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十二話 「あぐにーをたおせばいいんだな」

「まあ、兎に角そんなわけで。封印するときに大々的に宣伝しちゃったんですよ。だから結界を解くときも同じような事したほうがいいのかなーと」

「はぁ」

 ようやく復活したアンバレンスに、赤鞘はあいまいに頷いた。

 太陽神の復活というと大仰に聞こえるが、実際は過去のイタイ行動でダメージを負っていただけだ。

 とはいえ、心へのダメージはまさに神をも殺すレベルだった。

 そういう意味では流石最高神といえなくもない、かもしれない。

「でもそういうのってアンバレンスさんが決める物なんじゃありませんか? 封印したのも演説するのもアンバレンスさんですし」

 不思議そうに眉をしかめる赤鞘。

「いえね? 大々的に宣伝すると、何が起こるか読めないところあるじゃないですか。だから伝えるか伝えないか、管理する本神に決めてもらおうかなーって」

 元々見放された土地は、街ができるほど魅力的な土地だった。

 港を設置すれば中継点としても使えるし、陸上の拠点としても利用価値が高い。

 土地も非常に肥沃で、水もある。

 海の近くではあるが地形の関係で津波にも縁がなく、地震も殆どない場所だ。

 台風や雷なら多少はあるが、それでも地震と台風大国日本から見れば微々たるものだろう。

 そう。

 見放された土地は、魔力さえ戻れば恐ろしく有用な土地なのだ。

 そんな土地を放って置いてくれるほど、国というのは甘い物ではないだろう。

 あれやこれやと土地の取り合いが始まり、小競り合いが始まり、戦争に発展するのは目に見えている。

 人間というのは、欲しい物はどれだけ持っていても満足できない生き物だ。

 それは生物としては正しいといえるだろう。

 生存繁栄に必要な物であれば、なおのこと。

「はぁはぁ。なるほど」

 赤鞘はコクリと一つ頷くと、少し表情を険しくして上を向いた。

 膝には相変わらず水彦が座っているため、考え込むのに向く方向としては上しかなかったからだ。

「別に宣言しなくてもいいんじゃありませんか? こう、まだ荒地な訳ですし」

「なるほどなるほど?」

「なんていうか、ある程度森として体裁を整えてから宣言したほうがいい気がするんですよ。文化レベルにもよりますけど、荒地で暮らすのって大変じゃないですか」

「まあ、畑とか作ろうと思ったらそうなりますよねぇ。動物も飼えないですし」

「なので、ひとまず結界だけ外しておいてですね。誰か来たらまだ準備中ですよ、見たいな」

 土地の場合も準備中という言葉を使うかどうかは甚だ疑問だが、赤鞘の認識の中では実際そんな感じなので問題ないだろう。

 赤鞘の言葉に、アンバレンスは頷く。

「と、いうことはアレです? まだ知的生命体とかは受け入れない方向で?」

「いや。あー。まあ、どうなんですかね。準備中ですよって言っておいて、ソレでもいいならどうぞ的な感じでいいんじゃありませんかね?」

「あー。あー。でもソレだとすぐに色々来そうな気がするんですが」

 難しい顔をするアンバレンス。

 と、エルトヴァエルがおずおずといった様子で手を上げた。

「あ、どうぞ」

 赤鞘が促す。

「周りの大国の様子を見る限り、すぐに入ってくることはないと思います。むしろ、警戒して近づかなくなるかもしれません」

「へ?」

「なんでです?」

 不思議そうな顔をする二柱に、エルトヴァエルは今まで集めてきた情報からの推測ですが、と、前置きをして話し始めた。

「この土地が封印される原因となった魔法を使った国は、自分達の国に天罰が降りかからないかと警戒していて、この土地に近づくことすら禁止しています。

 ある宗教国家では、封印したときと同じようにアンバレンス様が立ち入りを許可しない限り近づくことを禁止しています。

 エルフが治める国では、罪人の森は神々の罰の象徴としていますから、やっぱり近づくことを禁止しています」

「はぁはぁ」

 分かったような分からないような微妙な表情で頷く赤鞘。

 実際、六割がた話の内容は理解していたが、四割は右から左状態だった。

