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二十二話 「ミツモモンガとったよ。捕まえて持っていこう」

 真社会性、という言葉をご存知だろうか。

 蟻や蜂、甲殻類などに見られる、社会性行動の一つだ。

 女王などと呼ばれるメスを中心にしたシステムであり、巣や集団全てをひとつの生物として機能させるものである。

 子供を生むという役割を一匹のメスが担い、その子供達が巣を作り、食料を集め、巣を守り、子供達の世話をし、一つの集団を形成するのだ。

 虫などでしか居ないと思われがちな形態の生物だが、実は地球にも真社会性を持つ哺乳類がいたりする。

 ハダカデバネズミと呼ばれる動物なのだが、今回は名前の紹介だけでとどめておこう。


 この世界、海原と中原にも、その真社会性を持つ哺乳類が存在した。

 名前を、「ミツモモンガ」という。

 おおよその特徴を現した名前を持つ彼らの外見は、地球にも住んでいるモモンガに非常に似ていた。

 彼らは大きな巣を形成し、80~100匹程度の集団で暮らす。

 集団の九割を占める「働きモモンガ」の体長は、約12~15cm。

 巣の中で一番大きな「女王モモンガ」でも、20cm以上であることは稀だった。


 ほかの真社会性を作る動物と同じく、彼らも女王以外は出産はしない。

 一日に4匹以上出産することも有る女王の体を支える食事の確保は、働きモモンガ達の重要な仕事の一つだ。

 体の小さな彼ら働きモモンガは、木から木へ、花から花へと飛び移り、蜜を集める。

 先が二つに割れた舌は、その間にわずかな隙間ができている。

 働きモモンガ達はその舌を花へと押し入れると、舌の割れ目を通して蜜を吸い上げるのだ。

 彼らが集めるのは、勿論花の蜜だけではない。

 木の樹液、甘い草の汁なども集め、巣に持ち帰り保存する。

 このとき使用されるのが、彼らが巣に作った、蜜保管壷だ。

 彼らの巣と同じ、泥と木屑を混ぜた物で作られたこれは、中に保存された蜜の水分だけを見事に飛ばしてくれる。

 その中で、蜜は濃度を上げ、働きモモンガの唾液に含まれる酵素で分解され、極上の栄養食となる。

 働きモモンガが集めるのは、蜜だけではない。

 昆虫などの小動物も、積極的に捕獲、食料にする。

 栄養価も高く、数も多い昆虫は、彼らのような小動物には恰好の餌になるのだ。

 働きモモンガが集めてくる蜜、「モモンガミツ」に、栄養豊富な昆虫。

 これらを食べることにより、女王モモンガは他の哺乳類では考えられないペースでの出産が可能なのだった。


 彼らの巣は、高い位置に作られることが多い。

 巣の材料は、専ら木屑と土だ。

 働きモモンガの唾液とそれらの材料を混ぜて作られた壁面は、非常に薄く、丈夫だ。

 時に100匹にもなる大所帯を支えるだけあって、その巣は大きく、立派だ。

 もし彼らの巣を手に入れることができれば、貴重な「モモンガミツ」を手に入れることができるだろう。

 だが、その為にミツモモンガの巣を襲うことは、あまりお勧めできない。

 小さく、愛らしい外見の彼らだが、その牙には毒を持っているのだ。

 細く鋭い彼らの歯は、それだけでも甲虫の殻を突き破るほどの凶器になる。

 人間が死ぬほどではないものの、激痛を感じさせるその毒は、その凶悪な歯と相まって恐ろしい武器になっている。

 これだけでも十二分に危険なのだが、彼らはもう一つ、とんでもない隠し武器を持っていた。

 なんと、魔法を使うのだ。

 射程距離は約5mほどではあるものの、「風の弾丸」「魔力弾」などと呼ばれるその威力は、ヘビー級プロボクサーのストレート一発に匹敵する。

 ただのクマ程度であれば、数匹によるこの魔法の行使で、撃退してしまうのだ。

 一度使えば、次に使うまで一日から二日の充填を必要とするとはいえ、それは標的には何の慰めにもならないだろう。




 見た目こそ小動物といった感じで可愛らしいミツモモンガだが、その顔つきは意外に凶暴な生物であることを示していた。

