百ニ十九話 「はぁー。寿退社が遠のくわぁ」
見直された土地で行われた三勢力による会議は、それぞれの国が一応の納得ができる取り決めがなされ、無事に終了した。
かなり激しい戦いであったにもかかわらず、特に問題も起きずに事が終わったのは、それぞれの国が十分理性をもって会議にあたったおかげだろう。
各勢力とも、目標にしていた最大の利益を既に手にしていた、というのが大きい。
赤鞘がドッキリ企画で置いてきたものが、有効に働いたと言えるだろう。
至極珍しいことに、赤鞘の仕事が実を結んだのである。
その裏で、三勢力の会議戦の渦中に晒された風彦は大いに疲弊し、かわいいもの枯渇症状に悩まされることになった。
尊い犠牲である。
恨むのであれば、激戦の中に放り込むことでスパルタ式の成長を狙った、罪を暴く天使を恨むしかないだろう。
そうしたらそうしたで、後がすごく怖そうではあるが。
バインケルトに呼び出されたプライアン・ブルーは、一体何の用だろうと首をかしげながら部屋を訪ねた。
神様との謁見も、会議も無事に終了し、いよいよ明日はアインファーブルへ戻ることになっている。
会議内容の確認などの打ち合わせはすでに終わっており、これと言った要件は思いつかない。
「はっ! まさか、ついにあたしに見合いの口を持ってくる気になりやがったか、あのショタジジィ! ひゃっふぅー! これであたしも寿退社だっ! 小さな丘の小さなお家で、犬とか花とかに囲まれつつキャッキャうふふしながら楽隠居生活突入ってことかよ! ご近所にもイケメン大量発生で逆ハー顕現まであるわこれ! でもざぁーんねぇーん! あたしは純愛属性なので旦那様への愛を貫くのでしたぁー! ふっふー!!」
アッパーなテンションでスキップしながら、プライアン・ブルーはバインケルトの部屋へと向かう。
逆ハーも何も、そもそも旦那様すらいないのだが。
捕らぬ狸の皮算用、実現性の薄い幻想、夢見がちな理想、それらは時に生きる勇気と活力を与えてくれるのだ。
彼氏いない歴=年齢であり、地元の友達がボコスコ結婚していき、ドカドカ子供とか生まれちゃっていて「えっ! 〇〇ちゃんところの子供、もうこんなにおっきくなったの!? この間生れたんじゃなかった!?」状態のプライアン・ブルーにとって。
現実逃避にも似た空想を楽しむことは、精神衛生上不可欠な行為なのである。
そうしないと、速攻でバインケルトに退職届を叩きつけ、婚活に邁進しかねないレベルだ。
プライアン・ブルーの乙女のハートは、それほどまでに追い詰められているといっていい。
もうこれ以上、たまに帰った自分の部屋で、友人知人の「結婚しました」「子供が生まれました」メールを見て嫉妬に叫ぶのはごめんなのだ。
自分だって幸せになりたい。
お見合いでも恋愛でもなんでもいいから、自分のことを理解してくれて、家事も上手で、甘やかしてくれる、同業者でない旦那様が必要なのである。
この「同業者でない」というところがプライアン・ブルーの考える「幸せ家族計画」には必要不可欠なのだが。
まあ、そんなことはどうでもいいだろう。
とにかく、プライアン・ブルーは非常に機嫌よく、バインケルトの部屋へ向かったのだ。
膨らみに膨らみまくっていたプライアン・ブルーの期待は、ものの見事に裏切られることとなった。
人が聞けば「アホか」と一蹴してしまうような絵空事だったかもしれないが、プライアン・ブルー本人はいたって本気と書いてマジだっただけに、その衝撃は計り知れないものである。
「てめぇ、連絡要員としてここに残すことになったからよぉ。そのつもりでなぁ」
「何言ってんだこの若作り妖怪ジジィ」
思わず本音が漏れてしまったプライアン・ブルーだったが、割と普段から駄々洩れだったので特に咎めるモノはいなかった。
それはそれで問題な気もするのだが、彼女は元々そういう性格なので仕方ないだろう。
「いやいや! 待ってくださいよ! 待ってくださいよちょっと! どういうこと!? もう会議終わったじゃん! 帰ってもいいはずじゃん! っつーかここって元来ここって人がいちゃいけない場所なんじゃないの!? 撤退しましょうよ! 大体ぜってぇーあたしろくなことしませんからね!? 置いてったって問題しか起こしませんからね!?」
