座ってリアクションをしているのは、解説の赤鞘だ。

「ファンファーレだったんです。言い張れば勝ちですよ世の中! さて、では選手の様子を聞いてみましょう! 現場の土彦ちゃん?」

 カメラの上についているランプが消え、画像が切り替わったことを知らせる。

 今天使達の手元にあるアンバフォンに映っているのは、プールサイドの土彦と選手達の様子だ。


「はーい! 現場の土彦です!」

 いつもの様ににこにこ笑いながら、土彦はぶんぶんと手を振る。

 その後ろには、プールサイドに腰掛けたアグニー達が並んでいた。

 彼等の手には、なにやらジャガイモを練って固めたような物体が握られている。

 皆それに塩などを振りながら、もっふもっふと実においしそうに食べていた。

「あの、土彦ちゃん? 選手達は何を食べてるのん?」

「あれはポンクテです。試合前の腹ごしらえだそうです」

 土彦が言うように、アグニー達が食べているのはポンクテを蒸したものだった。

 一つ一つは小さなポンクテを丸く固めたものは、日本で言うところのおにぎり感覚の食品である。

 十数人のアグニー達が横一列に並び、同じような動作でポンクテを食べるさまは、どこぞの農村風景を見るようで心が和む。

「運動する前にごはん食べて大丈夫なのかどうかちょっとあれですが、インタビューお願いできます?」

 若干意表を突かれたアンバレンスだったが、そこはプロである。

 気を取り直して、土彦にインタビューの要請を出した。

 なんのプロであるかはよく分からないが。

「はい。ちょっとお待ちくださいねー。如何ですか? ポンクテのお味は」

「やっぱりポンクテはハラピカリが最高です!」

「だ、そうでーす! では、スタジオにお返ししますねぇー」

 にこにことした土彦の表情のアップで、現場からの中継が終わった。


 切り替わってこちらは、アンバレンスの微妙な表情のアップだ。

「いや。あの。ポンクテの味の批評じゃなくて」

「おいしそうでよかったですねぇー」

「いやいや、だからですね。まあいっか! えっと、そろそろ一組目の選手が飛び込み台の上に到着する頃です!」

 無理矢理やる気を取り戻したアンバレンスが叫ぶと、競技者が位置に付いたことを知らせるラッパが響き渡った。 

 ついで、館内放送で選手の名前が読み上げられる。


「種目。高飛び込み・ペア。一番。木こりのモール選手、漁師のメルテ選手」


 声の主は、おねぇさまモードのエルトヴァエルだ。

 今回は主催者サイドの側近天使として、館内アナウンス全般を任されている。

「エロイ! いやぁー、何時聞いても大人モードのエルトちゃんの声はエロイですねー」

「エロイですねぇー」


「エロく有りません!!」


「あれ、この位置から私達の会話聞こえるんでしょうか」

「一応画面に映ってますからねぇー」

「それは兎も角、早速競技を見ていきましょう。競技開始の合図です」

 甲高いラッパの音が響き、競技開始を会場全体に知らせる。

 それと同時に、全体の空気がぴっと張り詰めた。




「最初の競技者、モール選手とメルテ選手は幼馴染です。息の合った演技に期待しましょう」

「たのしみですねぇー」

 高飛び込み・ペアは、二つ並んだ飛び込み台を使用する。

 二人とも同じ台から飛び込んでもいいし、別々にしてもいい。

 そこは演技の内容次第だ。

 高さは10m以上あるので、空中での動きに重きが置かれている。

 モールとメルテは大きく両手を上げると、ゆっくりとした動作でそれを下ろす。

「ここはぴったりシンクロしてますね」

「この動きで呼吸を合わせてるんでしょうねぇー」

 腕が下りきった所で、二人の表情が一気に険しくなった。

 鬼のような形相で腰を低く落とすと、体を大きく後ろへ振りかぶる。

 そして。

「「うわぁああああああああ!!!」」

 全力の雄たけびと共に、二人同時に走り出した。

 片方の肩を前に突き出した、スタンダードなタックルスタイルだ。

 飛び込み板の弾力も存分に使い、天高く宙に舞い上がる。

「きまったー! これは素晴らしいタックル姿勢だー!」

「動きも揃ってますねぇー」

 赤鞘が言うように、二人の動きは鏡に映したようにそっくり同じだった。

 背格好が似ていることもあり、完璧なシンクロっぷりといっていい。

 しかし、二人の演技はこれだけでは終わらない。

「おっと? 空中でも足がまだ動いていますね。 これは?」

「まだ前に出ようとしているんですね。空中に飛び出してもタックルで前進しようとしているようです」

 そう、二人は空中に投げ出されてもまだ必死に足を動かし、少しでも前へタックルし様ともがいているのだ。

 全力で声を張り上げながら必死にもがき続けるその姿は、一見滑稽でもある。

 しかし、その飽くなきタックルへの思いは、たしかに見るものの心へ、魂へと響いてくるものがあった。

 観客達にもそれは伝わったのだろう。

 大きな歓声が会場を包む。


「「「うわぁぁあああああああああ!!!」」」


「聞こえますでしょうか! この割れんばかりの歓声!! まるで選手と会場が一体になったようです!」

「少しでも前に出よう、タックルしようという姿勢が素晴らしいですね」

「もがくもがくもがくもがく! まだ足を動かし続ける! 少しでも遠くへ、少しでも前へという思いが足を動かし続けさせるのかー!」

 実況が盛り上がったところで、選手達は地面に着水した。

 ドボンという大きな音を立てたが、通常の飛び込みと違い水しぶきを上げても減点などは無い。

 寧ろ水へ入るときの体勢なども点数に入るので、水しぶきなど気にせず飛び込んで良いのだ。

 水の飛び散り方が芸術的だったなどの理由で点数が加算されることもあるので、ケースバイケースと言ってもいい。

「いやー! 素晴らしい演技でしたねー!」

「着水のとき上がった水しぶきも揃っていましたねぇー。これは高得点が期待できますよぉー」

 競技場に設置された掲示板が発光し、点数を映し出そうと瞬き始める。

 集計中の印だ。

 観客達は、点数が出るのを今か今かと固唾を呑んで待っている。

 そして、ついに点数が表示された。

「これは? 出ました!9.6! 9.6です! 10点満点中の9.6が出ました! これは高得点ですね赤鞘さん!」

「いやー、素晴らしいですねぇ。スタンダートな飛び込みでしたが、シンクロ率、熱意、タックル性、どれをとっても素晴らしかったですね。まさにお手本ジャンプと言っていいんじゃないでしょうか」

