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百七話 「きれいにしなくちゃね! だって、とても大切な、ステキなお仕事をしなくちゃいけないんだもの!」

 風彦が最後に尋ねたのは、ギルドが運営するホテルの一室であった。

 正確には、そこに滞在しているホウーリカの第四王女と、“鈴の音の”リリ・エルストラである。

 二つ名を持つ事から分かるように、リリは高い戦闘力を持った騎士だ。

 王族である第四王女の護衛を、一人で任されるほどの能力を持っている。

 その実力は“複数の”プライアン・ブルーや、“蛍火の”マイン・ボマーにも引けを取らないだろう。

 だから、というわけでもないのだが、リリは様々な状況を乗り越えてきた経験豊富な人物だ。

 二十五歳と若くはあるが、踏んできた場数は多く、修羅場を幾つも潜ってきている。

 実力もあり、経験も申し分ない。

 そんなリリが、青い顔で凍り付いていた。

 無理もないだろう。

 今しがた、風彦と第四王女との会話を聞き終えたばかりなのである。

 見直された土地の結界が取り払われた事。

 アグニー達が来たことで、物資が必要な事。

 その購入をホウーリカに頼みたい事。

 内容の異常さがわかる立場に居ればこそ。

 リリは思考停止にも近い状態に追いやられている。

 どう軽く見積もっても、国を揺るがすような事態だ。

 場合によっては国が丸ごと消えてなくなるかもしれない。

 単に国としての体制を保てなくなるという意味だけではなく、物理的に地図上から消えるようなことになってもおかしくないだろう。

 勿論それは最悪の場合の話しではあるが、それだけの大きさの事が起こっているというのは間違いない。

 それを理解しているから、リリは真っ青になっているのだ。

 硬直しているリリを見て、風彦は苦くなりそうになる表情を、なんとか押さえ込む。

 リリの反応は、正しいものだろう。

 内容を伝えている風彦も、そう思っている。

 だからこそ。

 ホウーリカ第四王女「トリエア・ホウーリカ」が満面の笑顔で嬉しそうに声を出して笑っている様子は、風彦の目には異様なものに見えた。

 状況を理解していないから、こんな表情なのか。

 一瞬そう思った風彦だったが、それはまずないだろうと思われた。

 まだ歳若くはあるが、この少女もエルトヴァエルがそれと見込んだ人物の一人なのだ。

 トリエアはこくこくと何度か頷くと、胸元で両手を祈るような形で組む。


「とても素敵です! 承りました、必ずその様にいたしますね!」


 どこまでも朗らかで、弾むような口調だ。

 本気でわくわくしているのだろう。

 通常であれば、トリエアのこの発言は分を超えたものだ。

 王族とはいえ、彼女は第四王女でしかない。

 政治には殆ど関われるはずもなく、こういった事柄を決める権利も権力も無いはずだ。

 しかし、トリエアは別であった。

 こういった場合の対応を現場判断で決める事を、許されているのである。

 それを知っているから、エルトヴァエルはホウーリカ本国ではなく、トリエアにこの話を持っていくように指示をしたのだ。

 トリエアの返事を受けて、風彦はちらりとリリのほうへと視線を向けた。

 顔色は相変わらず青いままだったが、ある程度落ち着きを取り戻しているように見える。

 凍り付いていた表情や目が、ある程度生気を取り戻しているようだった。

 それで居て何も口出しをしていないということは、リリはトリエアに交渉を任せているのだろう。

 護衛、という名目ではあるが、リリはかなり高位の騎士だ。

 発言力も大きいし、立場も影響力も大きい。

 普通の交渉ならばともかく、事が事である。

 本当にまずいと思えば、義理や建前など無視して口を挟んでくるはずだ。

 それが何も言わないというのは、それだけトリエアの事を信頼しているという事になる。

 トリエアという王女は、それだけ優秀なのだろう。

 風彦は、トリエアに視線を戻す。


「物資の内容は、建築資材や衣服や日用品など一般的なものばかりです。兵器や希少なものはなるだけお願いしないようにするつもりです。量も、余り頼む予定はありません。なにせ住民が少ないですから」


