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三十話 「乳袋って知ってますか?」

 今日も、見直された土地は晴天に恵まれていた。

 土地の中央付近にある、樹木で出来た輪。

 その中心に座った赤鞘は、すがすがしい気持ちで仕事に打ち込んでいた。

 見た目は地べたに座り込み、樹木の精霊たちに遊ばれているようにしか見えない。

 だが、赤鞘は今、この世界の存亡をかけたといっても過言ではない仕事をしているのだ。

 世界をめぐる力を整える。

 小規模なものならばともかく、土地全体の力の循環を整えるというような仕事は、神でなければ行うことは難しい。

 今現在海原と中原には、赤鞘と同じレベルで土地を調整できる神は殆どいない。

 いたとしても、他の仕事に追われている。

 今現在土地の管理をしている神々の模範となるためにも、赤鞘は急ピッチで見直された土地を完成させなければならないのだ。

 世界のバランスが崩れすぎてしまえば、それは世界が崩壊することにも繋がる。

 赤鞘の仕事はまさに、世界の命運を担う仕事でもあるのだ。


「あー。アイスたべたい」


 赤鞘にその自覚があるかどうかは、まったく別の話になるのだが。




 赤鞘が樹木の精霊達を転がしたりしながら仕事をしていると、突然目の前にドアが現れた。

 コマ落しの様に唐突に現れたそれを開いて出てきたのは、最高神にして太陽神である、アンバレンスだった。

「ちょりーっす、どもどもー」

 最高神どころか神であるかも疑わしくなるような、恐ろしくかるーい挨拶だ。

 ちなみに、アンバレンスの今の服装は、ジャージの上下だった。

 中学校とか高校の、体育の授業のときに着るあれである。

 色合いは赤。

 情熱の赤ジャージだ。

 当神曰く、「赤は超カッコイイ太陽神様のカラー」なのだそうだ。 

 そんな太陽神の登場に、樹木の精霊達は飛び跳ねて喜んだ。

「うわぁー! あんばれんすだー!」

「たいようしーん!」

「かっこいー!」

 植物にとって、太陽の存在は偉大だ。

 日の光は世界を暖めるものであり、食事でも有る。

 植物は種族全体がアンバレンスに餌付けされているといっても過言ではないのだ。

「はっはっは! カッコ素敵なアンバレンスお兄さんだぞー。もっと崇め奉ってもいいのよー」

 樹木の精霊達の言葉に、アンバレンスはご満悦だ。

 とても神様には見えないそんなアンバレンスの姿だが、樹木の精霊達は楽しそうに褒め称える。

「たいようしんツヨイ!」

「ひかりかがやいてるー!」

「かみのなかのかみー!」

「あんばれんすたんじゅん!」

「はっはっは! ……今誰か単純って言わなかった?」

 一瞬、首を傾げるアンバレンス。

 どうやら聞き捨てなら無い台詞が耳に入ったらしい。

「きのせいだよー!」

「ちっちゃいことはきにすんなー!」

「ああ、まあ、そうかそうか。気のせいか。最近疲れてるからなー」

 比較的簡単に丸め込まれるアンバレンスだった。

 ある意味器が大きいのかもしれない。

「あー、アンバレンスさん。いらっしゃい。お休みですか?」

 樹木の精霊達の後からゆっくりやってきたのは、赤鞘だった。

 ずっと座り込んで仕事をしていたからだろう。

 正座をしすぎて足がしびれたような歩き方をしている。

 アンバレンスは軽く手を上げると、苦笑しながら返す。

「いやいや。午後から仕事ですよ。太陽神のほうだけでも忙しいのに、最高神の管理仕事まであるんだから。まいりますよねー」

「仕方ないですよー。アンバレンスさんにしかできない仕事ですから」

「まー。そう言われればそうなんですけどねー」

 アンバレンスは苦笑しながら頭をかいた。

 今現在、海原と中原にはアンバレンス以上に力を持つ神はいないのだ。

 この世界におわす至高の神であるアンバレンス。

 だが、見直された土地の樹木の精霊達はそんなことはものともしない。

 てけてけとアンバレンスに走り寄ると、その体をよじ登り始めた。

「たいよーしーん!」

「おみやげー!」

「おみやてちょうだいよー!」

「おみやげだよー?」

「おみやでー!」

「はいはい、わかったわかった」

 体にまとわりつく精霊の頭をくしゃくしゃなでながら、アンバレンスは上着のポケットに手を突っ込んだ。

