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三十四話 「土彦様の頼みですからのぉ!」

 ゴーレムと言うのは、いわば魔法で作られたロボットだ。

 自立型のゴーレムは、まさに人工知能を搭載したロボットと言ってもいいだろう。

 ロボットを制御するのはコンピュータになるが、ゴーレムの場合は様々だ。

 たとえば、頭にあたる部分が制御装置になっている場合もある。

 胸の中心に、宝石のようなコアがある場合もある。

 細かい魔法陣が刻まれた石が、制御装置である場合もある。

 この世界、「海原と中原」のゴーレム全てにいえることだが、この制御装置が大きければ大きいほど、ゴーレムの処理能力は大きくなる。

 一概に大きければいいとは言えないのだが、その辺は地球のコンピュータと同じといえるだろう。

 作られた時期が同じであれば、コンパクトさを追求したものよりも、大きくてしっかりしたものの方が高性能なのだ。

 勿論、技術が進歩すれば、旧型の大型よりも性能がいい小型の物は現れるわけだが。


 ゴーレムは、小型よりも大型の物のほうが強いとされることが多い。

 すばやさや量産性は人間サイズのものの方が格段に高くはあるのだが、今現在も主流は3m以上のものだ。

 その理由の一つは、上に挙げた処理能力の問題だ。

 大きいものの方が、細かい仕事が出来るし、判断力に優れる。

 そして、もう一つ。

 純粋に大きいほうが、打撃力が強いのだ。

 大人と子供では、同じ殴るでも破壊力が違う。

 まして判断能力も大きいほうが上となれば、まさに大人と子供だ。

 小さなゴーレムをいくつも作るより、大きいものを一つ作ってしまったほうがコストは最終的に安く付く。


 大型のゴーレムが、全てにおいて小型に勝るか。

 と、言えば、一概にそうとも言い切れない。

 小型ゴーレムが勝る点の一つが、魔力消費だ。

 大型のゴーレムは、その形を魔力で無理矢理維持していることが多い。

 魔力が切れればたちまち崩壊するようなものも、珍しくは無かったりする。

 要するに、存在すること自体に魔力を使っているのだ。

 その点、小型のゴーレムの場合はそういった心配はまず無い。

 マネキン人形の様なものをゴーレム化すれば、比較的軽い消費で運用が可能なのだ。

 だが、乗せられる制御装置は当然小さくなる。

 その国の技術によって性能は異なるが、概ね一般的なゾンビかスケルトン程度の戦闘能力になることが多い。

 それでは、苦労に対して成果が見合っていないのだ。

 もっとも、戦わせること以外でならば、それでも十分なのだが。




 土彦が創り上げようとして居る「マッドアイネットワーク」には、実に様々な国の魔法が使われていた。

 メテルマギトやステングレアといった大国のものは勿論、ギルドや小国のものにいたるまで、実に様々だ。

 魔法の発動方法や組み立て方を秘匿することが多いこの世界において、これは異常なことだった。

 それぞれの技術の欠点を、それぞれの技術の長所が補い合う。

 今まで幾人もの技術者が夢に見て、諦めたことが、土彦の手によって実現したのだ。

 まず、マッドアイネットワークの土台であり末端である「マッドアイ」。

 これは、様々な知覚機能を備えた、いわば歩く監視カメラだ。

 知覚、聴覚、味覚、感覚、嗅覚、そして、力の流れを感知する能力。

 マッドアイには、おおよそ必要と思われる感知能力を全て備えられている。

 さらに驚くべきことに、マッドアイには「自己増殖能力」が備え付けられていた。

 自分達で自分達を作り出すことが出来るのだ。

 不慮の事故や、敵に発見されて破壊されたとしても、その監視網には穴があくということが無い。

 高性能な監視用ゴーレムであるマッドアイたちではあるが、その戦闘力は限りなく0に近い。

 サイズも小さく、何よりも本来戦闘のためのロジックを積む容量を、全て監視能力に割いているからだ。