「はい、承知いたしました。そういった類のものでしたら、余りお待たせせずにご用意できると思いますわ。スケイスラーやギルドがお手伝いしてくださるのでしたら、お渡しも早く出来ますね!」


 スケイスラーとギルドが協力してくれていることは、既に伝えていた。

 他の協力者の名前を出すのは、本来協力を取り付けてからが普通だろう。

 だが、この場合はそれには当てはまらない。

 なにせ、ホウーリカはこの依頼を断れないのだ。

 というか、この内容で断れる国など、存在しない。

 そんなことをすれば、神に仇成した国と言う事になってしまう。

 神々の不興を買う恐れがあるだけではなく、「神々の意思に背いた国を討つ」という大義名分を他国に与えてしまう事にもなる。

 もはやというかなんと言うか。

 完全に強制だ。

 断ったら、神の怒りを買うか、他国に攻め込まれるか、もしかしたら内部の意見分裂で革命などが起きるかもしれない。

 そうなるまでの過程は色々考えられるが、つまるところ「なんやかんやあって国が滅ぶ」のだ。

 断れば最後、絶望しかないのである。

 なにより、それが分かっておらず、実際に滅んだ国がいくつかあるのがたちが悪い。

 実例がある以上、被害妄想等とはいえなくなる。

 なので風彦は、「こんな目にあってる可哀想な国は他にもあるよ」という、慰めの意味をこめて先にほか二国の名前を出したのだ。

 もっとも、内容のインパクトがありすぎたために、リリには余りその気遣いは意味を成さなかったようだった。

 逆に、トリエアは端から気にしているようには見えなかったのだが。


「あー、そうですか! それはありがたいです! 流石トリエア殿だなー」


 乾いたわざとらしい笑い声を上げてから、風彦は小さく深呼吸をした。

 ここから、更に言いにくい申し出をしなければならないので、勢いをつけようとしているのだ。


「それで、ですね。頼みを聞いて頂くにあたってなのですが。赤鞘様が、お会いになりたいと仰っているんですよ」


 風彦の言葉がすぐに理解できなかったのだろう。

 リリは、困惑した面持ちで再び凍り付いていた。

 おそらく、このあたりが一般的なリアクションだろう。

 一方のトリエアは、その表情を徐々に喜色に染め上げていく。


「まぁ! 素敵っ! そんな光栄に預かれるなんてっ!」


「今回ご協力いただく、ほか二国の方々にも声をかけています。これはほかの国には後でお知らせするつもりだったんですが。出来れば、バインケルト・スバインクー殿。そして、ボーガー・スローバード殿にお越し願えればと思っています」


