百五十話 「ま、今回はタヌキさんに関する話だけだから。そんなに緊張することないよ」
窓の無いコンクリート打ちっぱなしの部屋に並んでいるのは、折り畳み机にパイプ椅子。
普通なら圧迫感がありそうなものだが、そういった印象は受けなかった。
むしろ天井も高く、柱もない体育館程度の広さがあるその場所は、広々としているように見える。
少なくとも自室が何十個も入るだろう、と、ヤマネは興味深げに内部を見回していた。
折り畳み机とパイプ椅子のほかは、照明器具のようなモノしかない。
驚くほど、物がない空間である。
ヤマネは自分に割り振られた席に座り、呆然としていた。
そのヤマネに、声をかけてくるものが居た。
「やぁ、ヤマネくん。元気?」
「柳丸さん! そっか、柳丸さんも参加されるんでしたよね」
穏やかそうな、やたら顔のいいイケメン。
柳丸と呼ばれた青年は、にこにこしながらヤマネの隣に座った。
驚くほど顔がいいだけで、ごく普通の人間に見えるが、実際には人間ではない。
その正体は、とある神社に奉納された刀。
いわゆる付喪神の類であった。
刀であるだけに荒事が得意な付喪神で、それゆえに奉納された先の神様にこき使われている。
神社がご近所で、神同士が仲がいいこともあり、よく顔を合わせる相手であった。
個人的に、焼き肉やら旅行やらに行ったりする間柄でもある。
「ヤマネくんは初めてか。前までお父さんがいらしてたもんね」
「代替わりにはちょっと早いと思うんですけど、今のうちから少しずつってことで」
「そっかそっか。でも、それでいきなりこういうところに放り込まれると、びっくりするでしょ」
「ホントですよ。スマホとか預けるって、現地に来て初めて聞かされたんですよ」
「スマホだけじゃなくて、紙とかペンもダメよ? この会合。兎に角、絶対に記録を取ったらいけないことになってるから」
「メモ書きもダメってことですか?」
「そ。残せるのは頭の中だけってこと」
何もそこまで、と一瞬考えたヤマネだったが、「それも当たり前か」と思い直した。
これからここで始まるのは、日本政府のお役人やらなんやらがきっちりとした形で行う会合なのだ。
ただ、一切記録が残ることもなく、そもそも「そんなものは存在しない」ということになっているものであった。
なにしろ、扱うモノがモノだ。
心霊、妖怪、神仏の類から、宇宙人、UMA、超能力者まで。
ありとあらゆる、公式には存在しないということになっているもの事。
それらについての報告や、扱いに対する具体的な相談がなされるのが、この場所なのだ。
「こういうのってもっとこう、近代的な場所でやるものだと思ってましたけど」
「昨今、電子の海に潜る幽霊や妖怪も少なくないからね。結局ローテクやら古いやり方がよかったりするものだよ」
「吸血鬼の人とか超能力者とかですか?」
「他にもぼちぼち。まったく、僕が刀だからってそういう荒事ばっかり押し付けてさ」
柳丸は口を尖らせ、文句を言う。
そんな顔でもイケメンなのだから、顔がいいというのは実に得だとヤマネは思った。
ちなみに、他者から見ればヤマネも十二分に見目麗しかったりする。
「ま、今回はタヌキさんに関する話だけだから。そんなに緊張することないよ」
「そうもいきません。っていうか、むしろだからこそ緊張しますよ」
「そうなの? まあ、今日はそんな大した話じゃないし。だーじょぶだーじょぶ」
「それなんですけど。どんな話するんです? 今日って」
「あれ? 聞いてないの?」
「昨日突然行って来いって言われて、後はバタバタですよ。とりあえず行けば分かるとしか聞いてなくって」
「そうなんだぁ。まあ、ホントに大した話じゃないよ。タヌキさんに頼んだ人狼退治が思ったよりも早く終わったから、次はまた別のこと頼もうか。みたいな話し合いだから」