 力も無ければ、戦闘技術も殆どない。

 そんなマッドアイ達に代わり戦闘を担当するのが、「マッドマン」と呼ばれる中型ゴーレムと、「マッドトロル」「マッドドラゴン」などの大型ゴーレムだ。

 これらの戦闘用ゴーレムは、普段は機動を停止し、地中などに隠れている。

 だがひとたびマッドアイ達が敵を感知すれば、すぐさま出撃。

 高い戦闘力を持って、敵を排除するのだ。

 恐ろしいことに、マッドアイたちはこれら中型、大型のゴーレムすらも作ることが出来る。

 たとえ戦闘が起こり戦力が削られたとしても、すぐさま補給が可能なのだ。

 さらに、これが最も恐ろしい点なのではあるが、マッドアイネットワーク内のゴーレムは、人間などによる魔力の補給を必要としない。

 これは土彦の知識の中にある、ある国の秘術「大気中から魔力を取り出す」という物によって、可能になったことだった。

 植物や動物よりも効率こそ劣るものの、これによりゴーレム達は無補給での行動が可能になったのだ。

 とはいえ、中型大型のゴーレムの魔力消費は激しい。

 丸一日動かず魔力をためたとしても、全力戦闘は一時間が限界だ。

 本来のゴーレムであればそれでは役に立たない。

 なにせ、警備箇所を歩き回って監視する必要があるからだ。

 だが、マッドアイがその監視を肩代わりすることで、その問題は一挙に解決している。

 中型大型のゴーレムが動き回るのは、戦うときだけでいいからだ。

 これらのゴーレムは、敵が居ないときには何もしないかといえば、そういうわけでもない。

 念話などの精神感応で繋がったマッドアイ達から送られたきた情報を精査、整理、蓄積し、経験値を蓄えていくのだ。

 また、容量などの問題で処理が追いつかないマッドアイの補佐などに、戦闘のとき以外使わない思考領域を貸し与えたりもする。

 これによって、マッドアイ達はそのサイズからは想像もつかないほどの高い判断力を発揮する。

 ゴーレムによる、もっとも理想的な防衛システム。

 土彦が持ついくつもの秘術、秘儀を駆使して創り上げられた「マッドアイネットワーク」は、そう呼ばれるにふさわしいものだった。




 見直された土地にあるアグニー達が作った広場に、一体のゴーレムが立っていた。

 全長にして、優に5m。

 まるで甲冑で身を固めた騎士のようなその姿は、圧巻の一言だった。

 一見して土や泥を材料にしていると分かる外見ではあったが、滑らかに加工されたその表面は、金属のような光沢を放っている。

 実際、その硬度は鋼鉄にも近い物であった。

 魔法で硬く押し固められた上で、魔法による形状維持を施されているのだ。

 純粋な強度だけで言っても、鋼鉄で作られたゴーレムと遜色は無い。

 もしここに地球の、特に日本の知識がある者がいたとしたら。

 こうつぶやいていただろう。


 これ、ロボやないかい。


 そう。

 その外見は、鎧武者というよりも、むしろロボであった。

 アニメとか漫画とかだと、たぶん主人公、ないし、メインメンバーの誰かが乗っているであろう外見だ。

 そんな素敵な外見に仕上げられたゴーレムを前に、土彦は腹を抱えて笑っていた。

「あっはっはっは! かっこいい! これはかっこいいですね! 流石ですよ長老!」

「おお! 分かって下さいますか土彦様! やっぱりゴーレムといえば甲冑で御座いますからのぅ!」

 土彦の前で胸を張っているのは、このゴーレムの加工主任をしていた長老だ。

 デザインを決めたのも、長老だったりする。

 このゴーレムのデザインは、じつはアグニー内でのデザインコンペで決定した物だった。

 腕に覚えのある造形師が、まずマッドアイを加工。

 見直された土地のアグニー全員の投票で、どのデザインがいいかを選んだのだ。

 長老のほかには、マーク、ギン、スパンの三人が参加していた。

 マークは、青年らしからぬ昭和寸胴スタイルのロボな外見に。

