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百三十七話 「いやぁ、喉かわいちゃって。あ、ビールあるじゃーん。これ飲んでいい?」

 奴隷商人という商売は、人間相手の商売である。

 何しろ客も人間ならば、扱う商品も人間なのだ。

 当然、人間に接する機会は、ほかの商売の比ではない。

 客との商談中も、商品管理の最中も、帳簿などの書類をさばいている間でさえ、人間と接することになる。

 正直なところ、あまり人間と接するのが得意ではないトラヴァーにとっては、辛い仕事だ。

 実際、トラヴァーはこの仕事が好きではない。

 大嫌いというほどではないが、出来ればほかの仕事をしたいと思っている。

 客とも奴隷ともかかわらないでいいのならば、それが一番有り難いと心の底では思っているのだ。

 だが、そうはいかないということも、重々承知している。

 代々仕えてくれている従業員を食わせていかなければならないし、得意先の信頼を裏切るわけにもいかない。

 仕事を辞めるということは、商品である奴隷達も行き場をなくすということであり、下手をすると命を落とさせることになる。

 扱う奴隷の多くは犯罪奴隷や戦争奴隷であり、奴隷商人が扱いきれないとなると、処刑されることが決まっていることも多い。

 バタルーダ・ディデでは、牢獄に入れて置くよりも有益だから、という理由から奴隷制度が採用されている。

 奴隷にできないなら牢獄へ、などという考え方はほとんどなく、役に立たないなら殺してしまえ、という風潮の方が強い。

 貴族などの国の上の方はもちろん、一般庶民に関してもそんな風潮であるから、行き場のない奴隷がどうなるかなど、火を見るより明らかだ。


 そうなるともう、トラヴァーに「奴隷商人を辞める」という選択肢は無くなってしまう。

 いやいやでも何でも、商売を続けざるを得ないのだ。

 たぶん、家業というのは少なからずそんな、強制的で、脅迫的なところがあるのではないか、と、トラヴァーは思っている。

 それでも、そんなものは自分とは関係ないし、知ったことではない、とばかりに、仕事を辞めてしまえる人種も世の中には居るのだろう。

 幸か不幸か、トラヴァーはそういったことが出来る種類の人間ではないのである。


 だから、この商売に向いているのだ。


 トラヴァーは先代である父親に、そういわれたことがあった。

 嫌でもやらなければならないから、少しでも早く確実に仕事を終わらせようとする。

 失敗があると面倒だと思っているので、しっかりと確認をしながら作業をこなす。

 自分も仕事が嫌いなので、仕事が嫌いな従業員をうまく扱うことが出来る。

 つまるところ。

 絶対に仕事を辞めることができないとわかっていて。

 嫌いだからこそ、少しでも仕事にかかわる時間と面倒ごとを減らすための努力を惜しまず。

 扱いにくい従業員の操縦が上手い。

 そして、それらを一応はこなせるだけの、技量と度量を持っている。

 これほど商売に向いている人間は居ないではないか。

 トラヴァーはまさにそれに当てはまるのだ。

 と言うのが、父親の言い分である。

 わかるようなわからないような、なんだか無理やりなこじつけだな、などと思うトラヴァーではあるが。

 悲しいかな父親の言う通り、この商売を辞められないと思っているのは、事実である。

 ということは、少なくとも向いていない仕事を無理やりやらされているのよりは、幾分かましなのだろう。

 そんな風に自分を慰めながら、トラヴァーは何とか奴隷商という家業を続けているのだ。