この場所はコンクリート詰めなので、やたらと音が響く。
なので、大きな音を出すことがためらわれた。
もし別の場所であったら、ヤマネは大声を上げていたことだろう。
両手で口を押え、何とかやり過ごす。
「お。我慢したねぇ」
「人狼って、あのヤバい感じの奴らでしたよね。半グレの連中の」
「そうだよ。方々で悪さしてたでしょ、奴等。ただでさえウザいのに、人狼なんてのに手出してしつこくなってさ。ウザいうえにしつこいって、始末に負えないよね。いや、負えなかった、か」
「過去形って。全滅させたんですか? タヌキ様が?」
「だね。多分、問題になってた連中の系統は、日本じゃもう残ってないんじゃないかな」
「一体、どうやって」
「企業秘密なんじゃない? タヌキさん、自分とこの会社動かしたみたいだし」
いくつかの国をまたいで仕事をしている、ごく普通の会社。
というのは表向きの顔で、実際のところは某巨大企業で荒事を担う実働部隊の一つ。
タヌキはそんな会社の、社長に収まっている。
「人狼を相手にするには、日本はまだ情報も技術も不足してるからね。どうしても後手に回っちゃうけど。タヌキさんは本場でいろいろ学んで来たんだろうね」
「それにしても、あまりに早いんじゃ」
「優秀だからね、タヌキさん。ちょっと早すぎるんじゃないかと思ったけど、理由聞いて納得したよ。方々を巻き込んだんだってさ。連中の敵に片っ端から声をかけて、全部取りまとめたみたい」
「連中の敵っていうと、縄張りを荒らされてるマルBとかですか」
「そっそ。ほかにもあるよ。敵対してる半グレとか、勝手に乱用されて頭に来てる海外の人狼連中とか、とりあえず人狼殺したい団体の人達とか」
「こういったらなんですけど。よく活動資金ありましたね。そこまでやろうとすると、色々入用だと思うんですが」
何をするにも金がかかるというのは、いつの世も同じではないだろうか。
特に昨今、今あがったような連中を相手にするには、いくらあっても足りないだろう。
「それこそだよ。始末に負えない連中だけど、始末したいやつはたくさんいるもん。そういうところを回って、引き出したみたいだよ。それも結構な額。いやぁ、あるところにあるんだねぇ」
「羨ましい限りですね」
「で、それを踏まえたうえで、今回何を話すかなんだけど。この勢いで、ついでに吸血鬼の方もお願いしようかって話になってるらしくて。ほら、どこぞから若いのが一匹入り込んだじゃない?」
「噂には聞いてますけど。古参のお歴々と折り合いが悪いとか何とか」
「それが、ちょっと血なまぐさい話にまでなっちゃったらしくてさ。若輩者が、むやみに眷族増やし始めたみたいで。協定違反もいいとこだよ」
「それって割とヤバい話なんじゃ」
「ヤバいよ。だからタヌキさんにお願いしようってことになってるわけ。ほら、人狼と一緒で西洋のものだからね。情報も技術も不足してるわけ。で、タヌキさんは本場で学んできてるから」
「でも、それにどう自分が関わってくるんです?」
「吸血鬼狩りに君が参加するからだよ。タヌキさんにくっ付いて、そのノウハウを学んできてもらおうってわけ」
「はっ!?」
今度は、我慢が出来なかった。
大きく響いた声に、ヤマネは思わず両手で口をふさいだ。
周りから集まる注目に、引きつった笑顔で頭を下げる。
集まっていた目がある程度外れるのを見計らい、ヤマネは柳丸に詰め寄った。
「どういうことですか! なんで自分が!?」
「だって君の家、タヌキさんの弟子筋だし。大丈夫、もうタヌキさんに了承は取ってあるから」
「そんなこと言ったって、無茶ですよ! 自分とっていうか、ヤマネ族とあの方とではレベルが違いすぎます!」