 丸っこい顔は噛む力が強い証拠だし、正面を向いた丸くて大きな目は、捕食者に必要な高い視力を物語っている。

 特筆すべきは、その気性だろう。

 巣から離れ蜜や虫を集めているときは、大きな獣に近づいたりせず、慎重な行動をするミツモモンガ。

 だが、巣に近づく敵に対しては、勇猛果敢な戦士となって襲い掛かる。

 たとえそれがトロルであろうが、木の棒で武装したアグニーであろうとも、一切の躊躇無く迎撃するのだ。


「ひでぶー!」

「あべしー!」

 二人のアグニーが、ミツモモンガの魔法を食らって吹っ飛んでいった。

 地面でのた打ち回っているところを見る限り、生きてはいるようだ。

「もうやだお家かえる」

「結界にタックルしたい」

 命に別状は無いようだが、心はすっかり折れてしまったようだ。

 地面に転がったまま動かなくなっている二人のアグニーを尻目に、長老やギン達はトロルのハナコを盾にして、徐々にミツモモンガの巣に接近していた。

 ハナコの体をたくさんの魔法が襲うが、ひるむ様子は無い。

 肉体強化魔法を扱う種類のトロルであるハナコの体は、ミツモモンガたちの攻撃ではびくともしない。

 彼女が前に出て攻撃を受けている限り、アグニー達は安全だといえるだろう。

 が、横に回りこんだミツモモンガまではカバーしきれない。

 たまたま一番端に居たアグニー二人が地面に転がったのは、まあ、尊い犠牲だろう。

「くっそー! 二人も犠牲が出るとは!」

「カタキはとってやるからな! たぶん!」

 木の枝を振り回しながら、叫ぶアグニー達。

 アグニー達は葉っぱの残っている木の枝を振り回し、飛んでいるミツモモンガをはたいていた。

 叩かれたミツモモンガは、一瞬動きが鈍り、木の枝に絡まる。

 動きが鈍っているミツモモンガを、ハナコが抱えているカゴに入れていく。

 植物のツルで編まれたカゴに入れられたミツモモンガたちは、急におとなしく動かなくる。

 このカゴには「シビレソウ」を焼いた煙をたっぷりとしみこませてあるのだ。

 中に入れた小動物は、暫くの間は動けなくなる。

 ハナコを先頭にしたアグニー達は、何とかミツモモンガの巣がある木の下までたどり着いた。

 頭の上にはミツモモンガが飛び回り、木にしがみついたミツモモンガ達もしきりに威嚇してきている。

 遠くからでは葉に隠れていて良く見えなかったが、木下から覗き込むと、巣の大きさが良く分かった。

 ハナコがようやく持てるであろうサイズといえば、その大きさが伝わるだろうか。

 上を見上げたギンの表情が曇る。

「まいったなぁ。まだまだ沢山いるぞ」

「想定していたよりも数が多いようじゃな。道具が準備ができるような状態ならよかったんじゃが」

 苦虫を噛み潰したような顔をする長老の言葉に、ギンも頷く。

「まあ、仕方ないじゃろう。やるだけやるしかないのぉ」

「「「おお!」」」

 長老の言葉に、アグニー達は気合の入った声で答える。

 が、やっていることといえば、木の枝を振り回すというなんともいえないものだった。

 それぞれの掛け声も。

「そいやぁー!」

「ちぇすとー!」

「どうりゃー!」

 などなど。

 本人達はいたってまじめなのだが、聞いているほうは気が抜けそうだ。

 それでも、何とか飛び回っているミツモモンガ達を叩き落とし、カゴに放り込んでいく。

 大きな背負いカゴのような形だが、しみこませたシビレソウの煙が良く効いているらしく、逃げ出しそうな様子は見えなかった。

 だが、ミツモモンガの数は一向に減る気配がない。

 痺れを切らしたのか、ギンは後ろを振り向くと、声を張り上げた。

「カーイチ!」


 ギンの呼ぶ声に、カーイチはすぐさま木の枝を蹴り空へと飛び出した。

 肩や頭にとまっていたカラス達も、それと同時に飛び立つ。

 数度羽ばたくだけで、あっという間に、ギン達が攻略中のミツモモンガの巣が見えてきた。