「とはいえ、やってる方は辛いんだよなぁ」


 客の相手を終え、仕事をひと段落付けたトラヴァーは、自分の部屋へと向かって歩いていた。

 こういうと誤解されるかもしれないが、別に仕事自体が辛いというわけでは無い。

 少なくとも今の世の中では必要な仕事だと考えているし、誇りも持っているし、やりがいも感じている。

 まあ、もちろんできれば辞めたいとも思っているのだが。

 辛いというのは、単に人付き合いが辛い、という意味だ。

 トラヴァーは元々、人付き合いが得意な方ではない。

 出来れば一日中、誰ともしゃべらずに生きていきたいと思っているほどである。

 早く結婚でもして子供でも生まれれば、あるいはさっさと引退できるのだろうか。

 そう考えると、結婚というのもいいかもしれない。

 一応、縁談などの声はかかっているのだが、今までは仕事の忙しさにかまけてすべて断ってきていた。


「手っ取り早く結婚しちゃうのも、実際、手の一つではあるのか。ははは」


 力なく笑いながら、トラヴァーは自室の扉を開けた。

 中に入り、扉を閉め、持っていた書類を執務机に投げたところで。

 トラヴァーは緊張で全身を硬直させた。

 今しがた入ってきた扉のすぐ脇に、人の気配があることに気が付いたからだ。

 直前まではまったく感じなかったそれは、突然にじみ出るように現れた。

 そういったものに聡い方ではないトラヴァーにすら気が付くことができたということは、恐らく気が付かされたのだろう。

 この状況はあまりよろしくない。

 商売柄、極まれにではあるが荒事に巻き込まれることもあるトラヴァーは、騒ぐことなく、ゆっくりと両手を上にあげた。


「お。意外と慣れてる?」


「話が早くて助かるわぁー」


 中年と思しき低い男性の声と、少し若い感じのする女性の声。

 まるで緊張感もなく気軽そうな口調が、かえってトラヴァーの恐怖をあおった。

 こういう手合いの方が、質が悪い。

 トラヴァーが仕事上積んできた、経験則である。


「じゃあ、ゆっくり後ろ振り向いてもらえる? 手はそのままで」


 言われるまま、トラヴァーは後ろを振り返る。

 ドアの両脇にいたのは、やはり男性と女性の二人組であった。

 男性の方は、いかにも動きやすそうな都市迷彩柄の、いわゆる迷彩服を着込んでいる。

 軍事用品などに詳しくないトラヴァーには詳細は分からなかったが、体の各所に装備されているものは、どれも本格的なものに見えた。

 男性がトラヴァーに向けているナイフも、おそらく魔法を打ち出すような、よくある魔法武器の類だろう。

 ギルドの結晶魔法などでもよく作られるタイプで、外見だけではどこの国で作られたものか判断するのは難しい。

 こういったものは軍用品であることが多く、一般で手に入れるのは困難なはずだ。

 女性の方は、パンツスーツを着ている。

 仕立てのよさそうな品で、一目で高価なものだとわかった。

 サングラスをしているのだが、それが全く障害にならないほどわかりやすくニヤニヤと笑っている。

 いかにも軽そうに見えるが、もちろん見た目通りではないのだろう。

 だらしなく立っているように見えるが、トラヴァーにもわかるほどに隙がない。

 左右の腰に剣を一本ずつ下げているところを見るに、剣士だろう。

 逃げようとか抵抗しようとすれば、おそらく一瞬で鎮圧されるはずだ。

 下手をすれば、太ももやら腕やらを刺されたりするかもしれない。

 トラヴァーは思わず、身震いした。


「そんなに緊張しないで。今日は平和的にお話ししに来ただけだから。お話っていうか、相談?」