 一回聞いただけですべて理解できるほど理解力があったら、天界での学習でも苦労しなかっただろう。

 あんまり分かっていなさそうな赤鞘を見かねて、アンバレンスは「要するに」と口を開いた。

「何も言わなければ、けん制しあったり勘ぐったり深読みしたりして近づかないんじゃないか。ってこと?」

「はい。あくまで推測ですが」

 そうは言ったものの、エルトヴァエルのソレは確信に近かった。

 ほかにも理由や情報を挙げて説明してもよかったが、赤鞘が理解できるとは思えなかったのでやめた。

 不敬とも取れるかもしれないが、この場合事実なので仕方ない。

「あー。じゃあ、別に伝えなくていいと思います」

 1~2秒考えるそぶりを見せてから、赤鞘は神妙な面持ちで言った。

 ちなみにこの1~2秒で赤鞘は、自分が考えてもよく分からないしエルトヴァエルに任せればいいかな、というようなことを考えていた。

 思考の放棄ともいえるが、元武芸者で弱小土地神の彼にそういった難しい判断を迫るのは酷ともいえる。

 そんな赤鞘の判断を、アンバレンスは眉をしかめて数秒精査した。

 見放された土地は、かなり広い土地だ。

 これだけの土地の開放を宣言せずに良い物かどうか。

「ま、いっか。どうにかなるでしょ」

 数秒考えた結果、アンバレンスは考えるのをやめた。

 元々考えるのは苦手だったし、最悪力技で解決すればいいやとも思っていた。

 大体、まじめそうで頭のよさそうなエルトヴァエルの考えたことなんだから、きっと当たっているに違いないと思っていたのだ。

「では、結界外しますよ宣言は当分しない方向で」

「ソレでお願いします。何か聞いた感じだと、誰もこの辺来ないでしょうし」

 アンバレンスがやらかした内容から察するに、人間達がくることはないだろう。

 そう、赤鞘は考えていた。

 実際アンバレンスもそう予測しているらしく、うんうんと頷いている。

「ええっと。国は来ませんが、そのほかは来ているようです」

「「んん?」」

 エルトヴァエルの言葉に、アンバレンスと赤鞘の視線が彼女に集まった。

「え。だってこの辺って国に所属してる連中は来ないし、罪人だって犯罪組織だってビビッて寄ってこないでしょ。ドラゴンだって避けるのに」

 海原と中原においても、ドラゴンは恐るべき種族としていられている。

 そのドラゴンすら近づきもしないところに、誰が来るというのだろう。

 首を傾げる二柱に、エルトヴァエルは目を凝らすようにある方向を見つめ、指差した。

「ええっとですね。この方向の結界沿いに、アグニー族が40ほど居るようです」

「アグニー族が?!」

 驚いたのはアンバレンスだ。

 丁度天界で赤鞘に電話を貰う直前、悪魔から報告を受けていた種族の名前が出てきたのだから、驚くのは当然だろう。

「なんでこんなところに? いや、そういえばあの集落この近くか?」

 顔をしかめて顎に手を当てるアンバレンス。

 その様子を見て、エルトヴァエルはすかさず応えた。

「はい。元々辺境と呼ばれる平原に住んでいましたから、ここから彼らの足で十数日の位置に村はありました」

「そうだったっけ。っていうかなんでエルちゃんそんなこと知ってるの」

 驚いたように問うアンバレンス。

 一瞬エルちゃんって誰だろうと思ったエルトヴァエルだったが、きっと自分のことだろうと推測した。

 砕けた口調が常のアンバレンスは、天使や神にフレンドリーなあだ名を付けることで知られている。

 実際は長ったらしい天使や神の名前を覚えるのが面倒臭いというだけなのだが、それはまさに神のみぞ知る事実だ。

「はい。このあたりのことは事前に調べてありますから」

 当たり前の様に応えるエルトヴァエルに、アンバレンスは「じゃあ」と質問してみた。

 一体どのぐらい情報を集めている気になったからだ。

「最初にアグニーを襲ったのとかどこかとか分かる?」

 アンバレンスとしては、襲った国の名前が出てくるぐらいだと思っていた。

 だが、天使仲間の間で情報収集マニアとして知られるエルトヴァエルは桁が違っていた。

「森林都市メテルマギトの鉄車輪騎士団です。元々は飛行艇を有する月光騎士団か、ドラゴンを有する赤竜騎士団が出る予定だったようですが、相手がアグニーであることから過剰戦力とみなされたようです。

