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二十三話 「怖いですもんねー、ぎっくり腰」

 土彦は地べたの土を一掴みほど持ち上げると、おにぎりでも作るような手つきでそれを固めていった。

 彼女が座っている隣には、丸い形の土の塊がいくつも転がっている。

 また一つ土の塊を地面に置くと、土彦は満足したように頷いた。

 隣でその様子を眺めていた赤鞘と樹木の精霊達は、その様子をぽかーんと口をあけて見守っていた。

「こんな形で大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。問題ありません」

 そういって、にやりと笑う土彦。

 赤鞘も意味ありげにニヤリとしているが、樹木の精霊達は不思議そうに首をかしげていた。




「それで。結局それ何作ってるんですか?」

「おにぎりー」

「おだんごー」

「あっはっは。土でできていますから、食べられませんよ?」

 土の塊をつっつく樹木の精霊達に声をかけながら、土彦は赤鞘のほうへと体を向けた。

「これを本体にして、「マッドアイ」という物を作ります。分かりやすく言えば、ゴーレムでしょうか」

「はぁ。ゴーレムですか」

 感心したように頷く赤鞘。

 ファンタジー色の強い話には、トンと縁がない赤鞘だった。

 そんな赤鞘の様子に、土彦は苦笑する。

「ゴーレム、と言っても、要するに魔法で動くロボットのような物です。彼らにさせる仕事は、まさに警備ロボットのそれです」

「警備ロボットですか?」

 急に出てきた近代的な言葉に、赤鞘は眉間に眉を寄せた。

「はい。では、まずは一つ」

 土彦は土の塊を一つ掌に載せると、何事かつぶやきながら指でその表面を撫でた。

 力の流れを見通す赤鞘の目には、土の塊の中で起こっている変化が良く見て取れていた。

 土彦が土の塊に力を送り込み、まるで生物の体内の様に形を整えているのだ。

 ほんのわずかの間で、土の塊の力の流れは安定し、擬似的な生物の様になっていた。

 もっともあくまで擬似的であって、生物のそれとはまるで複雑さが違うのだが。

 土彦は流れが安定したのを確認すると、地面の土を摘み上げ、それを土の塊に押し付けた。

 押し付けられた土は、土彦が手を離したとたん、うぞうぞと動きはじめる。

「うわぁー」

「しゅっげー」

「おもしゅろーい」

 パタパタと騒ぐ樹木の精霊達を見て表情をほころばせながら、土彦はもう三つ、土の塊に土を押し付ける。

 計四つのうねうねの生えた土の塊を、地面の上におろす。

 すると、うねうねが土の塊の表面を滑るように動き出した。

 地面のほうに二つ、前方に二つ。

 地面のほうへ動いた二つは土の塊の下にもぐりこむと、なんと全体を持ち上げ始めた。

 まるで足の様になったそれは、器用に動き回り、とことこと歩き始める。

「「「おおー」」」

 その様子を見て、赤鞘と樹木の精霊達はぱちぱちと拍手を送った。

 周りの状況を理解しているか、土の塊は赤鞘達の拍手に、前方のうねうね、おそらくは手であろう箇所を振って応える。

「うわ。こっちが見えてるんですかコレ」

「おもしゅれー!」

「うねうねしてゆー」

「はい。これは目と耳の機能を持ち、歩き回るモンスター、「マッドアイ」という物です。泥の目。そのままのネーミングですね」