「なるほど! 基本的な飛込みでありながらも、完成度が高かったということですね!」

「はい、9.6にふさわしい飛込みだったと思います。新人選手には是非見習っていただきたいですねぇー」

 水から上がったモールとメルテも、自分達の点数を見て大いに喜んでいる。

 観客からは、惜しみない拍手が選手達へと送られた。




「二番。狩人のギン選手、農家のスパン選手」


「エロイ! エロイ声の名前呼び、ありがとうございます!」

「大人っぽいから、色っぽく聞こえるんですねぇー」


「だから、エロく有りません!!」


 エルトヴァエルが館内放送で叫ぶが、観客の天使達はアンバレンスたち寄りの様だ。

「エロイよなぁ」

「色っぽいよね」

「エルトっておっぱいだもんな」

「あれ何カップあるんだ。Eか?」

「そのぐらいじゃない?」

「いや、私がこの間飲み会で聞いた話だとえふぶふぇ?!」

 禁断の話題に触れそうになった女性天使が、天高く舞い上がった。

 下から抉りあげるようなエルトヴァエルのエンジェルアッパーで吹き飛ばされたのだ。

「うわぁぁぁ! エルトヴァエルがキレたぞぉ!」

「にげr ぎゃぁぁぁああ!」

「カルヴィディエルぅぅぅ!!」

 天使側観客スタンドは、地獄絵図と化していた。

 罪を暴く天使の鉄拳が嵐の様に振るわれ、おっぱい評価をした天使達が制裁の餌食になっていく。

 アンバレンスは暫くそんな天使達を無表情で観察してから、ゆっくりとカメラへと向き直った。

「はい! では早速次の演技を見ていきましょう! 見直された土地からの出場ですね赤鞘さん!」

「ですねぇー。最初にアンバレンスさんの結界にタックルしたという意味では、彼等が第一人者でもありますからね。期待していいと思います」

 画面が切り替わり、飛び込み台の上へが映し出された。

 緊張した面持ちのギンとスパンが、同じ飛び込み台の上に立っている。

「おっと。これはどうやら同じ板を使う演技のようですか?」

「コンビネーションプレイ、または同時飛び込みか、肩車などの合体演技の場合もありますね」

「なるほど。そうなると事故が心配ですが、ご安心ください。ここは夢の世界なので、ケガの心配は皆無です!」

「神様って便利ですよねぇー」

 二柱がそんなことを言っている間に、演技開始のラッパが鳴り響いた。

 まずはスパンが板の上へと進み、片膝をついて両掌を合わせる。

「これは、一人の手に足をかけて、高くジャンプするつもりでしょうか?」

「ですね。大ジャンプを狙っているようです。しかしこれは、飛び込み台の先端ですねぇー。板のバネと腕の力で相当高く飛べるでしょうが、制御が難しいですよ」

 緊張した面持ちのギンがゆっくりと手を挙げ、「はっ!!」という気合の声を上げる。

 スタッフの控え場所では、カーイチがはらはらとした表情で見守っていた。

 ギンは一気に駆け出すと、高い飛び込み台の上だということを忘れたような大胆さでスパンへ向かって飛んだ。

 成人アグニーの平均的な体重があるギンの重さを、スパンは必死の形相で受け止める。

 そして、渾身の力を込めて上へと放り上げた。

 スパンの動きに合わせ、ギン自身も足を思い切り伸ばす。

「おりゃぁあああああ!!」 

 タイミングは合ったようで、ギンの身体は天高く飛び上がった。

「決まったー! これは高い! 素晴らしい高さだっ! タックルポーズも申し分ありません! ですがこれはっ?!」

