百十九話 「今日からこの村は、コッコ村じゃー!」
見直された土地の周囲を囲む、罪人の森と呼ばれる一帯。
その一画にあるアグニー達の村は、珍しく沈黙に包まれていた。
夕食を終えたこの時間は、常ならば賑やかな時間だ。
その日一日にあった事を報告しあったり、相談事をしたり。
笑い声や、ちょっとしたいざこざ。
普段ならばそんな賑やかさがあるはずにも拘らず、今はそれが微塵も見えなかった。
アグニー達は皆一様に難しい顔をし、腕を組んで唸っている。
まあ、難しい顔とはいえ、そこはアグニーだ。
その表情から伝わってくるのは真剣さや生真面目さより、可愛らしさやほっぺたの柔らかさなどなのだが。
当人達はどこまでもひたむきに悩んでいるのである。
うんうんと唸っているアグニー達の中で、村長は一人空を見上げた。
星が輝いているのをじっと見据えながら、重苦しい表情で呟く。
「そうか。すっかりわすれとったのぉ。村の名前決めるの」
「なんかわすれてるとは、おもってたんだけどなぁー」
「何を忘れてるのか忘れてたもんなー」
「けっかいー」
少し前の事だ。
アグニー達は風彦から、村の名前を決めるようにと言われていた。
だが、やはりと言うか案の定と言うか。
アグニー達はそのことを、すっかり忘れていたのである。
もちろん、話し合おうとはしていた。
したのではあるが、何しろ彼らはアグニーだ。
難しい話をしていると寝てしまうし、話し合いが白熱してくるとお互いの剣幕に驚いて逃げ出してしまう。
そんな事をしているうちに、いつの間にか「村の名前を決める」と言う目的自体を忘れ去ってしまっていたのだ。
とはいえ、それで問題があったかといえば。
特にそんなことは無かった、というのが、正直なところだった。
なにしろ、外との交流が無い場所だ。
村の名前なんて、有っても無くてもどっちでもよかったのである。
しかし、最近になって少しだけ状況が変っていた。
沢山のお客さんが、見直された土地に来ることになったのだ。
そのときに村の名前も無いというのでは、なんとも間が抜けた感じになってしまう。
折角なら、バシッと名前を言えるほうが、カッコイイ。
そう、カッコイイのだ。
フィーリングと感覚で生きているアグニー達にとっては、非常に重要な事である。
「でもなぁ。村の名前っていっても、いいのおもいつかないんだよなぁ」
難しそうな顔で唸るマークの言葉に、アグニー達は一斉に頷いた。
どうやらどんな話し合い以前に、名前の候補すら出ていないようだ。
「こういうののネーミングってむずかしいよね」
「ずっと残るものだしのぉ」
「自分だけのものなら適当に名前付けるけど、なやんじゃうよな」
「「「だよなぁー」」」
中年アグニーであるスパンの言葉に、アグニー達は溜息混じりに頷いた。
アグニー族は、とても仲間思いな種族である。
自分のことならテキトウに決めてしまってよい、という比較的刹那的な思考の種族なのだが、仲間が絡むと話は違う。
一生懸命に考え、最善の答えを見つけようとガンバルことができるのだ。
もっとも、ガンバルと言ってもそれはアグニー基準での話である。
世間一般で言うところの「ガンバル」とは多少ずれがあるのは、ご愛嬌と言うものだろう。
アグニー達はそれぞれに悩みのポーズをとると、思い思いの唸り声を上げ始める。
皆、真剣に村の名前を考えているのだろう。
だが、残念なことにそれを思いつきそうな気配があるアグニーは一人もいない。
こうなってくると、考え疲れて眠ってしまうのも、時間の問題だ。
アグニー達の会議の様子少し離れた場所で見ていたディロードは、いかにも面倒くさいといったように表情をゆがめた。
「これって一生決まんないヤツなんじゃないの」
「たしかに、そんな印象は受けますが」
ディロードの声に反応したのは、その横に浮かんでいたマルチナだ。
アグニー達の会議の様子を記録しているらしく、筆記用具のようなものを持っている。
もっとも、人工精霊であるマルチナには筆記用具など必要なく、音声や映像をそのまま記録することができた。
