百二十話 「べつに、なにもないところだぞ」
それは、アニスが「見直された土地」に行くことを承諾した、あくる朝のことである。
木漏れ日亭の一階、食堂になっている場所に、一台の車が突っ込んだ。
正確にいうとすれば、ギルドの関連企業が作った結晶魔法式自動車である。
アインファーブルではよく見かけられるタイプで、主に商業利用をされていた。
業者御用達の、ロングセラー車だ。
なかなか大型の車種であるこの車は、さながら破城槌の如くであった。
壁を突き破り、室内を薙ぎ払い、一番奥の厨房へと迫ったのである。
あわや大惨事、と思いきや。
非常に幸いなことに、死傷者は一人も出なかった。
ちょうど昼過ぎの時間帯で、店内は空っぽ。
車の運転手の方も、安全装置のおかげで軽い怪我で済んでいた。
かなりの事故であったのに人に被害がなかったのは、まさに不幸中の幸いと言っていいだろう。
だが、物的被害の方は、かなりのものになってしまった。
店の中はぐちゃぐちゃで、食堂としても、宿屋としても、使うことはできないだろう有様だったのだ。
結局一日二日で修繕することは不可能、ということで、「木漏れ日亭」はしばらくの間休業することとなった。
ただ。
実はこれは、ある意味で都合がいい出来事であった。
アニスはこの数日後、「見直された土地」へ行く予定になっている。
その時、「木漏れ日亭」を休まなければならないわけだが、これが難しかった。
働き者であるアニスは、これまでほとんど「木漏れ日亭」を休んだことがない。
月に数度の休みはあるが、それにしても料理の仕込みや、宿の修繕などに充てている。
定休以外で休みを取るとなると、周囲の人々に必ずその理由を尋ねられることになるだろう。
「ちょっと神様に呼ばれて、封印されていた土地に行ってきます!」
などと答えられれば良いのだが、さすがにそういうわけにもいかない。
「見直された土地」のことは秘密だし、アニスが今回呼ばれた理由についても、当然秘密だからだ。
だから、今回のこの出来事は、休みのいい理由になったのである。
宿を修繕している間、ちょっと旅行に出かける。
お供は、宿で宿泊している冒険者。
水彦、門土、それに、キャリンを加えた三人だ。
女の一人旅で、冒険者を護衛に雇うというのは珍しくない。
ましてその中の一人が幼馴染であれば、なおさらである。
災い転じて福となす、と言えば言い過ぎかもしれないが、うまい具合に事が運びそうなのは違いない。
突然の不幸ではあったが、機転を回せばどうにか切り抜けられるものだ。
アニスはそう考え、ほっと胸をなでおろしたのである。
というような話をアニスから聞いたキャリンは、絶望に染まった表情で頭を抱えていた。
水彦と門土が宿泊していることから、キャリンはほぼ毎日のように「木漏れ日亭」に連れてこられている。
当然、ここであった件の事故のことも心得ていた。
車が突っ込んできたと聞いてすぐに駆け付けたし、幼馴染として、相手との交渉なども少し手伝ったりもしている。
そのため、事情を詳しく知っていたわけだが。
キャリンは今回の事件を、アニスとは少し違う見方をしていた。
「これ、どう考えてもどっかの誰かの仕込みだよ……たぶん今回の件に絡んでる誰かが、手を回したんだ……」
「見直された土地」に行くことを了承したキャリン達は、土地のこと、自分たちが呼ばれた理由についての説明を受けていた。
内容は、以下のようなものだ。
結界が張られ封印されていた「見放された土地」が解放され、「見直された土地」と名を変えることとなった。
「見直された土地」には、土地を管理する神様、「土地神」が管理することになった。
その「土地神」は、異世界から類稀な管理能力を買われ、招かれた神様である。
赤鞘という名のこの神様は、土地の住民としてアグニー族を受け入れた。
今後彼らは、神によってそこに住むことを許された民となる。
ただ、このことは秘匿されることとなった。
あまりに大事で、世界に与える影響が大きすぎるからだ。
とはいえ、秘匿するにもそれなりの手段が必要である。
ただ何もしないだけでは、秘密というのはどうしてか漏れてしまうものだからだ。
さらに厄介なのは、その秘密にしなければならない土地に、既に住民がいることであった。
アグニー達が生活をしていく以上、外との接触は避けて通れない。
ほかにも、面倒ごとはいくらでもあるだろう。
そういったあれこれを解決するべく、三つの国と組織に白羽の矢が立った。
ホウーリカ、スケイスラー、ギルドである。