 土彦が手招きすると、土の塊、マッドアイはとことこと移動し、目の前でぴたりと動きを止めた。

「これは見聞きした情報を、リアルタイムで他のものに送る事ができる能力があります。つまり、製作者である私や、私が設定した道具に、ですね」

 土彦の言葉に、赤鞘は首を傾げる。

「設定した道具というと?」

「水晶球や水鏡や、まあ、そんなところです。彼らから送られてくる情報は映像と音なので、カメラ映像の様に保存も蓄積もできるんですよ」

「はぁぁぁ……まさに警備ロボットですね。某車メーカーが作った二足歩行のヤツとか、犬みたいなヤツとかみたいですねぇー」

 感心したように言いながら、赤鞘はマッドアイを覗き込んだ。

 照れるように上のほう、恐らく頭であろう部分をかくマッドアイ。

「あらら。知能もあるんですか?」

「低くはありますが、一応はありますよ」

「はぁー…」

 只管感心した様子でマッドアイを覗き込む赤鞘。

 樹木の精霊達は、早速マッドアイをぽむぽむと叩いたり撫でたりし始めている。

「実はこのマッドアイには、もう一つ大きな特徴があります」

「ほう。なんでしょう?」

「なんと彼らは、自己増殖が可能なのです。自分達で自分たちの仲間を作り、勝手に増えるんですよ」

「ええ?!」

 顔を跳ね上げ、土彦とマッドアイを交互に見る赤鞘。

「彼らは自分で土をこね、丸め、内部の力に干渉し、自分と同じ物を作り上げるんです」

「はぁ…」

「とはいえ、彼らができるのはあくまで仲間を作ることだけで、他の力には干渉できません。そもそも土をこねるのも力に干渉するのも、5~6体がかりでやっとなのですよ」

 苦笑しながらそういう土彦。

 だが、それはすごい事なのではないか。

 何か恐ろしい物を見る目で、樹木の精霊達に弄り回されるマッドアイを見据える赤鞘。

 そんな赤鞘の様子を見ながらも、土彦は説明を続けた。

「数は少ないうちはいいのですが、マッドアイの数が多くなると情報も多くなります。地域ごとにマッドアイの情報を中継するものも作ります。それには有る程度高い知性を持たせ、情報を集約し、解析し、必要があると判断した場合にのみ私に知らせが来るようにします」

「お、おおう……」

 土彦がなにやらすごいことを説明しているのだということは分かったが、それ以上の事は赤鞘には良く分かっていなかった。

 コンピュータに疎い人間に、その手の話をしているような状態だ。

「まあ、平たく言えばマッドアイは下っ端で、その報告をまとめて、私に情報を上げてくる中間管理職も作るって事ですよ」

「ああー」

 とたんに、赤鞘は納得したように頷いた。

 基本的に超体育会系な社会である神の世界にいる彼には、非常にわかりやすいたとえだったらしい。

「その中間管理職は、マッドアイよりも大きく、強い物を作ります。弱い相手であればそれだけで対処できるレベルの…いわば「マッドトロル」といったところでしょうか」

「泥でできたトロル、ですか」

 赤鞘が想像したのは、泥まみれになったハナコの姿だった。

「うわぁ…」

 自分で想像してあれだが、思わず呻くほど迫力があったようだ。

 実際のマッドトロルも、大体赤鞘の想像通りの外見をしている。

「ですが、マッドトロルとマッドアイの守備でも、まだ情報が多くなりすぎるでしょうね。戦闘力も足りませんから、さらにもう一つ上に泥で出来た巨大な蛇のような物「マッドワーム」も置きます。全長は、20mもあればいいでしょうか」