わざわざ道具を手にしているのは、雰囲気を出す為である。
「ていうか、良くこれで今まで滅ばなかったよね。アグニー族って。だれか理由とか研究してたりしないのかなぁ」
「優れた危機回避能力を活かして今まで暮らしてきたようです。研究は、されて来なかったようですね。というより、出来なかったというほうが正しいようです」
一瞬不思議そうな顔をするディロードだったが、すぐに察しが付いたのだろう。
考え込んでいるアグニー達に視線を向け、納得したように頷く。
「研究者が近づいただけで逃げるのか。すごいなぁ」
「観察も出来ないのでは話にならないでしょうからね」
少数ではあるが、アグニーの事を調べようとした研究者はいたのだ。
だが、その殆どが近づくことすら出来なかったという。
理由は良くわかっていないのだが、恐らくは彼らの持っていた注射器が原因だろうといわれている。
血液サンプルなどをとるために使う注射器が、アグニー達に根源的な恐怖心を抱かせたのだろうというのだ。
実際、これまでの歴史上、注射器を前に逃げ出そうとしなかったアグニーは存在しないとされている、らしい。
「いや、そんなことはどうでもいいんだけどさ。どうするの、コレ」
「どうするもこうするもありません。村の名前を決めて頂かなければ」
「ムリでしょうよ、どう見ても。もうすぐみんな寝ちゃうよ? ねぇ、風彦様」
「へ? あ、はいっ!」
ディロードに声をかけられた風彦は、慌てた様子で振り返った。
幸せそうな顔でアグニー達を眺めていたわりには、速いリアクションだったといってよいだろう。
水彦や土彦と違い、風彦は自制が効くタイプなのだ。
たとえ、「ああ、真剣な悩み顔をしながらも、こっくりこっくりしちゃってるアグニーさん達かわいいなぁ。だっこしてなでなでしたいなぁ」などと考えていても、すぐに切り替えができるのである。
風彦は顎に指を当てると、首を捻った。
「その辺は指示を受けていませんので、ガーディアンである私があまり口出しをしてもアレですかね。ここはその、ディロードさんが何か助け舟を出していただけると助かるんですが」
申し訳なさそうな顔で、風彦は困ったような愛想笑いを浮かべる。
今更な話ではあるが、元来ガーディアンと言うのはあまり住民の生活に口出しをしないものなのだ。
神様や天使の依頼であれば、もちろんその限りではない。
だが、それ以外の所では、見守ることが良しとされているのである。
水彦やら土彦なら気にしなさそうなことではあるが、風彦はそういうところにきちんと気を使うタイプなのである。
そんな風彦に、ディロードはすこぶる嫌そうな顔を作って見せた。
「ええぇー。僕がですかぁ?」
「何を言ってるんですか。風彦様からのご用命です。すぐさま実行して下さい」
乗り気でなさそうなディロードに対して、マルチナはぐっと顔を近づける。
「実行して下さい」といってはいるが、「やれ」と言うようなニュアンスを如実に含んだ口調だ。
ガーディアン様の言うことに逆らうなんてとんでもない。
ディロードには、マルチナの目が明確にそういっているように見えた。
目は口ほどにものを言うって本当なんだな、などと言うことを思いつつ。
ディロードは諦めた様子でため息を吐いた。
とりあえずアグニー達の注目を集めようと、ディロードは両手を打ち合わせる。
突然響いた音に驚いたのだろう。
アグニー達はパッチリと目を開くと、一斉にディロードの方へと顔を向けた。
あまりに息のあったその動きに、ディロードはびくりと体を跳ねさせ、感心したような声を上げる。
やっぱり警戒心の強い種族なんだなぁ、などと内心で思いつつ、ディロードはなんとか話し合いを前進させようと、村の名前についてのアイディアを口にした。
「ええっと、村の名前なんですけどね? なんか、身近なものの名前をつけるってどうでしょう。例えば、ほら。名産品とか?」
ディロードの提案に、アグニー達は大きくどよめいた。
手を叩いたり、納得した様子で頷いているものもいる。
「そっかー。その手があるのかぁー」
