百五十一話 「しっかし、やっぱヤバそげなんだよなぁー。はぁ、もう働きたくない。帰って寝たい」
フルフェイスの全身鎧に、脚部装着型の「戦車」という出で立ち。
一見すると「戦車に乗った騎士」というより、「どこぞのメタル系変身ヒーロー」っぽい外見だろう。
それも、主役ではなく端役。
三番手辺りに登場する感じ。
キース・マクスウェルは、自分の鎧と戦車の見た目をそんな風に評価していた。
実際、この意見に賛同するものは多いだろう。
アクションフィギュアとかにして売り出したら、案外売れるのではないかと、キースは思っている。
そんな少々特殊なビジュアルの戦車だが、性能もやはり特殊なものとなっていた。
戦闘能力は最低限に抑え、移動速度に特化しているのだ。
おかげで、キースは「鉄車輪騎士団」最速を誇っている。
シェルブレン・グロッソの「シルヴリントップ」を差し置いて、だ。
文字通りの化け物であるシェルブレンに、一つでも、まして戦闘分野において勝っているというのは、驚愕すべきことといっていい。
他国であれば、キースは間違いなく「国の最大戦力」として扱われていただろう。
無論、他国であればの話である。
何より、キース自身が一番身に染みてよくわかっていることなのだが、速い程度のことではどうしようもない相手が世の中にはごまんといるのだ。
そもそも取り柄である速度にしたところで、程度が知れている。
何しろ、キースの戦車「マッチバニー」を作ったのは、シェルブレンなのだ。
シルヴリントップよりも速いには速いのだが、「不要だからそこまで速度が出るように作っていない」だけなのである。
超高速での移動や戦闘には、動体視力のほかにも特殊な感覚が必要だ。
その点においてキースは高い適性と才能を持っている。
のではあるが。
それにしたところで、言ってしまえばシェルブレンの足元にも及ばない。
本当に、なんで自分が副団長なんてやらされているんだ、と、日に数回は考える。
とはいえ考えたところで詮無いことであり、どうしようもないので、大体は考えるのを止めるというのが、キースのいつものパターンであった。
自慢ではないのだが、キースは間違いなく能力面において世界的に見ても上位の部類に入るだろう。
だが、それはしょせん「先頭集団にいる」というようなものでしかなく。
千だか数百居る中の一人、という程度のことでしかない。
商売柄、キースは本当に「先頭」にいるような、「最上位」の連中と顔を合わせたこともある。
最悪、敵対一歩手前まで行ったこともあった。
シェルブレンもそうだが、ああいう連中は本物の化け物であり、災害の一種だ。
我ながらよく生きていられたなぁ、と思うキースだったが、もちろんそれなりの理由はある。
キースはその類稀な「超高速」に対する適性よりも、さらに高く、「危険を察知する能力」に優れていたからだ。
当人の高い判断能力や解析能力からくるものはもちろん。
第六感めいた直感のようなモノに関しても、驚くべき精度を有していた。
霊感とでもいえるような危機察知能力の高さはかなりのものであり、「アグニー並」といえば、どれほどずば抜けているのか伝わるだろうか。
そのうえで、キースはそれを理性で押さえつけ、作戦を遂行する能力を持っていた。
エルフ特有の高い知性を持ち、現状のシェルブレンを超える移動能力を有し、アグニー並みの危機察知能力を持っている。
当人の自己評価はともかくとして。
少なくともキース・マクスウェルという男は、シェルブレンが重用するに足る人物なのだ。
が、まぁ、もっとも。
当人はまったく、それを望んでいないが。
「しっかし、やっぱヤバそげなんだよなぁー。はぁ、もう働きたくない。帰って寝たい」
ぶつぶつと文句を言いながら、キースは兜の表面を掻いた。
頭部に刺激を感じたりすることもないのだが、「頭を掻く」という動作が癖になっているのだ。
キースは「罪人の森」を囲む草原地帯と、周囲の森の境目に来ていた。
草原地帯にはなるべく近づかないよう十分に距離をとり、視界を確保するために木の上に立っている。
間違っても、草原地帯には入りたくなかった。
嫌な予感がビンビンする。
森側と草原では、明確に何かが違う。
それが何かと問われれば、まったくわからない。
鎧と戦車に搭載されている計測機器を用いても、違いは検出されなかった。
無理矢理押し付けられて偵察役をやらされることも多いキースの「マッチバニー」には、索敵から分析機器まで、様々な装備が詰め込まれている。
その充実ぶりは、ちょっとした専門施設にも匹敵するだろう。
搭載されている「人工精霊」も、それらを十全に扱いきれるように設計されていた。