 超低空と高高度から追い詰める作戦を立案したようでしたが、地上での戦闘経験の豊富な魔法剣士部隊である鉄車輪騎士団は確かに適任だったと思います。

 団長であるシェルブレン・グロッソ千人長は三十年前の戦の際にもかなり功績を収めた人物で、エルフ族の中では珍しく平地での用兵にも長ける人物です。

 地上走破能力に優れた獣に戦車両を引かせた戦車部隊を指揮しての今回の作戦は、大成功と言っていいでしょう。

 そもそも月光騎士団や赤竜騎士団は殲滅能力は高いと思われますが、捕縛任務である今回の件では……」

「ごめんなさいもういいです。本当にごめんなさい」

 事情を知っているのか確認しようと思ったら、自分よりも遥かに情報を持っていました。

 そんな感じだろうか。

 何よりも資料を見るわけでもなく正確な情報をすらすらと並べるエルトヴァエルの、ソレが当たり前だといっているかのような表情が怖かった。

 どうやら本当にこのあたり一帯のことを調べつくしていらしい。

「でもそうか。アグニー族がこんなところにねぇ。そんなに追い詰められてたんだなぁ」

「狼頭のグルゼデバルさんが監視に入った頃から、仕方なくといった様子で罪人の森に入っています」

「本当にいろいろ調べてるのね」

 引きつり笑いを浮かべるアンバレンス。

「あの」

 おずおずといった様子で手を上げたのは、赤鞘だった。

「はいはい?」

 振り向いたアンバレンスに、赤鞘は至極真剣な表情で言う。

「ていうか、あぐにーって誰ですか」

 一柱だけ、話についていけていない赤鞘だった。




 カラスのカージ、カーゴ、カーシチ。

 それに、トロルのハナコが加わったことで、アグニー達の集団は一気に賑やかになった。

 アグニーの若者マークが担当していた小屋の設置も、ハナコの手伝いによって一気に片が付いた。

 何しろ素手で木をへし折り、足で地面を踏み固められる働き手が出来たのだ。

 作業は急ピッチで進み、予定よりもずっと早く寝床の確保が終わった。

 木の枝を交差させて立て、その上に枯れ草を乗せただけの物ではあったが、地面を掘り下げ固めることによって外見からは想像出来ないほど快適な寝床になっている。


「ご苦労だったな、ハナコ」

 ハナコにねぎらいの声をかけながら、頭をなでてやるマーク。

 ハナコはうれしそうに鳴くと、体をかがめてマークに頭を擦り付けた。

 見た目は恐ろしいトロルだが、きちんと手さえかけてやればとても優秀なパートナーになるのだ。

「よし、それじゃあ、下に枯れ草とギンたちが取って来てくれた鹿の毛皮を敷こう」

「「「はーい」」」

 マークの指示に、子供たちが元気よく答える。

 みんな朝からずっと作業のし通しだったが、元気に振舞っていた。

 二度と会えないと思っていたカラスやトロルに会えた事がうれしかったのは、大人も子供も同じだった。

 アグニー族では、カラスやトロルに餌を運ぶのは子供の仕事だった。

 子供の頃から彼らとの絆を創るためなのだが、そのこともあってだろう。

 彼らの姿を見た子供たちは、一気に元気を取り戻していたのだ。

 自分達の仕事をせっせとこなす子供たちを眺めて、マークはうれしそうに笑った。


 カラス達とトロルが合流したことで、アグニーたちは難しい問題にもぶつかっていた。

 トロルはどう隠したところで、アグニーたちよりもずっと目立つ。

 見つかりにくい屋根を作って仮住まいにするという計画は、この時点で破綻してしまっていた。

 アグニーたちがどんなに目だないようにしても、トロルが居れば一発で丸分かりだ。

 だからと言って、彼らにはトロルを捨てるという考えはない。

 仲間は決して見捨てない。

 ソレはアグニー族にとっては当たり前のことだからだ。


 今後のことを話し合うため、緊急会議が招集された。

 集められたのは、マーク、ギン、スパン、長老といった、主要メンバーだ。

「目立たないようにとなると、ハナコは地面に寝かせるしかないかなぁ。野生のトロルに見えるように」

「でもハナコは見た目が上品だからなぁ。すぐに分かるだろう」

 ちなみに、アグニー族以外にトロルの上品さが分かる種族は存在しない。

 トロルたちでさえ分からないのだが、どういうわけかアグニー族には野生のトロルと飼育された物の違いが分かるようだった。

 彼ら曰く、違いは「ビジュアルの上品さ」らしい。