「けっかいー」
「言われて見れば、そういう町や村もあると聞いた事があるのぉ」
「りんご村とかあったなぁ。そういえば」
賑やかに話すアグニー達を見て、風彦とマルチナはほっとした様子で胸を撫で下ろす。
ディロードも似たような表情だが、こちらはさっさと仕事が終わってよかった、と言った所だろうか。
「しかしのぉ。この村に名産品なんてあるかのぉ?」
考え込むように首をかしげてそういったのは、長老だ。
他のアグニー達も同じ考えに行き着いたらしく、首を捻っていた。
何しろ、出来たばかりの村である。
日々食べるものを作ることを優先していることもあり、特別に力を入れて作っているものや、名物といえるようなものが無いのだ。
「いっちばんたくさんつくってるのって、ポンクテかなー」
「そうだねぇ。でも、ポンクテ村。っていうのはねぇー」
「ちょっとなぁー」
「ないよねぇー」
どうやらポンクテ村と言うネーミングは、アグニー的にはありえないものらしい。
アグニー達は皆、否定的な意見を口にしている。
それを見て、ディロードは意外そうに眉を潜めた。
「そんなにダメなんです? ポンクテ村。かわいらしくて僕ぁーすきだけどなぁ」
「えー!?」
「うっそだぁー!」
「それはないよぉー!」
驚いたように、アグニー達は一斉に声を上げる。
なにがそんなにダメなのだろう。
ディロードはますます首を捻った。
「だってさぁー。ポンクテって、なんかほら」
「そうだよねぇー」
「なんていうか、あれだよ」
「あれ? っていうと?」
聞かれたアグニーは、考え込むように腕組みをする。
「うーん、なんていうのがわかりやすいかなぁー。そうだ! あれだよ! なんかこう、イモいの!」
いい言葉を見つけた、と言うように、そのアグニーは「ポン!」と手を叩いた。
飛び出してきた予想外の単語に、ディロードは目を丸くする。
風彦はといえば、驚きのあまりむせ返っていた。
イモい。
田舎っぽい、野暮ったい、センスが無い、などといった意味合いの言葉である。
アグニー達の口から出るとは、考えにくい類の言葉と言っていいだろう。
それだけに、風彦は思いもしないダメージを受けたのだ。
どうやらマルチナも同じ感想らしく、面食らった顔をしている。
そんな風彦達の気持ちを知ってか知らずか、他のアグニー達は「それだ!」と言うように手を叩く。
「そうそう! なんかイモいよね!」
「ポンクテ自体は美味いんじゃがのぉ」
「結界ー」
「ものの名前にするセンスはどうなの? ってかんじだなぁー」
「なんだろう。アグニーさん達の口からセンスどうこうっていう単語が出てくるのがすごく違和感があります」
苦しそうな表情で、風彦は搾り出すように口にする。
ディロードとマルチナも同意見なのだろう、大きく頷いている。
「違和感と言うか。アグニー族と言うのは、そういった感覚とは無縁の存在なのかと思っていました」
「感性が独特なんだろうねぇ」
肩を竦めて言うディロードをよそに、アグニー達は活発に意見を交わし始めた。
良くも悪くも、ディロードの言葉はよい刺激になったらしい。
「ポンクテ以外だと、なに作ってるっけー?」
「山菜とかばっかりだからなぁ」
「結界!」
「結界もいいけど、近くにはなくなっちゃったからなぁー」
「マッド・アイとかどうかな?」
狩人のギンが提案するが、周りのアグニー達の反応は宜しくない。
確かにアグニー達は、土彦からマッド・アイの加工を頼まれる事があった。
色々なデータを取るのに必要らしく、とても感謝もされている。
だが、これはアグニー達にとっては「仕事」というより、「楽しみ」であった。
村の名前に据えようとする、いわゆる「名産品」とは少しニュアンスが異なるのだ。
もちろん、アグニー的に、と云う意味である。
「そういえば、マッド・ゴーレムに使うっていう陶器の砲弾は作っているって感じかのぉ」
「やけんど、アレこそ皿を焼く片手間じゃしのぉ」
「もしかしてこの村って、名産品ないの?」
「食べるだけで精一杯だからなー」