 男性が肩をすくめていうと、女性の方は大きくうなずく。

 どうやら、物取りの類ではないらしい。

 トラヴァーの部屋があるのは、自社ビルの一角だ。

 商売柄、警備には人も金も惜しみなくつぎ込んでいるため、かなり厳重になっている。

 にもかかわらず、この二人は今この場所にいるのだ。

 相当な腕利きだろうし、金目当てならばトラヴァーの前に姿を見せる必要もないだろう。

 そんな必要もなく、こちらに知られずに侵入し、まったく気が付かないうちに帰っていくはずだ。


「相談というと、どんな内容でしょう」


「大体察しはついてると思うけど。アグニー族の件だよ」


 一応聞いてみたトラヴァーだったが、返ってきたのは予想通りの答えだった。

 金目のもの以外で用件があるとすれば、やはりそこだろう。

 問題は、彼らがどこのだれかということだ。

 メテルマギトということはないだろう。

 あの国はこんな回りくどいやり方はしない。

 真正面から大火力で押し込んでくるはずだ。

 こういうことをしてきそうなのはステングレアあたりだが、あの国がアグニーを集めているという話は聞かない。

 もちろん、水面下で動いている恐れもあるが。

 今やアグニー族は、注目の的だ。

 手を出してきそうな国は、いくらでもある。

 いったいどこだろうと考えるトラヴァーだったが、続いて告げられたのは予想外の言葉だった。


「アグニー族の村から雇われてね。タック氏を取り返したいわけなんだけども」


 トラヴァーは思わず目を見張った。

 仲間を捕らえられた種族が、それを助け出そうとする、というのはわかる。

 だが、散り散りになっているであろう現状のアグニー族に、それを実行しうる手段があるとは思えない。

 アグニー族に雇われた、というのはブラフで、まったく別の集団だという恐れもある。

 だとすると、なんの意図があって「アグニー族に雇われた」と自称したのかも問題だ。

 判断しかねているトラヴァーに、女性の方が懐から引っ張り出したものを放り投げた。

 反射的にそれを受け取ったトラヴァーは、困惑しながら手の中にあるものを見る。

 それは、薄いケースに収められた書類の様なものだった。


「信じらんないだろうからさ。それ、見てみなよ」


 言われるまま、トラヴァーは書類に目を落とす。

 そこに書かれていたのは、油性クレヨンとおぼしき色とりどりの線で書かれた文章だ。

 一部、紙を挟んで読めないようにしている部分もある。

 内容は、次のようなものだ。




 つかまった、あぐニーを、さがしてください

 みつかって、たすけだすひつよーがあったら、たすけだしてほしいです


 コッコむらいちどう だいひょう ぐれっくす・ろう

 エルトヴァエル




 最後に書かれた一文、名前だけは、クレヨンではなくペンで書かれたものである。

 そして、それが一番の問題であった。

 完全に崩された、ただの線の集合体か、子供の落書きにしか見えない何か。

 だが、それを目にした瞬間、トラヴァーは確かにそれを読解することができたのだ。

 一体どういうことなのかと困惑するトラヴァーだったが、数秒考えて、ようやく思い出した。

 これは、天使のサインだ。

 国同士の調停文章など、天使が内容を確認し、それを証明するときに書かれるものである。

 これは人間には偽造しえないものであり、国同士の交渉の場に天使が参加することも珍しくないこの世界において、これ以上に書かれた内容を証明するものは存在しないといっていい。


