十一話 「いや。いいんです。はい。黒歴史ですよ。ええ」
実のところ罪人の森には、大型肉食獣がほとんど居なかった。
百年ほど前の戦争の余波で、大半が死に絶えてしまっていたのだ。
罪人の森の周囲は広い草原に囲まれている。
海に面しているせいもあるのだろうが、それでは何故罪人の森の一画だけに木が生い茂っているのか。
実はソレは純粋に自然環境のなせる業だったりする。
もともとそういう立地条件に恵まれていたのだ。
と、言うのも、そこに湧き水があったからだ。
遠い山から繋がる地層があり、たまたまそこから連なる水源の一つが湧き水として吹き出している。
その水を元に、木々が生い茂り森となったのだ。
豊かな森と飲むことの出来る水は人を呼び、何時しか街が出来る。
そして戦争が起こり、街が吹き飛び、見放された土地が出来たのだ。
川から森が生まれ、街が生まれ、荒野が生まれる。
なんとも言いようのない流れではある。
その特殊な事情から、この森には大型の肉食獣がほとんど居ないのだ。
回りから入ってくるようにも思われるが、辺りは一面草原だ。
草原で狩をする大型肉食獣と、森に住む肉食獣は種類が違う。
両方を行き来できるのは、この辺りには精々狼しか居なかったのだ。
この世界には魔獣と呼ばれる賢い肉食動物も居たりするのだが、そういったものは近寄りもしない。
なにせ「見放された土地」だ。
魔力に敏感なそういった動物は、おびえても無理はない。
つまるところ、実際罪人の森はアグニーたちにとって最高の隠れ家であったりした。
まず敵は入ってこない。
大型の肉食動物は居ない。
食べ物は、小型の草食動物から野草まで豊富にそろっている。
衣食住、すべてが揃っていると言っても過言ではないだろう。
ちなみに、彼らアグニーを追っているモノたちはといえば。
その大半が、もうすべてのアグニーを捕まえたものと思っていた。
アグニーは弱小種族だ。
肉体的にも能力的にも実際弱小の名をほしいままに出来る種族だ。
逃げたモノは、とっくに動物の餌になっていると思っていた。
そう思われるほどに、辺りは隈なく捜索されていた。
罪人の森と、見放された土地を除いては。
いくらアグニーでもあんな場所には逃げ込むまい。
よしんば逃げ込んだとしても、恐ろしい化け物たちの餌になっているに違いない。
知らないというのは恐ろしい物である。
そんな感じで、逃げ出した四十あまりのアグニーたちは地味に危機を乗り越えていたのだ。
本人達のまったくあずかり知らぬところではあるが。
罪人の森の一画に、鹿の群れが居た。
十数匹集まったその群れは、皆一様に草を食んでいる。
その中の一頭が耳を動かし、顔を上げた。
周りをきょろきょろと見回し始める。
すぐに他の鹿たちも顔を上げ、周りを警戒し始めた。
少し離れた茂みから、ガサガサと物音が上がる。
ソレを確認した瞬間、鹿たちは一斉に走り出した。
物音がしたほうと反対方向に走り出した鹿たちの判断は、間違っては居ないだろう。
だが、ソレを狙う狩猟者も居る。
鹿たちの進路上の地面が突然盛り上がり、襲い掛かっていく。
危ない。
そう判断したときには、もう遅い。
突然現れた襲撃者は、二頭の鹿の命をあっという間に奪っていた。
仲間が倒れたことに気が付いた鹿も居ただろう。
しかし、その足が止まることはなかった。
鹿たちが離れていく姿を横目に見ながら、襲撃者達は倒れた二頭に近づいていった。
「流石長老、お見事」
「やれやれ。久しぶりじゃったからミスるかとおもったんじゃがのぉ」
襲撃者、アグニー族の狩人ギンと長老は、それぞれの得物を肩に倒れた鹿へと近づいていった。
ギンが手にしているのは人間用の剣。
長老が持っているのは、太い木の枝に石を括り付けた即席ハンマーだった。
森に落ちていた物を使ったその武器は、この狩のために急遽作ったものだ。
「その割には、一撃で仕留めてるじゃないですか」
長老が仕留めた鹿は、正確に頭を割られていた。
即死だったのだろう、ピクリともしていない。
「まぁのぉ。昔とった杵柄じゃわい。わしが若かった頃はまだ鉄の方が珍しかったからの。こうして作ってたもんじゃ」
担いだ即席ハンマーを叩き、ニヤリと笑う長老。
アグニーの頭ほどの大きさもある石が括り付けられているのだが、長老はソレを難なく扱っていた。
長老本人が作ったものだったが、アグニー随一の怪力を誇る長老だから扱えるのだろう。
「おぬしの方は流石じゃのぉ。見事なもんじゃ。やっぱり現役には敵わんわい」
ギンが仕留めた鹿は、首筋を綺麗に切断されていた。