「すごい! お二方とも優秀な方々ですものね! きっとこのお仕事でも結果を残して下さると思います!」


 にこにこと笑うトリエアを前に、風彦は薄ら寒いものを感じた。

 今しがた出た名前は、どちらも下手な一国の王よりもよほど発言力のある人物だ。

 二千年を優に超えて世界に影響を与え続けた化け物と、世界のエネルギー市場を一手に牛耳る組織の長。

 トリエアは、そのどちらのこともよく知っているような口ぶりだ。

 どちらもフットワークが恐ろしく軽いので有名なのだが、それでも一国の第四王女程度がおいそれと会える人物ではない。

 だが、このトリエアという少女は、そのどちらにもコネクションを持っているのだ。


「それで、ホウーリカのほうからは、ですね。出来れば、トリエア王女。貴女に来て頂きたいんです」


「まぁ! どうしましょう! すごく素敵っ! 光栄すぎて眩暈がしそうです!」


 トリエアは口元を両手で覆い、目を丸く見開いた。

 言葉とは裏腹に、その表情から風彦が読み取れたのは、歓喜そのものだ。

 隣にいるリリが発している負のオーラとは、雲泥の差である。

 どちらかといえば、この世界の一般的な反応はリリのほうだろう。

 あまりにも恐れ多すぎて、失神寸前に追いやられる状態が、極普通のリアクションなはずだ。

 これだけ嬉しそうにしているというのは、内容を正しく理解していないのか、あるいはある種の狂気のどちらか。

 この王女の場合は、おそらく後者だ。


「それで、場所なのですが。見直された土地の中。赤鞘様のお社で、ということになります。詳しいことは、後日文書と、私からの口頭でお知らせしますので」


 それを聴いた瞬間。

 トリエアの笑顔の色合いが変わったのを、風彦は見逃さなかった。

 元来、風彦は交渉や話し合いのために作られた要素の強いガーディアンだ。

 そういったものを見る目は、水彦や土彦よりもよほど聡い。

 まあ、単にあの二人が壊滅的なだけということもあるのだが。

 ともかく。

 そのとき風彦がトリエアの表情から読み取れたのは、凶暴な肉食生物が、死に掛けた獲物を前に舌なめずりをするような、そんな残虐な色だったのだ。

 だが、それもごくごくわずかの瞬間。

 瞬き一つするよりも早くその色は完全に消え去り、トリエアはお土産にケーキでも貰ったというような、極当たり前の喜びの表情を見せる。


「ああ、あまりにも身に余ることで、どう言葉にしていいかわかりませんっ! 素敵っ! 本当にステキっ! こんな機会にめぐり会えるだなんて! 必ず、必ず参りますっ!」


「あ、はい。いや、ちがう。えーっと、赤鞘様は、用事などがあったらそちらを優先してかまわないと仰っていますので」


「まぁ! 神様にお会いすること以上に重要なことなどございませんわ!」


 そりゃそうだよな。

 風彦は口には出さず、心の中でつぶやいた。

 赤鞘がそう伝えてくれ、と言ったのでいっては見たが、実際神様と会うこと以上に重要な用事など、そうそうあるものではないだろう。

 まして国の代表として会うとなれば、尚更だ。


 どうしよう。

 この娘むっちゃこわい。

 早く帰りたい。

 そしたらアグニーさん達をモチモチするんだ。

 ほっぺたとか。

 カーイチさんの羽毛をもふるのもいいかもしれない。

 って、いかんいかん。


 現実逃避しそうになる意識を引き戻し、風彦は懐に手を伸ばした。

 エルトヴァエルからトリエアに渡すように頼まれた、あるものを取り出すためだ。

 懐から引っ張り出されたのは、銀色の小さなベルだった。

 細工の施された呼び鈴のような形状で、持ち手の一番上の部分に、小さな青い宝石がはめ込まれている。


「これは、エルトヴァエル様からトリエア殿に渡すように、と、預かってきたものです。これを使えば、エルトヴァエル様にはあなたの位置がわかり、会話をすることも出来る。この後すぐに本国にお帰りになるだろうから、ということで」