 ギンの指示でいつでも出られるように、待機していたのだ。

 カラス達の存在に気が付いたミツモモンガ達は、慌ててカラス達にも威嚇を始める。

 カーイチはそれを無視して、巣の近くでホバリングし始めた。

 こんなことをすれば、本当なら直に魔法による攻撃を受ける。

 だが、今はアグニー達とハナコに対して魔法を使ったばかりだ。

 魔法が撃てるほど魔力がたまるには、一日以上かかるだろう。

 飛び道具が使え無い事に焦れたのか、数匹のミツモモンガがカーイチに襲い掛かった。

 魔法がなくとも、その牙と毒は脅威だ。

 カーイチは大きく息を吸い込むと、人間と同じ形になった口を大きく開けた。

 そして、渾身の力を込めて鳴き声を上げる。

「カァァアアアアアアアアア!!」

 何かが爆発したかのような音量。

 下にいたアグニー達とハナコは耳を塞いでいたが、それでもびりびりと体が震えるのを感じた。

 有る程度距離があり、声を向けられた対象ではないアグニー達ですらそれだったのだから、向けられたミツモモンガ達はたまらない。

 まるで棍棒で殴られたかのように気絶していき、ぼとぼとと地面へと落ちていく。

 幸い下は雑草などが多く、体の小さなミツモモンガなら、落ちても死ぬことはないだろう。

 まるで衝撃波のようなカーイチの声は、そのものずばり「ソニックウェーブ」という名の魔法だった。

 音響衝撃で相手を攻撃するものなのだが、範囲といい威力といい、カーイチのそれは明らかに通常の物とは異なっていた。

 本来であれば四匹のカラス達が協力して発動させ、空中のミツモモンガを2~30匹気絶させられればいいほうだ。

 だが、カーイチ一匹が放ったソニックウェーブは、それ以上の効果を見せていた。

 具体的には、飛んでいたものと、木にしがみついていたもの、さらには巣に居たミツモモンガまで、全て気絶させていたぐらいだ。

 木の枝や葉が衝撃波で舞い飛び、ミツモモンガの巣も一部が崩れている。

 どういうわけか一匹もミツモモンガが死んでいないのが、逆に恐怖感をあおる。

「…うわぁ…」

 呻くギン。

 他のアグニー達も引きつった表情で凍り付いている。

 それをやったカーイチといえば、実にのんきな物だった。

「ギン、ミツモモンガとったよ。捕まえて持っていこう」

 腕を組んで、誇らしそうにそういう。

 カーイチ以外のカラス達も、既にミツモモンガをくわえてカゴに入れ始めていた。

「俺達必要なかったんじゃないか?」

 ぼそりとつぶやかれた一人のアグニーの言葉に、誰もリアクションを取れなかったという。




 ハナコとアグニー達が巣に近づき、魔法を撃たせる。

 そのあと、大まかにミツモモンガを捕獲してから、巣の中にいる女王をカラス達のソニックウェーブで気絶させる。

 それが、今回の作戦の内容だった。

 カラス達はアグニー達よりも打たれ弱い。

 ソニックウェーブは強力なのだが、巣に近づく前に魔法で攻撃されれば、大怪我を負うかも知れない。

 その為、まずアグニー達が魔法を撃たせ、数を減らしにかかっていたわけだ。

 予想よりもミツモモンガの数が多かった為に、予定よりも早くカラス達を投入することになったのだが、結果だけ見れば大成功だろう。

 異様に威力が上がっていたカーイチの魔法に関しては、心当たりがあったため問題には成らなかった。

「水彦様に助けて頂いてから、強くなった」

 本人が言うように、カーイチは水彦の力を授かっている。

 多少力が強くなるのは当然だろう。

 あの威力が多少なのか、というか、そもそもどの程度強くなっているのか等は、アグニー達は考えていない。

 あまり難しいことは考えない。

 それがアグニー達なのだ。


 捕まえたミツモモンガたちは、女王も含めて製作中の畑から少し離れた位置に置かれた。

 倒木をナイフでくりぬいた物の中に入れられたミツモモンガたちは、もう数時間もすれば目を覚ますはずだ。

 くりぬかれた木には、働きモモンガたちは通れて、女王モモンガは通れない程度の穴があけてあった。