「自分で自分の事よくわかってるじゃねぇか。俺もそう思わなくもねぇんだが、今回は指名だ。諦めるんだなぁ」
「指名!? 何の指名だよっ! キャバクラじゃねぇーっつーの! セクハラよセクハラ! セクシャルハラスメントよっ! そりゃあるよ!? この業界でもどこの誰じゃないと信用できないとかさ! そういう場合は指名することもあるさ! でもこの場合、国のあれじゃん! 威信とかかかってんじゃ! そこで選択ミスするはずないんだからこっちに任せてくれたっていいじゃん! そしたら絶対ここであたしっていうチョイスは生まれないわけでしょ!? もっと結果にコミュっとするやつをやっていきましょうよ!」
「てめぇを指名したのは、エルトヴァエル様だ」
「おうっふぅ!」
バインケルトの口から出た名前に、プライアン・ブルーは膝から崩れ落ちる。
正直なところ、大体誰が指名してきたのか、察しはついていた。
なにしろ、場所が場所で状況が状況だ。
それでも、確認するまでは本当に誰なのかは未知数である。
もしかしたら、なんか一般の、指名されても断れる部類の相手かもしれないという可能性はゼロではないのだ。
だが、名前が出てしまったらどうしようもない。
罪を暴く天使に逆らえる公務員など、この地上には存在しないのだ。
ありとあらゆる情報を一手に握り、その断罪によって滅ぼされた国の数は二十は下らないという対国天使を前に、一国家公務員でしかない諜報員など生まれたてのヤギと同程度の無力さなのである。
「そんなっ! こんな男っ気のないところに一人でいろっていうの! 完全に拷問的なやつじゃん!?」
「神域に居られるなんざぁ、世の聖職者にとっちゃぁ涙が出るような光栄だろうが」
「価値観は人それぞれでしょ! 自分にとっていいことだから他人にもいいはずなんて考え方はこれからの国際社会に置いてはむしろ悪い方向にしか動かないはず! 相手がどうしてほしいか考えるとかじゃなくて、きちんと相手の国の文化や個人を知ったうえで、最適なものを選んでいくことこそが真のオモテナシなのではないでしょうか!」
「そんだけいやぁ、憂さは晴れただろぉ。何言った所で決まりは決まりだ。大人しく仕事しやがれボケがぁ」
「へーい」
がっくりとうなだれながら、プライアン・ブルーは気の抜けた返事をする。
事の原因であるエルトヴァエルを恨みたいところだが、怖すぎて恨めない。
プライアン・ブルーにできるのは、ただただ己の不幸を嘆くことのみである。
「はぁー。寿退社が遠のくわぁ」
それを聞いたバインケルトは「元々存在しないものが遠のくことはないのではあるまいか」と思ったのだが、口には出さなかった。
優に二千年以上という永い歳月を過ごしてきたバインケルトにも、その程度の優しさは残っていたのである。
三勢力の「見直された土地」からの出場は、特に問題もなく行われた。
なにしろ、入る方が出るよりも難しい場所である。
来るときに比べれば、代表者達の心的疲労も少ない。
行きはよいよい帰りは辛い、等という唄もあるが、この場合は見事に逆だと言えるだろう。
会議も終わり、手土産も持ち、「見直された線」を使い、アインファーブルへ。
そこから一旦ギルド所有のホテルへと移動した代表者達は、それぞれの領地へと戻ることとなった。
ステングレアによる干渉なども特になく、これといった大きな問題も起きることはない。
準備から実行、終了までとずいぶん時間のかかった、三勢力による「見直された土地」、赤鞘への訪問は、こうして無事に幕を閉じたのである。
「見直された土地」のほぼ中央。
赤鞘の社の横に敷かれたビニールシートに座りながら、土彦はいつものニコニコとした笑顔を浮かべていた。
目の前には、空になったお皿が置いてある。
先ほどまでそこに乗っていたのは、先日赤鞘がボーガーにもらってきたケーキだ。
三勢力との謁見が無事に終了したことを記念して、みんなで食べることになったのである。
正直なところ、土彦にはケーキの良し悪しはよくわからない。
そもそも、興味が無いと言っていいだろう。
土彦を含む「見直された土地」のガーディアンにとって、食事は必要不可欠という訳ではない。
言ってみれば、娯楽の一種だ。
水彦と風彦は好んでものを食べることも多いが、土彦は必要でなければ全くものを食べることをしなかった。