「隠してるところには、俺らの団体名とかが書いてあるんだけど。その辺は知りたくないかなぁーって思って」


 肩をすくめる男性の言葉に、トラヴァーは高速でうなずいた。

 あまり知りすぎると、ろくなことがない。

 そうかな、などと疑っていても、確認さえしなければ、知らぬ存ぜぬで通せることが世の中にはあるのだ。

 立場としてその方が都合がいいということも、往々にしてある。

 彼らの言っていることが本当だとわかりさえすれば、それ以上の情報は命取りになりかねない。

 というか、アグニー族が誰かに仲間の奪還を依頼しているという情報自体、相当な危険物と言っていい。

 ましてそれを、天使が承認しているとなれば、尚更である。


「あーあ。頭抱えちゃって」


 トラヴァーの様子を見ていた女性の方が、面白そうに笑い声をあげる。

 そのまま歩き出すと、部屋に設置してある冷蔵庫を開けた。

 当然のように中を物色し始める女性に、男性が呆れたような顔を向ける。


「せめて断り入れてから漁れよ」


「いやぁ、喉かわいちゃって。あ、ビールあるじゃーん。これ飲んでいい?」


「あ、どうぞ」


 仕事の後で飲むつもりだったものだが、今はそんなものはどうでもよくなっていた。

 というより、アグニーのタックを預かって以来、トラヴァーはほとんど酒を飲んでいない。

 飲んでもまともに酔えないからである。

 気が高ぶりすぎていると、酔えないタイプなのだ。


「ごめんなさいね、なんか。自由人で」


「ああ、いえ。お気になさらず」


「で、アグニーのタック君の事なんだけど。そこにあるように、連れていけたらなぁーって思ってるんだけど。その方法をちょっと相談したいなぁーって思って」


「はぁ」


 気の抜けたような返事をしてしまったトラヴァーだが、無理からぬことだろう。

 商品を盗み出す相談を、盗み出される方にしているのだ。


「いやねぇ? トラヴァーさんもその方がうれしいんじゃないかなぁーって。持て余してるでしょ? ぶっちゃけ」


 その通りだ。

 できるなら速やかに手放したいと思っている。

 だが、お国のお貴族様から管理をさせられている関係上、そう簡単にはいかない。


「実際、お上から厄ネタ掴まされてるようなもんなんだし。そりゃぁー、どーにかできるもんならどうにかしたいのが人情だよねぇー」


 女性の方がビールを飲みながら、さも楽しそうに笑いながら言う。

 どうやら、トラヴァー側の事情は、粗方つかまれているようだ。

 ここにたやすく侵入してくるだけの腕があるなら、当然かもしれない。


「依頼主の意向もあってね。オタクにとっても悪くない方法で取り戻せたらなぁーって思ってる訳なのよ。それで、相談しに来たってわけ」


 内容にもよるが、トラヴァーにとっては願ってもない話だ。

 少しでも被害が少なくタックを仲間の元へ送り出せるなら、トラヴァーにとってもありがたい。


「具体的な方法は、あるんですか?」


 トラヴァーの言葉に、男性は笑顔でうなずいた。


「まぁね。でも、その前に」


 男性はそういうと、女性の方に顔を向ける。


「ビールってまだあるの?」


「んあ? あるみたいよ」


 言われた女性は、確認するように冷蔵庫の中を覗き込んだ。

 いつの間にか、テーブルの上には空になったと思しきビール瓶が数本並んでいる。

 断らずに勝手に飲んでいたらしい。


「マジで? あとでもらっていい?」


「あ、どうぞ」


 本当に大丈夫なのか、いささか不安になるトラヴァーであった。





 セーフハウスに戻ったセルゲイは、早速全員を集めて今後の行動について説明をすることにした。

 ちなみに、一緒に奴隷商に潜入していたプライアン・ブルーは、飲み足りなかったらしく既に一杯やり始めている。

 こんなんでも一応仕事はするので、特に誰も文句は言わなかった。

 能力があって仕事さえこなしていれば、それでいいのである。

 傭兵団というのはある意味、非常にホワイトな職場なのだ。


「まあ、そんなわけで。計画を変更しまぁーす」


 実に軽い感じでセルゲイが宣言する。

 ほとんどのものが特に反応も見せない中、キャリンだけが明らかに動揺していた。

 真っ青な顔になっているキャリンを見て、セルゲイが面白そうに笑う。


「どうしたのよ、キャリン君。そんな青い顔して」


「いえ、その。そんなに簡単に変更出来るのかな、と思いまして」


 ここまで、何度も打ち合わせをしている。

 装備も整え、あとは微調整をして実行するだけ、というところまで来ていたのだ。

 いまさらそれを変更するというのは、キャリンにはいささか不安に思えたのである。

 そんなキャリンの心情を知ってか知らずか、セルゲイは肩をすくめて笑った。


「この商売やってると、状況が変わる事なんてしょっちゅうだからね。臨機応変に対応できなくちゃやっていけないわけよ。予定通り動けるまで待つとか、一旦引いて状況を見るとかっていうのも、今回は難しいしね」