「まあ、これでも狩人だから」
苦笑するギン。
アグニー族は体格が小さいため、大きな弓が持てない。
大きさに比例して威力が変わるので、弓で大型の動物を仕留めるのが難しい。
勿論不可能ではないのだが、それでもギンは弓よりも剣や槍などを好んで使った。
大型の獲物を倒すには、これに限る。
と、ギン談。
「おーい!」
かけられた声に、ギンと長老は顔を上げた。
声のした方に顔を向けると、二人のアグニーが手を振っているのが見えた。
「おお! ご苦労さん!」
手を振って答えるギン。
彼らは、追い込み猟をしていたのだ。
二人のアグニーが鹿の群れを追い込み、長老とギンが仕留める。
結果は、大物二匹の大成功だ。
「流石だな。みんなも喜ぶだろう」
「ああ。これでまた食いつなげるな」
四人はうれしそうに笑いあうと、早速獲物の処理に取り掛かった。
血抜きをしなければ、動物の肉はすぐに痛んでしまうし、味も格段に落ちる。
早ければ早いほど良いとされていて、狩の場合はその場で血抜きしてしまうことが多い。
だが、実はこの血抜きというのが曲者で、森の中で行うと血の匂いで肉食獣を呼んでしまうこともある。
肉の処理をしていたら肉食動物に食われましたなんて事になったら、目も当てられない。
「じゃあ、俺は鹿の処理をするから、みんなは周りを警戒しててくれ」
「おお」
「手早く頼むのぉ」
ギンは腰に括り付けていたツタを外すと、鹿の足を縛り始めた。
このまま木につるし、血抜きと解体をするのがアグニー流解体術なのだ。
長老達はギンの周りを囲むように動くと、それぞれ周囲へ注意を向け始める。
警戒するとはいっても、すぐさまなにかが襲ってくるという物ではない。
長老などは腰を下ろしているし、ほかにも近くに生えていたフキを齧って水分補給するモノもいた。
「お前ら、もうちょっと緊張感持てよ」
苦笑しながら言うギン。
とはいえ、そう緊張しすぎる必要がないことはギンが一番よく知っていた。
周りに居るであろう脅威は狼だけで、その狼も大きな群れではない。
四人で固まっている今のほうが安全だし、何より、ずっと緊張続けていたら疲れてしまう。
他の三人が見張りをしている間に、ギンは手早く二頭の鹿を解体し始めた。
血を抜き、皮をはぐ。
この毛皮も、今のアグニーにとっては貴重な資産だ。
服にしてもいいし、地面に敷いてもいい。
傷をつけないように、丁寧に剥がさなければならない。
「つっても、道具が剣しかないからなぁ」
「上手くいかないか?」
「いや、何とかするよ」
肩をすくめるギン。
再び鹿の解体に戻ろうとするギン。
しかし、仲間の声でその手が止まった。
「ん? 何だあれ」
座っていた仲間の一人が、突然立ち上がる。
「どうした?」
「あそこ、あの木の上だ」
指差した方向に目をやると、木の枝に黒い何かが居るのが分かった。
「あれは、カラスじゃろうか」
「ああ。この森に入ってからはじめてみるな」
カラスは珍しい鳥ではない。
だが、罪人の森に入ってからは一度も見ていなかった。
今まで見かけなかっただけだと言えばその通りだが、カラスというのはこの世界では取り分け頭のいい事で知られる鳥だ。
もしかしたら、今まで見つからないように隠れていたのかもしれない。
もしかしたら、鹿狩を成功するのを待っていたのかもしれない。
考えすぎだと思うかもしれないが、それほどに頭のいい動物であることは確かだ。
「あのカラス、こっちを見てるよな」
「ああ。鹿を狙っておるだけならいいんじゃがのぉ」
やおら立ち上がると、長老は手製の即席ハンマーを構えた。
他の二人も、辺りを再び注意深く見回し始める。
そのとき、ギンが異変に気が付いた。
「おい、足音だ」
地面を踏みしめる、重い何かが歩く音が聞こえてくる。
段々とアグニーたちのほうに近づいているのだろう。
徐々に大きくなってくる足音には、枝踏み砕く音も混じっていた。
バキバキという乾いた音は、その枝がけして細い物でないことを感じさせる。
「まさかっ……!」
長老の眉間に皺がより、こめかみを汗が伝う。
他の三人もかなり動揺しているようで、がくがくと手を震わせているモノまでいた。
「トロルじゃ……!」
身長3mを超える巨体でありながら、直立二足歩行。
毛むくじゃらの体は恐ろしく強靭で、腕は人の胴回りよりも太い。
その気になれば木をへし折ることも出来るその怪力は、それだけで十二分すぎるほどの脅威になる。
アグニーたちの前に現れた黒い巨人、トロルとは、人間の兵士でも恐れる相手だ。
おおおおおお!