ものが美味しいとか不味いとか、そういった判断や味覚が無いという訳ではない。
むしろ、どちらかと言えば、味覚は鋭い方だと言ってもいいだろう。
ではあるのだが、全く興味が無いのだ。
土彦にとって興味の対象は、ほぼ二種類しかない。
一つは魔法などの技術に関すること。
もう一つは、身内の幸福に関わることだ。
なにかを食べるというのは、その二つ以外のものであり、まさに土彦の興味から外れることなのである。
そんな土彦が、なぜケーキを食べて嬉しそうに笑っているかと言えば。
赤鞘や風彦、エルトヴァエル、樹木の精霊達が、ケーキを食べて嬉しそうにしているからであった。
おいしいケーキを食べたことで、皆が嬉しそうにしている。
土彦にとっては、何物にも代えがたいすばらしいことなのだ。
「はぁー。もちもちしてます」
そんな声に隣を振り向くと、風彦がとろけるような笑顔で樹木の精霊のほっぺたを揉みしだいている。
ずいぶん成長した樹木の精霊達だが、その肌は未だにもっちりしていて触り心地が良いらしい。
樹木の精霊はといえば、特に抵抗することなく「あうぇー」という妙な声を出しつつ、されるがままになっていた。
なにやら諦めた感じの目をしていることから、恐らくやられている本精霊は楽しくないのだろうことがうかがえる。
それでも逃げたり止めたりしないのは、ここ最近の激務で癒しを求めている風彦を労ってのことだろう。
彼らも彼らなりに、風彦を大切に思っているのだ。
ちなみに、風彦の周りには、既に揉み解されてぐったりしている樹木の精霊が、数柱転がっている。
ある意味凄惨な光景にも見えるそんな光景に、土彦はますます笑顔を深めた。
風彦にとっては、樹木の精霊達のほっぺたをもちもちすることが。
土彦にとっては、そんな光景を見ることが、心の清涼剤になっているわけである。
「私がお呼びした方々がお帰りになりましたし、アニスさん達もそろそろお帰りですかねぇ?」
「はい。お宿をずっと閉めて置いて頂くわけにもいきませんので。今回来ていた勢力がそれぞれに損害補填をすることにはなっていますが、いわゆる客商売ですから。長くお休みしていただくわけにもいきませんので」
赤鞘とエルトヴァエルはといえば、のんびりとケーキを食べながら今後の行動について話し合っていた。
今の話題は、「木漏れ日亭」のアニスのことの様だ。
水彦が定宿としている宿で在り、アニスはそこの経営者で料理長をしている。
「見直された土地」の外の人間なので土彦的には毛ほども興味はないのだが、赤鞘や水彦が気に入っているようなので、丁重に扱うことにしている人物だ。
「それもそうですねぇー。じゃあ、この後にしましょうか」
「何かなさるのですか?」
「ええ。アニスさんにご挨拶をと思いまして。ああ、そういえばキャリンさんにもご挨拶しないといけませんよねぇー。水彦がお世話になっていますし」
赤鞘の言葉を聞き、土彦はここには居ない水彦へと思いを馳せた。
水彦は今、「ドラゴンの巣」でキャリン達と一緒にいる。
さらに言えば、その「ドラゴンの巣」の主であるエンシェント・ドラゴンも、水彦達の所へ行っていた。
それぞれに、仕事をしているのだ。
正直なところ、土彦としては非常に面白くないことだった。
水彦もエンシェント・ドラゴンも、身内だ。
土彦に言わせれば、本来はこの場所で一緒にケーキとお茶を楽しんでいるべきなのである。
それが、「見直された土地」の外で仕事をしたり、外から来た連中の為に働いたり。
必要なことだということは、わかっている。
ただ、納得がいかないのだ。
土彦の思考は、ひたすら土地の内へと向いている。
外のことなどは、どうでもいいのだ。
そんなことを考えていた土彦に、赤鞘が声をかけてくる。
「そうだ。土彦さんと、風彦さんも一緒に行きましょうか。精霊さん達も一緒に。そうすれば、皆で水彦にも会えますしねぇ」
「ああ、それは素晴らしい! ぜひ行きましょう! 皆さん一緒に! 料理を作って頂いたお礼はきちんとしなければなりませんから!」
赤鞘の提案に、土彦は秒速で乗っかった。
もちろん、料理を作ってくれたお礼、などというのは口実で在り、実際のところはどうでもいいと思っている。
