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五十話 「ざっくりしすぎてないか。かんばん」

 部屋に入ったキャリンの目に飛び込んできたのは、口いっぱいに何かを頬張る少年の姿だった。

 黒い髪に黒い瞳。

 その眼は、触れれば切れそうなほどに鋭い。

 着ているものは、キャリンが見たことも無いものだった。

 ボタンなどではなく、紐で結わえてあるのだろう。

 袖の下が長くなっている変わった上着に、大きくスカートの様に広がったズボン。

 色は全て真っ黒で、胸の辺りに小さな紋章のようなものが白い刺繍のようなもので入っている。

 そんな奇妙な少年を前にしたキャリンだったが、その注目は衣装や容姿には一切向いていなかった。

 キャリンの目線は、少年のほっぺたに集中している。

 食べ物を詰め込むと、ほっぺたと言うのは大きく膨らむものだ。

 ならば、自分の頭と同じぐらいほっぺたが膨らんでいるこの少年は、一体どれだけ食べ物を詰め込んでいるのだろう。

 まるで餌を集めるリスのようだった。

 そういえば昔、リスが餌をつめているのは正確にはほっぺたではなくほほ袋という器官なのだという話を聞いたことがあった。

 ということはこの少年にも、ほほ袋があるのだろうか。

 そんなどうでもいい事を考えながら、呆然と少年のほっぺたを見つめるキャリン。

 そこで、ふとあることに思い当たる。

 人間という生き物は、ほほ袋なんぞというものが付いている動物だっただろうか。

 外見的特長から見れば、少年は人種だろうと思われる。

 キャリンが知る限り、人種にはほほ袋なんて付いていない。

 ということは、あの少年は自前のほっぺたに食べ物を詰め込んでいるのだろうか。

 人間、やってできないことは無い。

 などという言葉があるが、あれは本当だったのか。

 キャリンの頭の中では、そんなどうでもいいことが駆け巡っていた。

 それほど、キャリンは目の前のものに度肝を抜かれていたのだ。

 両方のほっぺたを自分の頭ほども膨らませている人間と言うのは、それに足るインパクトが会った。

 呆然とするキャリンを他所に、少年はゆっくりとテーブルの上においてあるお菓子に手を伸ばす。

「まだ食べるの?!」

 思わずつっこみを入れてしまうキャリン。

 どうやらキャリンは、突っ込み体質らしい。


「大丈夫かね?」

「はっ?! だ、大丈夫です!」

 気遣わしげに聞いてくるボーガーに、キャリンはようやく我に返った。

 部屋に入ってすぐに目に入った恐ろしい映像のせいで、数秒間の間機能停止していたようだ。

 焦った様子で背筋を伸ばすキャリン。

 それを見て、ボーガーはキャリンが正気に戻ったようだと判断する。

 ドアの近くで行われるそんなやり取りを、水彦はお菓子を口に詰め込みながら眺めていた。

 ボーガーは水彦の前に歩み出ると、キャリンに手を向けて口を開いた。

「お待たせしました。彼が、先ほど言っていた冒険者です。この街に詳しいので、道案内には適任でしょう」

「おお。そうだったのか。だれかとおもった」

 ボーガーの言葉に、水彦は納得したように頷いた。

 キャリンの顔をジーっと見つめながら、さらに口の中にお菓子を詰め込んでいく。

 そんな水彦を、キャリンは恐ろしい化け物を見るようなこわばった顔で見つめ返す。

 少しの間硬直していたキャリンだったが、はっ、と我に返ると、慌てて居住まいを正した。

「冒険者のキャリンです。この街の出身ですので、店の紹介や道案内なら任せてください」

 そういうと、キャリンはにっこりと笑顔を作り、軽く目を閉じて頭を下げた。

 目を閉じて頭を下げるその動作は、冒険者等の剣を扱う者たちの間で用いられる礼の動作だ。

 それを見た水彦は、見慣れた頭を下げるという動作に少し目を丸くした。

 異世界だから、礼のとり方は違ってくるだろうと思っていたからだ。

 水彦もキャリンと同じく背筋を伸ばすと、頭を下げた。

「むしゅくろうにん。みずひこ。せわになります」

 二人が顔を上げるのを確認して、ボーガーは満足そうに一つ頷いた。

 冒険者同士の顔合わせと言うのは、実は挨拶のときが重要だったりする。