 ギンは、妙に生々しい生物のような外見に。

 そして中年アグニーのスパンは、自分の嫁にそっくりな外見に作っていた。

 既婚者であるスパンの嫁は、実はアグニー内でも有名な飛び切りの美人だったりする。

 自分の姿を模したマッドアイの登場に只管照れる嫁に、「お前のほうが綺麗だよ」とか声をかけるスパン。

 コンペ会場がいろいろな声に包まれたのは言うまでもない。

 とにかく、そんなこんなで大型ゴーレムの試作機であるこのゴーレムは、長老のデザインで外装を作られることが決定したのだ。


 マッドアイネットワークに使われる大型ゴーレムは、少し前まで開発が暗礁に乗り上げていた。

 どうしても、その形状が維持できなかったのだ。

 ゴーレムの材料は、自然に手に入る物に限らねばならなかった。

 そうでなければ、マッドアイが大型ゴーレムを作ることが出来ないからだ。

 最初は泥だけで作ろうとしていたのだが、それではどうしても魔力消費が大きすぎるのだ。

 泥は自重でつぶれてしまう為、どうしても足を維持するのが難しい。

 足を太い形状にすれば消費は抑えられるのだが、それではマッドアイネットワークの大型ゴーレムに求められる即応性、機動力が確保できない。

 かといって、形状維持に魔力を割けば戦闘可能時間が短くなってしまう。

 悩んでいた土彦にアグニー達がもたらしてくれた答え。

 それが、内部に骨格として石を使うことだった。

 細かく魔法陣を刻んだ石を骨として使うことで、どんな形状でも低コストで維持することが可能になったのだ。

 さらにこのことは、さらに良い効果を生んだ。

 石と泥という二つのゴーレム素材を使うことにより、思考領域が大幅に増加。

 他に類を見ないほど複雑なロジックや圧倒的な記憶領域の確保に成功したのだ。

 これは「石のコアをもつゴーレム」を作る技術と、「泥のゴーレム」を作る技術を融合した物であった。

 この時点で少なくとも二つの国の最高機密レベルの技術を使っているので、この世界にまねできるものはいないだろう。


 試作大型ゴーレムに施された外装にひとしきり感動した土彦は、改めて長老に向き直った。

「しかしこれだけの細工を一日で仕上げたんですね。驚きました」

「いえいえ。わしらアグニーは細かい仕事が得意ですからのぉ」

 土彦に褒められてうれしかったのだろう。

 テレながらそういい、長老は頭をかいた。

 実際これだけの大きさのものを加工するには、相当な労力が要るはずなのだが。

 試作型ゴーレムのもともとの外見は、のっぺりとした物で、筒に棒が四つ付いている程度の物だった。

 それがたった一日。

 時間にして12時間弱で、芸術作品のような仕上がりになったのだ。

「何人ぐらいで作業したんですか?」

「そうですのう。わし以外ですと、年寄り連中が二人だけですかのう」

「ほぉ!」

 その言葉に、驚きの声を上げる土彦。

 たった三人で、これだけ精密な、これだけ大きな仕事をやってのけたというのが、純粋に驚きだったからだ。

「誰が年寄りじゃ!」

「長老よりは老いぼれとらんわい!」

 かけられた声に振り返ると、二人のアグニーが不機嫌そうな顔で歩いてくるところだった。

 一人は片足が膝の付け根から無く、杖を突いている。

 もう一人は、腹部と顔に刀傷のような古傷があった。

 二人とも既に四十歳を超える、老アグニーだ。

「わしはまだ四十二歳じゃぞ! ぴちぴちの乙女じゃ!」

「こっちは四十五じゃぞ。長老よりも若いわい!」

 アグニーの寿命は、人間の約半分だ。

 つまり、年齢は倍にしたものが人間観算になる。

 たしかに、推定年齢五十一歳の長老には、年寄りといわれたくないかもしれない。

「おや! あなた方が手伝ってくれたんですか! 素晴らしいできですね」

「いえいえ! ありがたいことで御座いますじゃ!」

「まさかこの歳で、神様のお使いのお役に立てるとは思いませんものでのぉ!」