これらは今後、協力して、「見直された土地」の隠蔽、運営への協力などを行っていくのだとか。
その前に。
土地神である赤鞘様は、なんとこの三つの国と組織の代表者と、直接お会いになるのだという。
しかも、ご自身が治める「見直された土地」に、彼らを招いて。
彼らは数日、「見直された土地」に滞在するらしい。
彼らが「見直された土地」に呼ばれたのは、まさにこれに関することであった。
アニスには、代表者達が滞在する間に振る舞う、食事を作って欲しいのだという。
料理人としての腕前を見込んでのことらしい。
キャリンと門土、水彦は、その護衛を依頼された。
代表者達が滞在する間の、警備員のような役割も兼ねるのだそうだ。
それから、忘れてはいけないのが、水彦について。
彼は土地神の赤鞘様が手ずから生み出した、ガーディアンなのだという。
ガーディアンはほかにも二柱が居り、そのうちの一方は、先日水彦に会いに来た風彦である。
大事すぎる。
いくらなんでも、自分の手に余りすぎてどうしようもないレベルだ。
キャリンはこの話を聞いたとき、あまりの事に吐き気を覚えた。
というか、実際に2、3回吐いている。
何とかして全力でお断りしたかったが、相手は神とそれに連なる方々だ。
断る、という選択肢は存在しない。
死にそうな思いで、仕事を受けることにしたのである。
アニスとキャリンの肩に、とてつもない重圧がのしかかった瞬間であった。
そんな現状から考えて、こんな都合のいい「事故」が起こるとは考えにくい。
むしろ、誰かの差し金だと考えるのが自然だろう。
どこかの誰かが、アニスが「見直された土地」にいく手助けをするために、この「事故」を起こした。
そう考えてしかるべきだ。
気になるのは、いったい誰が、いや、この場合「どこが」そんなことをしたのかである。
「そんな危険なことを」とか、「怪我をしたらどうする」などということを言うつもりは、キャリンにはない。
どこがやったにしても、「絶対に成功する」からやったのだろうと考えているからだ。
何しろ、アニスは「神様とそれに連なる方々」に呼ばれて「見直された土地」に行くのである。
もし怪我の一つもさせれば、どんなことになるかわからない。
入念に準備をして、「絶対に怪我などすることはない」と確信して、今回の「事故」を起こしたはずなのだ。
問題なのは、そう確信できるだけの準備をし、この短時間で実行できる技術を持っているのがどこなのか、である。
内心の動揺を何とか隠し、「大変だったね」などの当たり障りのない内容でアニスとの会話を切り抜けたキャリンは、駆け足で自宅へと戻った。
そこにいる、水彦と話をしようと思ったからだ。
「木漏れ日亭」が壊れて以降、水彦と門土は、キャリンの部屋に転がり込んでいたのである。
キャリンは集合住宅の一室を借りて暮らしているのだが、冒険者としての仕事道具などを保管するため、倉庫代わりの部屋も一つ持っていたのだ。
その部屋があったおかげで、水彦と門土は寝る場所に困ることはなかったのだが。
部屋があったせいで二人が転がり込んできた、ともいえるので、キャリンにとっては何とも言えないところである。
「あの、水彦さん。ちょっといいですか?」
ドアを開けたキャリンは、そういいながら部屋の中へと入っていった。
ただいまの挨拶すら煩わしい、とでもいうような勢いだ。
リビングに続くドアを開け、中を覗き込む。
そこには、お菓子を口一杯に頬張りながらテレビを見ている水彦と、生野菜をかじっている門土がいた。
先に反応したのは、門土だ。
「おお、キャリン殿! 逢引にしてはお早いお帰りでござるな!」
「なんだ。でーとだったのか」
「違いますよ!! 大体、僕とアニスはそういう関係じゃ……って、そんな話は今はいいんです!」
若干赤くなった顔を振って気を取り直すと、キャリンは改めて水彦に顔を向ける。
「それよりも、木漏れ日亭のことなんですけど。あれってあの、あっち関連の方々がかかわってるんですよね?」
直接言うのはためらわれたのか、キャリンは何とも迂遠な言い方をする。
それでも、言いたいことは伝わったのか、水彦は少し首を傾げた後、こくりとうなずいた。
「ああ。しえんのいっかんだな」
アニスが「木漏れ日亭」を休む理由を探していることは、素早く「見直された土地」にいるエルトヴァエルに伝わっていた。
風彦による「そんなことがあったみたいなんですよー」程度の軽い報告を、しかし。
エルトヴァエルは思いのほか重く受け取った。