 経験と知識からくる勘を重んずることが多く、それらに命を預けている冒険者たちは、第一印象の悪い相手とはあまり仕事をしたがらない。

 勿論それが全てではないし、付き合っていくうちに印象が変わることもある。

 しかし、第一印象を重んずる傾向にあるのもまた事実だ。

 水彦が第一印象で全てを決めるタイプではなさそうだと踏んでいたボーガーではあったが、それでも念のためにと人当たりのいいキャリンを監視役に選んだのだったが。

 どうやら狙いは当たったようだった。

 ボーガーはこの街に不案内であろう水彦に、道案内を紹介するという名目でキャリンを紹介していた。

 無論、実際は監視や護衛の為なのだが。

 普通なら勘ぐられるところだろうが、水彦はあほの子特有の「言われた事をそのまま信じる」スキルを発揮して、実に素直に言葉のままに受け取っていた。

 感謝しつつも、遠慮しようとする水彦に、ボーガーは笑いながらこういった。

「冒険者同士の顔つなぎを手助けするのもギルドの役目ですから。それに、お手紙でもよろしくとお願いされましたから」

 実際、ギルドの業務には冒険者同士の出会いを手助けし、仕事を効率化されることも含まれている。

 嘘は言っていない。

 お互いに礼をしあったところで、キャリンは早速といったように話を切り出す。

「事情は大まかにお聞きしています。村のために物資を買うのだとか。まず、どのようなものが必要でしょう?」

 キャリンの言葉に、水彦はこくこくと頷く。

 そして、一瞬考えるように視線を上に上げると、元気よく応える。

「しらない」

「は?」

「へ?」

 ほぼ同じタイミングでリアクションするボーガーとキャリン。

「から、めもをもってきた」

 そういって水彦が懐から取り出したのは、エルトヴァエルが書いた買い物リストだった。

 白い紙の上に恐ろしく整った字が並ぶそれは、機械印刷か何かのように見える。

 それを見たボーガーとキャリンは、納得したように頷いた。

「ああ、そういうことでしたか……」

「なるほど。沢山あると覚え切れませんからね」

「おお。でも、にさんこでもおぼえられないけどな。おれは」

 なぜか自慢げに言う水彦。

 キャリンは無言のまま、ボーガーのほうへと顔を向けた。

 向けられた視線に、ボーガーは軽く頷いて見せる。

 水彦という人物は、可哀想な子なのだ、と。

 無言の頷きにそれを察したのか、キャリンは納得したように水彦へと顔を向けなおした。

「では、早速出かけましょうか。あまりギルドの部屋を借りているのもあれですし」

「そうだな。む?」

 キャリンの言葉に、歩き出そうとした水彦の動きが止まった。

 眼は鋭く細められ、何かを感知したように見える。

「どうかされましたか?」

 水彦はやおら周りを見渡すように首を動かす。

 何かを確認したのか、ゆっくりと噛んで含めるように言う。

「かおがみょうにおもい」

「……」

「……」

 重い沈黙が流れることしばし。

 最初に動いたのは、キャリンだった。

「ええっと。たぶん、ほっぺたに沢山入ってるからだと思いますよ」

「ほっぺただと」

 キャリンの言葉に、水彦は自分の頬に手を伸ばした。

 掌が掴むのはたっぷりとお菓子が詰まっていると思われるほっぺただ。

 自分のほっぺたを掴んだ水彦は、驚きに目を見開く。

「ああ。のみこむのわすれてた」

 飲み込むのって忘れるものなんだ。

 この日キャリンは、どうでもいい無駄知識を一つ得たのだった。




 ギルド職員がキャリンを呼びに行っている間、水彦は宿である木漏れ日亭にメモを取りに行っていた。

 その行き帰りの道すがら、目に付いたお菓子を大量に買い込みながら。

「このまちのおかしはうまいな」

 地元を褒められて、悪い気がするものは少ないだろう。

 むしろ、喜ぶものが大半だ。

 キャリンもご多聞に漏れず、水彦の言葉に嬉しそうに笑顔を作った。

「アインファーブルはこの辺りでは一番大きな街ですからね。食べ物もいろいろ集まってくるんですよ」

「そーなのかー」

 分かっているのかいないのか。

 水彦はこくこくと頷きながら、分かっているのかいないのか微妙な返事をする。


 二人は今、金物屋に向かって歩いていた。

 エルトヴァエルが書いた買い物メモの金物欄に、「出来るだけ早く」と但し書きがあったからだ。