「う、うわぁ……」

 なんだか話が物騒な方向に飛び出したので、赤鞘は思わず表情を引きつらせる。

「まあ、トロルもワームも、ひとまずマッドアイを増やしてからですがね」

 そういうと、土彦は再び土の塊を手に取る。

 指でその表面を何度かなぜると、指でつまみあげた土を押し当てる。

 あっという間に作り上げられた二体目のマッドアイは、土彦の手を離れ、一体目の横に並んだ。

「おー」

「しゅっげー」

「ちゅちひこ、ぼくたちもてちゅだう!」

「あっはっは。ありがとう御座います」

 土の塊や膝に上り始めた樹木の精霊に、土彦はにっこりと微笑みかける。

「では、土のお団子を作って頂けますか? 術をかけるのは私でないと、加減を間違えてとんでもない物が出来てしまいますから」

「「「あーい!」」」

 元気良く返事をする樹木の精霊達に、土彦も満面の笑みを浮かべる。

 そんな様子を見て、赤鞘は土地の管理の仕事へと戻る為、胡坐で地面へ座りなおした。

 こういうことに関しては、赤鞘は門外漢だ。

 精々、事の成り行きを見守るしかない。

「ねーねーちゅちひこー」

「どうしました?」

「まっどとろるとか、まっどわーむは、あぐにーにかみちゅく?」

 土地に住む物を傷つけることはないのか。

 そういう質問だ。

「大丈夫ですよ。マッドアイの映像は私も見ていますし、トロルもワームも頭はそれなりにいいですから」

「へー、しゅっげー!」

 感心する樹木の精霊達。

 赤鞘がなぜ真っ先に住人の身の安全を確認しなかったかといえば、単に信用しているからだった。

 ガーディアン、眷属、そういったものは、まず住民の為にある。

 それが当たり前であり、赤鞘にとっては確認する必要もないことだった。

「じゃあ、まっじょあいたちが、あぐにーもあかしゃやのことも、まもってくえゆねー!」

「ええ。勿論です」

 楽しそうにはしゃぐ樹木の精霊達を、土彦は指でぷにぷにと撫で回した。

「もし、赤鞘様や住民達に手を出すような愚か者がいましたら……」

 一瞬、赤鞘は背中に冷たい物を感じ、土彦のほうを振り向いた。

「目と舌をえぐってやりましょう」

 土彦は柔和に微笑みながら、のほほんと口にした。

 赤鞘はゆっくりと顔を戻すと、震える手をそっと地面に突き刺さった鞘へと添えた。

「見なかったことにしよ」

 最近、めっきり現実逃避が増えてきたなぁ。

 そんなことを思う、赤鞘だった。




 土彦が作ろうとしているシステムは、彼女が考えた物ではなかった。

 樹木の精霊達が持っていた多種多様な情報知識からもたらされた物だったのだ。

 たまたま王立図書館の近くで芽吹き、本の精霊達を友達に育った世界樹が、赤鞘の元にやってきたものの中に居た。

 その精霊が覚えていた論文の一つにあった「マッドアイ・ネットワーク構想」と名づけされたシステム。

 それが、土彦が作り上げようとしている物の下地になっていた。

 論文は結局、これが今の技術では難しいという結論で締めくくられている。

 それは、それぞれの国が得意とする魔法の方向性が違ったからだ。

 見た映像を他者に伝える術、動き回るゴーレムを作る術、人間にも近い思考力を持つものを作る術。

 他にもこのシステムを作り上げるのに必要な様々な魔法的要素は、どれもこれも各国の軍事機密レベルの扱いを受ける技術なのだ。

 論文を書き上げた研究者は、「各国の魔法に、各国の最高レベルで長けているものがいるとするならば、このシステムは完成するかもしれない」

 そうも書いていた。

 土彦はその研究者をして「机上の空論」と自嘲気味に結論付けているそのシステムを、こともなげに作り上げようとしているのだ。

 それは、土彦が「世界各国の魔法の秘術を見聞きして記憶してきた樹木精霊から」「直接知識を植えつけられた」存在だった。

 そう。

 土彦は研究者が言う、「国の魔法に、各国の最高レベルで長けているもの」なのだ。

 このことが後に赤鞘の運命に微妙に影響してくることになるのだが。


「あ。そういえば土彦さん。アグニーさんたちにマッドアイの事説明しました?」

「事前説明をしに行こうと思ったのですが、なんだかスパンさんがぎっくり腰をやったとかで」

「あらら」

「なんだか大騒ぎになっていたようでしたから、後日事後紹介でいいかなぁ、と思いまして」

「ああ。心配ですもんねぇ。一応顔合わせだけはしたんですよね?」

「はい、自己紹介は。ですが、ぎっくり腰騒ぎでそれ以上は」

「怖いですもんねー、ぎっくり腰」


 当人達はいたってのんきだった。

短めです。


水彦の戦闘シーンにちょっとスペースを取るべく、短く区切りました。

こんなに短いのは初期以来なんじゃないでしょうか。

でてくる文章量にばらつきがあることに定評があるアマラです。




水彦は大力馬鹿で、土彦は技術馬鹿ですね。

嫌な兄妹です。


さて、次回はアホの方にスポットを当てます。

旅の空で敵に会い、戦い、倒す。

時代劇が好きな私としては刀での立会いが望ましい所ですが。

人間には会えなさそうですよね。

場所が場所ですし。

罪人の森には一般の人も後ろ暗い人もチカヅキマセン。


次回は、「水彦くん漫遊記」一本です。

極○くんなんて今の若い人しらないかしら。

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