 巣を失ったミツモモンガたちは、無理な行動に出ることは少ない。

 将来的に齧って穴を大きくすることはあるだろうが、今はこの木の中に新しい巣を作ることになるだろう。

 巣に近づきさえしなければ、害虫を食べ、受粉を手助けしてくれる益獣だ。

 低い位置にある巣なら、シビレソウを焚いた煙をかけることもできる。

 あまり高い場所に巣があると、煙で燻そうにも四散してしまうのだ。

 それでも効果があるほど燃やそうとすれば、今度はアグニー達がしびれて動けなく成ってしまう。

 人工的に位置を移動させるには、そうすることで蜜を得やすくするという効果もあるのだ。


 畑を作り始めてから数日が経っていた。

 すっかり形を整えられた畑のところどころでは、既にポンクテが芽を出し、蔓を伸ばし始めていた。

 添え木等もすでに用意されていて、育つのを待つばかり。

 水は、効率は悪いが木をくりぬいて作られた、バケツモドキで運ばれていた。

 くりぬくために使ったのは、スパンが持っていた剣を改造した物だった。

 マークが作った炭焼き小屋で作られた炭を使い、スパンが改造したのだ。

 長老が作った道具が増えてきたので、剣は必要なくなっていた。

 その為、そういう使い方ができたのだ。

 たかが鉄器一つだったが、それだけでずいぶんできることが多くなっていた。

 簡易拠点には既にいくつか家が建ち、大きなかまど等もできている。

 だが、やはりのこぎり等はないので、細かい物を作ることはできないようだった。




「ふーっ。どうにかなりそうだな」

 簡易拠点から少し離れたところに作られた炭焼き小屋で、マークは額の汗を拭った。

 彼が今行っているのは、急ぎで作った小さな炭焼き小屋と、きちんとしたかなり大規模な炭焼き小屋の管理だった。

 炭を作る際、量をいっぺんに作るほうが効率はいいし、質もよくなる。

 だが、一度に沢山の炭を作るには、かなりの時間が必要だった。

 何日も休まず火を焚き、炭焼き小屋を冷まして炭を取り出すのにも、何日もかかる。

 その点、小さな炭焼き小屋は、一日で炭を作ることができた。

 ドラム缶一杯分程度に作られたそれは、サイズこそ小さい物の、直に炭を作れるという利点があった。

 大きな炭焼き小屋で作られる炭が使えるようになるまでのつなぎとしては、もってこいだ。

 とはいえ、それらの炭焼き小屋を作る能力と、管理をできるものがいればの話になる。

 マークは製作と管理、その両方の能力を持っていたのだ。

 現在は他のアグニー達にも管理の仕方を教え、交代で炭焼き小屋を管理をしていた。

 これで、ひとまず燃料問題は解決だ。




 炭焼き小屋から集落に戻ったマークを待っていたのは、楽しそうに笑う長老やギン達だった。

 朝からミツモモンガの巣をとりに行くと聞いていたマークは、その様子に狩が上手く行ったのだと直感した。

「おう! 長老、ギン! 上手く行ったんだな?」

 マークの声に、狩に行っていたアグニー達は一斉に振り返った。

「マーク! おう! 大収穫だ! 蜜も取れたし、ミツモモンガの巣も手に入ったぞ!」

 ミツモモンガの巣は、崩して使うことでよい土壁の繋ぎ材になる。

 建築担当のマークには、うれしい知らせだ。

「おお、たすかるな! これでまた少しはいい壁が作れるよ!」

「蜜も沢山手に入ったからな。蜜酒も造れるぞ!」

 ミツモモンガの集めた蜜は、蜂蜜と同じように扱うことが出来た。

 調味料として使ってもいいし、その高い糖度から、お酒の材料として使うことも可能なのだ。

 蜜は、モモンガ達の巣に保存されていたままの物を持ってきていた。

 土と木片を材料にモモンガたちが作ったそれは、人間の作る保管器具よりも、蜜を保存するのに優れているのだ。

 形状はおわんの様で、持ち運びにもいたって便利だった。

「酒かぁ。そういえばぜんぜん飲んでないなぁ」

 懐かしそうに上を見上げ、中年アグニーのスパンはつぶやいた。