アグニー達の表情が、どんよりと沈む。
話し合いが再びこう着状態に陥るかと思われた、そのとき。
カーイチの一言が、状況を一変させる。
「あぐこっこは、アグニーしか育ててないよ」
アグコッコとは、アグニーだけが家畜としている、珍獣の類だ。
外見は、「足の長いカモノハシ」といった風情であり、率直に言って外見自体は非常にキモイ。
風彦も初めてみた時は、軽く悲鳴を上げたほどである。
ちなみにディロードの初対面リアクションは「うわぁ、思ってた以上にキモい」であった。
それは兎も角。
カーイチの口から出た「アグコッコ」と言う単語は、アグニー達に強い衝撃を与えた。
「そうか! アグコッコか!」
「当たり前すぎて忘れてたな!」
「アグニーしか育ててない動物じゃから、今はこの村でしか育ててないしのぉ!」
「まさに、このむらのとくさんだぁー!」
どうやら、反対するアグニーはいないらしい。
アグニー達は一様に、「アグコッコ」を村の名前にすることに賛成なようだ。
「いや、でもいいの? アグコッコ村って。あのキモいの村の名前にするの?」
顔を顰めたディロードが、いかにも嫌そうに言う。
風彦も同じ考えならしく、顔を引きつらせている。
「アグニーさん達の自由意志ですし。でも、いや、アグコッコは。どう、なん、だろう?」
良くも悪くも真面目な風彦は、自分が口を出していいものかどうか悩んでいた。
正直なところ、「それはない」と口を出してしまいたくはある。
だが、風彦のバカ正直な部分が、否を言いたい気持ちと戦っているのだ。
マルチナも同じような気持ちらしく、何か言おうとして思いとどまる、という動きを繰り返している。
「アグコッコのぉ。そういえば、コッコというのは古代アグニー語で、祝福だか幸運だかと言う意味だったはずじゃ」
思い出した、と言った様子の長老の言葉に、アグニー達から歓声が上がった。
「おお! そんな意味だったのか!」
「けっかいー!」
「そりゃぁ、えんぎがいいねぇー」
祝福と幸運というのは大分意味合いが違うような気がしないでもないが、アグニー達は特に気にしないらしい。
場が盛り上がる中、アグニー達とは違った衝撃を受けている者達も居た。
言うまでも無く、風彦達である。
風彦は頬を引きつらせながら、不審げに目を細めた。
「っていうか古代アグニー語ってなんなんですか。突然出てきましたけど」
「実在するんでしょうか。今考えた然とした印象を受けますが」
データ整理などを得意としている人工精霊のマルチナだったが、流石に古代アグニー語に関するデータは持ち合わせていないようだった。
風彦は少し考えるように唸り、懐に手を伸ばす。
取り出したのは、アンバフォンだ。
「どこかに、ご連絡でも?」
マルチナも、アンバフォンのことは知っていた。
土彦が使うのを時々見かけていたからだ。
「一応、確認しておこうと思いまして。古代アグニー語についてと、コッコの意味」
「調べるあてが有るのですか?」
「この手の事を片っ端から調べ上げてる方が居まして」
苦笑いを浮かべながら、風彦はアンバフォンを操作する。
呼び出そうとしているのは、片っ端から情報を集めなければ気がすまない天使。
エルトヴァエルである。
数回の呼び出し音の後、エルトヴァエルと通話が繋がった。
聞こえてきた声は、何故か若干焦ったようなものである。
「もしもし、風彦さんですか? 今ちょっと面倒なことになっているんですよ。酒瓶を抱えたアンバレンス様が突然やってきて、まぁ、それはいつものことなんですが。たまたまこちらに顔を出していた土彦さんと、『今度来る二国とギルドの代表者に挨拶する時、風彦さんに着せるメイド服のスカートはロングがいいか、ミニがいいか』というどうでもいい議論で白熱していまして」
「ちょっと! エルトちゃんどうでもいいは酷くない!? やっぱりメイドさんといえば古式ゆかしいロングスカートでしょ!」
「確かにロングもいいですが、風彦なら逆にコスプレっぽさ溢れるミニも映えるはず!」
かなりの大声で話しているのだろう。