 青い宝石は、バインケルトに送られたペンダントにはめ込まれたものと、同じものだった。

 トリエアは嬉しそうにそれを受け取ると、しげしげと見つめる。

 よく見れば、そこには天使の、エルトヴァエルの使う印が刻まれていた。

 これは当の天使以外には使うことが出来ないもので、人間には偽造できないものだ。


「国に帰った時に使うといい。有効利用してくれ、とのことでした」


 トリエアはにっこりと微笑むと、ベルを大切そうに両手で包み、胸にぎゅっと抱いた。


「はい。必ず」


 これでようやく帰れる。

 風彦はもれそうになる盛大なため息をぐっと飲み込み、にっこりと笑顔を作った。





「あーもー、やだー。何で生まれたてであんな怖いのとあわなくちゃいけないのー」


 ギルド本部の屋根の上で、風彦は疲れきった様子で言葉を吐き出した。

 出掛けにアンバレンスから貰った飴玉の包み紙を破き、口に放り込む。

 天界に咲く花から集めた蜜を固めたものなのだそうで、とてもおいしかった。

 たぶん軽く神話級な物品なのだろうが、相手が最高神なので気にしないことにする。

 太陽を作ったり消したりして遊ぶような神様を相手に、そういう細かいことを気にしたらキリがないのだ。

 出掛けにアンバレンスが爆笑しながら、「恒星でビリヤードやったら2~3個消し飛んでめっちゃ笑った」といっていた位だし。

 ともかく、問題は目の前のことだ。

 先ほどまで風彦が会っていたトリエアという少女は、実に変わった少女である。

 エルトヴァエルから貰った知識にはいくつもの逸話があったのだが、風彦にとって最も印象深いものが、ひとつあった。


 ホウーリカ王国は、一般的な中堅国のひとつだ。

 大国ではないが、小国でもない。

 国力はそこそこで、軍事力もそこそこ。

 特徴らしい特徴といえば、人間至上主義国家であるところだろうか。

 とはいえそれすらも少なくない数の国がそういった主義を掲げているので、珍しいものではない。

 ごく普通であるだけに、ごく普通にいくつもの問題を常時抱えている。

 スケイスラーのように王族貴族が全て優秀だったり、種族自体が優れた生物であるエルフだけで構成されたメテルマギトのような国の方が、極わずかなのだ。

 そんなホウーリカで、あるとき事件が起こった。

 第二王子が他国に留学中、下級貴族の出であり、学友でもある娘と、恋仲になったのだ。

 それだけならまだ「火遊び」として、いくらでももみ消せるので、特に問題はない。

 問題なのは、二人の間に子供が出来てしまったことである。

 しかもそれがわかったのは、第二王子の帰国後だったのだ。

 下級貴族の娘は、第二王子に妊娠を知らせず、出産したのである。

 さらに悪いことに。

 その下級貴族の血筋には、何代か前に、獣人の血が入っていたのだ。

 ことが公になれば、とてつもないスキャンダルになる。

 どうしたものかと王室が頭を抱えているなか、まだ成人を迎える前だったトリエアは朗らかに笑いながら、こういったのだ。


「まぁ、大変! なら、こういうのはどうでしょう! お兄様と、その娘さんと、それから赤ん坊。皆さんにお隠れ頂くの! お兄様が、その娘さんを迎えにいく途中での悲しい事故が起きてしまうの。そうすれば、悲恋と悲しい結末でもって、ほかの事は覆い隠せてしまうわ!」