 なにしろ、ここは他国である。

 セルゲイ達は不法侵入している立場であり、あまりゆっくりはしていられない。

 帰還するための船の予定もあるため、時間も決められている。

 そちらが変更できない以上、アグニーを助け出す作戦の方を変更せざるを得ない。


「それに、変更って言ってもそんな大したもんじゃないのよね。ちょこーっと細部が変わる程度だから。


「ちょこっと、ですか」


 そう聞いたキャリンは、いくらかほっとした様子を見せた。

 セルゲイは楽しそうに笑うと、さっそくといった様子で説明し始める。

 大まかな内容は、次のようなものだ。


 まず、トラヴァーの奴隷商に偽装の攻撃を仕掛ける。

 わざと失敗し、アグニーを奪還しようとしたような痕跡を残す。

 トラヴァーがアグニーを届けてきた貴族に泣きつき、預かってもらうように仕向ける。

 貴族は郊外に別荘を持っており、恐らくそちらへアグニーを移送するだろう。

 人通りの多い都心部を出たところで、輸送車を叩く。


「大雑把にいうと、だいたいそんな感じよ」


「タックさんからで、トラヴァー氏になるだけ迷惑を掛けないように、という要望がありましたので」


 そういったのは、風彦だ。

 捕まっているアグニー、タックと直接会った風彦は、要望なども聞いてきていたのである。

 それを踏まえて、作戦を変えることになったのだ。

 今回セルゲイとプライアン・ブルーが侵入しに行ったのは、その下準備のためである。


「アグニーの輸送は、十中八九貴族が手配するだろうからね。奴隷商のビルで引き渡しが終われば、手が離れるわけ」


「移動中を叩くわけでござるか! 中々にしゃれたことになりそうでござるな!」


 いかにも楽しそうに笑う門土の隣に座っていた水彦は、難しそうに眉間にしわを寄せ、首をかしげた。


「いどうちゅうのほうが、つれだすのはやっかいじゃないか」


「こっちにとっては、むしろそっちの方が都合がいいと思うよ。移動中は人数も少なくなるだろうし。多勢のところに突っ込むよりは、多少手ごわくても数が少ない方が楽だしね」


 セルゲイに言われ、水彦はなるほどとうなずいた。

 確かに、街中にある、警備が厳重なビルを襲うより、移動中を襲うほうが相手取る人数は少ないだろう。

 警備にあたる兵士などの質はそちらの方が上かもしれないが、一人一人の質という意味では、こちらも負けていない。

 むしろ、確実に勝っているだろう。

 相手の数が多いことや、人の多い街中を逃げることになるといった不安要素から考えれば、なるほど、移動中を狙うほうが楽は出来そうではある。


「まあ、やる事はそんなに複雑じゃないからね。準備もほとんど変わらないし、楽なもんよ」


 そんな風に笑うセルゲイに釣られ、プライアン・ブルーや門土も笑い声を上げた。

 だが、げっそりとした青い顔をしているものも居る。

 いうまでもなく、キャリンだ。


「全然やること変わってるじゃないですかぁ!」


「だいじょーぶだいじょーぶ。慌てない慌てない」


 セルゲイがいかにも気楽そうに言うが、キャリンの表情は一切晴れなかった。

 それでも、やらなければならないことは変わらない。


「じゃ、細かいところ詰めようか?」


 さっそく話し合いが始まる中、キャリンはぐったりした様子で座っていた。

 そんなキャリンの前に、何かが突きだされる。

 乳白色をしたそれは、棒付きのアイスキャンディーだ。

 その持ち主は、若干心配そうな顔をしているディロードである。


「食べる?」


「ああ、どうも」


 アイスを受け取ったキャリンの肩を、ディロードがポンと叩く。


「人生、流されるほうが楽だよ」


「はぁ」


 こうはなるまい。

 口には出さなかったものの、いくらかディロードの事情を聴いていたキャリンは、そう固く心に誓うのであった。

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