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百五十四話 「うっせぇーぞ、今何時だと思ってんだクソボケ!!!!」

 書類とモニタを見比べていた天使が、「あ」と声を上げた。

 周りを見渡して部下の一柱を見つけると、声をかけて呼び寄せる。


「あの、他世界侵略する増殖型兵器うんぬん、ってのがこっちに来るの、今日だったか?」


「んー、あー、そういえばそうですね」


「どうすんのあれ」


 他の世界に侵攻するタイプの増殖型兵器というのは、割とよくあるものだった。

 文明がある程度成長すると、他の文明に脅かされるのを極端に嫌うようになるらしい。

 そういった芽を早めに潰すため、勝手に戦ってくれる兵器などを作るようになる、のだが。

 如何せん、そういった兵器は往々にして働き者であり、制作者である文明が滅びた後も旺盛に活動していたり。

 勢いあまって、制作者の文明を滅ぼしちゃったりすることが、ままあった。

 今回「海原と中原」に出現すると予測されているのも、そういった類のものの一つである。

 すでに三十以上の世界に侵攻し、そのほとんどを滅ぼしているとか。

 どこの神にも嫌がられそうなものだが、存外そうでもなかった。

 こういったものをうまく利用して、必要ないと判断した文明などを破壊させている神も、少なくない。

 また、単純に争っているのを見るのが好きなタイプや、スパルタ方式で自分の世界の文明を成長させようとする神にも、好評だったりする。


「ほっとくみたいですよ」


「結構ヤバめだって話じゃなかったのん?」


 今回来る予定のものは、かなり成長したものだという話だった。

 いくつかの世界を滅ぼし、いくつもの宇宙に手を伸ばしているという。

 自分の世界を滅ぼす予定もないのに、そんなものの襲来を許す神はいない。

 神同士の話し合いで拒絶するか、無理やり阻むかのどちらかをするはずだ。

 だが。


「必要ないんですよ。今回は」


「だから、なんでだよ」


 上司である天使は、不思議でならないというように首を傾げた。




 数億では足りない。

 数百億、数京という数の群れが、亜空間や時空の狭間などと呼ばれる場所を進んでいた。

 大きさはまちまちで、数m程度のものから、惑星大のものまでがいる。

 彼らは自分たち以外のものすべてを喰らい尽くし、自分達へと変えることのみを機能としていた。

 五十億年ほど前に最初の一つが作られて以降、全く変わらずその機能のみを追求し続けている。

 あと三百億年ほどすると、機能限界を迎え、すべての個体が瓦解する予定となっていた。

 それまでは、ただただすべてを喰らい、増え続けるのみである。

 何故とか、どうしてとか、そういったことは気にしないし、考える必要もない。

 というより、そういったことを考える機能が、そもそもなかった。

 ただ、最初の一つが与えられた機能を、遂行し続けること。

 それだけが存在理由であり、行動すべきことなのである。

 動物を喰らえば、それを材料に同じ存在を作り出し。

 鉱物や水を喰らえば、それを材料にする。

 空気を、液体を、固体を。

 星を丸ごと喰らいつくし、作り替えていく。

 そうしてできたものが、また次のものを喰らうために別の場所へと渡っていく。

 喰らって、増えて、喰らって、増える。

 その、あまたある喰らう先の一つとして、「海原と中原」が選ばれた。

 門が開いたのは、とある国の、小さな辺境の村近くである。

 国境に面したその村には、兵士が二人配置されているだけであった。


「なんだ、ありゃ」


 寝ずの番を任されていた兵士の一人が、怪訝そうに山の方を見上げた。

 山の上空が、オーロラのように虹色に輝いている。

 いったい何が起きているのかと目を細めるが、まったく正体がわからなかった。

 それは、世界を超えるための門が開く前兆であり、その先から現れるものをこの兵士が知ったとしたら、今すぐこの場から逃げ出していただろう。