重要なのは、皆さん一緒に、という部分だ。
赤鞘、エルトヴァエル、樹木の精霊達、水彦、自分、エンシェント・ドラゴンに、風彦。
皆が一つの場所で、顔を合わせる。
土彦にとっては、何よりも大切なことだ。
「少しアニスさんとキャリンさんがストレスで倒れるかもしれませんが……。まあ、赤鞘様だけで行かれるのもあまり変わらないかもしれませんし」
苦笑しながらも、エルトヴァエルも提案に乗ってくれるようだった。
赤鞘だけが行けば、やらかしてまたろくでもないことになると考えたのだろう。
土彦にとっては好都合。
赤鞘が言い出し、エルトヴァエルが許可を出したとなれば、話しは決まりだ。
この二柱が「見直された土地」の意思決定機関なのである。
「みんなで集まるのは、初めてになりますね! ああ、とても、とても楽しみです!」
土彦はにこにことした笑顔で、パチリと両手を合わせた。
楽しみで楽しみで、今すぐにでも行きたいところだが、もう少し我慢しなければならない。
風彦はまだ樹木の精霊達をもにっているし、樹木の精霊達はまだケーキを食べている。
そんな彼らをのんびりと眺めるのも、土彦にとっては大切なことなのであった。
アニスとキャリンは、目の前で繰り広げられる光景に呆然としていた。
異世界からやってきた土地神に、罪を暴く天使。
水彦、土彦、風彦、エンシェント・ドラゴンと言った、四柱のガーディアン達
さらに、相当に高位の存在と思しき精霊が、八柱。
自分達は神話の中にでも飛び込んでしまったのだろうか、などという考えが二人の頭に浮かんだのも、無理からぬ光景だろう。
もっとも、場所的な事を考えれば、ある種当然の光景ともいえる。
ここは「見直された土地」。
最高神アンバレンスの手によって封印され、最近になってようやくそれが解かれた場所なのだ。
しかも、この場所を治めるために、異世界から神様を招くという大掛かりなことまで行われている。
まさに神話の中の世界、そのままの場所と言っていいだろう。
軽く眩暈を感じたキャリンは、こめかみを押さえながら頭を振った。
一瞬意識が遠のきそうになったが、まさか気絶するわけにもいかない。
何とか気持ちを強く持ち直し、一番賑やかな方へと顔を向ける。
樹木の精霊に集られている、水彦の方だ。
「みじゅひこだ! みじゅひこ! ひさしぶり!」
「おっきくならないねぇー」
「相変わらず皆さんにご迷惑をかけているそうですね!」
樹木の精霊達は、実に楽しそうに水彦をもみくちゃにしている。
水彦の方はと言えば、いつも通りあまり変わらない表情のまま、されるがままになっていた。
じつは「見直された土地」のガーディアンだ。
アニスもキャリンも、という話は聞いていたのだが、こういった光景を見ると改めてそれを認識させられる。
あんな適当で傍若無人なのに。
漠然と、優しくて強い、と言ったようなイメージをガーディアンというものに抱いていた二人だったが、それが激しく損なわれた気持ちだ。
そんな水彦と樹木の精霊達を楽しげに見守っているのは、風彦と土彦。
彼女らもガーディアンであるという。
優し気に笑顔を湛えている姿を見る限り、彼女らの方が二人のガーディアン像には近いかもしれない。
そんな彼らの様子をため息交じりに眺めているのは、「罪を暴く天使」として有名な天使エルトヴァエル様だ。
あまり神様や天使に詳しくないアニスとキャリンですら、その肖像画は見たことがあった。
神によって粛清される対象を調べ上げるとされている天使は、様々な書籍等でも取り上げられるのだ。
絵本などにもなっており、「悪いことするとエルトヴァエル様に調べられるわよ!」などと怒られる地方もあるとかないとか。
その横でヘラっとした顔でボケーっとしているのは、件の「異世界から招かれた土地神」である、赤鞘様だという。
直接会うまで、一体どんな凄い神様なのだと思っていたアニスとキャリンだったが。
ぶっちゃけこの中では一番親しみやすそうなお方に見えていた。
小市民的な何かというか、すごく雲の上の存在みたいなオーラが無いというか、そんな雰囲気を感じ取ったのだ。
二人の感知能力はすばらしいものであると言わざるを得ないだろう。
ちなみに。
この光景に唖然としているのは、アニスとキャリンだけではない。