もちろん、制作者はシェルブレンである。
「うーん。なんだろうなぁ、地表空中上空地中、それぞれ探ってみても特になにもないし。まあ、うちの魔法じゃ探れない領域のものもあるけれども。いや、いやいやいや。なんだろうな、これ、もしかして」
そこで、キースはぐっと唇を強く閉じた。
鎧の中で、しかも唇を閉じての独り言だったのだが、それでも外に漏れるのを嫌ったのだ。
この感覚は、シャルシェルス教の聖域「山」にある「岩上瞑想の間」で感じたものに近い。
キースは直感的にそう思ったのだ。
改めて、じっくりと気を落ち着けて、森と草原の境目に意識を向ける。
二つの間に、やはり明確な違いを感じた。
線でも引かれたように、あちら側とこちら側は別の領域であると、確かに感じる。
あるいは、シャルシェルス教の僧侶当たりであれば、この違いの正体に気付くことができるのだろうか。
色々と考察してみるが、今のキースには仮説はいくらでも立てられるものの、明確な答えを出すことは出来ない。
ただ。
このキースの読みは、実に的確なものであった。
今感じている、草原と森の間にある線のようなモノ。
それは、「見直された土地」と、その外の境目であったのだ。
赤鞘が手ずから整えている、「土地神」が居る土地と、それ以外。
その差を、キースは感じ取っていたのである。
実のところ、これは驚愕に値することであった。
何しろキースが感じていたのは、人間にほとんど「開かれていない」力の流れだったのだ。
世界を構成する部類のものであり、神や天使、ガーディアン、あるいはそれに類するものが扱う種類のものだったのである。
シャルシェルス教の僧侶達がそれを感知し、わずかなりとも活用する術を持っているのは、永い間「森の神シャルシェルス」の近くに居り、一定の加護を受け続けたからであった。
逆に言えば、勤勉で有能な僧侶達が、永い年月をかけてようやく僅かなりと踏み込むことができるようになった領域を、キースは特別な訓練も事前知識もなく、覗き込んでいるのだ。
それが何かは、正直なところキースには全く分からない。
だが、厄ネタであり、近づいたら割を食うであろうことだけは、明確にわかる。
まさに、「アグニー並」の直感であった。
キースが、様々な推測を頭の中で組み立てていた、その時であった。
ステングレアの密偵がキースに気が付き、張り付いていることは、森に入る前から感知済み。
向こうも相手がキースであることを把握しており、「気が付かれている」ことを承知のうえで探りを入れつつ、直接手は出してこなかった。
少し「見学」して帰っていくだろうと踏んでいるのだろう。
いくらステングレアの「王立魔道院」が血の気が多いとはいえ、こんな危険地帯でやたらと突っかかってくることはない。
連中としても、「見放された土地」の近くでやたらとドンパチしたくはないだろう。
もっとも、それも「すごく近くでなら」という程度のことに過ぎない。
非公式ではあるものの、この場所で“鋼鉄の”と“紙屑の”が一戦交えているのである。
いざとなれば、魔法を振るうことは一切の躊躇をしない、ということだ。
そのステングレアの密偵たちの様子が、にわかに慌ただしくなった。
驚くほど上手く隠してはいるが、相当にヤバい何かが近づいてきている。
検知機器には一般的な術者として検出されているが、微妙な揺らぎも出ていた。
誤差範囲とも取れるようなその揺らぎだが、時間をかけて解析すれば、その正体は掴むことは出来るだろう。
だが、キースはそれをする必要はないと判断した。
相手が“紙屑の”紙雪斎であれば、まずキース程度に気取られることはない。
あったとすれば、わざと姿を見せている場合だろうが、この反応からはそういう匂いを感じなかった。
なにより、紙雪斎は現在、バタルーダ・ディデ発、ステングレア行きの船上にいるはずだ。
絶対とは言わないが、この場にいる確率は限りなく低い。
となると、紙雪斎以外の上位席次の密偵が来ている、と見るのが自然だろう。
一番確率が高いのは、この場を任されている一番席次が高い人物。
つまり、“蛍火の”マイン・ボマーということになる。
まあ、そんな風に考察するまでもなく、自分が来ている以上、絶対顔を出すだろうな、とキースは推測していた。
「鉄車輪騎士団」副団長という言葉の響きは、それだけ大きいのだ。
今すぐ手を出してくることはないだろう。
アインファーブルに戻る途中、ちょっと足止めして忠告を。
といったところだろうか。
状況によっては一戦交える、という選択肢も用意しているはずだ。
実に都合がいい。
軽く問答、一当てして、さっさとメテルマギトへ帰りたかった。