 だが、残念ながら彼がそうすることは叶わなかった。

 外に出て改めてそれを確認しようと思った兵士だったが、ふと足を止める。

 駐屯場、地球で言う派出所程度の広さのそこの奥から、彼の上司が出てきたからだ。

 眠たそうに頭を掻きながら、片手には配備されている槍を引っ掴んでいる。


「あれ、隊長。どうしたんすか?」


 隊長と呼ばれた男は、無言のまま兵士の横を通り過ぎると、おもむろに外へ出た。

 そして、巨大なオーロラのような発光をぎろりと睨みつける。

 槍を持った手を大きく後ろに伸ばし、体をねじり、片足を振り上げ。

 十分にひねりが加わったところで、隊長は手にしていた槍を、思い切り投擲した。


「うっせぇーぞ、今何時だと思ってんだクソボケ!!!!」


 張り上げられた声で、近くにあった窓ガラスがはじけ飛んだ。

 投擲の瞬間に踏みしめられた地面はひび割れ、周辺に亀裂が走る。

 槍は手を離れた瞬間に光速を超え、さらに加速し、ほとんどタイムラグなくオーロラのような発光に到達。

 門が開くと同時に「向こう側」へと到達した槍は、「海原と中原」へと到達する前に、侵入者の一団を消滅させた。

 衝撃波、とでもいえばいいのだろうか。

 何ら伝達手段がなく、無の領域であるはずの空間に、たった一本の槍が破壊をぶちまけたのである。

 世界を喰らいつくすはずだった侵入者は、コマ落としのように、文字通りの一瞬で消え去った。

 数百億、数京という数の、数mから惑星大の様々な大きさのそれらが、一瞬で、である。


 槍による破壊は、それだけでとどまらなかった。

 いくつもの世界を、いくつもの星をまたぎ、次々と侵略者の中心となる、「母体」を破壊していったのである。

 侵攻し、侵略し続けるそれには、周辺の同じ存在をまとめる「母体」が存在していた。

 それは「頭脳」の役割をするもので、いわば「女王」のような存在である。

 もちろんそれは一つではなく、何億、何兆という数がいた。

 だが。

 隊長が放った槍は、その悉くを、ひとつ残らず貫き、消滅させたのである。

 もっともそれは、「海原と中原」にいる兵士には観測しえないことであり。

 むしろ、「海原と中原」に生きとし生けるものすべてにとって、どうでもいいことであった。

 侵略者が「海原と中原」にもたらした被害はほぼ0であり。

 しいて言えば、隊長の絶叫にあおられて吹き飛び、強かに後頭部を机に打ち付けた兵士が、間接的に被害を被っただけであった。


「いったいっ! めちゃくちゃいったい!! ちょ、なんすか! 何すか突然、もう!!」


「ああ。わりぃ。なんかすげぇぎゃぁぎゃぁうるさかったからよぉ」


 全く悪びれた様子もなく、隊長は頭を掻いた。

 めんどくさそうに手を振ると、眠たそうにあくびを一つ。


「ちょっと、隊長ー! これどうするんすか!」


「明日片付けるから、ほっとけ。寝足りねぇんだよ」


「そんな訳行かないですよ、ハウザー隊長!!」


 兵士が必死で訴えるが、まったく聞く耳持たずといった風情であった。




 アンバレンスが最高神になる以前から続く、特別な血脈が「海原と中原」にはある。

 創造神である「母神」が特別な力を与えた血脈であり、そこに生まれるものは、絶大な力を有していた。

 場合によっては、母神の息子、つまりアンバレンスにも近い力を与えられたその血脈に生まれる男子は、しかし。

 代々ある一つの土地を守ることだけを是とする、奇怪な価値観の持ち主であった。

 その血脈に与えられた力とは、「理不尽」。

 例えば、物理法則を捻じ曲げ、ものの理を無視し、ただ望む結果を押し付ける。

 何がどうしてこうなった、といった、過程があって結果があるといったことをすべて無視してしまう。

 まさに、「理不尽」そのものといっていいだろう。

 だからこそ、光速を超えた余波は、小屋のような駐屯場を少々破壊した程度で済んだのだ。

 そうでなかったら、地面がえぐれるような被害が出ていたことだろう。

