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五十五話 「だんじょん? ですか?」

 ドラゴンの多くは、洞窟に住んでいる。

 ファンタジーの常識というかお約束であるが、それは「海原と中原」においても変わらなかった。

 ただ、天然自然に出来た洞窟に住むドラゴンは少なく、多くの場合自分で作るか、他の生物に作ってもらって暮らしている。

 自分で作る場合は、当然自分の手足で掘ることになる。

 爬虫類系生物であるところのドラゴンは、その殆どが腕が短い。

 その為自分で穴を掘るドラゴンは、短い手足と顔を駆使して洞窟を作るはめになる。

 コルテセッカのようなゴリラ体系のドラゴンであればそれほど苦労することもないが、そんな形状のドラゴンは少数派だ。

 そこで、殆どのドラゴンが他の生物に作ってもらう方法をとっていた。

 その生物の代表は、なんとゴブリンであった。

 俗称「穴掘りゴブリン」と呼ばれるそのゴブリン種は、ドラゴンなどの言葉を扱い、コミュニケーションをとることが可能だった。

 どのような洞窟が好みなのかを聞き出すと、穴掘りゴブリンたちはその通りの洞窟を作り出すのだ。

 洞窟が完成した後もゴブリンたちはそこに住まい、ドラゴンの世話を焼く。

 寄生虫をとったり洞窟の中を掃除したり、仕事は幾らでもあるのだ。

 そのかわりに、ドラゴンはゴブリンたちに防衛力を提供する。

 巣である洞窟に近付く外敵を、食物連鎖の頂点であるその力を持って撃退するのだ。

 一国の軍隊をも退けるに足る戦力を持つドラゴンが、ボディーガードになるわけだ。

 労働力を提供するとしても、余りある恩恵だろう。

 さらに、多くのドラゴンは身内には非常に優しく、また、自分よりも遥かに寿命の短いゴブリンたちを、一種自分の子供の様に扱う。

 生まれてから死ぬまでを、ずっと近くで見守ることになるのだ。

 知能が高いが故に、情が移るのも仕方ないだろう。

 ゴブリンたちにしても、自分達を守護してくれる絶対強者を崇めないわけもない。

 ドラゴンはゴブリンたちを守護し、ゴブリンはドラゴンの世話を焼く。

 実に素晴らしい共生関係が出来上がっているのだ。

 エンシェントドラゴンも、実は「穴掘りゴブリン」の世話になるドラゴン種のひとつだった。

 天然の洞窟に住むのではなく、掘った穴で暮らすのだ。

 そんなわけで、見直された土地に戻ってきたエンシェントドラゴンは、せっせと穴を掘っていた。

 雑草すら生えていないのが、現在の見直された土地の状態だ。

 当然、「穴掘りゴブリン」が居るはずもない。

 そもそもエンシェントドラゴンに仕えていた「穴掘りゴブリン」たちは、彼が旅立つ前に知り合いのドラゴンに引き取ってもらっているのだ。

 典型的な、首が長く前足の短い、大きな翼を持つドラゴンが、必死になって地面を掘り返す。

 その絵面は非常にこっけいで、それ以上にドラゴン自身に肉体的苦痛を与えるものだった。

 短い前足で穴を掘るという作業は、何しろ恐ろしく疲れるのだ。

 何とか自分の頭を隠せる程度の大きさの穴が開いたところで、エンシェントドラゴンはぐぐっと身体を伸ばした。

 首をめぐらせると、何も無い荒涼とした地面を見渡すことが出来る。

 一日かけて掘ることができたのは、自分がはまるのに程よいサイズの落とし穴のようなものだけだった。

 エンシェントドラゴンはげっそりとした表情を作ると、がっくりと肩を落とした。

「いかん。このままでは何時までたってもまともな寝床が出来ん」

 元々洞窟で暮らす生物である為か、エンシェントドラゴンは基本的に暗くて狭い土の中で安らぎを覚える傾向にある。

 100年ほど屋外で寝泊りしてきた彼である。

 生まれ育った土地に帰ってきた以上、ゆっくりと落ち着ける環境で寝たいと思うのが人情だろう。

 しかし、今のペースでは何時までたってもくつろぐスペースすら作ることは出来ない。

 コレからこの場所で暮らすわけだから、相当広い洞窟が必要になる。

 折角生まれ故郷に戻ってこれたというのに、このままではくつろぐことは愚か、ゆっくり眠ることすら出来ない。

 どうしたものか、と、頭を悩ませるエンシェントドラゴン。

 そんな彼に、ワイワイと声をかけるものがあった。

 エンシェントドラゴンがそちらに顔を向けると、目に飛び込んできたのは小さな泥の塊。

 マッドアイたちであった。

「おお。これは土彦殿の」

 エンシェントドラゴンが顔を近づけると、マッドアイから聞き覚えの有る声が響いた。

 この土地のガーディアン、土彦の声だ。

「如何ですか、工事の進行具合は!」

「いやいや、参りました。どうも私の身体は穴を掘るのに向いていないらしい」

 自分の足元を指で指しながら、エンシェントドラゴンは肩をすくめて見せた。

 それにあわせてちょこちょことマッドアイが動く。

 恐らく、穴の状況を土彦に送っているのだろう。

 少しの間を空けて、土彦のなんともいえない笑い声が聞こえてきた。

「なんとも難儀ですね。こういう仕事と言うのは、専門のものでもてこずりますから」

「全くです。いやはや、なんとも時間がかかりそうですが、仕方ありませんな」

「実はエンシェントドラゴン殿。今日はそのことでお願いがあってきたのですよ」

「お願い?」

 首を傾げるエンシェントドラゴン。

 どうやらドラゴンも、不思議に思うことがあると首をかしげるものらしい。

「はい。実はマッドアイネットワークを掘削にも使い、地下に大型のゴーレムを格納しているのですが。まだいくつか穴を掘らねばならないのですがね? その為の掘削実験をやりたいと思っているのですが、その為だけに地面を掘って力の流れを分断するわけにも行きませんので。そこで、既に許可を得て流れの調節を済ませているここで掘削実験をさせていただければ、と思ったのですよ。そのついでで宜しければ、寝床を作るのにも協力させていただけないか、と思いまして」