 書かれていたのは、釘やのこぎりといった日用品から、鍛冶で使われる道具まで様々だった。

 全て揃えようとすればかなりの金額になるだろうが、幸いなことに水彦にはコルテセッカなどを売ったお金がある。

 メモに書いてあるもの全てを買っても、大分余る事だろう。

「しかし、本当にいろいろ必要なんですね」

「ああ。なんにもないからな。いろいろひつようだ」

 物心付く前からアインファーブルで育ったキャリンには、田舎の生活というのがどういうものなのか、いまいち想像がつかなかった。

 子供の頃から夜は明かりがあり、蛇口を捻れば水が出る生活をして来たのだ。

 だから、一から村を作っているという水彦の村での生活の仕方が、殆ど想像できないでいた。

 きっと大変なのだろうとは思うが、実際どのような苦労があるのかは殆ど分からない。

 それでも、水彦が持っていたメモを読むことで、その一部を推し量ることは出来た。

 メモに書かれているということは、つまり「それは今の村にはない」ということだ。

 生活に必要な道具に、それらの道具を作るための道具。

 書かれているものは、どれもこれもキャリンにとっては当たり前すぎてないことが考えられないものばかりだった。

「アインファーブルはギルド本部があるから、魔力も比較的ふんだんに使えるんですが。そうか。ランプに油か……こういうのも必要ですよね」

 冒険者の多くは、明かりなどは魔力に頼ることが多かった。

 ランプや松明は濡れてしまえばそれまでだ。

 しかし、魔力による明かりならばその心配はない。

 洞窟だろうか水の中だろうが関係なく使えるから、非常に重宝されるのだ。

 とはいえ、明りをつけている間ずっと魔力を消費し続けるという欠点はある。

 冒険者のような普段から鍛えている人間ならば兎も角、ただの村人や町人では息切れしてしまうだろう。

 かといって、ギルドから買う魔力に頼るのも難しい。

 ギルドから魔力を買うことが出来るのは、団体に限られていて、最低量も決まっている。

 小さな集落では、そもそも買うことすら出来ないのだ。

「らんぷなんて、ぜいたくひんだもんな」

 光源をランプに頼らなければいけないということに対して「不便だ」と感じたキャリンに対して、水彦はそれを使える事を贅沢だと思っていた。

 水彦の知識の大本は、赤鞘から与えられたものだ。

 その赤鞘は、戦国時代より前に人間時代を送っていた神様だ。

 夜にともす明りは愚か、食べるものにも着る物にも困る生活もしたことがある。

 そういう意味では、今のアグニー達よりもよほど過酷な生活を経験しているのだ。

 水彦の言葉に、少なからず驚いた表情を見せるキャリン。

 彼にしてみればランプと言うのは、前時代の代物だ。

 普段の生活で使うものではない。

 それが贅沢というのは、一体どんな生活なのだろう。

 そんなことを考えていたキャリンだったが、見知った光景が目に入ってきたことで思考を中断する。

「あ、着きました。そこの店です」

 キャリンが指差した先に有ったのは、大きな看板を掲げた一軒の店だった。

 店の前には壁がなく、陳列棚や商品の入れられたカゴが道まではみ出している。

 並んでいるのは食器や金槌といった日用品から、剣や防具等といった冒険者向けのものまでさまざまだ。

 どうやら金属器を片っ端から扱っているらしい。

 看板に書かれているのは、「金物屋」という文字だ。

 でかでかとそれだけが書かれていて、他には何も書いていない。

「ざっくりしすぎてないか。かんばん」

 文字数が少ないおかげで、すぐに読めたらしい。

 水彦は看板を見上げて、眉間に皺を寄せる。

 それを見たキャリンは、苦笑を浮かべた。

「オヤジさん曰く、シンプル・イザ・ベスト、だそうですよ」

「しんぷるすぎやしないか」

 たしかに店に並んでいるものは、金物ばかりなようだ。

 だからと言って、店名をそのまま「金物屋」にするのはいかがなものだろうか。

「俺もそう思うんですけどね。まあ、店主のおっさんが何か変わった人なんですよ」

「かわっているいないのもんだいなのか、これは」

 顔をしかめて看板を見る水彦に、キャリンはあいまいな笑いを浮かべるしかなかった。

 この店の店主とは顔見知りであるだけに、なんとなく自分に言われているような気がしたのだ。