 また、たった一本の槍が世界の壁を飛び越え、複数の「母体」に襲い掛かることもなかった。

 この結果、彼の侵略者のすべてが壊滅的被害を被り、すべての存在が余命一週間程度に追い込まれることも、無かったであろう。


 先にも記したように、これだけの力を持っていながら、この血族、ハウザー隊長と呼ばれた一族は、この山間の村から離れることがなかった。

 彼らが所属する国の初代国王から言い渡された命令を守り、国境を守るためである。

 外からの侵入者を絶対に許さず、必ず捕縛、あるいは撃滅しつくす。

 そのためだけに、彼らは力を振るってきた。

 目に見えない国境線は、さながら絶対不可侵の壁のようになっている。

 ゆえに、つけられた二つ名が“辺境の絶対防壁”。

 この世界に現存する、最高峰とされる四人。

“鋼鉄の”シェルブレン・グロッソ、“紙屑の”紙雪斎と並び称される一人。


“辺境の絶対防壁”ハウザー・ブラックマン。


 その人物こそが、この隊長だったのである。

 もっとも、多くの場合、彼が脅威とみなされることはない。

 辺境にある小さな村から、絶対に動かないからである。

 自分達の一族に下された命令を撤回できるのは、命令を下した初代国王のみ。

 そう主張する彼らの一族が、テコでも村から動かないからだ。

 歴代の王がいくら召集を掛けようが、戦争に参戦しろと命令を出そうが、まったく聞き入れない。

 それでも許されているのは、そもそも罰することが不可能であったからだ。

 自分たちの都合でしか動かず、あだなそうとすれば確実に滅ぼされる「理不尽」な存在。

 それが、ハウザー・ブラックマンなのである。

 天使が「必要ない」といったのは、この男の存在があればこそ、だったわけである。


「あ、そうだ」


 ハウザーが、何事か思い出したかのように声を上げた。


「あの一家に、朝飯届けとけよ。こっち逃げてきたばっかで大変みてぇだからな」


「一家? ああ、あのアグニーゴブリンの。わかってますけど。よかったんですか、隊長の部屋貸してあげて」


「良かったもクソもねぇだろうが、寝泊まりするところねぇんだからよ」


 数週間前のことだ。

 村に突然、アグニー族の一家が転がり込んできた。

 国内方向からやってきたので、ハウザーの警戒網に引っかからなかったこの一家は、駐屯場に保護を求めてきたのである。

 というよりも、道端で山菜とかを食べているところを、ハウザーが拾ってきたのだ。

 住む場所もないということで、ハウザーの下宿先を譲り、面倒を見ている。


「もうすぐ仮設の小屋ができるから、そっちに移るって話ですけど。いいんですか? 隊長がそっちに住めばいいのに」


「バカヤロウ、あの家族五人もいるんだぞ。俺ぁ独り身だから下宿の方が楽なんだよ」


「費用とか、国に請求しときます?」


「そんなことしたら中央のうるさ方が首突っ込んでくるかもしれねぇだろうが、ああいうのには事情ってやつがあるんだよ、事情ってやつが」


「どんなっすか」


「知らねぇよ、いいからお前、飯届けとけよきっちり。あいつらほっとくとその辺の草食いだすからな。腹壊したらどうすんだよ」


「大丈夫じゃないっすか、ああいう人たちってそういうの見分けるの得意そうだし」


「てめぇーにゃぁ血も涙もねぇーのか、クソボケゴラァ!!」


「なんで殴るんすか! なんで殴るんすか!! 死にますからね!? 隊長にマジで殴られたら死にますからね俺!!」


「とにかく! どっかきちんとした行き先が見つかるまでしっかり面倒見るのが、人の道ってもんだろうが! ったく、これだから物の道理のわからねぇバカってのは」


「隊長に物の道理とか言われたくないっす。物理法則すら無視する癖に」


 寝床に戻っていくハウザーの背中にぶつくさと文句を言いつつ、兵士は殴られた頭をさするのだった。




「件の兵器の大本になった神、怒鳴り込んできたらしいですよ。あと三百億年は遊べたのに、全滅じゃねぇーか。チートキャラ使ってんじゃねぇよ。って」