「だよなぁ。やっぱり、屋根のあるところで寝かせてやりたいし」

 みな思いは同じらしく、うんうんと頷いている。

「こうなったら腹をくくって、ここに簡易でも村を作るというのはどうだろう」

 スパンのこの提案には、一瞬みんなが顔をしかめた。

 なんといっても、ここは罪人の森なのだ。

 抵抗は大いにある。

「でも、暮らしやすくあるのは確かなんだよな」

 一人の言葉に、みんなが頷いた。

 確かに罪人の森であるという一点を除けば、敵も追ってこない、大型の肉食動物も居ないと、実に暮らしやすい場所なのだ。

 腕を組んで唸っていた長老は、おもむろに膝を叩いた。

 その音に、全員の視線が長老に集まる。

「スパンの言うことももっともじゃ。みんな疲れておる。何時までも放浪も出来ん。ここに、一時拠点を作るということでどうじゃろう」

「そうだな。カラスやトロルもいるんだ。労働力に不足はなくなったし」

「怪我人たちの回復もさせてやらなきゃならないからな」

 今のアグニー族の四分の一は、怪我人が占めていた。

 今まで休ませてやれなかったせいだろう、怪我の治りは芳しくない。

「やっぱり床のある小屋があったほうが、治りもいいだろう」

 実際、落ち着いて治療に当たらなければ、治るものも治らないだろう。

 長老は腕を組み暫く唸ると、顔を上げてみんなの顔を見回した。

「そうじゃな。では、明日からここを拠点にするために動くとしよう。まずは怪我人を治療するための小屋の設置じゃ」

「「「おお!」」」

 長老の言葉に、アグニー達は拳を振り上げて答えた。




 アンバレンスとエルトヴァエルは、赤鞘にアグニーについて説明した。

 種族の特性や、彼等の今置かれている状況についてだ。

 最初はぼへーっとした顔をしていた赤鞘だったが、彼等がおかれている状況のあたりに話が進むと、急に表情が変わった。

 いつもの人のよさそうな顔から、すっと目を細める。

 たったそれだけの変化でしかないのに、エルトヴァエルは一瞬言葉に詰まってしまった。

 殺気とでも言えばいいのだろうか。

 天使として一度も感じたことのない、首筋がちりちりするような感覚を覚えたエルトヴァエル。

 だが、その使命感からか、説明を中断することはなかった。

「成る程。虐げられた民、ですか」

 話を聞き終わった赤鞘は、膝に座った水彦の手をぎゅっと掴んだ。

 何事かと不思議そうな顔で水彦が赤鞘を見あげていたが、気にしている様子はない。

「その人たちの意思次第ですが、この土地に受け入れましょう」

 真剣な表情でそういう赤鞘に、アンバレンスは思わず口の端を吊り上げた。

 こうなるだろうとは思っていた。

 何せ赤の他人を助けるために命を張って、死んでしまうようなお人よしだ。

 事情を聞いてアグニーを放って置けるようなら、今ここで土地神なんてやっていないだろう。

 と、そこで赤鞘の表情が歪んだ。

「しまった。そうか。こんな荒地に招いても食べ物も何もないか」

 確かに、今の見放された土地には食べ物どころかぺんぺん草一本生えていない。

 受け入れることは出来るだろうが、養うことはできそうも無い。

 エルトヴァエルも、赤鞘の言葉に表情を曇らせる。

「ああ、それなら心配イランでしょう。元々罪人の森も影響下に入れてもらうつもりでしたし」

「本当ですか?」

 反射的に顔を上げた赤鞘の鋭い視線に、アンバレンスは思わず後ろに身をのけぞらせた。

 表情が怖かったからだ。

「ホントホント。健康な土地があれば、土地の調整もある程度楽になりますしね。どうせ見放された土地と罪人の森ってセットみたいな物ですし」

 見る見るうちに、赤鞘の表情がほころんだ。

 エルトヴァエルに向き直ると、身を乗り出す。

 膝の上に座っている水彦の首がゴキッとかやばそうな音を立てていたが、お構いナシだ。

「エルトヴァエルさん、すぐにアグニーさん達のところに行って下さい。この土地に定住する意思があるのであれば、お手伝いすると伝えてあげてください」

「あ。その前に結界取っ払っときます?」

 軽い感じで言ったアンバレンスの言葉に、赤鞘は一瞬考えて口を開く。

「いえ。急に結界がなくなって警戒すると可哀そうですし。アグニーさん達と接触して、伝えてからにしましょう」

「ソレもそうですね。じゃあ、その線でいきましょうか」