 子供の外見であるアグニー達だが、彼らは立派な大人だ。

 当然、お酒も飲むことだってある。

 集落の中でも酒豪で知られているスパンだけに、蜜酒ができるかもしれないというのは、うれしいことだった。

「畑仕事も有る程度軌道に乗ってきたし、酒を造るのもいいかもなぁ」

「そうだなぁ。ぜんぜん飲んでないもんなぁ」

 舌なめずりをするアグニー達。

 集落を追われて以降、彼らの楽しみといえば、結界にタックルすることや、食べることや、踊ることや、転がることや、唄うことぐらいだった。

 意外と多いように感じるが、元々アグニー族はお祭りや遊びの好きな種族だ。

 まじめに仕事ばかりしているほうが、珍しかったりする。

「たまには酒を造って飲むのも、いいかも知れんのぉ」

 長老も乗り気なようで、その言葉に周りのアグニー達が大いに喜んだ。

 その中で一人、浮かない顔をしている物が居た。

 炭焼きをしていた、マークだ。

「どうしたんだ? マーク。お前も酒好きだろう?」

「ああ、そうなんだけどさ」

 いいにくそうな様子のマークに、他のアグニー達の視線が集まった。

 マークはうつむき加減になりながら頭をかくと、少し辛そうに口を開く。

「いやぁ。なんか、水彦様を思い出してなぁ。ほら、あの方も、酒すきそうだろう?」

 そんな言葉に、アグニー達の表情が曇った。

 皆思い出しているのは、水彦が旅に出る前の晩のことだった。


 旅に出る前日。

 水彦は夜にもかかわらず、アグニー達の集落へやってきていた。

 寝ずの番をしていたアグニーが何事かと慌てる中、彼はこう言ったのだ。

「しばらく、たびにでる。どうぐとかもってくるからな」

 そういって、そのまま出て行こうとする水彦を、寝ずの番をしていたアグニーは引き止めた。

 直に他のアグニー達をたたき起こしにかかったのだが、其処からが大変だった。

「水彦様がご出立じゃぁ!」

「送り出す踊りをご奉納しないと!」

「火、火だ! 火! キャンプファイヤー!」

 アグニー族は、殆どがその集落の中で一生を終える。

 それでも、少なからず旅に出るものもいた。

 彼らにはそういったものたちを送り出す、「旅の無事を祈る踊り」で送り出すという風習があったのだ。

 涙ながらに旅人を送り出すのではなく。

 踊って、唄って、帰ってきたとき、笑って会おう。

 そういう祈りを込めた踊りだ。

 深夜、突然にもかかわらず、アグニー達は一族総出で行うそれを、水彦のために行ったのだ。


 水彦は神の使いで、自分達を助けるのが仕事。

 それは、アグニー達も良く分かっていた。

 自分達とは違う、ずっとずっとすごい存在であることも、良く、良く分かっていた。

 それでも、アグニー達は「仲間を送り出す踊り」で、水彦を送り出したのだ。

 初めて会ってからほんの数日だが、その気性をアグニー達は良く分かっていた。

 アグニー達の相棒であるカラスを助けてくれたこともあった。

 子供達と一緒になって、遊んでいたこともあった。

 アグニー達が薦めたハーブを気に入り、ずーっと噛んでいた事もあった。

 でっかいウマイモを捕まえてきて、いっしょにツタをひっぺがえして、畑に株分けしたこともあった。

 自分達と一緒に泥にまみれて働いたり、まじめな顔で遊んだり。

 そういうことを通して、アグニー達は水彦を好きになっていたのだ。

 彼らアグニーは、非常に弱い種族だ。

 だからこそ、他の人類種の行動や感情に非常に敏感だった。

 その彼らがこの短期間で其処まで慕うというのは、幾ら相手が神の眷属とはいえ異例だった。


 また、水彦も、アグニー達の事を大いに気に入っていた。

 アホで、行動が面白くて、それなのに生きる術に長けていて、妙に一生懸命なその様子に、大いに好感を持っていたのだ。

 一緒に遊んだり仕事したりすれば、その性格や人となりは直に知れる。

 バカ正直で楽しくてお人よしな彼らは、赤鞘と同じ日本人気質な水彦には、付き合っていてとても心地のいい相手だったのだ。