通話の向こう側から、かなり不穏な台詞が漏れ聞こえてくる。
今すぐに問いただしたい衝動に駆られる風彦だったが、ぐっと我慢した。
風彦は自分のことよりも、仕事を優先できるタイプだったのだ。
「それもものすごく気になるんですが、アグニーさん達の村の命名の件でお伺いしたいことがありまして」
「ああ、その件でしたか。どんな事でしょう?」
「村の名前なんですが、アグコッコ村、と言う方向で固まりそうでして」
「それはっ……! いえ。そうですね。アグニーさん達の自由意志、です、よね」
エルトヴァエル的にも、アグコッコ村、と言う単語は驚くようなものだったらしい。
それでも反対しないのは、自分の立場を考えての事だろう。
もっとも、正直賛成できない、というのは、歯切れの悪さから滲み出ていた。
「まあ、私も正直どうかと思うことは思うんですが。それは、一先ず置いておいてですね。長老さんが言うには、コッコ、と言うのは古代アグニー語なる言語で、意味のある言葉なんだそうでして」
「はい。そうですね」
「そうです、って、え? 本当に有るんですか!? 古代アグニー語!?」
あまりにあっさりと返ってきた返事に、風彦はぎょっとた様子で声を上げる。
対するエルトヴァエルは、全く落ち着いた声で返す。
「有ります。千数百年ほど前、その辺り一帯で共用語として使われていた言語。それの、方言の一種ですね。広く一般で使われていた言語なのですが、アグニー族は周囲との接触が極端に少なかった為、どんどん訛っていったんです」
「訛るって……どの程度なんですか?」
「そうですね。津軽弁ぐらいでしょうか」
赤鞘が日本出身と言うこともあり、エルトヴァエルは日本のことについて様々な事を調べていた。
方言のキツさについても、そこに含まれていたのだ。
それを言われた風彦のほうも、日本についてある程度の知識を持っていた。
風彦の持つ知識を用意したエルトヴァエルが、「赤鞘のガーディアンであれば、日本の知識も必要」と考えたからである。
内容はエルトヴァエルが厳選した「一般的な日本の知識」なのだが。
作ったのがエルトヴァエルなだけに、どれぐらい一般的なのかは疑わしいところだ。
「それは……もはや方言と言うより別の言語なのでは……?」
「失礼ですよ。確かに私も初めて聞いたときは唖然としましたが」
「ちなみに、その古代アグニー語でコッコってどんな意味なんです?」
「協調や連携、団結といった、共に同じ目的に当たる。といった意味合いです」
全然違う意味じゃないですか、長老さん。
若干遠い目になる風彦だったが、頭を振って気持ちを切り替える。
そんな風彦に、エルトヴァエルは更に言葉を続けた。
「それだけ、アグニー族にとってアグコッコが大切な家畜だ、ということですね。ちなみにアグコッコと言う名前には別の意味もあります。人間にとっての鶏と同じぐらい親しみのある存在。アグニーにとってのコッコ、つまり鶏だから、アグコッコ。というものです」
「意味合いが同時に複数ある、と言うことですか。諸説ある、的なことですかね?」
「諸説、ではなく、実際にそうなのです。ぶっちゃけた事を言ってしまえば、アグニー族だからその辺りはアバウト。といったところでしょうか」
アグニー族だからアバウト。
これほど説得力のある言葉も少ないだろう。
風彦も、思わず納得して頷いてしまうほどである。
「兎に角、ネーミングに問題はなさそう、と言うことでしょうか」
「そうなります。まあ、私自身に思うところが無いかと問われれば、有るといわざるを得ませんが。それより、話し合いはまだ続いているんですか?」
エルトヴァエルに聞かれ、風彦はアグニー達へと視線を移す。
アグニー達は、未だにアグコッコのことで盛り上がっていた。
最近は卵を良く産むとか、餌を見つけるのが下手なアグコッコが居るとか。
だんだん村の名前とは関係無い話題になりつつあるものもいるが、その辺はアグニーだから仕方ないだろう。
「はい。そろそろ決定すると思いますので、引き続き観察して、結論を貰って帰ります」
「よろしくお願いします」