「分かりました。では、早速行って来ます」

 エルトヴァエルは立ち上がると、背中の翼を大きく広げた。

 そのまま地面を蹴り、アグニー達のほうへと飛び立つ。


 その瞬間だった。

 水彦はソレまで閉じていた目をパッチリと開けると、突然赤鞘の膝から飛び出した。

 足を赤鞘の近くで踏みしめ、両手をエルトヴァエルに向かって突き出す。

 そして、顔面を下に向けたまま、思い切り足と体を伸ばした。

 所謂、ヘッドスライディングというヤツだ。

 そのあまりのすばやく無駄のない動きに、赤鞘もアンバレンスもリアクションが出来なかった。

 ただ呆然と、水彦の動きを目で追っている。

 水彦は寸分違わぬ正確さで、中空にあったエルトヴァエルの足を掴む。

 突然重さが加わったことで、エルトヴァエルはバランスを崩した。

 離陸のときにバランスを崩すというのは致命的だ。

「ふぇ?!」

 エルトヴァエルは妙な声を出してわたわたと手と羽を動かすが、もう遅い。

 躓いたように顔面から地面へと墜落していった。

 が、幸いなことに、そこには水彦の体があった。

 水彦は体が水で出来ているため、ウォーターベットのような弾力があるのだ。

「ふうぉっぷっ!!」

 奇妙な声をあげ、水彦の上に倒れこむエルトヴァエル。

 丁度、水彦のおしり辺りに顔面がめり込んでいる。

 おしりは他の部位よりも大きい分衝撃吸収力に富むし、水彦は骨がないので最高のクッションになっていた。

 そのおかげでエルトヴァエルに怪我はない様だったが、心のほうが無傷とは行かなかったようだ。

 水彦のおしりに顔を突っ込んだまま、機能停止している。

 そんなエルトヴァエルのことを知ってか知らずか、水彦は地面にめり込んでいた顔を引っこ抜くと、ぐるりと赤鞘たちのほうに目を向けた。

「ええっと。あ、そういえば情報伝達終わってましたね」

 表情を引きつらせながら言う赤鞘。

「おお。おわった」

 水彦はコクリと頷いてみせる。

「おわったから、おれもあぐにーのところに、いこう」

 どうやらエルトヴァエルと一緒に行くために、止めようとしたらしい。

「貴方それ、引き止めるにしてももう少しやりようがあるんじゃ……」

「おれ、あかさやとちかくきょうゆうしてる。だからべんり」

 水彦のようなガーディアンとソレを創り上げた神は、一部の感覚を共有していることが多かった。

 ガーディアンを使いとして各地に飛ばし、目や耳とするためだ。

 水彦の場合は、創造主の意向からかかなりの感覚を共有することが出来るようになっている。

 彼自身ソレを知っていて、自分も行った方がいいだろうと提案したらしい。

「いや。うん。いいんですけど。もうちょっと方法があるんじゃ……」

 なんともいえない表情で水彦とエルトヴァエルとを見る赤鞘。

 重なり合って倒れる天使とガーディアン。

 その絵面は赤鞘に微妙な表情をさせるに十分な物だった。

「ていうか、貴方何しにいくかわかってます?」

 情報伝達が終わったのは、エルトヴァエルが飛び立とうとしたのとほぼ同時だった。

 それまで水彦は意識を朦朧とさせた状態で周りのことを見聞きしていたことになる。

「ああ。だいじょうぶだ」

 水彦は自信満々な様子で頷いた。

「あぐにーをたおせばいいんだな」

「……だめじゃん」

 思わず口にしたのは、アンバレンスだった。

 普段はボケ担当の太陽神に突っ込ませる。

 ある意味、水彦は素晴らしい力を持っているのかもしれなかった。

後に、アンバレンスは「水彦さんっぱねぇっす」と語る。




次回、水彦とエルトヴァエルがアグニーさんたちと接触します。

ていうかキモイ生き物早くみたいなというご意見を頂いたのですが、アグニーってキモくないっすか。

だってじゅっさいぐらいの子供が突然ゴブリンフェイスですよ。

描写あんまりしてませんけど。

まあ、傍からの見た目が重要になり次第その異様っぷりは前面に押し出す予定です。

そのうちエルトヴァエルにもスポット当てないといかんと思うんですが、いまんとこあんまし活躍してないのでカゲうすいです。

常識系キャラの宿命なんでしょうか。

そのうち特集を組みたいと思います。

主に酷い目にあう方向で。

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