日本神である赤鞘にとって、客というのは手厚くもてなすもの。
食事というのはその中核を担うものであり、赤鞘はこれを非常に重要視していた。
客が来るのに、料理人がこちらに来れないとなったら、いったい赤鞘はどんなことをするだろう。
絶対にろくなことにならない。
アニスには、なんとしてもスムーズに「見直された土地に」来てもらわなければならない。
エルトヴァエルは、そう考えたのだ。
実際、赤鞘がこのことを聞いたら、ひと騒ぎ起きていただろう。
土彦やら風彦、湖の精霊達が巻き込まれ、面倒なことになること請け合いである。
ゆえに、エルトヴァエルは先手を打つことにした。
ホウーリカ王国の第四王女“トリエア・ホウーリカ”に、事態の解決を依頼したのだ。
本来であれば、エルトヴァエル自身が動きたいところではある。
だが、今のエルトヴァエルには、「赤鞘を見守る」というすこぶる重要な仕事があった。
放っておくとろくなことをしない赤鞘を上手く諫められるのは、現在のところエルトヴァエルしかいないのだ。
となれば、ほかの誰かに仕事を任せるしかない。
風彦でもよかったのだが、彼女は彼女で多忙である。
そこで、エルトヴァエルはホウーリカに任せることにしたのだ。
実はこれは、三つの勢力のパワーバランスを保つのにも都合がいいことであった。
現在、ギルドは土地や施設、物資面で。
スケイスラーは情報、輸送面で、「見直された土地」に貢献している。
それらに比べ、ホウーリカはそういった「貢献」を、現在のところ一切行っていなかったのだ。
国内の取りまとめに時間がかかり、出遅れた形となっている。
この状況は、エルトヴァエルにとってはあまり都合がよろしい状態、とは言えなかった。
もし今のままで三勢力が交渉に入った場合、「貢献」度の低いホウーリカは、発言力が低くなってしまう。
今後の方針や役割分担を決める交渉に入った場合、ホウーリカが一方的に不利になってしまうのだ。
これは、いかにもよろしくない。
競争相手は、多ければ多いほど切磋琢磨され、よりよいものが生まれる。
それが、エルトヴァエルの考えであった。
だからこそ、「赤鞘に呼ばれた客である、アニスの支援」という仕事は、ホウーリカにやらせるのに実に都合がよいものだったのである。
もちろん、ホウーリカは、というよりもトリエアはこれを大いに喜んだ。
ほかの二勢力と対等な交渉に入るためにはどうしたものか、と悩んでいたところだったから、なおさらである。
早速、工作員を送り込み情報を収集、作戦を実行に移した。
結果は、知っての通りというわけだ。
「支援? まあ、確かに支援と言えば支援ですけど」
「ていうか、おまえ、それきいてどうするんだ」
「どうするって。いえ、どうするわけじゃありませんけど。気になるっていうか……」
たじろぐように言い淀むキャリンを見て、水彦は首をかしげる。
その横で、門土が驚いたように目を見広げた。
「意外でござるな! キャリン殿であれば、知らぬ方が安全だというものと思ったのでござるが!」
「それは、そうなんですけど。いや、でも、そっか。知らない方がいいことですよね。うーん」
キャリンは頭をかくと、難しい顔で黙りこくった。
そんな様子を見て、水彦と門土は顔を見合わせる。
「惚れた弱みでござろうな」
「いろこいは、いつものはんだんを、にぶらせるっていうからな」
要するにキャリンは、アニスが巻き込まれたことで動揺しているのだろう。
普段のキャリンは、とにかく事なかれ主義で、比較的冷静なタイプだ。
そんな彼が大きく動揺したり、普段の行動を乱すのは、アニスがかかわったときであった。
はたから見れば理由は明らかなのだが、当人はそれを頑として認めない。
めんどくさいことこの上ないが、キャリンもお年頃である。
仕方ない部分もあるだろう。
「しかし、いよいよ明日でござるか! 見直された土地をこの目で見るのが楽しみでござる!」
門土の言う通り、彼らが見直された土地行きは、いよいよ明日にまで迫っていた。
今回行く面子は、アニス、水彦、門土、キャリンである。
楽しみそうな門土に、水彦は首を傾げた。
「べつに、なにもないところだぞ」
水彦が見放された土地を出発したころ。
そこには本当に何もなかった。
今でこそ、精霊の湖と浮遊島、ドラゴンの巣などがあるものの、それらが出来上がったのは水彦が見直された土地を出た後のことだ。
いろいろ出来上がっていると聞いてはいたが、正直なところ水彦には実感がない。