 身内の事を弄られると、自分にダメージが来る気がするあれだろう。

「このままだと、かなものやっていうのがてんめいにみえるぞ」

「ああ。金物屋って言う店名なんですよ。ここは」

 その言葉に、水彦の眉間の皺がさらに深くなる。

「それはてんめいじゃなくて、ぎょうしゅだろう」

「まぁまぁ。とにかく、中に入りましょう」

 水彦を押すようにして、店の中に入っていくキャリン。

 表情こそ若干険しいものの、外からも見える店内の品々が気になっているのか、水彦も差して抵抗はしない。

 見た目より奥に広いらしい店内に、二人はずんずんと入っていった。


 店の奥にはカウンターがあり、その上には小さな生き物が座っていた。

 サイズ的には、人間の掌に乗るぐらいだろうか。

 形状は人間と殆ど同じだったが、いくつか違うところもあった。

 エルフの様に尖った耳。

 おでこの上辺りから生えた、二本の触覚のようなもの。

 そして、背中から生えた四枚の透明な羽。

 その姿はまるで、絵本やゲームに出てくる妖精のようだった。

 ただ、服装はツナギ姿という、妙に俗っぽいものだったのだが。

「あ、らっしゃーせぇー」

 口調も物凄く俗っぽかった。

 妖精らしき生物は店内に入ってきた水彦とキャリンに気が付くと、手に持っていた筆を机の上に転がした。

 どうやら書き物をしていたらしい。

 筆のサイズは持っていた当人と同じぐらいで、水彦の目にはとてつもなく大きな棍棒を振り回しているようにも見えた。

「あれ、キャリンの旦那。今日はお連れさんがいるんすか?」

 妖精らしき生き物の声は、少年のようにハスキーだった。

 顔かたちや背格好も、丁度10代前半の男の子の様に見える。

「ああ。水彦さんていう、同業者だよ。水彦さん、彼はこの店の見習い職人で、バイキムです。妖精族なのに鍛冶をしてるなんて、変わってるでしょう?」

 やはり妖精という種族らしい。

 見た目に似合わないいかつい名前の妖精はにこにことした笑顔を水彦に向ける。

「どうも、この店で働いてるバイキムっす。うちはこの辺りじゃ一番の鍛冶屋でもあるっすから、どうぞご贔屓にぃー」

 もみ手をしながら頭を下げるバイキムを、水彦は口をあけてじーっと見つめていた。

 妖精というファンタジックな生物との遭遇に、カルチャーショックを受けているようだ。

 それを見たキャリンとバイキムは、顔を見合わせて笑う。

「あっはっは! いやぁー、やっぱ珍しいっすよねぇ! 妖精がこんな田舎街に居るの!」

「妖精は都会に住んでますからねぇ」

「とかいなのか」

 キャリンの言葉に、水彦は驚きの声を上げた。

 水彦のイメージでは、妖精と言うのは森の奥とかにひっそりと暮らしているものだ。

 けっして都会と呼ばれるようなところに居るような生き物ではないと思っていた。

「はい。昔は森んなかで暮らしてたらしいんすけど、危ないじゃないっすか! 森! 魔獣居るし! 俺ら小さいし!」

「あーあー」

 豪快に笑うバイキムの言葉に、水彦は納得したように頷く。

 たしかにバイキムのサイズが一般的な妖精のサイズだとしたら、森はかなり危険な場所だろう。

 ミツモモンガとかにすら襲われるかもしれない。

「ああ。そうだ。おれはみずひこ。えものはかたなをつかうから、たぶんせわになる。よろしくな」

「水彦の旦那っすね。どうもどうも、どうぞご贔屓にー」

 営業スマイルで揉み手をするバイキム。

 妖精と言うものは神秘的なものだと思っていた水彦だったが、どうもこの世界での妖精はそうでもないらしい。

「それで、今日は何をお求めで?」

「ああ。このめもにあるものをな。かずがそうとうおおい。すぐにぜんぶそろえようとは、おもわないんだけどな」

 言いながら、水彦はカウンターの上にエルトヴァエルから渡されたメモを広げた。

 バイキムはそれを踏まないように横に回りこむと、身体を折って覗き込む。

「はぁはぁ。こりゃたしかに数が多いっすねぇ」

 書かれている品物にしても、その数にしても膨大だ。

 頷きながら腕を組むと、バイキムはため息をついた。

「こりゃまるで村一つ新しく作るようなありさまっすなぁ」

「おお。わかるか」

「え? 村作るんすか?」

 びっくりした顔をするバイキムに、水彦は軽く事情を説明した。