 よくある手ではある。

 悲しい事故にしてしまい、「それ以上触れてはならない」という世論を作り出す。

 よくある、というだけあって、実際効果的な手だろう。

 死人に口無し、などというように、死んだ人間の痕跡をいろいろと変えてしまうのはたやすいのだ。

 たとえば、下級貴族の娘には「まったく獣人の血が流れていなかった」ことにする、とか。

 場合によっては、第二王子は娘に誘惑されたことにするのもいい。

 だが、王位を告ぐ予定である第一王子は、そういったことを良しとしない人物であった。

 何とか第二王子を生かし、相手の貴族の娘にもよい形での着地点を、必死になって探していたのである。

 そんなときに、トリエアがさも当然のようにいったことに、第一王子は大いに腹を立てた。


「ならば、お前がそうしてみよ」


 大人気ない台詞ではある。

 だが、出来るわけがないと思っていればこそ、「出来ないことをいうな」というたしなめの意味もこめた言葉だったのだろう。

 しかしである。

 トリエアはその言葉に、花がほころぶように笑顔を見せた。


「まあ、お兄様ったら! わかりました! そのようにいたしましょうっ!」


 そういって、トリエアはスキップでもするように部屋を後にする。

 数時間後、第一王子の下に、血相を変えた国王が飛び込んできた。

 何事かと不思議そうな顔をする第一王子の顔を、国王は思い切り殴り飛ばす。


「貴様! 馬鹿なのか阿呆なのか!」


 どういうことかと聞く第一王子に、国王は呆れながら語って聞かせた。

 トリエアが第二王子の暗殺とその後の行動の計画を、書類にしてあげてきたのだ、と。

 そして。

 彼女はそれをするだけの手勢を、きちんと保有している、という事実を。

 当時トリエアは、すでに国内のいくつかの犯罪組織と、国の諜報機関の一部を掌握していたのだ。

 それは「その管理を任された」のではない。

 トリエアが自身の才覚と手腕のみで、勝ち取ったものだったのだ。

 つまり第一王子は、この国の暗部を実際に握っている人物に「提案」をされ、それを「了承」したのである。

 はじめ、第一王子はそれを悪い冗談だと思っていた。

 自分より年若く、いつもにこにこしているだけに見える妹が、そんなことをしているはずがないと思ったのだ。

 だが、事実はそんな第一王子の考えの、遠く及ばないものだった。

 ならば、と、トリエアが用意したのは、まったく別の案である。


 現在開拓中の土地の領主として、第二王子をつけさせるというものだ。

 その土地はホウーリカと、件の国、どちらとも接する場所にある土地だった。

 魔獣も多く、未開の地でもあるこの場所を、件の国と共同での開拓事業地とする。

 魔獣などの脅威が多いこの世界では、何カ国かが共同で開拓をするのは珍しくない。

 そこの代表者として、第二王子を送り出そうというのである。

 一国が王族を出し、もう一方がそれなりの資金を用立てという形にするのだ。

 リスクをおおよそ半々にし、上がってくる税収も折半。

 最終的に、どちらかがある程度の金を払い、その土地を手にする。

 この世界では、よく見られる開拓手法だ。

 二つの国は王族が留学しあうという近い関係でもあるので、不自然さはない。

 そして、開拓する土地は、ほかの土地とは切り離された、僻地である。

 そんな場所であれば、秘密を守るにはうってつけだ。

 件の貴族の娘と子供もその土地に送ってしまえば、外からの確認はすさまじく難しくなる。

 あとはその貴族の血筋をうまく隠蔽さえ出来れば、むしろ美談として祭り上げるのも不可能ではない。

 もちろん、かなりの曲業になるが。

 いろいろと内容に難しい部分もある。

 だが、何とか落ち着かせることが出来れば。

 災い転じてなんとやら、といったところだろうか。


 結局、さまざまな問題はいくつもあったものの、トリエアはそのすべてを解決して見せた。

 表の仕事は第一王子が主導し、裏工作の一切を引き受けたのだ。

 あれよあれよと問題は解決して行き、第二王子は「開拓地の領主」に納まった。

 実は子供が出来ていた、という発表は、二年ほど後になってからなされる。

 初期から補佐として派遣されていた件の貴族の娘は、「領民のために懸命に開拓を主導する第二王子を、影から支えた人物」となっていた。

 その二人の間に出来た子供は、ともに開拓を進める二国間の絆、というような触れ込みになる。

 世論をそのように誘導したのは、いうまでもなくトリエア傘下の組織だ。

 結果、この二国は今まで以上に強い友好を持つようになっていた。

 現在では、国家最高機密であるはずの「魔法の技術共有」まで行われるようになっている。

 おそらくは近い将来、ひとつの国として合併することになるだろう。

 第一王子が頭を抱えていた小さな問題を足がかりに、トリエアはとてつもないことをやってのけたのだ。

 もちろん、開拓の話が持ち上がっているなど、タイミングの問題もあっただろう。