 深々と頭を下げる二人のアグニー。

 外見は他のアグニーと変わらず、幼さすら感じさせる。

 だが、間違えなく二人とも歳を重ねているのだろう。

 少々ぎこちなく見える身体の動きは、節々の痛みからくるものらしい。

 土彦はにっこりと微笑むと、二人の頭を上げるように促す。

「ありがとう御座います。貴方がたのおかげで、素晴らしいゴーレムが出来ましたよ」

 アグニー達がゴーレムに施したのは、外見の加工のみだった。

 普通そういった作業は、ゴーレムの性能を左右する物ではない。

 だが、マッドアイネットワークに組み込まれたゴーレムに限って言えば、外見と言うのは大きな意味を持っていた。

 泥で出来ているという性質上、マッドアイネットワークのゴーレムは外部からの衝撃で形状が変化してしまうという弱点を抱えている。

 それによる運動能力の低下を抑えるため、「変化した形状でもっとも効率のいい動き方」をするよう、ロジックを組まれていた。

 その為、最初にどういう外見にしておくか、どこに関節をつけて置くかが重要なのだ。

 今大型ゴーレムに施されている外見形状は、実は何度もマッドアイでシミュレーションをした末に決定された物でもあるのだ。

 効率よく、そして、ゴーレムが稼動箇所を認識しやすい形状。

 その上で、見た目にインパクトを与え、敵を圧倒する形状。

 それが、今ここにある試作大型ゴーレムに施されているのだ。

 土彦に声をかけられた二人のアグニーは、静かに、何度も頷いた。

 老い、傷つき、精々焼き物をこねる程度しか仕事がこなせなくなっていた彼らだ。

 土彦の役に立てる仕事が出来たことに、心の底から喜んでいた。

 まして、直接礼を言われるとは。

 思っても居なかったことに、目頭にうっすらと涙を浮かべる二人。

 そんな様子に、土彦はにっこりとやさしげな笑みを作る。


「おお、そうじゃった。土彦様。例の物も、試作ができましたぞ」

 長老の言葉に、老アグニーの二人も思い出したように顔を上げた。

「そうそう、それをお伝えにきたんじゃった」

「ぜひご覧に入れたいとおもいますじゃ」

 そういってアグニー達が土彦を案内したのは、焼き物小屋の脇に作られた、広いスペースだった。

 木の皮が敷き詰められ、その上には奇妙な形の焼き物がいくつも並んでいた。

 それらを見た土彦は、驚いたように目を見開く。

 膝を地面につけてしゃがみこむと、その一つを手にとった。

 まるで杭の様に先の尖ったそれは、焼き物製の剣の様でもあった。

「素晴らしい出来です! もう試してみたのですか?」

「はい。どれも全て、マッドアイは自分の身体の一部として取り入れられるようですのぉ」

 ここにある焼き物は、全てマッドアイ達が集めた土や粘土で作られたものだった。


 マッドアイ達は、実は自己増殖以外にももう一つ、他のゴーレムにはなかなか見られない特徴を持っていた。

 それは、自己修復機能だ。

 多少の欠損であれば、泥で出来ているという特性を生かし、自分の身体に別の物を埋め込んで直してしまうのだ。

 大型、中型のゴーレムも自分での修復こそ出来ないものの、マッドアイが担当してくれれば、人間が手を加えずに修復してくれるのだ。

 その性質を見たあるアグニーが、こんなことを言った。

「焼き物も土とか粘土だよなぁ。マッドアイの材料になるんじゃないのか?」

 それを聞いた土彦は、大いに衝撃を受けた。

 焼き物は割れて壊れてしまうこともあるが、基本的には泥などよりもよほど丈夫だ。

 鋭利な形状にすれば、本来無防備であるはずのマッドアイにすら、攻撃力を持たせられるかもしれない。

 たとえミツバチの一刺しにも近い低い攻撃力だったとしても、無いよりは圧倒的にましだろう。

 早速、マッドアイに焼き物を装備させる実験が行われた。

 内容は、大成功。

 焼き物の破片を体内に取り込んだマッドアイは、アグニー達に形状をいじくられ、それを武器として認識することに成功。