「おお! 本当ですか! それは助かりますな! ぜひお願いしたい!」

 エンシェントドラゴンは大いに喜んだ。

 実験をしたいなどとは言っているが、実際は自分の事を手伝いに来てくれたのだろう。

 そう、エンシェントドラゴンは思っていた。

 ただ洞窟を掘ろうといえば、自分が気を使う。

 そこで、こんな言い方をしたのだろう。

 そう考えたのだ。

 エンシェントドラゴンの答えを聞き、マッドアイはぱちぱちと手を叩く。

 別に感情がリンクしているわけでもないだろうから、土彦が手を叩くようにと指示を出しているのだろう。

 芸の細かいことである。

「いや! それはよかった! では、早速はじめましょう!」

 そう土彦の声が響くと、遠くから足音が聞こえ始めた。

 エンシェントドラゴンの鋭敏な耳は、ずっと離れた場所のその音を捉えたのだ。

 聞き覚えのあるその足音は、恐らくマッドトロル、2mを超える大型ゴーレムのものだろう。

「大急ぎで掘りますから、二日もかければ寝る場所の確保は出来ると思います! 立派なものにするには数日かかると思いますが、まあ、ゆっくりとお待ちください! あっはっはっは!」

 さわやかな土彦の笑い声に、エンシェントドラゴンは頼もしそうに頷いた。

 このときはまだ、土彦がガチで実験をするつもりであったことも。

 赤鞘が許可を出した範囲がどの程度であったのかも。

 土彦がどんな洞窟を作るつもりなのかも。

 知る由も無い、エンシェントドラゴンであった。




 ドラゴン。

 それは、赤鞘の中ではラスボスとして分類される生物だ。

 某国民的RPGでは、タイトルにまでなっている。

 一体どれほど苦しめられてきたか分からない。

 時には壁と成り立ちはだかり、時には大切なものを奪い去り、時には秘宝を隠し持ち。

 勿論、ゲームの中での話である。

 というか赤鞘は生粋の日本神である。

 本物のドラゴンなんて見る機会は丸で無かった。

 精々がトカゲの妖怪ぐらいだが、それらとドラゴンを比べたら恐らくブレスで黒焦げにされるだろう。

 兎に角、赤鞘の中でドラゴンとは特別な存在であり、言うなれば強い奴の代表格であった。

 そんなドラゴンの巣が、小さいわけがない。

 そう、赤鞘は思っていた。

 しかも相手はエンシェントドラゴンである。

 漢字で書くと「古代竜」などとされるドラゴンだ。

 古いほうが強いというのは、赤鞘は神様になってから嫌というほど思い知らされてきている。

 ドラゴンで古い。

 古くてドラゴン。

 まさに最強の組み合わせではないだろうか。

 そんなドラゴンの巣である。

 小さいことが許されるわけが無い。

 これは日本神として、いちゲーマーとしての強い思いであった。

 考えても見て欲しい。

 エンシェントドラゴンの巣。

 漢字にすると「古代竜の巣」。

 英語にすると「エンシェントドラゴンネスト」。

 まあ、英語には明るくないので恐らくではあるのだが。

 兎に角こう、ダンジョンっぽい響きに聞こえないだろうか。

 むしろダンジョンだ。

 きっとエンシェントドラゴンの巣というのは、ダンジョンに違いない。

 そんなわけで、赤鞘はエンシェントドラゴンに巣を掘りたいと打診されたとき、かなり広い領域を用意していた。

 ラスボスのダンジョンとか、裏ダンジョンとかにふさわしいであろう広さである。

 以前の赤鞘ならば、その広さを管理するだけで手一杯だった。

 だが、今はこの世界の最高神から与えられた権限もあり、有る程度容易に今まででは考えられない広さの土地の管理ができるようになっていた。

 赤鞘にとっては、実に感慨深いことである。


「どうかなさいましたか?」

 難しい顔で遠くを見つめている赤鞘に、エルトヴァエルは不思議そうに声をかけた。

 土彦からエンシェントドラゴンの巣を作ると報告を受けてから、ずっとそんな調子だったのだ。

 赤鞘はおもむろに腕を組むと、何処か遠い空に目を向ける。

「いえ。私の土地に、ダンジョンが出来るんだなぁ、と思いまして」

「だんじょん? ですか?」

 しみじみと呟く赤鞘に、不思議そうに首を傾げるエルトヴァエル。

 このときはまだ、実際にダンジョンが完成し、頭痛に悩まされることになることを、エルトヴァエルは想像すらしていないのだった。

エンシェントドラゴンさんのおうちはどうなってしまうのでしょうか。

そんな訳で次回はコウガクおじいちゃんとシェルブレンの過去話で悩んでいます。

どっち書こう。

両方書くんですが、順番がどうも・・・。

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