「大丈夫。君が使ってる術の四割はタヌキさんのだから。で、もう四割がキツネさんので、残りが歴代のヤマネさんが作ってきたヤツ」
「いや、そういうのも問題かもしれませんけど! 自分なんかじゃとてもついていけませんってば!」
「大丈夫、大丈夫。無茶も押し通せば道理になるもんさ。それに、もう御岩様もOK出してくださってるし。今日で確認と調整やる予定だから、何も問題ないよ」
さわやかな笑顔で言い切る柳丸に、ヤマネは唖然として言葉を失った。
ノウハウを学んできてもらおう、というのは、おそらく直接的な戦闘面の話だけではない。
敵の敵を取りまとめるとか、資金を調達するとか、そういった調整力的なものも学んで来い、ということだろうとヤマネは理解していた。
ヤマネは、自身を愚鈍だとは思っていない。
だが、優秀だとも思っていなかった。
化生の一族ではあるが、それだけ。
並や普通の存在であると考えていた。
それが、タヌキ様のような化け物から、何を学べというのか。
完全な無理難題である。
「無理ですってば! 死んじゃいますって!」
「日本の悪いところだよねぇ。本人が泣こうが喚こうが、現場レベルの訴えじゃ決定って覆らないのよ。今度焼き肉おごるからさ、ガンバ」
「割に合わないですよ! っていうか、ちょっと、助けてくださいって! アイツじゃ役者不足だって反対してくださいよ!」
「そんなに不安がることないって。やってみれば案外行けるもんだよ。あ、そろそろ始まるね。じゃあ、よろしくー」
「ちょっとまって、ホントですかそれっ!」
悲鳴に近い声を上げるヤマネを他所に、会合が始まる。
既定路線である、タヌキへの吸血鬼狩りの依頼、それへのヤマネの同行はさっさと決まり。
各所の調整が始まるのであった。
「タヌキてめぇ! 私の干し柿食っただろ!」
あれは社に奉納されたもので、赤鞘様のものです。赤鞘様にお伺いを立てて私が頂いたので、あれは私のものだったのです。
「うるせぇこの性悪タヌキ!」
古来、キツネは性悪、タヌキはお人好しと相場が決まっているのを知りませんか。
「よく言うわ! おい、間抜けざむらい! お前もなんか言ってやれ!」
「あの、私の筆どこにあるか知りません? 昨日つかってその辺にほったらかしてたんですけど」
さぁ、見ておりませんが。一緒にお探ししましょう。
「タヌキお前、筆咥えてその辺歩いてただ、いってぇ! なんで蹴ったお前!」
まどろんでいたタヌキは、近づいてくるモノの気配にぱちりと目を覚ました。
寄りかかっていた社の残骸から身を離し、人の姿に化ける。
服についた泥や葉をはたき終える頃、巨大な狼が上空から降りてきた。
まるで雪でも降ってきたかのような軽さで、周囲の風を動かすことも、土くれが飛ぶことも、音を立てることすらない。
狼、オオアシノトコヨミの神使であるアカゲは、即座に姿を人に変じた。
「やぁ、タヌキ殿。一仕事終えられたようだな」
「これは、アカゲ殿。はい。案外楽な仕事で、拍子抜けしました」
「はっはっは! 役人連中はずいぶん手を焼いていたようだったがな」
「宮仕えの方々は、まだあの半端者達の相手になれていない様子でしたもの。ただ、半端者達も所詮は素人でしたから」
「扱いに慣れたタヌキ殿に出られては、一たまりもない、か。さもありなん。いや、連中のせいで私も随分肩身の狭い思いをしていてな。狼だから同じだろう、と。正直なところまったくもって迷惑千万であったのだが」
「あんな半端な混じりモノと一緒にされては、さぞご迷惑でしょう」
「狼というのは悪役にされがちでな。もう慣れてしまった部分はあるのだが。それよりも、タヌキ殿。次は吸血鬼だとか」
「まだ本決まりではありませんが、何とか仕事を分けて頂けそうです」
「よく働かれる。そこまでせずとも、人狼の件で随分恩を売ったのでは?」