トロルは驚愕するアグニーたちを見ると、地響きのような咆哮をあげた。
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水彦を膝に据わらせたまま、その手をしっかりと握る。
別に親子仲を確かめているわけではない。
水彦の体に触れることで、効率よく知識を与えているのだ。
赤鞘は腐っても神である。
言葉や文字にしなくても、情報のやり取りが出来る術を持っているのだ。
もっとも、ソレはほかの神に比べれば非常に遅い物ではあるのだが。
具体的に言うと、普通一瞬ですむところが、赤鞘の場合は一時間ぐらいかかる。
なっがっ!
と、突っ込む人もいるだろうが、与える知識は戦い方から言語、文字や力の使い方など、とてつもない量になる。
普通ならば小中高大学までかかるような学習容量に、赤鞘が今まで溜め込んだインターネット知識や剣術にいたるまで。
ソレこそ人一人分の人生をいきなりねじ込むような物なのだ。
ちなみにそれだけの量の情報を人間に「一瞬で」与えると、耳血と鼻血を吹き散らし脳を襲う激痛に三日三晩苦しむことになる。
引き換え、赤鞘の一時間かかるほうは、知識を送られている間ボーっとする程度だったりする。
世の中なんでも早ければ良いという物ではないということだろう。
もっとも、水彦は人間ではないので「一瞬で」のほうも耐えられるのだが。
「それで、次なんですけど。ここって俺が封印するときに、各国に封印するよーって宣伝してるんですよ」
赤鞘が胡坐になっているので、アンバレンスも足を崩して座っていた。
自分が正座をしていると、赤鞘が遠慮すると思ったからだ。
地味に気の付く最高神である。
「へー。あ、じゃあ結界解くときも宣伝するんですか?」
「いや、ソレなんですけどね? 赤鞘さんに決めてもらおうと思って」
「え。そういうの私が決めていいんですか?」
驚いたように眉を寄せる赤鞘。
その反応に対して、アンバレンスはばつが悪そうに話し始めた。
「いやぁ。実はですね? 当時調子に乗ってまして。ここはお前達の人間の罪深さをあらわす場所として残す的なこと言っちゃったんですよ」
そういったアンバレンスの表情は、まるで自身の中学二年生の頃の思い出を語る社会人のようだった。
「うっわ。って、あ、いや、その、すみません」
思わずといった様子でうめき、謝る赤鞘。
アンバレンスは引きつった笑いを浮かべたまま、乾いた笑いを発している。
「いや。いいんです。はい。黒歴史ですよ。ええ」
若干涙ぐんでいるように見えたのは、恐らく気のせいだろう。
エルトヴァエルもわざとらしくそっぽを向いているが、気のせいだろう。
そう、赤鞘は思っていた。
勿論、自身も顔はそっぽを向いているのだが。
「まあ、そんな感じで、宣言しちゃったんですよ。なんか、各国の首都に半透明の巨大な人影を出現させて」
赤鞘は無言でエルトヴァエルのほうを向いた。
頷いている。
どうやら本当にやったらしい。
都市上空に巨大な自分の姿を映し出し、人間達の愚行を戒める。
人間には理解できない基準ではあるが、神々のあいだでそれはイタカッコイイ行為とされていた。
基準が人間とは別物なので一概には言えないのだが、たとえば。
今日こそ手からエネルギー弾が出せそうな気がして朝誰も居ない教室で技名を絶叫しながら素振りをしていたら、ドアの前で凍り付いているクラスメートと目が合ったとか。
高校の学校行事の全学年対抗球技大会の野球で、三年生の野球部所属のピッチャーが一年生チームを完封してドヤ顔しているとか。
デパートのゲーセンで格ゲーやってて乱入してきた小学生ぐらいの子をマジでボコボコにしてドヤ顔してる社会人とか。
大体そんな感じのイタさだ。
「いや、ほら! 当時はまだ母神がこっちの世界に居て! 俺もほら盗んだバイクで走り出しちゃうような若気の至り的なアレだったんですよ!」