 引っ張り出したのは、明らかにポケットの中には納まらないであろうサイズの金属バケツだった。

 表面には「超巨大! バケツポテトチップス 5kg」と、ポップな字体で書かれている。

「ほぉーれー。ポテトチップスだぞー」

「でっけー!」

「しゅげぇー!」

「うわぁーい!」

 はしゃぎまくる樹木の精霊達。

 バケツに飛びつこうとする樹木の精霊達だったが、アンバレンスはそれをひょいっと持ち上げて回避する。

「あー!」

「ぽてとー!」

 じたばたする樹木の精霊達。

 アンバレンスは面白そうに笑いながら、ぶらぶらと缶を揺らす。

「おまえらいいこにしてたかー?」

「してたぁー!」

「よいこー!」

「えらいこだったー!」

 両手を挙げて宣言する樹木の精霊達。

 アンバレンスはますます面白そうに笑うと、缶を地面に置いた。

「喧嘩しないでくえよー」

「「「ありがとー!」」」

 樹木の精霊達はきちんとお礼を言うと、一斉に缶に群がった。

 ありがとうはきちんといいましょう。

 これは、赤鞘の教えだ。

「いつもすみません」

 申し訳なさそうに頭を下げる赤鞘に、アンバレンスは首を振る。

「いえいえ。いつも遊びに来させてもらってますから。で、我々はこれで」

 そういってアンバレンスが取り出したのは、酒瓶だった。

 楽しそうに笑うアンバレンスのその顔に、赤鞘は思わず苦笑した。


 地面に胡坐をかく赤鞘の隣で、アンバレンスは寝転がって頬杖を付いていた。

 二柱の前には、SFのような質量の無いウィンドウが浮かんでいた。

 アンバレンスの力で実体化したそれは、アグニー達の村を映し出すモニタになっている。

 二柱はアグニー達の仕事の様子が写るそれを見ながら、アンバレンスが持ってきた酒をのんでいた。

 最近はこうやって一杯引っ掛けるのが、定番になっている。

「いやー。しかしアグニー達すごいですねー。あれ焼き物ですか」

「ええ。まあ、炭焼き小屋が作れてましたからね。セトモノ作れない道理はありませんよね」

「すげぇ。ウワグスリだ」

「綺麗に形成していますよねぇ」

 二人が見ているのは、粘土を形成して器のようなものを作っているところだった。

「彼ら、ずっと寝込んでいたアグニーさん達ですよ。元気になったんですねぇ」

 感慨深げにつぶやく赤鞘。

 その言葉通り、粘土をこねているのは、皆今まで寝込んで動けなかったアグニー達だった。

 休む場所ができたり、食糧供給が安定して、回復したのだろう。

 皆元気に働いている。

 何故赤鞘がそんなことが分かるかといえば簡単で、見直された土地にいるアグニー達全員の顔と名前が一致しているからだった。

 水彦の目を通して彼らを見ていたとはいえ、赤鞘の記憶力でよく覚えられたものだ。

 器の形に成形された粘土は、いったん天日に干されてから焼かれるらしい。

 干すための場所にそれを持っていくのは、子供のアグニー達の仕事のようだ。

 それぞれの役割をこなしている彼らを眺めながら、赤鞘はうれしそうに笑っている。

 今は土地を整えることが重要な為に、もっとも仕事のしやすいこの場所から赤鞘が動くことはできない。

 それでも土地の中での出来事であるならば、赤鞘には有る程度知覚することができた。

 有る程度の事は分かっても、やはり直接目で見るほうがうれしさは勝るらしい。

「段々、形になってきましたねぇ。もう村と呼んでもいいんじゃないですかねぇ」

 にこにこと笑いながら、赤鞘は手にした湯飲みをあおる。

 注がれているのは、アンバレンスが持ってきたぶどう酒だ。

「村。ですねー」

 そんな赤鞘を見ながら、アンバレンスは面白そうに笑う。

 アンバレンスにとっては、アグニー達の行動も赤鞘の行動も、どちらも酒の肴になるようだった。




「ところで、赤鞘さん」

 画面を見ながらしばしボーっとしていた二柱だったが、アンバレンスが思い出したように声を出した。

 赤鞘はゆっくりとした動作で、横にねっころがるアンバレンスに顔を向ける。

「はいはい?」

「最近ですね。思うことがあるんですよ」

「はぁ」

「乳袋って知ってますか?」

 赤鞘はぐるっと首をめぐらせ、後方に目を向けた。

 樹木の精霊達はお菓子に夢中らしく、こちらの様子には一切ノータッチのようだ。

 赤鞘は視線を戻すと、首を左右に振る。

「いや。知りませんけど」

「あのー、あれですわ。アニメとか漫画とかのキャラで、とんでもなく乳でかいひといるじゃないですか」