「立つ鳥跡を濁さずというわけではありませんが、こちらにいるうちになるだけ多くお手伝いを、と思いまして」
「赤鞘様はお喜びになられるだろうな」
そう、赤鞘様はきっと喜ぶだろう。
周りとの和を気にされる神だ。
異世界へ送り出してもらうため、きちんと働いて来たと知れば、あるいは褒めてくださるかもしれない。
そして、「ああ、しまった」と後悔なさるはず。
「こっちに来る時、バタバタであいさつ回りしかしてないんですよねぇー。お世話になった方々に、何かお礼とかお届けできればよかったんですけど。まあ、お礼になるようなものなんて全然持ってないんですけどね。こう、気持ち的なもので」
ご安心ください、赤鞘様。
赤鞘様の分も、私がお礼替わりの奉公をしてまいりました。
きっと、上つ方もご満足くださっているはず。
少しでも早く赤鞘様の元へ戻り、そんな話をしたい。
我知らず、タヌキの表情はほころぶ。
「時に、タヌキ殿。空港から気になっていたのだが、少し顔色が悪くはないか」
「ええ、少し寝不足でして」
タヌキは苦笑しながら、目の下を撫でた。
変化で消しているが、隠さなければ大きな隈が浮かぶはずだ。
ここ百年かそこらの間、タヌキはしっかりと熟睡できていなかった。
寝床が変わると、寝付けない性質なのだ。
そのせいでいささか疲れやすくなっていたり、少々の体調不良があるのだが。
もうすぐそれも解消される。
本来の居場所に戻ることができるわけだから、何の心配もない。
「ですが、大したことではありません。仕事には差しさわりない程度です」
タヌキは胸の前でぱちりと両手を合わせ、楽し気に笑った。
エルトヴァエルとの打ち合わせを早急に終わらせた土彦は、「エンシェントドラゴンの巣」に急ぎやってきていた。
ここで、ある神物と会う約束になっていたからだ。
エンシェントドラゴンの巣最下層には、来客用の宿泊施設がある。
相手は、少し前からそこに宿泊しているのだ。
部屋の前まで来ると、インターホンを押す。
「はぁーい! あ、土彦ちゃんだ! いまあけるねぇー!」
慌ただしくドアを開けて現れたのは、歌声の神カリエネスである。
貧乳の女神達を煽りに煽りまくった挙句、ここに逃げ込んだのだ。
「見直された土地」は、他の神達には立ち入りにくい場所であった。
アンバレンスは「好きにはいればいーじゃん!」みたいなことを言っていたが、そんな風に軽く考える神は、まず居ない。
ほとんどの神が警戒し、近づきすらしないのだ。
カリエネス自身、何やかんやしょっちゅう出入りしていなかったら、ここへ来ようという発想すらなかっただろう。
それだけに、格好の隠れ場所と言えた。
部屋の中に招き入れられた土彦は、勧められてソファーに腰かける。
カリエネスは既に一杯やっていたらしく、空いた一升瓶が二本ほど転がっていた。
飲みかけの瓶もあるのだが、コップらしきものは見当たらない。
どうやら、瓶ごと入っていたようだ。
「このホテル、土彦ちゃんがプロデュースしたんだってねぇー! チョー居心地いいよ!」
「お褒めにあずかり、光栄です。ダンジョンズ・ネットワークのマッドマン達も喜ぶと思いますとも」
ちなみに、カリエネスがここにいることは、赤鞘も知っていた。
ただ、顔は合わせていない。
匿っているという都合上、下手に接触しないほうが目に付きにくいだろう、という考えからだ。
「でも、どったの? なんやかんや忙しいみたいにゃのに」
瓶から直接酒を呷りながら、カリエネスは首を傾げた。
たしかに、土彦は意外と忙しい身である。
戻ってきたガルティック傭兵団との調整、今後の行動計画の立案、アグニー達との交流、等々。
やらなければならないことは山ほどあった。