 だが、それらをうまく利用して丸く治めることが誰にでも出来るのか、となれば、話は変わる。

 ちなみに。

 この「開拓事業」のホウーリカ側の代表は、第一王子が勤めていた。

 相手国との交渉や、物資、人材の用意などを行っていたのである。

 裏仕事に徹していたトリエアは、この事業にそもそも関わっていないことになっていた。

 つまり、手柄はすべて、近く国を継ぐ事になる第一王子のものとなったのだ。

 第一王子、第二王子、ともに、トリエアに大きな借りを作ったわけであった。


 そんな第四王女トリエアが、今回のことに関わってくる。

 風彦的にはあまりぞっとしない話だ。

 要するに化け物三人による万国びっくりショーが執り行われるようなものなのである。

 そんな連中と直接会って交渉したりするのが、風彦の仕事なわけだ。


「はぁ。愚痴っても仕方ないかぁ。兄者にもお会いするんだし。もっとプラス思考でいこう。でもって、おうち帰ったらアグニーさん達にも挨拶しに行かなきゃ」


 創造されてすぐに見放された土地を離れた風彦は、まだ直接アグニー達に会っていなかった。

 エルトヴァエルに埋め込まれた知識だけでも、アグニー達はすこぶるかわいい。

 きっと実物を見たら、感動するほどかわいいに違いないだろう。

 実は風彦は、かわいいものが大好きなのだ。


「どんなお洋服着てるのかなぁー。なにかお洋服とか持っていってあげようかなぁ。思わず内臓系の病になりそうなやつ」


 あれこれ想像をめぐらせながら、風彦は楽しそうに笑った。




 風彦がいなくなった部屋で、トリエアは与えられたベルを鳴らしていた。


「うふふ。やっぱりきれいな音色だわっ!」


 楽しそうに笑いながら、楽しい想像をめぐらせる。

 以前から気になっていた貴族を、何人か粛清できるかもしれない。

 自分が奉じている神のほうが位が高いので自分のほうがえらいとか、その神のご命令なので、ほかの神のいうことは聞けないとか。

 そんなわけのわからないことを言い出す神官。

 ただ美しい、珍しいという理由で、メテルマギトのことも気にせずエルフを奴隷にしようとする貴族。

 どれもこれも、以前から気になっていた障害ばかり。

 そして彼らは、おそらく今回のことにも色々と難癖をつけたり、主導権を握ったりしようとするだろう。

 とてもとても愚かに見えるが、それが利益になると思えば、自分の首でも絞めるのが人間だ。

 ホウーリカは、スケイスラーやギルドに比べれば「実に人間らしい人間」がたくさんいる国なのである。

 貴族も、いわゆる「腐った貴族」が多い。

 そうでないものも、凡庸で良心的ではあるものの、決して優秀とはいいがたいものばかり。

 もっとも、それは実に贅沢な物言いだろう。

 普通は、そういうものなのだ。

 比べる対象が悪すぎる。

 世界最高峰のものと、「普通の国」を並べてみるほうが悪いのだ。

 だが、今回はそうも言っていられない。

 その二つと、肩を並べて仕事をしなければならないのだから。

 ならば最低限、「きちんと仕事が出来る状態」を作らなければならない。

 邪魔になるものは横に置くか取り払う。

 当たり前のことが、円滑に、何の問題もなくいくようにしなければならないのだ。

 横からうまい汁を吸おうとするような人間が、存在してはならない。

 もしいるとするならば。


「きれいにしなくちゃね! だって、とても大切な、ステキなお仕事をしなくちゃいけないんだもの!」


「ほどほどでお願いします」


 嬉しそうに笑いながらベルを鳴らすトリエアの横で、リリは搾り出すように言った。

 言っては見たものの、ほどほどで終わらないことはリリもよくわかっている。

 実際大掛かりなことをしなければならないことも、感情とは別の部分ではよくわかっていた。


「さぁ、まずはプライアン・ブルーさんのところにいきましょう! それで、バインケルト様に移動の足を用意して頂くの! 急いで本国に帰って、お仕事をしなくちゃねっ!」


 ニコニコ笑いながら言うトリエアの横で、リリは諦めた様にうなずいた。

書いてて楽しいけど疲れるかんじのアレでした

なんかこういうのって書いてて頭ごっちゃになってくるんですよね

頭よろしくないもので・・・!

なんか破綻してる部分あるかもしれないけど、自分じゃ気がつけないだろう、という

誤字と同じですね!


次回からアグニー村編

傭兵団の人たちとアグニーです

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  どちらもフットワークが恐ろしく軽いので有名なのだが、それでも一国の第四皇女程度がおいそれと会える人物ではない。 ここだけ皇女になってます。 [一言] トリエアさんの狂気が見え隠れす…
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