必死で弁解するアンバレンス。
「い、いやほら、だいじょうぶです、よ? ははっ!」
「いやぁぁ! やめて! そんな痛々しい目で見ないで!!」
赤鞘の引きつった笑顔と、無理やりこねくりだしたような笑いがとどめになったらしい。
アンバレンスは脇腹と顔を抑え、地面の上でのたうちまわる。
過去の自分の所業に居たたまれなくなってのた打ち回る最高神。
早々お目にかかれるものではないだろう。
慌てた赤鞘とエルトヴァエルが、フォローしようと口を開く。
「だ、大丈夫ですよアンバレンスさん! ほら! 私も昔、日本一の武芸者になるんだとか言って死合いばっかりしてた時期とかありましたし!」
「それカッコイイじゃないですか! 赤鞘さん戦国時代の人でしょう?!」
「いえ、江戸時代です」
「似たようなもんじゃないですかうわぁぁあああ!」
どうやら赤鞘にはお手上げらしい。
続いて慰めにかかったのは、エルトヴァエルだ。
「落ち着いてください! ほら、子供の頃っていろいろアレですし!」
「俺子供の頃とかないですしアレとかいわれてますしおすし!」
さらに傷口をえぐっただけでおわった。
そんな一連の流れをじっと眺めていたモノがいた。
水彦だ。
彼は暫くアンバレンスを眺めると、こくこくと頷いた。
「中二病か」
「ひでぶっ?!」
「アンバレンスさーん?!」
結局太陽神が復活して話が先に進んだのは、その後暫くたってからだったという。
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空に向かって咆哮したトロルは、突っ込むようにアグニーたちに向かって走り出した。
途中木に肩が当たるが、傾いたのは木のほうだった。
ずんぐりとした体格のこのトロルの体重は、優に一トンを超えている。
あまりのことに硬直するアグニーたち。
その中で最初に動いたのは、長老だった。
「は、は、は」
カタカタと手が震えだし、支えていられなくなったハンマーを取り落とす。
数歩足を踏み出したかと思えば、そのまま猛然と走り出した。
トロルに向かって。
「ハナコー!!」
おおお!!
長老の声にこたえるように、トロルが雄たけびを上げる。
大きく手を広げ、走る長老。
同じように、トロルも両手を広げて走っている。
途中で木の枝とかに引っかかってばっきばきに折っているが、トロルの走りをとめることはできない。
「はぁぁぁなこぉぉぉおおお!!」
おおおおおお!!!
長老とトロルの動きがゆっくりになり、周りにきらきらとしたもやがかかっている。
様な気がした。
感動の再会シーンというヤツだろうか。
一人と一匹はスローモーションの中を、お互い涙を流しながら走っていた。
長老は両足で地面を蹴ると、トロルの胸に飛び込んだ。
がっしぃぃぃ!!
実際はそんな音はしていないが、なんとなくそんな音が響いたような雰囲気がかもし出される。
トロルは長老を抱えたままぐるぐると回っている。
途中で木の枝を引っ掛けたり、岩を蹴っ飛ばして吹っ飛ばしたりしているが気にしている様子はない。
そんな様子に、ギンたちほかのアグニーの表情が笑顔へと変わっていく。
「ハナコ! ハナコか! 無事だったんだなぁ!」
「よかったなぁ!」
ハナコ。
それがトロルの名前だった。
肉体的に非力なアグニーたちは、他の動物を育てて畑仕事などを手伝わせていた。
その中に、トロルがいた。
野生のトロルは非常に危険な動物ではあるが、子供の頃からきちんと育てれば実に優秀な労力になるのだ。
ハナコは長老が面倒を見ていたトロルで、集落が襲われた際散り散りになってしまっていた。
それが、この罪人の森で再会できたのだ。
「よかったのぉ! よかったのぉハナコ! どこも怪我しとらんか?」
おおお!