水彦の中の見直された土地は、いまだに荒野と八本の小さな木が生えているだけの場所なのである。
「そうはいっても、神域でござるからなぁ! 楽しみにもなろうというものでござる!」
「しみったれた、あかいだけのさやがころがってるだけだけどな」
「はっはっは!! 土地神様にそんなことが言えるのは、水彦殿ぐらいでござろうなぁ!!」
基本的に水彦は、赤鞘を立てるようなことは一切口にしたことがなかった。
どちらかと言えば、ディスり倒しているといっていい。
それには、水彦が赤鞘に非常に近しいガーディアンであることが関係していた。
赤鞘が血を分け与えて作り出した水彦は、赤鞘に非常に近しい存在。
言ってみれば、分け身の一つと言っていい。
親兄弟より近い存在、なのだ。
それだけに、水彦が赤鞘を見る感覚は、赤鞘が自分を見る感覚に近い。
水彦の赤鞘への悪態や評価は、基本的に赤鞘自身が自分に向けているそれなのである。
「そういえば、見直された土地に行った後は、水彦殿はどちらにいらっしゃるのでござるか?」
「べつに、おまえたちといっしょにいるぞ。しごとだしな」
「赤鞘様のところへ戻られるのではござらぬのか?」
意外そうな顔をする門土に、水彦はこくりとうなずいて見せた。
アニスやキャリン、門土が見直された土地を訪れるのは、仕事のためということになっている。
なので、報酬もきちんと払われることになっていた。
この報酬はギルドが出資することになっており、当然、水彦にも支払われる。
金をもらう以上、仕事はしなければならない。
職場を離れて、実家に帰るわけにはいかないのだ。
ちなみに。
見てわかる通り、キャリンや門土の、水彦へ対する態度は、今までと変わらないものであった。
土地神が作ったガーディアンであると知った後でも、である。
理由は、いくつかある。
大きかったのは、事情を知られても1ミリもぶれないいつも通りの行動と、「べつに、いままでどおりでいい」という水彦自身の言葉だろう。
緊張したり、態度を変えようにも、あまりにもそれまで通りの水彦に、二人とも気を抜かれてしまったのだ。
本来そんなことは許されないのだろう、そんなことを言い出したら、そもそも「ガーディアンが冒険者をやっている」というのも、異例中の異例である。
今更この程度の異例ならば、水彦や赤鞘的には許容範囲であった。
まあ、アンバレンス以外の神が知った場合、どんな反応を示すかは、また別の話だが。
「そんなことより、にもつはまとめたのか」
「某は身一つでござるからな。キャリン殿はいろいろ準備しているようでござるが」
キャリンは既に、見直された土地へ行く準備を整え終えていた。
武器に矢玉、サバイバル装備やテント寝袋など、ジャングルでもしばらく暮らせるだろう重装備だ。
どんな時でも準備を万端にしておくのは、キャリンの信条のようなものである。
例外だらけの今回のような場合では、どれだけ、どんなものを用意したところで、安心することはないだろう。
慎重に準備を進め、段階を踏んで物事を行いたいキャリンのようなタイプにとって。
例外の塊のような今回の仕事は、悪夢に違いない。
もっとも、おおよその人間にとっては、腰を抜かすような状況ではあるわけだが。
「どーでもいいが。きゃりんのやつ、まだなやんでるのか」
「悩み多き年頃なのでござろうなぁ!」
年頃かどうかはともかく、悩みが多いのは確かだろう。
悩みに悩んだ挙句、キャリンが「やっぱり事情は聞かない方がいい」と判断したのは、しばらく後のことであった。
アインファーブルにある秘密の階段を下り、地下空間へ。
そこにあるのは、長いトンネルと、自走式の客車である。
木材と石材によって作られたと思しきそれは、ちょうど汽車の客車のような形状をしていた。
美しい彫刻に、ガラス細工。
ため息が漏れそうなほどに美しい外装が施されたその客車は、内部もやはり素晴らしいものであった。
座り心地のよさそうな座席に、煌びやかな照明。
知識がなかったとしても、一目で一級品とわかるものばかりだ。
それもそのはずである。
これらはすべて、土彦と樹木の精霊達、湖の精霊達が作り上げたものなのだから。
地上のあらゆる知識に加え、エルトヴァエルやアンバレンスから天上の知識まで仕入れた連中が作り出したものである。
並大抵のものであるはずがない。
客車に乗り込み、揺られることしばし。
見直された土地の地下に作られた、終着駅へとたどり着く。
高い天井の広い空間は、暖かな暖色の光と、美しい彫刻や壁画によって彩られている。