だが、今はそれらと同じか、それ以上に優先順位が高い問題が持ち上がっている。
「実は先日、かわいらしく作ったつもりの歩道を、兄者に不気味だと指摘されたのです」
「ほう」
なんのこっちゃ話がよく見えなかったが、カリエネスは話を聞くことにした。
なんか面白いことになりそうな予感がしたからである。
カリエネスのこういう勘は、意外と当たることが多かった。
というか、基本的に勘だけで生きているので、そっち方面が研ぎ澄まされて行っているのだ。
「アグニーさん達が使うものとして作ったので、私なりに可愛らしく楽し気に作ったつもりだったのです。ですが、兄者に廃墟のようだと言われました」
「それは手厳しい」
「言われてみればその通り、私なりに努力して可愛らしげな雰囲気を醸し出したつもりだったのですが、あいにく私にはその手のセンスがありません。模倣するだけならともかく、どうしても工業製品のような武骨さになってしまうのです」
「土彦ちゃん、めかめかだもんね」
「見た目だけであれば、樹木の精霊方やエルトヴァエル様、風彦などの協力でなんとかできるでしょう。ですが、その時兄者はこのようなことをおっしゃったのです。無音だから怖い、と」
「あー! わかるきがするぅー! どんなキュートなところでも、無音だと怖いのですよなぁー!」
「その通りです。まあ、私の場合指摘されて初めて気が付いたのですが。その時、私は自分の音楽などに関するセンスのなさを痛感したのです」
「無音が怖いって指摘されて初めて気が付くぐらいだから、なかなかだよねぇ」
「そこで、私は考えました。自分に足りないものがあるのなら、他の方々を頼ればいい。そう、ビジュアル面と同じように、協力を仰げばいいのだと」
「それでこのカリエネスちゃんを頼ろうと思ったわけだね!」
「失礼とは思いましたが、音楽分野に関して今この土地で最も頼りになるのは、やはりカリエネス様を置いてほかにはいらっしゃらないものと考えまして」
神妙な面持ちで頭を下げる土彦に対して、カリエネスは胸をそらせた。
その表情はどこまでもわかりやすい、すがすがしいほどのドヤ顔だ。
「まぁーあ? そりゃぁ、そっち方面に関して? カリエネスちゃんは専門家ですからぁん? 本体がカワイイうえに曲作りとかもできちゃうしぃ? まさにパーフェクトカワイイですけどぉ?」
「まったくその通りです! ですので、是非お手伝いいただけないものかと」
「快適潜伏生活させてもらってるもんね、もちろんそのぐらい全然おっけー、だけれども。土彦ちゃんのことだから、私に丸投げってだけじゃにゃいんでしょ? なにか下準備してるんじゃまい?」
カリエネスは、悪い顔でにやにやと笑う。
それを見て、土彦はぱちりと両手を胸の前で合わせ、にっこりと笑った。
「通り一遍のものですが、楽器類と収録スタジオは用意してあります」
「土彦ちゃんの言う通り一遍っての、ちょーこわぁーい」
「ついでに、歌手も用意しました」
「おういぇーい! ん? まって、作るのって、歩道で流す音楽、要するにBGMなんじゃまいの? なんで歌手?」
不思議そうに首をかしげるカリエネスに、土彦は真剣な表情を作り、うなずいた。
「はじめは私もそう考えていました。かわいい歩道用のBGMを作ろう。ですが、そこでふと気が付いたのです。カワイイ系のものを作る機会は、これが最後ではない。今後もかわいい施設を作ることがあるだろう、と」
「ほう。そりゃそうだよねん」
住民であるアグニー族のために施設を作るとなれば、当然デザインはカワイイ系となる。
これは土彦的に決定事項であった。
となれば、今後カワイイ系のものを作る機会は、増えてくるだろう。
そうすれば当然、それに対応する音楽も必要になってくる。
他から買ってくるなりすればいいのでは?