「うちのアンバレンス様はなんだって」


「へっ、ばぁーか! 下調べもしないで地雷に突っ込んでくやつがばかなんですぅー! 半年ROMって出直してこい! って」


 天界で事務処理に追われていた二柱の天使が、のほほんとした様子でそんなことを語らっていた。

 どちらも完全に他人事な顔である。

 実際、既に天使レベルを飛び越え、神々同士の話し合いの段階だから、完全に他人事ではあった。


「煽るなぁー、アンバレンス様」


「母神様の加護てんこ盛りに受けてますからね。チートっちゃぁ、文字通りのチートですけど。っつーか、あの村アグニーが逃げ込んでるんですね」


「すげぇよな、アグニーの危機管理能力。あそこに住民として逃げ込めば、まず間違いなく安全だぞ」


「教えた時、エルトヴァエルさんマジでびっくりしてましたけど。久しぶりに見ましたよ、エルトヴァエルさんのびっくり顔」


「あいつのことだから、なんかしら根回ししてどうにかするんだろうけど。やることが迂遠だからなぁー」


「エルトヴァエルさん、陰謀好きだから」


「怒られるからな、お前。俺知らないからな」


「ちょ、ひどくありません!?」


「そうだ。見直された土地にグルファガム様が行くのって、今日だったな。あとで確認しとかないと。後で面倒ごとになるとヤダし」


 天使というのは激務であり、やることが多い。

 今日中に片づけなければならない仕事の数を頭の中で数え、天使はぐったりとした様子で息を吐いた。




「見直された土地」の海辺。

 海沿いの土地の中央付近で、赤鞘とグルファガムは対峙していた。

 赤鞘の横には、エルトヴァエルが。

 グルファガムの横には、麒麟のような姿のガーディアンがいる。

 本当は土彦や風彦、樹木の精霊達も来たがっていたのだが、待機していることになった。

 あまり大勢で囲んで威圧してもなんだから、という理由からだ。

 実際、土彦あたりがこの場にいたら、すごい勢いで威圧したかもしれない。

 ちなみに、水彦は初めから行くつもりがなかったらしく、コッコ村に遊びに行っている。

 さて、赤鞘とグルファガムだが。

 そのどちらもが、凍り付いていた。


 こんなヤバい相手だなんて聞いてない。


 赤鞘もグルファガムも、同じようなことを考えていたのである。

 何しろ、ファーストコンタクトがよろしくなかった。

 波打ち際でぼぉーっと待っていた赤鞘の目の前で、ゆっくりと海が割れる。

 海底をゆっくりと歩いてきたのは、麒麟のような姿のガーディアン。

 その上に跨る、グルファガムの姿が視認できるようになると、すかさずエルトヴァエルが補足を入れた。


「津波と近海を司る神、グルファガム様です」


 日本神である赤鞘にとって、「津波と近海を司る神」というのは、強烈なインパクトを持つ単語だった。

 その神様が、麒麟っぽい見た目のガーディアンに跨っている。

 昔の経験から、赤鞘は麒麟に対して苦手意識を抱えていた。

 軽めのトラウマといってもいいかもしれない。

 その二つが、合体して海からやってきたのだ。

 赤鞘がビビらないはずがない。


 対するグルファガムの方も、相当にビビっていた。

 何しろ「見直された土地」に近づくにつれ、明らかに力の流れが整い始めたのだ。

 その精密さは、周りとは一線を画すものであり、恐ろしいほどに精密に作り込まれたものだったのである。

 人間には少々わかりにくい感覚なので、たとえ話になってしまうのだが。

 荒れ野を歩いていたら、突然地べたが高級ペルシャ絨毯になっていた、とでもいえばいいだろうか。

 とにかく、次元が違う。

 しかも、土地に近づくにつれて、どんどんその精密さが増してきている。

 実のところ、グルファガムがビビり始めていたあたりは、「見直された土地」ではなかった。

 土地の外であり、「見直された土地」が整えられた影響で、赤鞘基準で言えば「多少改善されたような気がしないでもない、お客様には見せられないレベル」程度の状態だったのである。