長老の言葉に、うれしそうに返すハナコ。
事情を知らない者が見たら、「子供がトロルに襲われている」様にしか見えない光景だが、本人達は実にうれしそうだ。
そんな長老の様子に、ギンがはっとした表情になる。
「まさか、あのカラス!」
ギンが上を向くと、三羽のカラスがこちらに向かって飛んで来ているのが見えた。
ギンたちの近くに着地すると、てこてこと歩いてギンたちに近づいてい来る。
その様子を見て、アグニーたちの表情が驚きに変わる。
「カージ、カーゴ、カーシチ! お前達か!」
カー
肯定するように鳴くと、カラス達は首を上下に振る。
カラスもまた、アグニーたちが育てる動物の一つだった。
賢く、飛ぶことで機動力もあるカラスは、他の動物を追い放牧などを手伝ったり、狩を手伝ったりする。
人間で言えば犬と同じ、アグニーたちのパートナーとも言える存在だった。
「生きてたのか! まったくお前達は!」
ギンはひざをつくと、カラスの頭をなでた。
カラスは抵抗もせずになでられると、うれしそうに目をつぶっている。
村が襲われたとき、真っ先に殺されたのがカラス達だった。
捕らえられるアグニーたちを、助けようとしたからだ。
空を飛べるといえども、相手は魔法を使うエルフ達。
雷や炎を浴びせられれば、鳥といえども一たまりもない。
上空に逃げたり、真っ先に逃げれば話は別だろう。
だが、カラス達はパートナーであるアグニーを、決して見捨てなかった。
だからこそ、ギン達はカラスは皆殺しにされた物と思っていた。
ギンはカラスの頭をなでながら、その体に付いた傷を見る。
焦げた痕や、切り傷。
どのカラスも傷を負っていて、無事とは言いえない。
「そうか。お前達がハナコを連れてきてくれたんだな」
カラス達は、アグニーの指示で動物を追い立てたり、家畜の移動などもしている。
恐らく、トロルを見つけてここまで誘導してきたのだろう。
「偉かったなぁ。よくやったぞ」
アグニーの一人がカラスを抱き上げる。
「よし。怪我もしてるみたいだし、このまま抱えてみんなの所に戻るか」
「だな。ハナコも居るし、どうにかなるだろう」
「それにしても、鹿肉にカラス達とトロルのおまけとはなぁ」
うれしい誤算に、ギンの表情もほころぶ。
「俺達、生き残れるかもな」
ギンの言葉に、二人のアグニーは神妙な面持ちで頷く。
命からがら逃げてきた森は、食物をもたらしてくれた。
あきらめていた家畜たちが無事に自分達を追ってきてくれた。
これで、喜ばないモノはいないだろう。
生き残れるかもしれない。
その言葉は、今のアグニー達にとっては希望の重みのある言葉だ。
「さあ、早く解体して、みんなにも知らせてやるか」
未だにぐるぐると回転している長老とハナコを横目に、ギンは再び鹿の解体をはじめた。
急に賑やかになったせいで作業がなかなかはかどらなくなってしまったのは、まあ、この際仕方ないだろう。
いつの間にか日間ランキングとか週間ランキングとかに乗っていて、過大な評価を頂いているなぁと感じる日々です。
こんな作品を楽しんでいただけていると思うだけで、有頂天になる日々です。
アグニー達の家畜が戻り、赤鞘が結界を突破らったあと各国に報告するのかを決めたら、いよいよ結界の解除です。
赤鞘はどんな風に土地を再生させるつもりなのか。
アグニー達は赤鞘の土地に定住するのか。
そして、なぜエルフ達はアグニーを捕まえるのか。
今後の展開としてはそんなところでしょうか。
話の展開が思うように進まない。
そんなアマラでした。
次回もよろしければお付き合いくださいませー。