と、思うものもいるかもしれない。
それではだめなのだ。
出来合いのものでは、満足できない。
土彦は自分が作ったものでなければ、納得できないタイプなのだ。
その分、品質にはどこまでもこだわる。
工場ごとハンドメイドすることも辞さない。
というか、ガルティック傭兵団用に作った品の一部は、実際に工場で作られていた。
土彦手製の工場は、「見直された土地」の地下深くで絶賛稼働中なのである。
「そのことを考えれば、一通りの音楽。BGMのようなものから、楽しむための曲、娯楽に位置するような歌まで用意するべきであろう、と考えたわけです」
「にゃるほどにゃるほど。今後の事業展開を想定して、今のうちにある程度作ってしまおうと」
「カリエネス様がいつまでここにいらっしゃるかわかりませんが、お願いできるうちにお願いして、できるならご厚意に甘えさせていただこうかと」
土彦の言葉に、カリエネスは考えるように上を見上げた。
そして、もにょり、という感じに顔をゆがめる。
顎を突き出しておちょぼ口を作り、眉間にギューッとしわを寄せるという、表現しずらい表情だ。
ちなみに、この顔には特に意味はない。
なんとなくやっているだけである。
もちろん土彦もその辺のことは心得ているので、特に突っ込まなかった。
「よし! わかった! そういうことなら、ぜんぶまとめてまっかすぇっなさぁーい! このカリエネスちゃんがチョーかっこかわいいミュージックを作り上げてやるにゃぁー!!」
「ああ! ありがとうございます! 何と心強い!」
「ちなみに、用意した歌手って誰ぞ?」
「とりあえず風彦を捕まえてあります。それから、カーイチさんも巻き込もうかと」
「おういえい、おういえい! いーじゃまい! たのしそーじゃん! やっちゃおうぜ! なぁーに、歌声の神がついてるのよ! 大船に乗った気でいなさいってぇ! ぬぁっはっはっはっは!! まずはかんぱいだぁー!」
性格はアレだが、カリエネスは本当に歌声の神だ。
そちら方面に関しては、間違いなく、少なくともアンバレンスよりは技術も実績もある。
「ああ、たのしみです! きっと素晴らしいものが完成するでしょうとも!」
そうすれば、きっと住民であるアグニー達は喜ぶだろう。
彼らが喜べば、もちろん赤鞘や水彦、風彦、エルトヴァエル、樹木の精霊達も喜んでくれるはずだ。
あの歩道の失敗を、二度と繰り返してはならない。
必ずや、楽し気な空間を作り出して見せる。
土彦は胸の内に熱い決意を滾らせながら、胸の前で両手をぱちりと合わせ、にこにこと笑うのであった。
次回は、マービットのお仕事風景、あとのんびりとしたコッコ村の日常風景を描けたらいいな、って思います
いや、それにしてもついに150話ですよ
なんか感慨深いなぁ、と
えー、全然関係ないことなんですが、最近書き始めた小説の宣伝をさせていただきたいと思います
「うちの村の子供が「呪術王」とかいう禁忌系スキルを取得した件」
https://ncode.syosetu.com/n6751fz/
勢い全振りしたコメディです
アマラコメディが大丈夫という方は、楽しんでいただけると思います
「ユカシタ村開拓記 ~ネズミ達の村づくり~」
https://ncode.syosetu.com/n6931fw/
手のひらサイズのネズミ獣人「ラットマン」の夫婦が、新しい村を作るために奮闘するお話です
コメディ系ではないけど、もふもふしてます