 そんな連中が、夜遅く訪ねた自分のために、皆を起こして送り出してくれるという。

 そんな彼らの好意と思いに、水彦はいたく感動していた。

 もっとも、普段からあまり感情の出ない表情からは、その様子はうかがい知れなかったのだが。


 水彦を送り出す踊りは、まるで激しい盆踊りのようだった。

 その楽しげな歌声と踊りの様子に、水彦も踊りの輪に加わるのに、さして時間は掛からなかった。

 大いに踊り、唄い、騒ぎ。

 暫くしてから、水彦は森の外へと旅立っていった。

 アグニー達の風習に則り、誰も涙は見せなかった。

 半分ぐらいのアグニー達が目から汗をかいていたが、それは踊りで疲れたせいだったのだ。


 皆そのときの事を思い出し、シンと静まり返っていた。

 一緒に酒は飲んだことこそないが、たしかに水彦は酒がすきかも知れない。

 そう思っているのだろう。

 片言で仏頂面で少し強面の水彦だが、ノリは妙によかったりする。

「一緒に酒飲んで騒いだら、水彦様喜ぶかもなぁ」

「だなぁ。騒いだりするの、好きみたいだったしな」

 なんとなく落ち込んだ気配を漂わせるアグニー達。

 そんな空気を吹き飛ばす為に手を叩いたのは、スパンだった。

「なら、最高の酒を用意して、かえっていらっしゃるのをまたないとな!」

 その言葉に、他のアグニー達も顔を上げる。

「そうだな。出来損ないの酒をのんでいただくわけにもいかないだろう」

「最高の蜜酒をつくらないとな!」

「そうだ。ポンクテ酒も造るか?」

「食い物も沢山用意しないとなぁ!」

「後、結界もな!」

「あのすーっとする草も育ててみるか?」

 瞬く間に、アグニー達の表情がはれていく。

 口々に言うのは、水彦が帰ってきたときの準備や、喜ばせる為の作物の話だ。

「よしよし、みんな! 今日はまだ日が高いんじゃ! それぞれ仕事もあるじゃろう! もうひとふんばり、たのむぞ!」

「「「おおお!!」」」

 長老の言葉に、アグニー達は拳を突き上げた。

 まだまだ、解決しなければいけない問題は山積みだ。

 それでも。

 アグニー達は今日も元気だった。

なんか予定通り行かない昨今です。

またネタ一つで一話になってしまいました。

まあいいや・・・。

開き直って、コレはこれでいいことにしよう・・・。


思ってたよりも水彦は慕われてましたの巻。

お互いフィーリングが合うのかなんなのか、アグニーは意外と人間性を見抜く嗅覚には優れているようです。

同じ仲間として水彦を認識したみたいですね。

アホ仲間なんでしょうか。

慕われてるみたいで何よりです。

え?

AKASAYA様?

だれそれしらない。




土彦の防衛白書が次回の予定です。

文字数がかさまなければ水彦の戦闘シーンを一緒に入れようかと思ったんですが、確実に水彦の戦闘シーンのほうがかさむ事が判明いました。

戦闘描写に死ぬほど時間をかけてしまう自分の性質を忘れていました。

なんて事だ。


そういえば水彦のせんとうの相手を、ドラゴンとオーガで迷っています。

ドラゴンだと某神喰ゲームぽくなって、オーガだと生々しいような気がします。

どっちがいいんだろう。

あとカプコ○の狩りゲーと神喰って似てるって言われますけど、けっこうちがう部分多くてそれぞれ面白いですよどうでもいいですけど。


そんな訳で次回こそは、「土彦の専守防衛包囲網」です。

最近二日に一回投稿だなぁとおもってる、アマラでした。

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[良い点] なんだか、あまりにも温かくて涙が出てきてしまいました……。初めてこのお話を読んだのはまだ高校生だった頃で面白さに夢中になっていたのですが、社会人になり改めて読み返している今は、アグニー達の…
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