もちろんその前に、美味いサラダをたっぷりと頂いて。
別に美食家というわけでは無いキースだが、エルフ男性として平均並みに「野菜好き」であった。
メテルマギトはいい国ではあるのだが、地下都市であるという性質上、致命的に野菜が不味いのだ。
もちろん、綿密に計算された「野菜工場」で生産されている野菜は、鮮度も食感も抜群ではあるのだが。
言ってしまえばそれだけだ。
植物との親和性の高いエルフ族からしてみれば、効率的で安心安全な工場栽培と、本物の土と本物の太陽で育った野菜との差は、絶望的に埋めがたく存在する。
他種族にはわからないかもしれないが、エルフ族ならばこそ、如実な違いとして感じてしまうのだ。
森と共に生きるはずのエルフが、魔力を得るため森に遠慮して地下で生きているというのは、なんとも頓智の利いた皮肉のようにキースには感じられた。
キースはもう一度しっかりと、「草原」「森」「見放された土地」の様子を目に焼き付ける。
映像や音声記録も残しているが、存外、生で見た感覚というのは大事であった。
その時には気が付かなくとも、後からその時のことを思いだし、違和感などに気が付くこともある。
記録したものでは、それが得られないことも多いのだ。
何しろ、「記録できない」ものが違和感の正体である場合もあるのだから。
五感から第六感までも駆使して、周囲の状況を覚え、焼き付ける。
数秒でそれを終わらせると、キースはくるりと踵を返した。
さっさと行って、さっさと終わらせ、さっさと帰る。
行動方針は決まっていた。
意外と自分って仕事熱心なのでは?
そんなことを考えながら、キースはアインファーブルの方向へと足を踏み出した。
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アグニー族の建築というのは、基本的に「地面に丸太をぶっ刺す」という方法で行われる。
多くの建築などにみられる、いわゆる礎石。
地面に埋めて、その上に柱を乗せることで、湿気や食害などによる腐食老朽化を防ぐ土台のことなのだが、その礎石を使うことは少なかった。
ポイントは、「使うことが少ない」というだけで、まったく使わないというわけではない、という点だろう。
コッコ村には、いくつか礎石を使った家も建っていた。
礎石を使っているものと、使っていないもの。
どういった差があるのかといえば。
これといって特になかった。
フィーリングとその場のノリである。
「うーん、なんとなく今日はこっちっ!」
割とそんな感じで、アグニー族は建築様式を変えたり変えなかったりするのだ。
まあ、尤も、高床式という基本設計は揺るがないわけだが。
そんなに適当でいいのか、と思うかもしれないが、アグニーにとって住居というのは、一年二年での使い捨てなのである。
なぜそうなるのかといえば、アグニーの習性に起因していた。
ちょっとでも危険を感じたアグニーは、とにかく逃げる。
むやみやたらと逃げまくり、あっという間に遠くへ行ってしまうのだ。
その後、危険が去ったと感じれば戻ってくるのだが。
驚くべきはアグニー族。
なんと、一定確率で自分の家を忘れてしまうのである。
何かあると逃げ去る、という生態を持つアグニーは、物に対する執着が希薄であった。
思い入れのあるものを持つ、ということがほとんどないのである。
無くなっちゃったら無くなっちゃったでいいし、必要ならまた作ればいいと考えるのだ。
そもそもにして、何かあったらとりあえず何でもほっぽり出して逃げるという特性上、物欲的なものが発生しないのだろう。
物に対する執着は、逃げるためには邪魔なのかもしれない。
そのあたり尖った性能になりすぎてよくわからない生き方になっているのだが、まぁ、アグニー族なので仕方ない。
さて、そんなアグニー達が今建てているのは、広場の屋根であった。
柱と屋根だけで、壁も床もない。
いわゆる、東屋と呼ばれる種類のものである。
広場を覆うように作っているので、完成すればかなりの大きさになるだろう。
商店街のアーケードに近いかもしれない。
アグニーらしからぬそんな大掛かりな工事は、それそのものを作るという以外にも、目的のあるものであった。
コッコ村の住民達に、仕事を作るためである。
アグニー族というのは、非常に勤勉でお仕事が大好きな種族だ。
がんばってお仕事をした後、皆でワイワイごはんを食べるのも、大好きなのである。
にもかかわらず、今のコッコ村にはお仕事が無かった。
皆ががんばりすぎた、弊害といえるだろう。
そんな問題を解決する方策として打ち出されたのが、今回の屋根建設工事なのだ。