「見直された土地」に入る前からその状態なわけだから、本格的に近づき、足を踏み入れれば、そこはもう異次元である。

 スゴイとか綺麗とか、そういうのを通り越し、グルファガムの頭に浮かんだ単語は「変態」であった。

 無理もないだろう。

 この世界の神から見て、赤鞘の技術は控えめに言って変態技術である。

 日本でならごく普通のクオリティではあるのだが、質や方向性の違いとでもいえばいいのだろうか。

 細やかな調整と繊細な操作によって土地を管理する日本神と違い、「海原と中原」の神は力技ですべてをやってのける。

 どちらがいいとか悪いとかといった種類のものではない。

 それぞれに良さがあり、利点があるのだ。

 例えば穴を掘るとき、日本神ならスコップとショベルを使うところを、「海原と中原」の場合はダイナマイトを使う。

 そんな風に理解すればいいかもしれない。


 とにかく。

 双方ともに、顔を合わせる前からビビり倒していたのである。

 そして、実際に間近で対面すると、そのビビりっぷりはさらに精度を増し、ドン引きレベルにまで達していた。


 赤鞘から見たグルファガムは、とてつもない力を抱えた神であった。

 それも当然で、末席とはいえ海を司る神である。

「海原と中原」では、海を司る神は同時に、宇宙も担当することになっていた。

 宇宙の大海原、などという表現が時々SFなどで使用されることがあるが、アレを地で行っているのだ。

 無論、相応の力を持っていることになる。

 その神に仕えているガーディアンも同様で、相当の力を持っていた。

 といっても、水彦と同程度といったところであり、対比的に見ればさほどビビることはない。

 しかし、赤鞘は基本、相対的にものを見ないタイプであった。

 自分のところがどうだろうと、相手がスゴイなら躊躇なくビビる。

 よそはよそ、うちはうち。

 自分のところはともかく、怖いものは怖いのだ。


 グルファガムから見た赤鞘は、ごく力の弱い神に見えていた。

 まあ、ぶっちゃけそういう神がいないわけではないので、それが良いとか悪いとかといった考えは、グルファガムにはない。

 とはいえ、往々にしてすごいことができる神様というのは、力の強い神様だ、とは思っていた。

 これは別にグルファガムの偏見というわけではなく、「海原と中原」ではそれが常識なのである。

 ゆえに、グルファガムはめちゃくちゃ驚いていた。

 いったいどんな強力な神がこの土地の力の流れを整えたのかと思えば、目の前に現れたのは極々力の弱い神だったのだ。

 たとえるなら、年商三十億円の会社だというからどんなところなのかと思えば、小さなタバコ屋だった、というような衝撃である。

 それだけでも十二分に驚きなのだが、その隣にいる天使を見て、さらにビビった。

 エルトヴァエルだ。

 神々の間でも名前が出るほど、有名な天使である。

 情報収集狂であり、人間に対して妙な角度の愛着を持っている、らしい。

 実際にあったことはないので、グルファガムは噂でしか知らないのだ。

「海原と中原」の天使というのは多忙である。

 基本的には天界で忙しく仕事をしているか、世界中を飛び回っている。

 そうでもしないと、現状、「海原と中原」を維持できないのだ。

 なので、特に仕事をしていない無職状態の神々の前に現れるようなことなど、ほとんどないのである。

 ましてや、グルファガムのような若い神の前に、優秀さで名の知られたエルトヴァエルのような天使が出てくることなど、あるはずがない。

 なんかよくわかんないけどすごい神の隣に、超エリート天使がいる。

 一応、事前に情報だけはもらっていた。

 異世界から来た神についても、エルトヴァエルのことも、知ってはいたのだ。