 僅かながら、戦闘能力を得ることに成功したのだ。

 さらに劇的な戦闘力向上を見せたのは、マッドマンなどの中型以上のゴーレム達だった。

 これらのゴーレムには、身体の一部を投擲して相手にダメージを与えるという能力が元々あったのだが、これが劇的に変化することになったのだ。

 泥や土を記憶領域、思考領域として使用する中型大型のゴーレムの体内にでは、石などは異物として認識され、排出、または行動を阻害する原因になってしまう。

 その点、土や泥を材料とした焼き物であれば、体内に入れても問題なく、記憶・思考領域として使用することが出来るのだ。

 そればかりではなく、戦闘時にこれらの硬い物を飛ばすことで、攻撃力の高い飛び道具とすることが可能になったのだ。

 泥や土の球を飛ばすのと、焼き物を飛ばすのとでは、同じ速度であっても破壊力が数段違う。

 さらに、アグニー達の手によって「物を飛ばしやすい形状」に加工されたゴーレム達の破壊力ともなれば、もはや必殺の兵器と言って差し支えない。

 海原と中原には、体内から物を飛ばして敵を攻撃する動物が意外に多く、そういった形状は見本となるものが多い。

 たとえばドラゴンが代表的だろう。

 ゴーレムの頭部や胸部、腕などをドラゴンの顔の様に加工し、その口から超高速で焼き物を発射させるのだ。

 発射の勢いは、サイズが大きければ大きいほど強くすることが出来る。

 試作大型ゴーレムほどのサイズがあれば、大砲と同程度の加速力で打ち出すことが可能だろう。

 木の皮の上に並べられた、様々な形状の焼き物。

 これらは全て、ゴーレムに装備させる武器の試作品なのだ。


 一つ一つを手に取り、にこにこと笑いながら観察する土彦。

 どうやらどれもこれも、彼女を満足させる出来だったらしい。

「素晴らしいです! 頼んでおいた文様も、全てに刻んで置いて下さったんですね!」

「ええ。勿論で御座いますじゃ」

「土彦様の頼みですからのぉ!」

 土彦が頼んでおいた文様とは、とある国の魔法だった。

 どんな物にでも書き込みさえすれば、後は魔力を流せば発動する。

 そういう類の物だった。

 刻まれた魔法の内容は「遅滞爆破」。

 魔力を込めてしばらくすると、爆発を起こすという物だ。

 一つ一つの焼き物を手にとって眺めながら、土彦はその運用をあれこれ思い浮かべる。

「マッドアイ達の場合は手に持ってこれを相手に突き刺し、中型大型の場合はこれを打ち出す。ああ、実に実に楽しみです。早速試してみたいですねぇ」

 まるで眩い物でも見るように目を細めながら、にこにこと笑う土彦。

 そんな彼女の様子に、アグニー達は役に立てたようだとうれしそうに頷き合う。

「しかし土彦様。こんなに沢山よういして、どうするんですかのぉ?」

「見直された土地は、平和じゃと思うのですが」

 そういって、首を傾げる老アグニー達。

 彼らも、マッドアイ達が防衛に使われるということは土彦に聞いて知っていた。

 だが、今の見直された土地は平和そのものだ。

 警戒すべき敵がいるとも、まったく思えない。

 そんな彼らに、土彦は笑って答えた。

「今はまだ安全ですが、何時悪い人たちがくるか分かりませんからね。今のうちに用意しておかないと。ほら、悪い人たちって、怖いでしょう?」

 土彦の言葉に、はっとした表情を見せる老アグニー達。

 腕を組むと、皆納得したように頷きだした。

「なるほどのぉ。たしかに、悪い人は怖いからのぉ」

「備えあればうれしいな、じゃなぁ」

 備えあれば憂いなし、では無く、備えあればうれしいな、である。

 どうやらアグニー達の間では、昔からそういわれているらしい。

 所変わればコトワザも違うようだ。

「では、早速ゴーレム達に取り付けることにしましょう。マッドマン達から、行ってみましょうか」

 にっこり笑い、立ち上がる土彦。

 マッドマンは、その名の通り人間大の中型ゴーレムの総称だ。