「それと、アンバレンス様と土彦ねぇのほうも帰ってから対応します……」
「はい。その、頑張ってください」
ワントーン低い声の風彦に、エルトヴァエルは苦笑いを交えて返した。
エルトヴァエルの後ろからは、「ミニスカートとタイツ!」「ずるいわー! 絶対領域ずるいわー!」などと言う声が聞こえている。
風彦は表情を引きつらせながら、通話を切った。
若干不思議そうな顔で自分を見ているディロードとマルチナに気が付いた風彦は、一つ咳払いをしてから口を開く。
「私の言っていたことで大体察していらっしゃるとは思いますが、古代アグニー語は実在するそうです」
「その様ですね。ちなみに、意味は長老の言っていた通りなのですか?」
「協調、連携、団結。そういった意味合いだそうです」
「全然違うじゃないですか」
困惑気味に言うマルチナに、風彦も大きく頷く。
隣で聞いていたディロードは、少し眉根を寄せて首を傾げた。
「コッコ、だけなら、まぁ何とかって感じなのかなぁ」
「なにがです?」
「村の名前ですよ。コッコ村、っていうのなら、まだゆるせるかなぁーって」
肩を竦めていうディロードの言葉に、風彦とマルチナは難しい顔をしながらもうなずいた。
確かに、「アグコッコ」というアレな外見の生き物を思い起こさせる名前よりは、幾分マシだろう。
その反応を見たディロードは一つ頷くと、アグニー達のほうへと体を向ける。
「あーの。ちょっとよろしいです?」
ディロードに声をかけられ、アグニー達は一斉に振り返った。
アグニー達の注目を一身に受けたディロードは若干驚いたように声を上げつつ、片手を上げて自分の提案を口にする。
「アグコッコ村だと語呂が悪いし、コッコ村っていうのはどうですかね? 意味的にはあんまり変らないだろうし。アグニー族の村にアグってはいると、ほら。アレだし」
「「「おー!」」」
アグニー達から、歓声が上がった。
「たしかに、アグコッコ村より、コッコ村のほうがおさまりがいいかも!」
「けっかいー!」
「コッコ村のほうが、おしゃんてぃーなかんじがするのぉ!」
「おしゃんてぃーってなんだ?」
「わかんない」
ガヤガヤと賑やかになるアグニー達を見て、ディロードはどこか満足そうに頷く。
ガーディアンである風彦と違い、ディロードはあくまで一般人だ。
村の命名に口を出しても、大きな問題は無いのである。
アレヤコレヤとアグニー達の間から声が飛ぶが、どれも「コッコ村」に肯定的なものばかりだ。
長老は咳払いをして注目を集めると、表情を若干キリッとしたものにする。
「では、村の名前を決めたいと思う! 村の名前は、コッコ村とする! 異論があるものは申し出るのじゃ!」
「さんせー!」
「けっかいー!」
「コッコ村って、とれんでぃーなひびきだよなぁー!」
「とれんでぃーってなに?」
「しらない」
「でも、なんか、うまそうななまえだよなぁー!」
「さっきゴハンたべたばっかりだよ!」
どうやら、反対するものはいないらしい。
長老は満足気にうなずくと、拳を振り上げて宣言する。
「今日からこの村は、コッコ村じゃー!」
一際大きな歓声が上がり、アグニー達は嬉しそうにはしゃぎまわり始めた。
それぞれに唄ったり、踊ったり、実に楽しそうな様子である。
近くで見ているディロードとマルチナも、どこか和んだ様子で笑顔を浮かべた。
ただ。
今日の長老の服装がミニスカメイド服であり。
白タイツでいい感じの絶対領域を演出している事に気が付いた風彦だけは、何故か引きつった笑顔を浮かべているのであった。
村の命名するだけの話なんだけど、ナンか長くなってしまったのでこれだけで投稿します
本当はアニスのこともかくつもりだったんじゃよ
久しぶりの投稿になってしまいました
なんかずっと本を出版する仕事が大変でかけなかったんですよ
猫と竜の二巻目とかかいてて
でも知らないところで頑張ってるあまらさん、素敵だったと思います(自画自賛)
次はもっとはやく書きたいんですが、ナンか色々忙しいのでどうなるかわかりません
申し訳ないです