人の姿をとっている、エンシェント・ドラゴンも同じようにドン引きしていた。
なぜこんなことに。
二人の頭には、そんな言葉が渦巻いている。
よく、日ごろの行いがどうのこうの、というが。
この場合、よかったのか悪かったのか、微妙なところである。
「いやぁー。水彦のことと言い、今回のことと言い。お二人には本当にお世話になりましてぇー。まぁ、これからも色々お世話になるとは思うんですけれどね?」
「そんな、もったいない! 僕に出来ることでしたら、いくらでも!」
「わ、私も! その、出来る限り!」
苦笑しながら言う赤鞘の言葉に、アニスとキャリンは身体をビクリと跳ね上げた。
それから、慌てて首をぶんぶん振りまわす。
ここで「はい、大変な目に遭いました」といえるほどの度胸を、二人は持ち合わせていないのだ。
そんな二人の心情を、赤鞘もある程度くみ取っていた。
根が小市民な赤鞘である。
この状況が二人にとってかなりストレスフルであろうことは、察することができたのだ。
なるべく早く解放してあげようと、赤鞘は話を進めることにした。
「有難う御座います。なるべくご迷惑を掛けないようにしたいとは思うんですが、なにぶん色々やらなくてはならないことも多いものでしてねぇー。お礼と言っては何ですが、何かあればおっしゃってください。お力になれることもあると思いますのでねぇ」
「はっ、その、ありがとう、ございま、す?」
正直なところ、アニスとキャリンの耳には、言葉の半分も入っていなかった。
人というのはあまりにも緊張すると、混乱のあまり周りの状況が分からなくなるものなのだ。
「アニスさんのお料理、とってもおいしかったですよ。アンバレンスさんも喜んでましたしねぇー」
「えっと、その、アンバレンス様って、あの、最高神アンバレンス様ですか?」
「はい。好みの味だったようで、満足したみたいです」
何でもないことのように飛び出してきた名前に、アニスはもう少しで気絶するところだった。
赤鞘的にアンバレンスと言えば、知り合いの気のいい神様である。
だが、世間一般では最も尊い最高神様なのだ。
もちろん赤鞘もその辺のところは承知しているはずなのだが、慣れというのは恐ろしいものである。
「ああ、そうそう。キャリンさん。アインファーブルに戻ったら、ギルドの方へ行ってみてください。なんか、今後のお仕事についてお話があるとかいうことですので。でしたよね?」
言いながら、赤鞘は確認する様にエルトヴァエルへ視線を向ける。
エルトヴァエルは、その通りというようにうなずく。
直ぐに視線を外したため赤鞘には見えなかったが、キャリンは一瞬白目を剥いていた。
無理もないだろう。
きっとキャリンにとってうれしくない仕事を頼まれるであろうことは、考えなくても分かりそうなものである。
なぜこんなことに。
二人の頭の中で、そんな言葉が再びリフレインする。
この場に居ない門土が、羨ましく思えた。
門土は素振りをするとかで、「ドラゴンの巣」の外に行っている。
赤鞘達が訪ねてきたタイミングと、入れ違いになる形だ。
こんなことなら、自分もついて行けばよかったと思うキャリンだったが、それはそれでストレスで胃とかに穴が開きそうではある。
それに、アニスを一人で置いていくのはあまりにも酷だろう。
結果、いっしょに行かなくてよかったのだ、と、キャリンは自分で自分に納得をさせた。
赤鞘との対談は、この後もしばらく続いた。
あまりに衝撃が強く、アニス、キャリン共に内容をあまり良く覚えていなかったりするのだが、仕方のないことだろう。
しかし。
割と重要な話とかも振られていたりしたので、後々そのことを深く後悔することになるのではあるのだが。
それはもう少し先の話である。
今回は、なんか巻き込まれた可哀そうな人と、独身女性と、あとなんかヤヴァイ思想のガーディアンのお話でした
次回は兎のお侍と、アグニー達と、傭兵連中の話になる予定です
そして
何か息抜きの為に小説を書いてみました
「木の精霊に転生することになったんだけど想像してたのと違う」
というタイトルです
神越に出てくる変な生き物好きの人にはたまらないんじゃないかなっていう希望的観測のお話ですので、よろしければどーぞ
作者ページとかから行くと簡単に探せますよ!