「あー、ちょっとジャンプのときに失敗したようですねぇー!」

 アンバレンスの言うように、高さもポーズも申し分ない。

 しかし、それはたしかに失敗ジャンプに見えた。

 妙なひねりが加わったのだろう、空中のギンの体が、すごい勢いでぎゅるんぎゅるん回っているのだ。

 それも、横ではない。

 縦方向に。

 ギンが踏み切ったときにたわんだ板の反動で、スパンも中空に投げ出されていた。

 こちらもギンと同じく素晴らしいタックルポーズではあったが、同じくぎゅるんぎゅるんやばい感じに回転している。

「これは?! どうでしょう赤鞘さん!」

「いやぁ、辛いですねぇー」

「芸術性はかなり高いように見えますが?」

 たしかに芸術性は高かった。

 高速で回転しながらの高高度タックル。

 インパクトは最高だといえるだろう。

 しかし。

「着水まで持てばいいんですがねぇー」

 赤鞘の言葉が、この直後に現実のものとなった。

「「おりゃぁぁぁあああああ あ、 うおえぇぇええええ!!」」

 二人がえっついたのだ。

 顔が青白くなっている。

「これは?! 回転しすぎて酔ったぁぁぁ!!」

「あれだけ捻ると相当キますよぉー」

 二人は真っ青な顔でえっつきながら、口を押さえつつ着水した。

 最後に見えた表情は、なかなかやばい感じに見えた。

「ぎんー!!」

「アナター!!」

 スタッフ控え場所にいたカーイチとスパンの奥さんが、慌ててプールサイドへと駆け寄った。

 二人とも気分は相当悪そうだが浮かんでは来ているので、二人とも一安心だ。

「いや、これはやっちゃいましたねぇー。得点を見てみましょう」

 掲示板が瞬き、点数が表示される。

 映し出された点数は、3.8だった。

「んー! やはり失敗判定! 期待が高かっただけに非常に残念です!」

「いや、高さはあったんですがねぇー。将来性はかなり感じましたし、あれだけ距離があれば成功さえすれば高得点を狙えたはずなんですが。それだけに残念です」

 惜しい感じはあっただけに、アグニー達からはため息や「あー」という声が聞こえてくる。

 しかし、選手達の熱意は伝わったのだろう。

 惜しみない拍手が、ギンとスパンへ送られた。

「選手達に、観客から拍手が送られております!」

「試みやタックルへの思いは十分伝わりましたからね」

「エルトヴァエルちゃんにぶん殴られて沈んでいる天使もちらほら居ますが、あえて無視しましょう! 素晴らしいタックルスピリッツでした! さて、二組の飛込みが終わったところで、放送終了の時間になりました! また次回、今度は高飛び込み・ペア(後)でお会いしたいと思います!」

「さよーならぁー」

ご存知の方はご存知と思いますが、ただいま世界観を同じくする番外編。「ウォーゴブリン転生日誌」も連載しております。

宜しければあわせてどうぞ。

じゃなくて。

えっと、ソッチも一応この間新いしの投稿したので、次は本編のほうを書こうと思います。

アインファーブルでの水彦とキャリンさんの冒険です。

キャリンさんは思いっきりレギュラーです。

あまりに突込みが居ないので。

突込みって大事ですよね。


では、次回「はじめてのかり」に、ご期待ください。

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