「はいはい」

「そういう人の服って、こう、やたら乳を強調する? 形状? してることありません?」

「えーっと。というと?」

「ほら、こー、なんつーか。首から乳にかけてが山になっていってー」

「はぁはぁ」

「頂点から下乳にかけて谷になってぇー」

「はぁはぁはぁ」

「こしのところで、きゅっ! ってなってる服。ですよ。ええ」

「あーあー。ありますね最近そういうの」

「でしょう? あれって服の構造として、乳の部分がこう、袋状になってないとほら、入らないじゃないですか」

「あーあー、はいはいはいはい」

「こう、服単体で見ると胸の部分が袋状にね、ほら」

「分かります分かります。明らかにこう、乳の部分だけ布の量ちがうだろう的な」

「そうそうそう! それそれ! アレ絶対袋みたいな構造になってないとああならないでしょう?!」

「ですねぇ」

「アレ乳袋っていうらしいんですわ」

「あーあーあー。なるほどねぇー。上手い事いいますねそれ」

「でしょう? 私もそう思ったんですよねー」

「え、で、それがどうかしたんですか?」

「いえね。あれってこう、脱いだら明らかに乳の部分が袋になってないとおかしいじゃないですか」

「ああ。平らではないですよね」

「でしょう?! だって明らかに立体になってるでしょう?!」

「なんならブラジャー的な」

「そうそうそう、形状記憶的な。的な」

「あっはっはっは!」

「はっはっは! まあ、で、ですよ」

「はいはい」

「あれ明らかにこう、なんていうか。ハンガーにかけたら、すごい垂れるはずじゃないですか」

「垂れる? 垂れる。ああー! はいはい。垂れますね間違いなく。ええ」

「でも漫画とかだと、絶対そういう描写ないじゃないですか」

「あー。こう、ハンガーにかけてあると普通の服みたいな」

「あれおかしいですよね?」

「まあ、ええ。はいはい。ですねぇ」

「それにほら。あのー、あれ。そういう描写出てない服もですよ? 問題あるんじゃありません?」

「というと?」

「上から被るタイプの服あるじゃないですか」

「ありますねぇ」

「あれ、あのー、あれ着るとほら。突っかかるでしょう」

「あー、あーあーあー、乳が! 腹の周りの部分に!」

「そう! 明らかに乳でかすぎてつっかかるんですよ! 下乳以下の部分! 細いから! 布が!」

「引っかかりますねぇーそれは。ええ、ええ」

「あれ、あれどーんなんすかね。どーなってるんですかねアレは」

「あー。え、そこはえーと、ほら」

「なんすか。なんすか」

「ほら。こう、おっぱいの神秘的な」

「キター。神秘! 神の秘密キター! あっはっはっは!」

「あっはっはっは!」

「あーっはっは、え、なにそれ、俺らあれっすか。乳袋にカゴを授けてる的な!」

「そうなんじゃないですか? 実際。 なんかこう、あの服がよっぽどのこう、とんでもない素材でできてるんじゃない限り」

「えー。神様の加護、特殊素材以下か。まーじかー、あっはっはっは!」

「まぁまぁまぁ。はっはっは。こう、ゼウス様とか。そういうの好きですし」

「あー。好きだわーあのひと。女の子好きだし。やりそうだわー」

「でもアレじゃないですか? ほら。最高神つながりで」

「俺も乳袋に加護を与える的な?」

「的な」

「太陽神アンバレンスの加護で作り上げられた、至高の乳袋です」

「あーっはっはっはっはっは!!」

「きまった?! ねえ、いまのきまった?!」




 見直された土地は、今日も実に平和だった。

最近水彦ばっかりだったので、赤鞘とアンバレンスを取り上げてみました。

乳の話です。

ストーリーと関係ない?

何言ってるんですか。

赤鞘とアンバレンス、神同士の会話ですよ。

ばっちり本編にがっちするじゃありませんか。


水彦の話と一緒に乗せるのは流石にアレだったので分けました。

予定ってやっぱり未定なんだなぁ。

と思う昨今です。


まあ、赤鞘を出せたので次回はじっくり書けますね。

水彦と謎の男。

そして、水彦とエルトヴァエル。

そんな感じで書きます。

多分それで区切りがよくなるんじゃないでしょうか。

それ以降は具合を見つつ描写します。

多分土彦のパートになると思いますが。

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