 5mを超える大型ゴーレムと違い、初期から安定して製作されていた。

 その為、マッドアイの次にアグニー達による外装変更が多く行われてる。

 大きさもそこそこあるためつくり応えがあると、大人アグニー達から人気のサイズだ。

 最近では術式を刻み込んだ石を内部に入れるという大型ゴーレムでの技術の転用もあり、大きく性能も向上している。

 土彦の言葉に、老アグニー達はうれしそうに手を叩いた。

「それが良いですのぉ。ギンがよいマッドマンを仕上げたところですじゃ! 四足の、尾の無いサソリのような形状でしてな!」

「それじゃったら、わしが作った甲冑型のほうがカッコイイわい!」

「あっはっはっは! まぁまぁ、実物を見て、決めるとしましょう」

 もめ始めるアグニー達を笑って宥めながら、土彦は焼き物の武器を手にとって集め始めた。

 ゴーレムの加工は、どうやらアグニー達の娯楽になっているらしい。

 ただ働くだけでなく、楽しみがあること。

 それは、生活の潤いになる。

 ましてそれが、自分達を守ることにつながり、神の使いの役にも立つことであるのならば尚の事。

「ああ、ああ。すごく、すごく楽しくなってきましたね。どんなことが起こるのか、どんな風になるのか。予測が出来ません」

 一体、どんな形状に加工されているのだろう。

 それに対して、ゴーレムはどう反応しているのだろう。

 わくわくとする心を抑えきれない様子で、土彦は三日月の形に口を開いて笑う。

 マッドアイネットワークはこの見放された土地を守る盾にして、強い矛となるだろう。

 それはほかならぬ赤鞘を守ることであり、住民であるアグニー達を守ることに繋がる。

 自分の大好きなことをすることが、大好きで大切な物を守ることに繋がる。

 こんなに楽しいことがあるだろうか。

 生まれてきた喜びを享受するとは、まさにこのことではないか。

 まるで唄うように笑いながら、土彦は焼き物の武器を拾い集める。

 せくように立ち上がると、踊るような足取りで歩き始めた。

「さあ、では、行くことにしましょう。案内をお願いできますか?」

 ゆっくりとした足取りは、老アグニー達を気遣っての物だ。

 本当だったら、今すぐ駆け出してしまいたい。

 だが、それをすることはけしてない。

 老アグニー達を待たなければならないからだ。

 彼らは土彦に頼まれた仕事に、誇りを持って当たってくれている。

 それもまた、土彦にはたまらなくたまらなくうれしいのだ。

 土彦の言葉に、老アグニー達は頷き、歩き出した。

「森の近くに作った広場に、並べてありますのじゃ」

「ハナコが木を引っこ抜いてくれたところでしてのぉ」

「いやいや、ハナコは働きものじゃわい!」

「あっはっはっは! 本当ですね。頼もしい限りです」

 老アグニー達と話しながら、ゆっくりとした足取りで歩く土彦。

 その姿はとても、いくつもの国の、いくつもの軍事機密を含んだ兵器群を創り上げたものとは思えなかった。

 やさしく、柔和に微笑みながら、土彦はゆっくりと、老アグニー達を気遣うように歩くのだった。

マッドアイネットワークに関する回でしたー。

なかなか物騒そうですね。

実際物騒ですが。

かなり軍事機密やら秘術やらが使われたやばいものであるということが伝わればなぁ。

と、思っております。


さて、次回ですが。

見直された土地に、外敵が現れます。

「見放された土地」の結界が消えた事に感づいた知能の高いドラゴンが一頭、なわばりを求めて舞い降ります。

アグニーを蹴散らそうとするドラゴンに対するは、未だ未完成のマッドアイネットワーク。

そして、ガーディアン土彦。

一体、どうなってしまうのでしょうか!

次回「贄 ~イケニエ~」

そんなタイトルには絶対になりません!

乞うご期待。

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