大きな建築物であるだけに、それにかかわる人数は必然的に多くなる。
それだけ、多くのアグニーがお仕事をすることができる、ということだ。
ある意味では、雇用創出のために行われる、公共工事にも近いかもしれない。
もっとも、彼らにとって目的は、仕事によって供給される賃金ではなく、「お仕事」そのものではあるのだが。
だからこそ、ちょっと困った問題が起きていた。
アグニー達は広場に集まり、その問題をどうするか、対策会議をしていたのである。
「簡単に屋根を作ってしまうと、あっという間に仕事がなくなってしまう。そういうことじゃな」
「大きな屋根ではあるけど、所詮屋根と柱だけだからなぁ」
「けっかいー」
深刻そうな顔の長老に聞かれ、マークは同じような表情で唸った。
マークは若者たちのリーダー格であり、土木工事を得意としている。
こういった工事の時は、マークが先頭に立って作業をすることが多かった。
もちろん今回も、現場監督的な立場としてがんばっている。
そんなマーク曰く。
屋根の建設が、思ったよりも早く終わってしまいそうだ、というのだ。
由々しき事態である。
それでは少しでも長く、多くのアグニーにお仕事を分け与えるという当初の目的をまったく達成できない。
「畑の収穫はまだ先だからな。それまで待てば、色々と仕事が増えるんだが」
「とてもじゃないが、それまで持たないぞ。そのずっとまえに、屋根が出来ちゃう」
「なんということじゃぁ。どうにか工事を遅らせる方法はないもんかのぉ」
なかなかの難題である。
アグニー族はとにかく働き者なので、仕事に手を抜くのが苦手なのだ。
というか、働いているとどんどんテンションが上がって、がんばってしまうのである。
「このままじゃ、またみんな仕事にあぶれることになるぞ」
「絶望じゃぁ。いったいどうすれば良いというのじゃろう」
アグニー達が悩んでいる様子を見ていたカーイチが、仕方ないというように息を吐いた。
「赤鞘様のお社を作った時みたいに、すればいい。班ごとに、小さな屋根を作って、どれがいいか決める」
アグニー達の間に、どよめきが起こった。
そういえば、そんなことをしたような記憶があった様な無かった様な気が、しないでもない。
アグニーは基本的に、めちゃくちゃ忘れっぽい種族なのだ。
「そうか! まず小さいのをみんなでたくさん作って、どれが一番いいか比べっこすればいいんだ!」
「結界!」
「そうすれば、仕事の量が増えるぞ!」
「よぉし! さっそくちっちゃい屋根を作るぞぉ!」
「結界をデザインに組み込んだ、カッキテキな屋根にしよう!」
「どうやって組み込むの?」
「わかんない。なんとなくやってみればいいかなって」
こうして、アグニー達は無事に沢山のお仕事を獲得することに成功したのだった。
喜んでいるその様子を、カーイチもどこか嬉しそうに見守っている。
だが。
そんなカーイチを、じっと見つめているモノ達がいた。
村のそこかしこにいる、マッドアイ。
そこから送られてくる映像を見つめるのは、土彦と歌声の神カリエネスである。
なんとなく意味ありげな顔で、「ふっふっふ」などと笑い声をあげていた。
「いいねぇ。やっぱりいいよ、カーイチちゃん。絶対、ゲットなんやぜすべきだよ。そうすれば風彦ちゃんとの相乗効果でたいへんなことがおきるにちがいないよ!」
「風彦もカーイチさんも、空に纏わる属性ですね。できれば、もうお一方欲しいところですが」
「なるへそ、タシカニ! うぇっへっへっへ! アイドルが一杯ふえるね!!!」
一体彼女らは、何を企んでいるのか。
おおよそ誰でもわかりそうなものではあるが、今のところは一応謎ということにしておいていただきたかった。
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もしかして俺、友達少ないのか。
グルファガムは苦虫を噛み潰したような顔で、頭を抱えていた。
一緒に「見放された土地」あらため「見直された土地」とやらに行ってみないか。
知り合いの何柱かの神にそう聞いてみたのだが、誰も首を縦に振ってくれなかったのだ。
皆はぐらかしてはいたが、要するにビビっているのだろう。
そりゃそうだ。
相手は最高神アンバレンス様が一目置くような神なのである。
ヤバい予感しかしない。
アンバレンス様といえば、太陽神様でもある。
指先一つで恒星を作ったり消したりし、場合によっては銀河創生とかも消滅とかもやってのける神様なのだ。
そんな超が付く強力な神様にして、現行の最高神様がわざわざ異世界から頭を下げて連れて来たとなれば。
真っ当な下っ端弱輩神としては近づきたくないと思うのが普通だろう。