 だが、書類で見るのと実物を見るのとでは、やはり違う。

 どうしたもんだろう。

 グルファガムは、完全にてんぱっていた。

 無論、それは赤鞘も同じだ。

 ガッチガチに緊張しているがゆえに、赤鞘もグルファガムも、向かい合ったまま凍り付いているのである。


「あの、赤鞘様?」


「はっ!?」


 エルトヴァエルに声を掛けられ、赤鞘はびくりと体を跳ね上げさせた。

 そうだ、ご挨拶をせねば。

 何とか頭を再稼働させた赤鞘は、必死に笑顔を取り繕おうとした。

 とりあえず笑う、というのは、日本神のいいところなのか悪いところなのか。

 何とか作ることができた笑顔は、ひきつった半笑いであった。

 対するグルファガムの方も、似たような表情である。


「あ、どうも、なんか今日はわざわざ来ていただいて」


「いえ! すみませんお忙しいところに押しかけて!」


「そんなそんな! なんか、いろいろご迷惑をおかけしてるようで!」


「まさか! こちらの都合でわざわざ異世界から来ていただいたのに、とんだことになってしまって、申し訳ないやらなんやら!」


「申し訳ないだなんて、私みたいな消える寸前だったザコ神を拾っていただいて、何とかそのご恩を返そうと必死でして!」


「なんてことおっしゃるんですか、もう、噂は以前から聞かせて頂いておりまして!」


 すさまじい勢いで、頭を下げ合い始める二柱。

 エルトヴァエルはその様子を見ながら、「あ、これ長引くな」と、確信した。

 ため息が漏れそうになるのを、何とかかみ殺す。

 この後、この二柱を上手いこと誘導して、今回の視察を成功させなければならないのだ。

 もちろん赤鞘が問題なく説明等をしてくれれば、それが一番なのだが。

 そんな淡い期待に頼り切らない程度には、エルトヴァエルも赤鞘との付き合いが長くなっていた。

 どのあたりで止めに入ろうかなぁ。

 二柱の頭下げ合戦を眺めながら、何とかタイミングを見つけようと、観察を続けるのであった。

次回、グルファガムに見直された土地を案内します

紹介系久しぶりだなぁ




えー、全然関係ないことなんですが、最近書き始めた小説の宣伝をさせていただきたいと思います





「うちの村の子供が「呪術王」とかいう禁忌系スキルを取得した件」


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勢い全振りしたコメディです

アマラコメディが大丈夫という方は、楽しんでいただけると思います




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コメディ系ではないけど、もふもふしてます




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聖女物を書いてみました

やってやったぜ

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[良い点] 全部です。 [一言] 最高に面白かったです。続きが楽しみで仕方がありません。AKASAYA様がメインで出て来て嬉しかったです。
[一言]  血族って事は一族全員ヤバい?隊長がとびきりヤバいみたいな。初代国王様がすごかったのか、一族全員ものぐさな性格なのか家訓を大事にしてるのか今後も楽しみ。異世界転生してきたら俺以外チートだった…
[気になる点] 赤鞘から見たグルファガムは、とてつもない力を抱えた神であった。  それも当然で、末席とはいえ海を司る神である。 「海原と中原」では、海を司る神は同時に、宇宙も担当することになっていた。…
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