描かれるのは、風や木々に戯れる精霊達の姿だ。
実物をモデルに描いているのである。
その臨場感や躍動感は、並ぶものを探すのに苦労することだろう。
「全然なんにもなくないじゃないですか……!」
キャリンがようやく絞り出したのは、震えて掠れた苦情の言葉であった。
隣にいるアニスは、あんぐりと口を開けたまま呆けた顔をしている。
間が抜けている様子だが、いたってまっとうなリアクションと言っていいだろう。
客車やこの駅の作りは、それほど気合が異様なほど入りすぎているのだ。
こんなことになったのには、理由があった。
もちろんというかなんというか、大方が土彦のせいである。
客車やこの地下施設は、元々は物資運搬用の設備であった。
三勢力の代表者達を招くにあたり、これを足として使おうという話になったのだ。
だが、元の状態は土がむき出しの状態であり、まるでトンネル工事の現場のような状態であった。
あまりにも見た目が悪く、客をもてなすことができる状態とはいいがたい。
では、多少なりとも見栄えをよくしよう、ということになったわけだが。
ここで、作業を進める土彦達にとって、予想外の事態が起きた。
水彦がこの場所を使うことになったのである。
形としては、アニスのお付き。
三勢力の代表者が使う前の試運転、になるわけのだが、土彦にとってはむしろ水彦こそがメインであった。
土彦は、水彦を心の底から慕っている。
一緒に過ごした時間は短いが、何しろ同じ神に創り出された存在だ。
特に土彦は、水彦より後に作られており、考え方や行動原理は、ほとんど把握しているといってもいい。
そのうえで土彦は、水彦を慕い、尊敬しているのである。
いささか変わった趣味ではあるが、好みは個々それぞれに違うものだから、仕方ない。
そんな対象である水彦を迎える場所なのだから、素晴らしいものにしなければ。
客車と駅を作るのに多少力が入るのも、無理からぬことだろう。
水彦がこの場所を使う、というのは、土彦以外の者達にとっても特別な意味を持っていた。
樹木の精霊達にとっては、久しぶりの仲間の帰還だ。
幼少期を共に過ごした水彦は、彼らにとって幼馴染のようなものである。
外で頑張っている水彦に、自分たちも立派になったのだというところを見せたい。
そして、盛大に出迎えたい。
水彦を迎える玄関口を作る仕事を目いっぱい頑張るには、十分な理由だろう。
湖の精霊達にとっても、水彦の存在は特別だ。
赤鞘に造られた最初のガーディアンであり、自分達が上位精霊になるより前に外へ働きに出た存在。
当然、初顔合わせになるものがほとんどだ。
彼らにとっては、土彦やエルトヴァエルと同じく、上位にあたる相手でもある。
緊張するな、という方が無理であり、それを迎え入れる玄関口を作る手にも、力が入ろうというものだ。
つまるところ、この客車と駅は。
神が造ったガーディアンと、神に手ずから育てられた樹木の精霊達。
そこに、上位精霊達までが一緒になって、大切な相手を迎え入れるために作られた場所、なのである。
なんとなく荘厳な雰囲気が漂っているのも、当然と言えば当然の話なのだ。
「いやいや、これは。凄まじいものでござるな」
驚いたようにつぶやいたのは、門土だ。
普段は豪快な彼も、さすがに驚きを隠せないようである。
そんな門土の隣にいる水彦は、わずかに眉間にしわを寄せて固まっていた。
「やりすぎじゃないか、これは」
俺の知らない間に、見直された土地に何が。
水彦の心情は、そんなところだろうか。
アンバフォンでちょくちょく状況などは見聞きしていたが、流石にこの状況は予想外だった。
水彦を驚かせるため、土彦達が故意にこの状況を隠していた、というのもあるのだが。
「兄者ー! お帰りなさいまし! お待ちしておりましたよ!」
駅に響く声に、アニス、水彦、門土、キャリンは、一斉にそちらへ振り向いた。
ソコにいたのは、水彦と同じ趣意の服装をした少女。
土彦である。
満面の笑顔で手を振りながら走ってくる姿は、どこか可愛らしい。
だが。
水彦はその様子に、とてつもない不安感を覚えた。
「いやなよかんがするな」
そんなつぶやきが的中するのは、この数秒後のことである。
相変わらず長くなるなぁ、書き始めると
予定は未定だよ(←
今回は予定が空いているので、すぐに続きを書き始める予定
応援メッセージでアマラさんにはっぱをかけよう!!
次回は、宿泊施設と調理場紹介
で、あの三団体の人達が到着、まで書ければいいなぁ