物凄く行きたくないが、今更いやだともいえない。
そういう雰囲気ではなかったのだ。
ならばバックレてしまえば、という考えは、グルファガムの頭には浮かばなかった。
根は真面目な神なのである。
「はぁー、もう、どうしよう」
唸っているグルファガムのそばに、馬のようなモノが近づいてきた。
今いる場所は海の中なのだが、特に息苦しそうには見えない。
それはそうで、その馬のようなモノは、グルファガムのガーディアンであったのだ。
大きな体躯はまさに馬のようであったが、顔は竜に近かった。
頭にはシカのような二本一対の角が生えており、全身が緑翡翠のような光沢と透明感のある鱗で覆われている。
鬣は黄金に近い黄色で、同色の長い尾が生えていた。
もしこの場に赤鞘が居れば、その姿を見て即座にこういっただろう。
「麒麟じゃないですか」
見た目だけならば、確かにそれは霊獣として有名な麒麟に似ていた。
もちろん、実際は別物である。
水に近しいイメージである蛇型の龍と、ケルピーのような水棲馬を掛け合わせた姿として生み出されたものであった。
グルファガムがデザインしたものであり、霊獣麒麟とは全く関りが無い。
あるいは、どこかで麒麟を見かけたことがあり、それがイメージに残っていてこのような形になったのかもしれないのだが、まぁ、その辺はあまり関係がないところである。
ガーディアンは気遣わしげな様子で、グルファガムを覗き込んだ。
「やっぱ、僕らだけで行く感じになりそうだねぇ。仕方ないか。まぁ、一柱で行くよりはましだと思おう」
むしろガーディアンの方が巻き込まれた形だろうが、グルファガムはあえてその事実を無視した。
それだけ、一人で行くのが嫌だったのだ。
神様を守ったり、その言いつけを遂行したりするのがガーディアンの役目である。
まだ若いグルファガムには、天使は付けられていなかった。
上の方の神様はあまり気にされていないようだが、母神様の一件以来、天使は万年人手不足なのだ。
優秀な神様が少なくなれば、どうしたってしわ寄せは下々である天使に来る。
天使が下々というのもアレな表現だが、神様が基準なので仕方ないだろう。
「はぁ。仕方ない。こうなったら、もう腹をくくって一気に済ませちゃおう。なるべく早く行くことにしようか」
そう決めてしまうと、グルファガムはさっそく手紙を書くことにした。
「見直された土地」に行くのは、二日後ということにする。
それより先にすると、決心が鈍りそうだったからだ。
急に訪ねられれば相手に迷惑かもしれないが、内容が内容だけにいつ来られても迷惑なのには変わりないだろう。
それに、行くこと自体は結構前から決まっていたのだ。
早いか遅いかの違いならば、さして問題ない。
はず、多分。
正直その辺はグルファガムにも自信はなかったが、何やかんやと先延ばしにするよりはいいはずである。
何も長々と見学させて頂くわけでなし、ちらっとお邪魔にならない程度に見せて頂けば、それでいいのだ。
それにしても、赤鞘様というのはどんな神様なのだろうか。
怖くないといいんだけども。
そんなことを考えながら、グルファガムは引っ張り出した便せんに、筆を走らせ始めた。
「へぇー。赤鞘さん、麒麟苦手なんだ」
「苦手っていうか。昔の話なんですけどね、出雲で間違ってお体を蹴っちゃったことがありまして。全然温厚な方で、許してくださったんですけど。まぁー、もう焦ったのなんのって。全身の血の気が引きましてね。トラウマみたいな」
「赤鞘さんって血流れてるの?」
「鞘なんで、そういうのはないですね。って、もぉー! 比喩表現じゃないですかぁー!」
「あっはっはっは! いやぁ、ワンチャンあるかなぁーって! 赤いし!」
「私血まみれじゃないですし! あっはっはっは!!」
次回はタヌキさんの行動に対する日本の神様方のリアクション
そして、赤鞘とグルファガムの対面
いれられるようなら、ガルティック傭兵団の話を入れたいと思います
えー、全然関係ないことなんですが、最近書き始めた小説の宣伝をさせていただきたいと思います
「うちの村の子供が「呪術王」とかいう禁忌系スキルを取得した件」
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勢い全振りしたコメディです
アマラコメディが大丈夫という方は、楽しんでいただけると思います
「ユカシタ村開拓記 ~ネズミ達の村づくり~」
https://ncode.syosetu.com/n6931fw/
手のひらサイズのネズミ獣人「ラットマン」の夫婦が、新しい村を作るために奮闘するお話です
コメディ系ではないけど、もふもふしてます