 事情があって着の身着のまま村を捨て、新しい土地で生活をしなければならないこと。

 勿論、アグニーの名前は出さない。

 散々エルトヴァエルに言われていたので、流石の水彦もそれは覚えていたのだ。

 もっとも、「長老」とか「ギン」とか「マーク」とか「スパン」とか固有名詞はがんがん出していたが。

 話を聞き終わったバイキムは、何度も何度も頷いてみせる。

「なるほどなるほど。そういう事情でなんでしたら、この量も飲み込めますねぇ。こりゃ流石に親方に相談するっきゃないっすな」

「やっぱりそうなるよなぁ。これだけ多いと」

 唸るバイキムに、相槌を打つキャリン。

 そんな二人を他所に、水彦は不思議そうに首を傾げる。

「おやかたがいるのか。うではいいんだろうな」

 水彦の言葉に、バイキムはすぐさま反応した。

 輝くような笑顔を見せると、背中の羽を羽ばたかせて宙に浮かび上がる。

「そりゃぁもぉ! どてらい腕っすよ! 特に刃物や鎧なんかの鍛冶仕事させたら天下一品でさぁ!!」

「そうなのか。だとしたらおまえ、おこられるぞ」

「へ?」

 興奮気味だったバイキムだったが、水彦の言葉に驚いたような表情で固まった。

 そんなバイキムを他所に、水彦は樽の中に入れられた剣の束に近付く。

 その樽には張り紙がされており、「大特価! 見習いが打った訳アリ武器!! 一つ三万!!」と書かれていた。

 水彦はその中から一本の剣を無造作に掴み上げると、まじまじとその刃を見つめる。

 樽の中には他にも槍などの武器が、全て鞘の無い剥き身の状態で刺さっていた。

 だが、水彦が気になったのは、手に取ったその一本だけだったらしい。

「これは、たぶんそのおやかたのしごとだろう」

 そういうと、水彦は手にしていた剣をカウンターに載せる。

 諸刃の細い直剣で、珍しいところは特になさそうに見えた。

 柄にも飾り気はないし、キャリンの目から見てもその剣は珍しいところがあるようには見えない。

 キャリンは水彦の言葉に首をかしげた。

 バイキムのほうはといえば、目を丸くして驚いている様子だ。

「ほぉー! ちなみに旦那、旦那ならその剣、いくらつけます?」

 にやりと笑いながら、そんなことを言うバイキム。

 そんな問いに、水彦はすぐに応えた。

「にひゃくか、さんひゃくまんってところだろうな」

 それを聞いたバイキムは、ぱちんと手を叩いた。

 よほど驚いたのだろう。

 大きく目を開いたのにあわせて、口もぽっかりとあけている。

「こいつぁー驚いた! お見それしましたぜ旦那! すぐに親方をよんでくるっすから、少々おまちを!!」

 そういうと、バイキムはくるくると宙に円を描き、店の奥へと文字通り飛んで行った。

 残されたキャリンと水彦は、その後姿をぼうっと見つめる。

「ようせいってあんなにとびまわるものなんだな」

「ああ。たしかに素早いですね」

 ぼそりとつぶやく水彦のそんな言葉に、キャリンはあいまいに頷いた。

コレを書いている間、仕事はクソいそがしいわ、指を怪我するわ、おまけに頭を打ち付けて流血騒ぎになって危うく救急車を呼びそうになるわ、エライ目にあいました。

今年厄年じゃないはずなのになんでこんな目に……。

お札買いなおそうかしら。


次回は金物屋の親方の登場です。

一応次回で一区切りの予定。


さて、こんな拙い作品ですが、皆様のおかげをもちまして五十話目。

また、お気に入り登録数6000オーバー、ユニークアクセス60万を記録しました。

本当に皆様のおかげです。

つきましては、御礼番外編でも書こうと思うのですが、ネタを募集してみようと思います。

今の所リクエストを頂いたのは、「赤鞘が人間の頃の漫遊記」「神無月の出雲での赤鞘の様子」などです。

後個人的に思い浮かんでるのは、「プロタックラーアグニー」みたいなアグニーの人が只管タックルする話です。

あとはなんか「はじめのタックル」的な感じのリングでタックルしあう的なスポーツとか格闘技的な何か。

そんなのを考えておるのですが、なんかほかにねぇーかなぁーと。

思いまして。


そんな訳で次回。

「青空に浮かぶたくさんのアンバレンス」

どうぞお楽しみに。

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